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初稿
お兄さん20歳 一途くん14歳
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冷たい風が肌を撫でる今日は、念願のお兄さんと会う日。二年前に初めてお兄さんと会ってから五回目のオフ会だった。
僕が中学生になった時、お兄さんがファミレスで奢ってくれた事がきっかけに、毎回、最初はこのファミレスで会う事になっている。今日もいつものように僕が先に来て、背筋をピンと伸ばしてお兄さんを待つ。それからしばらくして約束の時間ぴったりになると、お兄さんは今日も変わらず黒い服にスカートを履いて女性の格好をして現れた。でも一つだけ、いつもと違って、苦い、苦い、香りをまとっていた。
「お兄さん、二十歳のお誕生日おめでとうございます。」
「ん、ありがとう。つっても、誕生日は半年くらい前なんだけどな。」
お兄さんへの誕生日プレゼントに、毎年恒例となっている、シルバーのラメが入った、まるであのレアカードのような便箋に入れた手紙を渡すと、お兄さんは意地悪な顔をして言う。
「だって、お兄さんが全然会ってくれないからでしょ!僕は毎月、ううん、毎週、毎日だって会いたいのに。」
そもそも、あの一回目以降、お兄さんはなかなか会ってくれなかった。何度も、何度も、連絡して、やっと会ってくれるようになったのだ。
「ばぁーか。大人はそんなに子供と遊ばないんだよ。そんな大人やべぇから覚えとけ。」
「じゃあ、お兄さんはやべぇ大人になって下さい。」
「嫌に決まってんだろ。それに……、これくらいの距離感じゃないと、一途くん……、」
お兄さんは僕の渡した手紙を撫でながら、不安そうな顔をして言った。僕は思わず心配になって声を掛ける。
「お兄さん?」
お兄さんは自分を落ち着かせるように深く息を吐くと、慣れた動作で胸ポケットからタバコの箱を半分取りだした。しかし、ハッとしたように手を止めて僕を見ると、ばつの悪そうな顔をしてタバコをポケットに戻した。
「俺はさ、一途くんが思っているような良い大人とは言えないけれど、せめて一途くんの前では格好つけさせてよ。」
「お兄さんは、素敵な人です。」
嘘偽りない僕の本心を、お兄さんの目を真っ直ぐ見つめて伝えた。
「……ありがとう。」
*
それから僕らは、あのカードショップへ移動してバトルをした。
お兄さんが手札から、黒い服を着た魔女のカードを出した時、見た目、というか格好がお兄さんとソックリだと思った。そういえば初めて会った時からそのカードがお兄さんのデッキの中にいたのを思い出した。
「その魔女のカード、お兄さんにそっくりですね。」
「……そうか?この魔女の方が、何倍も、可愛いし、……良いだろ。」
「確かに、」言いかけながら、お兄さんの方をチラリと見ると、なぜだか少し傷ついた顔していた。「魔女は可愛い系で、お兄さんは美人系ですね。僕はお兄さんの方が良いです。」と言おうと思っていた言葉と続けると、今度は、目を大きく見開いて僕の顔を、まじまじと見ていた。
「美人か……、初めて言われた。ありがとうな。」
お兄さんが嬉しそうに顔を、ほころばせて笑うから、僕の心臓は、また痛いくらい、ドキドキと高鳴って、もっとお兄さんの事を知りたくなった。
「そういえば、お兄さんはどうして、女の人の格好をしているんですか。」
「……元カレが、」お兄さんは、魔女のカードをじっと見つめて苦々しい顔をしていた。
「元カレが、喜ぶから。」
てっきり、その魔女が好きだとか、そういう言葉が返ってくるのかと思ったら、全く違う言葉が返って来て動揺してしまう。
「えっ、その、お兄さんは、その元カレさんの事がまだ好きとか……、」
「んなわけっ」
ハッと吐き捨てるように言った後、お兄さんはまた、胸ポケットからタバコを取り出そうとして、また僕の顔を見て、バツの悪そうな顔して止めた。代わりに、手を唇に持っていってグニグニと親指と人差し指で挟みながら言った。
「まぁ、でも、十代の、……ゲイには、一生忘れられない、傷、くらいには、なったかな。」
その悲しそうな顔に、僕も悲しくなってしまう。
元カレさんは、お兄さんにどんな酷い事をしたのだろうか。もし僕がお兄さんの恋人になれたら、女の人の格好をしていなくても、どんな格好でも好きだと、毎日伝えるのに。僕はどんなお兄さんでも毎日好きなのに。――元カレさんはズルい。
僕はお兄さんがどんな格好をしていても好きです、そう伝えたくて、口を少し開いたところで、お兄さんが話を切り上げるようにバトルを進めた。なんとなく、これ以上お兄さんがこの話題を広げたくないんだろうなというのも分かったから、僕も、そのままバトルを進めた。
それに今、この言葉を言っても、僕の望む形でお兄さんに伝える事が出来ない事に気が付いていた。僕がこれを伝えるには、まだ、お兄さんと僕の、大人と子供であることの溝が大きすぎた。
僕が中学生になった時、お兄さんがファミレスで奢ってくれた事がきっかけに、毎回、最初はこのファミレスで会う事になっている。今日もいつものように僕が先に来て、背筋をピンと伸ばしてお兄さんを待つ。それからしばらくして約束の時間ぴったりになると、お兄さんは今日も変わらず黒い服にスカートを履いて女性の格好をして現れた。でも一つだけ、いつもと違って、苦い、苦い、香りをまとっていた。
「お兄さん、二十歳のお誕生日おめでとうございます。」
「ん、ありがとう。つっても、誕生日は半年くらい前なんだけどな。」
お兄さんへの誕生日プレゼントに、毎年恒例となっている、シルバーのラメが入った、まるであのレアカードのような便箋に入れた手紙を渡すと、お兄さんは意地悪な顔をして言う。
「だって、お兄さんが全然会ってくれないからでしょ!僕は毎月、ううん、毎週、毎日だって会いたいのに。」
そもそも、あの一回目以降、お兄さんはなかなか会ってくれなかった。何度も、何度も、連絡して、やっと会ってくれるようになったのだ。
「ばぁーか。大人はそんなに子供と遊ばないんだよ。そんな大人やべぇから覚えとけ。」
「じゃあ、お兄さんはやべぇ大人になって下さい。」
「嫌に決まってんだろ。それに……、これくらいの距離感じゃないと、一途くん……、」
お兄さんは僕の渡した手紙を撫でながら、不安そうな顔をして言った。僕は思わず心配になって声を掛ける。
「お兄さん?」
お兄さんは自分を落ち着かせるように深く息を吐くと、慣れた動作で胸ポケットからタバコの箱を半分取りだした。しかし、ハッとしたように手を止めて僕を見ると、ばつの悪そうな顔をしてタバコをポケットに戻した。
「俺はさ、一途くんが思っているような良い大人とは言えないけれど、せめて一途くんの前では格好つけさせてよ。」
「お兄さんは、素敵な人です。」
嘘偽りない僕の本心を、お兄さんの目を真っ直ぐ見つめて伝えた。
「……ありがとう。」
*
それから僕らは、あのカードショップへ移動してバトルをした。
お兄さんが手札から、黒い服を着た魔女のカードを出した時、見た目、というか格好がお兄さんとソックリだと思った。そういえば初めて会った時からそのカードがお兄さんのデッキの中にいたのを思い出した。
「その魔女のカード、お兄さんにそっくりですね。」
「……そうか?この魔女の方が、何倍も、可愛いし、……良いだろ。」
「確かに、」言いかけながら、お兄さんの方をチラリと見ると、なぜだか少し傷ついた顔していた。「魔女は可愛い系で、お兄さんは美人系ですね。僕はお兄さんの方が良いです。」と言おうと思っていた言葉と続けると、今度は、目を大きく見開いて僕の顔を、まじまじと見ていた。
「美人か……、初めて言われた。ありがとうな。」
お兄さんが嬉しそうに顔を、ほころばせて笑うから、僕の心臓は、また痛いくらい、ドキドキと高鳴って、もっとお兄さんの事を知りたくなった。
「そういえば、お兄さんはどうして、女の人の格好をしているんですか。」
「……元カレが、」お兄さんは、魔女のカードをじっと見つめて苦々しい顔をしていた。
「元カレが、喜ぶから。」
てっきり、その魔女が好きだとか、そういう言葉が返ってくるのかと思ったら、全く違う言葉が返って来て動揺してしまう。
「えっ、その、お兄さんは、その元カレさんの事がまだ好きとか……、」
「んなわけっ」
ハッと吐き捨てるように言った後、お兄さんはまた、胸ポケットからタバコを取り出そうとして、また僕の顔を見て、バツの悪そうな顔して止めた。代わりに、手を唇に持っていってグニグニと親指と人差し指で挟みながら言った。
「まぁ、でも、十代の、……ゲイには、一生忘れられない、傷、くらいには、なったかな。」
その悲しそうな顔に、僕も悲しくなってしまう。
元カレさんは、お兄さんにどんな酷い事をしたのだろうか。もし僕がお兄さんの恋人になれたら、女の人の格好をしていなくても、どんな格好でも好きだと、毎日伝えるのに。僕はどんなお兄さんでも毎日好きなのに。――元カレさんはズルい。
僕はお兄さんがどんな格好をしていても好きです、そう伝えたくて、口を少し開いたところで、お兄さんが話を切り上げるようにバトルを進めた。なんとなく、これ以上お兄さんがこの話題を広げたくないんだろうなというのも分かったから、僕も、そのままバトルを進めた。
それに今、この言葉を言っても、僕の望む形でお兄さんに伝える事が出来ない事に気が付いていた。僕がこれを伝えるには、まだ、お兄さんと僕の、大人と子供であることの溝が大きすぎた。
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