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番外編 ルームメイトはとても綺麗
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ラヴィニアは王国南部の裕福な農家に生まれた。農家といっても小作人を雇い、父母は商人相手に売り買いをするだけだった。待望の娘ということで、ラヴィニアは随分甘やかされて育った。礼儀作法や勉学を教わったが、一度聞いたことも見たこともすべて覚えてしまうので、退屈で仕方なかった。ラヴィニアの頭の良さと、それでいてあほな態度は一般向けではないと早々に悟った両親は、ラヴィニアが11を迎えてすぐに大学に放り込んだ。
決して安いとは言えない学費を払ってくれた両親に、ラヴィニアは今では心底感謝している。
「はえー......ここがキエザかぁ」
白い学び舎を見上げ、ラヴィニアは感嘆の溜息を吐く。
「ええと、寮はどっちだろう......」
何しろ大学内はあまりにも広いので、ラヴィニアは門をくぐって早々に迷ってしまった。どこに行けばいいのかとうろうろしていると、背後から声を掛けられた。
「あなたも新入生?」
振り返った先には、とても綺麗な女性がいた。紫水晶のような瞳と風に揺れる黒い髪。思わずラヴィニアは見惚れた。
「きれい......」
「ありがとう。寮に行くところかしら?」
「うん。でも迷っちゃって」
「じゃあ一緒に行きましょう」
「あ、あたしラヴィニア。ラヴィニア・プロヴェンツァーレ。あなたも新入生?」
「ええ。フェデリカ・ヴェルディアナ・ディ・デアンジェリス、物理学志望」
名前を聞いて、ラヴィニアは目を丸くした。姓名の間にディを有する者は貴族である。
「貴族なの?」
「生まれは子爵家よ。あなたは?」
「あたしはただの農民。無礼だからって手打ちにしないでね」
「するわけないでしょう」
フェデリカは小さく笑った。やっぱり綺麗な人だなぁ、とラヴィニアは思った。
驚いたことに、フェデリカとラヴィニアは相部屋だった。二段ベットは上がいい、と希望すると、寝相が悪いから下でちょうどいい、と返答があった。
「ねえ、ディーはもう専攻を決めてるの?」
「ええ。その為に大学に来たのだから」
「ふうん」
そう言い切ったフェデリカは、実際物理学以外はとんと興味がないようだった。図書館で借りてくる書物は物理学のものばかりだったし、1年の受講を義務付けられている神学と法学の授業中は退屈で仕方がなさそうだった。物理学の本を読んでいる時の横顔は、とても綺麗なのに。
「ヴィーはまだ決めていないの?」
「うーん。どれも同じように見えて」
「まぁ、失礼ね」
「なんかこう、ビビッて来るものがないというか」
「いっそ、それぞれの研究室を見学したら? 何か好きなものに巡り合えるかもしれないわよ」
「うーん、そうしてみようかなぁ」
フェデリカに促され、ラヴィニアは色々な研究室を見て回った。物理学、数学、生物学......どれも面白いとは思ったけれど、フェデリカが物理に対して抱いているような情熱は抱けない。困ったなぁ、と思い始めた矢先に訪れたのが医学研究室であった。
そこで初めてラヴィニアは人体の構造を知った。
「わあ......! 人間の中身ってこんな風になってるんだ!」
それはラヴィニアが初めて物事に対して抱いた興味だった。その場で医学研究室に入ることを決め、帰り際に図書館で医学に関する本を山ほど借りた。両手が塞がって扉を開けられず、大声でフェデリカを呼ばうと、フェデリカは呆れ顔で扉を開けてくれた。
「ねえディー、あたし決めたよ!」
「医学?」
「そう! いっぱい解剖するんだぁ!」
医学にのめり込むと、フェデリカの気持ちが分かったような気がした。ごはんよりも睡眠よりもずっと楽しくて、目が離せない。それ以外のことに割く時間も気力も惜しい。互いに興味の方向は違うけれど、研究者としてはよく似ていたのだろう。干渉しすぎず、さりとて無関心というわけでもなく、2人の時間は過ぎていった。ラヴィニアはフェデリカとピクニックをするのが好きだった。食堂でサンドイッチを買って、広い中庭や外庭に寝そべってたわいもないことを話す時間は、解剖と同じくらい楽しかった。
「あれ、どうしたの? おうち帰るの?」
「ええ。少ししなければいけない手続きがあって」
フェデリカがそう言って一時帰省したのは、専攻を選んで2年が経った日のことだった。何をしに行くのだろうと首を傾げたラヴィニアは、帰省後からラ・ヴァッレがフェデリカのことをアンヌンツィアータと呼び始めたので驚いた。
「フェデリカ、結婚したの?」
「いいえ。伯父の養子になったの」
「なんで?」
「さあ、どうしてでしょうね」
フェデリカは薄く微笑んだ。何かあったということは分かったが、貴族の難しいことは分からない。
「けれど面倒だわ。建国祭の度に名代として参加しなければならないなんて」
「貴族としての最低限の義務を放棄していたことがおかしいんだ......」
「だって面倒なんだもの」
「その一言で済ませるな」
「建国祭のみょうだい?」
「そう。アンヌンツィアータ家の当主も次期当主も領地から出られないから、私が代わりに建国祭に出席して、王家への忠誠を示さないといけないの。あぁ面倒くさい」
「大変だねえ」
お貴族様に生まれなくてよかった、とラヴィニアは思った。腹を押さえて呻いているラ・ヴァッレはすごく大変そうだ。
「だから、来年の建国祭の時期は本を借りすぎちゃだめよ? 扉を開けてあげられないから」
「なんと!」
なんてことだ。ラヴィニアも大変だった。
「早く帰ってきてね」
「私もそうしたいものよ」
はあ、と溜息を吐いてフェデリカはパスタを頬張った。
決して安いとは言えない学費を払ってくれた両親に、ラヴィニアは今では心底感謝している。
「はえー......ここがキエザかぁ」
白い学び舎を見上げ、ラヴィニアは感嘆の溜息を吐く。
「ええと、寮はどっちだろう......」
何しろ大学内はあまりにも広いので、ラヴィニアは門をくぐって早々に迷ってしまった。どこに行けばいいのかとうろうろしていると、背後から声を掛けられた。
「あなたも新入生?」
振り返った先には、とても綺麗な女性がいた。紫水晶のような瞳と風に揺れる黒い髪。思わずラヴィニアは見惚れた。
「きれい......」
「ありがとう。寮に行くところかしら?」
「うん。でも迷っちゃって」
「じゃあ一緒に行きましょう」
「あ、あたしラヴィニア。ラヴィニア・プロヴェンツァーレ。あなたも新入生?」
「ええ。フェデリカ・ヴェルディアナ・ディ・デアンジェリス、物理学志望」
名前を聞いて、ラヴィニアは目を丸くした。姓名の間にディを有する者は貴族である。
「貴族なの?」
「生まれは子爵家よ。あなたは?」
「あたしはただの農民。無礼だからって手打ちにしないでね」
「するわけないでしょう」
フェデリカは小さく笑った。やっぱり綺麗な人だなぁ、とラヴィニアは思った。
驚いたことに、フェデリカとラヴィニアは相部屋だった。二段ベットは上がいい、と希望すると、寝相が悪いから下でちょうどいい、と返答があった。
「ねえ、ディーはもう専攻を決めてるの?」
「ええ。その為に大学に来たのだから」
「ふうん」
そう言い切ったフェデリカは、実際物理学以外はとんと興味がないようだった。図書館で借りてくる書物は物理学のものばかりだったし、1年の受講を義務付けられている神学と法学の授業中は退屈で仕方がなさそうだった。物理学の本を読んでいる時の横顔は、とても綺麗なのに。
「ヴィーはまだ決めていないの?」
「うーん。どれも同じように見えて」
「まぁ、失礼ね」
「なんかこう、ビビッて来るものがないというか」
「いっそ、それぞれの研究室を見学したら? 何か好きなものに巡り合えるかもしれないわよ」
「うーん、そうしてみようかなぁ」
フェデリカに促され、ラヴィニアは色々な研究室を見て回った。物理学、数学、生物学......どれも面白いとは思ったけれど、フェデリカが物理に対して抱いているような情熱は抱けない。困ったなぁ、と思い始めた矢先に訪れたのが医学研究室であった。
そこで初めてラヴィニアは人体の構造を知った。
「わあ......! 人間の中身ってこんな風になってるんだ!」
それはラヴィニアが初めて物事に対して抱いた興味だった。その場で医学研究室に入ることを決め、帰り際に図書館で医学に関する本を山ほど借りた。両手が塞がって扉を開けられず、大声でフェデリカを呼ばうと、フェデリカは呆れ顔で扉を開けてくれた。
「ねえディー、あたし決めたよ!」
「医学?」
「そう! いっぱい解剖するんだぁ!」
医学にのめり込むと、フェデリカの気持ちが分かったような気がした。ごはんよりも睡眠よりもずっと楽しくて、目が離せない。それ以外のことに割く時間も気力も惜しい。互いに興味の方向は違うけれど、研究者としてはよく似ていたのだろう。干渉しすぎず、さりとて無関心というわけでもなく、2人の時間は過ぎていった。ラヴィニアはフェデリカとピクニックをするのが好きだった。食堂でサンドイッチを買って、広い中庭や外庭に寝そべってたわいもないことを話す時間は、解剖と同じくらい楽しかった。
「あれ、どうしたの? おうち帰るの?」
「ええ。少ししなければいけない手続きがあって」
フェデリカがそう言って一時帰省したのは、専攻を選んで2年が経った日のことだった。何をしに行くのだろうと首を傾げたラヴィニアは、帰省後からラ・ヴァッレがフェデリカのことをアンヌンツィアータと呼び始めたので驚いた。
「フェデリカ、結婚したの?」
「いいえ。伯父の養子になったの」
「なんで?」
「さあ、どうしてでしょうね」
フェデリカは薄く微笑んだ。何かあったということは分かったが、貴族の難しいことは分からない。
「けれど面倒だわ。建国祭の度に名代として参加しなければならないなんて」
「貴族としての最低限の義務を放棄していたことがおかしいんだ......」
「だって面倒なんだもの」
「その一言で済ませるな」
「建国祭のみょうだい?」
「そう。アンヌンツィアータ家の当主も次期当主も領地から出られないから、私が代わりに建国祭に出席して、王家への忠誠を示さないといけないの。あぁ面倒くさい」
「大変だねえ」
お貴族様に生まれなくてよかった、とラヴィニアは思った。腹を押さえて呻いているラ・ヴァッレはすごく大変そうだ。
「だから、来年の建国祭の時期は本を借りすぎちゃだめよ? 扉を開けてあげられないから」
「なんと!」
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