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37 これって女性の敵よね
しおりを挟む四日ぶりに会った山中さんは、少し若くなったかなって感じるくらいで、パッと見ほとんど変わっていなかった。強いて言えば、社会人が新入社員になったくらいかな。
当の本人はというと、なんともいえない微妙な困ったような気まずい顔をして、ただ黙って立っていた。
「だから、言っただろ。大人と子供とは全然違うってな」
日向さんは面倒くさそうに言った。その声音に、多少の苛立ちを感じたのは私だけかな。
「うん、そう言ってたね。本当に、その通りだわ。そんなに変わってない」
「いや、さすがに変わってるでしょ」
やっと、山中さんが口を開いた。
「どこが?」
「いや、面持ちとか……」
あらためて、ジッと山中さんの顔を凝視する。
「そんなに変わってませんよ。ただ……肌が、とても綺麗になってますね。今なら、水、余裕で弾きます?」
卵肌って羨ましい。美形な人って、肌まで綺麗なのね。いや……肌が綺麗だから美形なのかも。肌の汚い美形っていないわよね。いたら、幻滅だわ。
「肌に張りが出たのは事実だけど……」
戸惑いながらも、律儀に答える山中さん。
その言葉に、思わず手を伸ばし触ってみた。硬直する山中さん。日向さんも唖然としている。やってしまった、私も。
いや~何してるの、私!? まるで変質者じゃない!!
自分自身に突っ込みながらも、手を引っ込めることができない。
だって、だって、とっても吸い付く感じで、気持ちいいんだもの!! これが絹のような肌っていうの!! 卵肌に絹肌、山中さんは女性の敵だわ。
「あ~何やってるの!? 桜ちゃん。もしかして、陽ちゃんに愛の告白をするつもりなの? じゃあ、邪魔者を連れて行くね~」
ひょこっと背後から現れた未歩ちゃんが、日向さんの腕を掴み連れて行こうとした。
私は無言のまま未歩ちゃんの腕を掴む。
「……桜ちゃん?」
何の反応もなく、いきなり腕を掴まれて、未歩ちゃんは吃驚する
「未歩ちゃん、山中さんの頬触ってみて」
低い声で、私は未歩ちゃんに言った。
「頬?」
「うん。触ってみて」
そこに、山中さんの意思はない。
いつもの雰囲気とは違う私に、未歩ちゃんは少し戸惑いながらも、山中さんの頬にふれてみる。触れた瞬間、未歩ちゃんは固まりボソッと呟いた。
「なに、これ……」
でしょう。でしょう。
「ねぇ、未歩ちゃん、これって、私たち女性に喧嘩売ってると思わない?」
「思う、思う」
「おい、お前らどうした!?」
日向さんが下から叫ぶ。
私は、日向さんの頬にも手を伸ばしてみた。
プニプニしてて、卵肌で気持ちいい。しっとりしていて、絹肌だった。
「子供はいいの。子供はね。でも、成人男性でこれは許せない。あり得ないわ」
小さな声でボソッと呟く私。
「きっと、陽ちゃんのことだから、特に念入りなケアはしてないよね」
独り言のようなトーンで、未歩ちゃんは答える。
「……肌のケア?」
金縛りが解けたのか、山中さんは数歩下がり逃げた。
「してるんですか?」
ちゃんと訊いたわよ。
「安い化粧水を付けてるだけで……」
律儀に答えてくれる山中さん。
「そうですか……山中さん、やっぱり女性の敵ですよ。男性がこんな羨ましい肌なんて。それも、化粧水だけで維持できるなんて、ないです。私たち女性は高いお金を払って、少しでも絹肌や卵肌になろうって努力してるのに……」
肩を落とす私に、未歩ちゃんは「行こう、桜ちゃん」と肩を抱き締めてくれた。私は頷き、未歩ちゃんと食堂に向かった。
後に残されたのは、呆然とする山中さんと日向さん。私たちを見送った後、日向さんがポツリと呟いた。なんて、呟いたって。それは、
「陽平。肌が綺麗だからって理由で、ふられることがあるんだな」って。
あっ、その数日後に行ったホラーイベント、もの凄く楽しかったよ。一応、事前予約してたけど、当日券を三枚購入しちゃった。やっぱり、予習していてよかったよ。のめり込めたからね。
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