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51 不思議だよね

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 お祖父ちゃんが離島に移住してから、自然と、未歩ちゃんはお祖父ちゃんの仕事を手伝うようになっていた。

 それはそれで微笑ましいんだけどね……

「寂しいですか?」

 お祖父ちゃんと畑仕事をしている未歩ちゃんを見ていると、いつの間にか隣に陽平さんが立っていた。

「おはようございます、陽平さん。そうですね……少し寂しいけど、でも、あの楽しそうな笑顔を見てたら、何も言えませんよ」

 笑ってくれてるだけで、嬉しいから。

「……本当に、不思議ですよね。こうやって、家族が増えていくなんて、一年前までは思いもしませんでした。……一葉さん?」

 畑仕事をする二人を見詰める陽平さんの横顔が眩しくて、目が離せなかった。名前を呼ばれるまで。

「で、ですよね。私も思いもしませんでした」

 焦って吃ってしまったよ。恥ずかしい。

「顔が赤いですよ。もしかして、風邪でも引きましたか?」

 普通に額に手を当てようとする、陽平さん。

 反射的に後ろに下がっちゃったよ。途端に、陽平さんは顔をしかめる。別に拒否ったわけじゃないだけど。

「だっ、大丈夫ですから!!」

「……日向なら、平気で触らせてたのに」

 陽平さんはボソリと呟く。

 もしかして、陽平さん、機嫌が悪いんじゃなく拗ねてるだけ。なんか、可愛い。思わず、見上げてしまったよ。

「なっ、何ですか!?」

 今度は、陽平さんが吃る番。私はフフフと笑う。

「大人をからかってはいけませんよ」

「人聞きの悪いこと言わないでください。別にからかってはいませんよ。ただ、なんか可愛いと思っただけです」

 素直にそう答えると、陽平さんは見る見る赤くなった。耳まで赤くなってるよ。

「大の男を可愛いなんて、それをからかってるって言うんですよ」

「だから、からかってはいませんって。本当に、そう思ったから、そう言っただけです」

 そこはちゃんと訂正しないとね。それにしても、焦るイケメンって、眼福ものよね。そんなことを思っていると、

「コラーー!! 何、そこでいちゃついてる!! 距離が近い!! 離れろ!!」

 お祖父ちゃんが、抜きたての大根片手に、私たちの方に怒鳴りながら向かって来る。その後ろを、同じように、大根片手に笑いながら追い掛ける未歩ちゃん。

「未歩、おはよう。いい大根だね。さっそく、朝ご飯に使おっか」

 私はお祖父ちゃんを無視し、未歩ちゃんに声を掛ける。

「うん!!」

 朝から未歩ちゃんは元気だ。

「コラッ、一葉、ワシを無視するな!!」

「陽平さんは、何が食べたいですか?」

 お祖父ちゃんの怒鳴り声をBGMにしながら、私は陽平さんに尋ねた。

「やっぱり朝だから、大根の味噌汁かな」

「わかりました。家に帰ったら作りますね」

 未歩ちゃんが私と陽平さんの前を歩く。私は数歩歩いてから、後ろを振り返って言った。

「お祖父ちゃん、何してるの? 一緒に帰ろ」

「おう」

 短い返事をして、お祖父ちゃんはついてくる。それだけで、心がほんわかと温かくなった。未歩ちゃんも陽平さんも温かくなってくれたら嬉しいな。

 

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