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56 目が覚めて
しおりを挟む「……なんて顔をしてるんですか?」
意識を失った私が目を覚ました時の第一声がこれ。
泣きそうな安心したような、なんとも言えない表情で、陽平さんは私の手を強く握っていたから、ついそんな台詞が出てしまった。
「第一声がそれですか?」
陽平さんは呆れながらも、安心した表情で尋ねてきた。
「手が痛いです」
私は答える代わりに、微笑みながら言った。
「すみません!!」
慌てて、陽平さんは手を離そうとする。それが寂しくて、私は陽平さんにお願いをする。
「離さないでください。陽平さんと触れてると安心しますから」
この時が初めてかな。私が素直に陽平さんを求めたのは。それまでは、陽平さんが気を回して色々なことをしてくれてた。日向さんがいなくなって寂しくなった時は、黙って私の傍に寄り添ってくれた。
初めて会ったその日から、常に陽平さんが、私の傍でさり気に見守っていてくれた。
「わかりました。一葉さんが眠るまで手を握ってます。疲れているでしょう、安心して寝てください」
陽平さんは優しい笑顔で微笑むと、握っていない手で、私の頬を包み込んでくれた。陽平さんの温かみと人柄が、彼の両手から伝わってくる。
私って、本当に、陽平さんから愛されてるんだ……
実感となって伝わってくる。その気持ちが、すっごく嬉しい。体が自由に動くなら、小躍りしたいくらいにね。
「陽平さん」
「なんですか?」
「こんな場面で言うべきじゃないかもしれないけど……私は陽平さんのことが好きです。私と結婚を前提としたお付き合いをしてくれませんか?」
誠実に、切実に、自分の気持ちを告げた。
さすがに、女の私から、結婚を前提になんて言うのはどうかなって思ったけど、正直に、今想っている全てを晒す方を選んだ。陽平さんには、ありのままの自分を見て欲しいから。それに、今の時代、女が多少強くてもおかしくはないからね。
「…………本気ですか?」
目を見開いた後、頬を包み込んでいた手で自分の顔を覆うと、陽平さんは真っ赤な顔で、そう訊き返してきた。
「失礼ですね。本気じゃなければ、私から、こんなこといいませんよ。言っときますが、シチェーションに酔ったからではありませんよ。そこは、強く否定しますからね」
結構話したから、疲れちゃった。途端に猛烈な眠気が襲ってきた。医者件看護師の陽平さんは、私の状態にすぐに気付いた。
「今は眠ってください。休養が一番の治療です」
まさか、うやむやにしたりはしないよね。平静さを取り戻している陽平さんを見て、ちょっと不安になる。
「……返事はいつでもいいです。だけど……必ず返事はくださいね……や…くそくですよ」
なんとか最後まで言えた私は、安堵して微笑む。そのまま寝落ち。だから、陽平さんの台詞は聞き取ることができなかった。額の真ん中が一瞬だけ温かくなったのは気のせいかな。
「一葉さんには、いつも驚かされますよ。まさか、一葉さんから、結婚の言葉がでるなんて。返事は貴女が起きてからしますね。……愛してます、一葉」
陽平はそう告げると、一葉の額にキスをした。
「唇にしたら我慢できなくなりそうなので、今は額に。起きたら、覚悟してくださいね」
たぶん、その時の陽平さんの顔を見てたら、まず間違いなく鼻血噴いてたかも。大人の色気って怖い。
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