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36 見た目正反対だけど、根本的なところはよく似てますよね
しおりを挟む仄暗い室内。
唯一の明かりはテレビ画面だけ。後ろを振り返ると、そこは完全な闇の世界。
ホラーを見るなら室内も暗くしなきゃね。もちろん、ホラーゲームもそうでしょ。その方が雰囲気でるよね。それで、テレビのボリュームは上げた方が断然良い。
「……あいつ、俺とタメなんだよ」
さっそく、届いたゲームを日向さんと未歩ちゃんが協力しながらクリアしていく。すると、ぼそっと呟く声が聞こえた。
「日向さんと山中さんが?」
日向さんと未歩ちゃんの後ろから、画面を眺めながら答える。
「そう。っていっても、ここに来たのは、俺が先だけどな」
「ふ~ん、そうなんだ」
「アイツ、元々は、この病気を研究するために、この島に来たんだぜ」
医者って聞いていたから、納得。まだ解明されてない病気だもの、さぞかし、研究者心を刺激したと思うわ。
「でしょうね。そうでなければ、この島にわざわざ来ないでしょ。あっ、そこ、紙片が落ちてる」
日向さんが見落としたアイテムを教えてあげた。慌てて戻る日向さん。
「わりぃ、助かった。これ意外と重要なアイテムみたいだぞ。日記の切れ端か? 集めないといけないパターンだよな…………」
手を止め黙り込む日向さん。私は画面から日向さんに視線を向ける。
「日向さん?」
日向さんは、まだ画面を見続けたままだ。
「……タメの俺が側にいるせいか、陽平のヤツ、この前の一葉と近い状態まで研究に没頭してな、ついに倒れたんだ。高熱を出してな。その時の検査で、自分もこの病気に患ってることを知ったんだ」
「高熱って……それじゃあ、山中さんは目を覚ました時にはもう?」
小さく、日向さんは頷く。やっと、私と未歩ちゃんの方を向いた。その表情は、苦渋と真剣さが入り混じったものだった。
それは……かなりショックだったと思うわ。研究をしていただけに、この病気のことについては誰よりも詳しく知っていたはずだから。
「若返ったっていっても、最初だから、二、三年ぐらいだったけどな。子供と違って、おっさんならたいして変わらない。それでも、当事者は変化に気付いたはずだ」
私でも気付くと思う。他人なら気付かないわずかな変化も。
日向さんは一旦言葉を切り、続けた。
「アイツは強い。俺にショックを受けた姿を一切見せはしなかった。俺だけじゃない、同僚にも国谷先生にもな」
「……ほんと、山中さんらしいわね」
常に、自分よりも患者を、他者を優先する。そんな人だ。知り合った時間は短いけど、それくらいは私でもわかるよ。辛い時ほど、自分を隠そうとする。ある意味、不器用な人なんだと思う。
「だから、今回もそうだと思う。特に今回は、その傾向が強く出るだろう」
「私がいるからね」
簡単に導き出せる答えだ。
「ああ」
でしょうね。
「アイツは強い。でもその強さは、限界がある。一葉、未歩、悪いが、陽平を頼めないか? 俺には無理だからな」
日向さんが最も言いたかったのは、このことだと思った。でも、それは違う。
「無理じゃない。日向君も見るの!! わかった!?」
未歩ちゃんが少し怒ったような口調で言う。
日向さんは困った表情で私たちを見る。
「私も未歩ちゃんの意見に賛成。いい? 日向さんの方が山中さんにずっと近いんだよ。それに、変な遠慮なんてしたら、かえって、山中さんが傷付くとは思わない?」
「だが……」
ここまで言っても、日向さんは困った表情をくずさなかった。
「山中さんが研究に没頭したのも、倒れたのも、病気になったのも、日向さんのせいじゃない。ちなみに、私が倒れたのも、日向さんのせいじゃない。自分を過信し過ぎていたから。わかった?」
相変わらず、困った表情のままだけど、ほんの少し笑顔が混じったのを私は見逃さなかった。今はそれでいいかな。
一見、日向さんと山中さんは正反対のように見えるけど、根本的なところはよく似てるのよね。日向さんは山中さんみたいに不器用じゃないけど。
自分より、他人を優先するところなんて特に。
まぁ、山中さんも日向さんも、他者の幸せを守るために頑張る仕事してたんだし、コミュ力が低い私にはできないことだから、正直凄いと思うし尊敬もする。
私とは全然違うよね……
私も、自分じゃない誰かを守ってみたいな。その度量は持ち合わせてないから無理だけどね。
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