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64 絶対に忘れない
しおりを挟む結婚式っていっても、型苦しいものじゃなくて、手作り感満載の温かいものだった。ちなみに、披露宴会場は食堂だよ。
牧師役は国谷先生がしてくれた。どこから服を仕入れたのか、結構様になってる。そして、カメラマンは引き続き食堂のおじさん。
式は食堂横にある庭で。
いつもは、動物に占拠されてる庭が、今日ばかりは様変わり。色取り取りの風船を何十個も膨らませて飾ったり。手作りのボードを置いたり。並べられた白い可愛い椅子がアクセントになって、最高の舞台になっていた。
未歩ちゃんを中心に頑張ってくれたみたい。
式場を見て、涙が止まらなくなったよ。
「あ~もう、あれほど、泣いちゃ駄目って言ったのに」
文句を口にしながら、未歩ちゃんは小さな手で私の化粧を手早く直してくれた。
「……ありがとう、未歩」
他の言葉もあるのに、ありがとうの言葉しか思い浮かばない。
「何言ってんの。妹なんだから、当たり前じゃない」
そう告げた未歩ちゃんの目元も、薄っすらと濡れている。それを見たら、また泣きそうになった。
「未歩のような妹がいて、私はとても幸せだよ」
心の底からそう思う。
私の台詞に、未歩ちゃんは目を見開き破顔した。
「私も!! 桜ちゃんがお姉ちゃんで、すっごく幸せ!! ほら、お祖父ちゃんが待ってるよ」
そう言うと、未歩ちゃんは私の背中を軽く押した。
とても温かく優しい目で、お祖父ちゃんが私を待っている。
一歩、足を踏み出す。
もっと、幸せになるために。
私に残された時間は四年。
次の発作の前に結婚式をしたから、陽平さんに残された時間は、この時点で三年と数か月。発作を起こしたら、二年と数か月に縮む。
一緒に住めれるのは、一年くらいだと思う。
幼くなった私たちが、このまま一軒家に住み続けることは難しいから。中身が大人でもね。
期限がある結婚生活。
それでも、私たちは結婚する。
私はお祖父ちゃんと腕を組み、一緒にバージンロードを歩く。
絶対に忘れない。
その数メートルの道が、色んな色で、すっごくキラキラと輝いていたのをーー
ここには、ガラスも水滴もないのにね。これほどの輝きをみたことないよ。今までの人生の中で、一番に輝いてたんだよ。忘れるわけないよね。
輝く道の先には、私を愛し、私が愛した人が立っている。緊張しているのか、表情が少し固い。それでも様になるんだから、イケメンは特だよね。
バージンロードを歩き終わると、お祖父ちゃんは一歩下がり、代わりに陽平さんが手を差し出す。私は躊躇うことなく、その手をとった。
陽平さん、もっともっと幸せになろうね……
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