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62 今まで護ってくれてありがとう

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 数時間後、兄さんはお祖父ちゃんと一緒に帰って来た。

 もう一度、この家に帰って来てくれたことが、とてもとても嬉しくて、ホッと胸を撫で下ろした。緊張してたんだね、力が抜けそうになった体を、さり気なく陽平さんが支えてくれる。

 静かに玄関に立つ兄さんの目は真っ赤で、まぶたも腫れてるのに気付いた。だけど、誰もそのことには触れなかった。私も一緒だから。

 ついでに、未歩ちゃんもね。まさか、隠れて聞いてたとは思わなかったわ。それだけ、私のことを、自分のことのように心配してくれた証拠だよね。だから、怒りはしない。反対に、「ありがとう」って言いながら抱き締めたよ。



 次の日の夜、私たちは兄さんの歓迎会を盛大に開いた。国谷先生も呼んでね。

 本当は昨晩する予定だったけど、さすがに目を腫らしたままじゃ無理でしょ。それに、気持ちも切替えられないし。

 歓迎会と言えば、皆でワイワイ騒ぐよね。親睦会も兼ねてるから、やっぱ、鍋でしょ。

 なので、奮発しましたよ、私。

 A5ランクの和牛に新鮮な春菊、そして焼き豆腐に麩、新鮮な生卵も忘れちゃいけないよね。もうわかったでしょ。すき焼きです。当然、割下も作りました。

「桜ちゃん、こっちの鍋肉無くなったよ~」

 未歩ちゃんが、泣きそうな顔で肉の追加を要求してきた。

「早っ」

 始まって、まだ二十分も経ってないよね。結構な量用意してたけど……

「だって、美味しいんだもん」

 にっこりと笑う未歩ちゃん。それは嬉しいけど、未歩ちゃんの両隣に座る、国谷先生とお祖父ちゃんは苦笑気味。

「ほぼ一人で平らげたぞ」

 そうみたいね。未歩ちゃんの溶き卵の量が、二人よりかなり減っているわ。底見えてるもの。

「わかってないね、お祖父ちゃん。鍋は戦争なんだよ。早いもの勝ちなんたから。痛っ!! 桜ちゃん、なんで~」

 軽く拳骨を落とす。涙目で、反論する未歩ちゃんに、私は姉としてちゃんと指導する。

「食事中に箸を振り回さない。それに、鍋は戦争じゃないわよ。ちゃんと皆で分けて食べなさい」

 そう言ってから、私は追加の肉をテーブルに置いた。未歩ちゃんは渋々、「はぁ~い」と返事する。多めに買ってきて正解だったわ。
 
「……本当に、妹なんだな」

 席に戻ると、未歩ちゃんとのやりとりを見ていた兄さんが、小さな声でそう呟いた。

「血は繋がってないけどね。私にとって、かけがえのない家族の一人だよ。当然、その中に兄さんも入ってるからね」

 兄さんに、未歩ちゃんが妹だと認めてもらって、私はとても嬉しかった。そして、今まで言えなかった言葉を口にする。

 すると、泣きそうな笑顔で兄さんは言った。

「…………ありがとう、一葉」

「私の方こそ、ありがとうだよ、兄さん。今まで、私を護ってくれてありがとう」

 大事なことは口にしないといけないからね。ここに来て習ったの……人として大切なこともね。
 

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