空っぽの私は嘘恋で満たされる

井藤 美樹

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 強面こわもてなのに、超不機嫌なせいか、さらに険悪なものになってるよ、蓮君。まとっている空気も超ピリピリしてる……目が合った子供が急に泣き出すのってよっぽどだよ。それで、さらに落ち込んでるし……そういう所、可愛いんだよね。

 蓮君の不機嫌な理由、それは私の家が急に売り出されて、私がいなくなったこと。

 ちなみに、連絡も一切取れていない。

 売り出された時、私はもう幽霊になってたし。一応、スマホは持ってはいるんだけど、何故か操作できないんだよ。ほんと、持ってるだけ。それでも、無理に操作しようとしたら、クラッと目眩がしたの。精神エネルギーをやたら使うかららしい。何度も何度も、ラインと電話来てるのに……既読もなく無視って最低じゃん。

 スマホを見て落ち込んでいる蓮君を見ていると、私は「ここにいるよ」って、何度も叫びたくなる。外だけど抱き締めたくなる。

 だけど、それはできない。

 君は私が死んでいることを知らないから――

 あれ? 電車に乗ってどこに行くのかな? 反対方向だよね。駅前で待ち合わせ、誰と? 誰にライン送ってるの?

 覗き込んだけど、確認する前に画面が待ち受けになった。

『えっ……これ、映画館の』

 思わず、声に出ちゃった。蓮君には届かない。

 カップルシートで一緒に撮った写真が待ち受けになっていたの。

 どうしても、見せてくれなかったんだよね。「ブレた」とか言って。ちゃんと撮れてるじゃない。そっかぁ……私、こんな顔してたんだ。モロバレだね。私は顔を赤らめながら、すっごく幸せそうに笑ってる。蓮君もそう。照れて目付きがさらに悪くなってるけど、それでも赤い顔をして楽しそうに笑ってる。

 この一枚で、蓮君の気持ちが痛いほどひしひしと伝わって来るよ。

 いつも、大事に大事にしてくれた。

 物を知らないで、何もできない私のことを好きになってくれた。

 私の一方的な想いじゃなかった――

 嬉しいよ、嬉しいけど悲しい。胸の奥が、心が痛くて痛くて悲鳴を上げる。涙が止まらない。嗚咽おえつなんて聞こえないのに、私は口を押さえ、声が漏れないように泣き続ける。

 泣き声が聞こえたの?

 蓮君が振り返り私を見た。でも視線は私を通り越して、私の後ろの誰かに向いている。

「「お待たせしました、北林さん」」

 よく知っている声が聞こえた。反射的に振り返ると、そこにいたのは、亮君と立花ちゃんだった。

 ええ~!! いつの間に、ライン交換したの!? 

 驚いている私を前にして、サクサクと話が進んでいく。

「お前ら、春休み早すぎだろ、全く……」

「私立なんだから、仕方ないですよ」

 文句を言う蓮君に、亮君が苦笑しながら答えた。立花ちゃんは亮君の隣で黙って立っている。

「時間が惜しい。早速だが、聞かせてもらうぞ、三奈は何処にいる?」

 蓮君の質問に、私は完全に固まった。身体だけでなく思考も。

 どう答えるの? 

 緊張しながら、亮君の答えを待つ。

「……その前に、少し付き合ってくれませんか?」

 思ってもいなかった答えが聞こえてきた。私は亮君に視線を向ける。

「あぁ!? ふざけるな!!」

 亮君の言葉に、瞬時にキレ掛ける蓮君。

「いいんですか? 付き合ってくれないと、教えてあげませんよ」

 亮君、超メンタル強い。

 蓮君はチッと舌打ちすると、渋々付き合うことにしたようだ。

「何処に行くんだ?」

 不機嫌な様子を隠すことなく訊いてくる。

「ホームセンターです。どうしても買いたいものがあるので」

「はぁ!?」

 納得がいかなさそうだったけど、蓮君は我慢し亮君と立花ちゃんの後ろを歩く。私はドキドキしながら、蓮君に寄り添っていた。


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