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初稿
お兄さん22歳 一途くん16歳①
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あの駅の近くにあったカードショップは潰れてしまって、今はお兄さんとファミレスで会うだけになっている。待ち合わせの時間ぴったりになると、今日も相変わらずお兄さんは黒い服に、黒のスカートを履いて現れた。
「もう一途くんも高校生になるのか、早いな。」
そういって僕の頭を撫でて、お兄さんは変わらずまぶしい笑顔で言う。僕の胸も変わらず、お兄さんにドキドキしている。
「お兄さん、僕、高校生になったので、バイトが出来るようになりました。なので、今年の誕生日は手紙じゃなくて、ちゃんとした物を用意しますね。お兄さんは何が欲しいですか。」
「手紙。」
「お兄さん、いつまでも子供扱いしないで下さいってば。」
「俺からしたら高校生は子供なんだよ。それに、嘘じゃないって、毎年、一途くんからもらう手紙楽しみにしてんだ。だからさ、大人になっても変わらず、一言でも良いから手紙ちょーだい。」
そう、お兄さんに言われると僕はとても弱ってしまう。よし、絶対に毎年手紙を送ろう。
「そうだ、これ俺から一途くんに高校の入学祝。」
そう言って、お兄さんは高そうな万年筆を僕にくれた。すごく嬉しいのに、こういう風に素敵な物をスマートに渡してくれるお兄さんと僕との、大人と子供の差にショックを受けてしまう。その万年筆が入った箱をぎゅうっと力いっぱいに握りしめた。
「ありがとうございます。これで手紙を書きます。学校にも持って行って日誌もこれで書きます。僕も、お兄さんのお誕生日には、手紙と、素敵な物をプレゼントするので楽しみにしていてくださいねっ!」
「いいのに、ありがと。」てか日誌って、なつっ。そう言って、グラスに入ったカフェラテをストローでくるくるとかき混ぜて、嬉しそうに笑うお兄さんの顔に、僕はまた見惚れた。
*
僕はファーストフード店のキッチンで、週四日バイトを始めた。平日はいつも高校生が働ける時間ギリギリまで働く事が多い。そして、その帰り道――。
「あっ、お兄さん。」
賑やかな街並みに独り言は溶けていった。
バイトの帰りに、ホテル街へ続く道の近くを通る。その道を、お兄さんが男の人と腕を組んで、笑いながら歩いているのを見かけた。実はこれが初めてではない。お兄さんは変わらず、黒い洋服の、女の人の格好をして、毎回、違う男の人と腕を組んで笑いながらホテル街を歩いて行くのを何回か目撃した事がある。
その笑顔は笑っているのに、どこか空虚で、僕はその笑顔を見る度にギュッと胸が締め付けられる。
十二歳の頃とは違って今はもうハッキリと、大人がする事の意味を知っている。この道の先へ進めば、お兄さん達がどんな事をするのか、お兄さんが、大人ぽく見せていて、寂しがり屋だという事も僕は知っている。
そんなことしないでよ。僕じゃダメなの。僕だったら、お兄さんにそんな顔させないよ。そんなことしなくも、僕がたくさん、お兄さんの楽しいと思う事をするよ。ファミレスで話している時みたいに面白い話をいっぱいして笑わせるから、僕を隣に置いてよ。そう何度も言いかけて出なかった言葉は、お兄さんが子供の僕と恋人のような関係になる事を拒絶するのを知っていたからだ。僕はお兄さんを、その寂しさから救い出せないでいた。
強い風が吹いて、お兄さんの隣にいる男性の帽子が飛ばされる。
来た道を戻るように、お兄さんが後ろへ歩き出し、かがんで帽子を拾う。
前へ垂れた綺麗なブロンドの髪を耳に掛けた。
その時、お兄さんと目が合ってしまった。
一瞬、時が止まったように感じた。
お兄さんは僕の顔を見ると、顔を真っ青にして、動揺して目を右へ左へとさまよわせた。相手の男の人に声を掛けられると、無理に笑顔を作って僕から目をそらした。
――そんな顔をさせたかったわけじゃなかったのに。
奥歯をグッと噛み、うつむく。
本当は笑顔にさせるどころか、毎回変わる男の人達よりも悲しい顔をさせてしまう事を知っていたのに、気付きたくないだけだったのかもしれない。
「もう一途くんも高校生になるのか、早いな。」
そういって僕の頭を撫でて、お兄さんは変わらずまぶしい笑顔で言う。僕の胸も変わらず、お兄さんにドキドキしている。
「お兄さん、僕、高校生になったので、バイトが出来るようになりました。なので、今年の誕生日は手紙じゃなくて、ちゃんとした物を用意しますね。お兄さんは何が欲しいですか。」
「手紙。」
「お兄さん、いつまでも子供扱いしないで下さいってば。」
「俺からしたら高校生は子供なんだよ。それに、嘘じゃないって、毎年、一途くんからもらう手紙楽しみにしてんだ。だからさ、大人になっても変わらず、一言でも良いから手紙ちょーだい。」
そう、お兄さんに言われると僕はとても弱ってしまう。よし、絶対に毎年手紙を送ろう。
「そうだ、これ俺から一途くんに高校の入学祝。」
そう言って、お兄さんは高そうな万年筆を僕にくれた。すごく嬉しいのに、こういう風に素敵な物をスマートに渡してくれるお兄さんと僕との、大人と子供の差にショックを受けてしまう。その万年筆が入った箱をぎゅうっと力いっぱいに握りしめた。
「ありがとうございます。これで手紙を書きます。学校にも持って行って日誌もこれで書きます。僕も、お兄さんのお誕生日には、手紙と、素敵な物をプレゼントするので楽しみにしていてくださいねっ!」
「いいのに、ありがと。」てか日誌って、なつっ。そう言って、グラスに入ったカフェラテをストローでくるくるとかき混ぜて、嬉しそうに笑うお兄さんの顔に、僕はまた見惚れた。
*
僕はファーストフード店のキッチンで、週四日バイトを始めた。平日はいつも高校生が働ける時間ギリギリまで働く事が多い。そして、その帰り道――。
「あっ、お兄さん。」
賑やかな街並みに独り言は溶けていった。
バイトの帰りに、ホテル街へ続く道の近くを通る。その道を、お兄さんが男の人と腕を組んで、笑いながら歩いているのを見かけた。実はこれが初めてではない。お兄さんは変わらず、黒い洋服の、女の人の格好をして、毎回、違う男の人と腕を組んで笑いながらホテル街を歩いて行くのを何回か目撃した事がある。
その笑顔は笑っているのに、どこか空虚で、僕はその笑顔を見る度にギュッと胸が締め付けられる。
十二歳の頃とは違って今はもうハッキリと、大人がする事の意味を知っている。この道の先へ進めば、お兄さん達がどんな事をするのか、お兄さんが、大人ぽく見せていて、寂しがり屋だという事も僕は知っている。
そんなことしないでよ。僕じゃダメなの。僕だったら、お兄さんにそんな顔させないよ。そんなことしなくも、僕がたくさん、お兄さんの楽しいと思う事をするよ。ファミレスで話している時みたいに面白い話をいっぱいして笑わせるから、僕を隣に置いてよ。そう何度も言いかけて出なかった言葉は、お兄さんが子供の僕と恋人のような関係になる事を拒絶するのを知っていたからだ。僕はお兄さんを、その寂しさから救い出せないでいた。
強い風が吹いて、お兄さんの隣にいる男性の帽子が飛ばされる。
来た道を戻るように、お兄さんが後ろへ歩き出し、かがんで帽子を拾う。
前へ垂れた綺麗なブロンドの髪を耳に掛けた。
その時、お兄さんと目が合ってしまった。
一瞬、時が止まったように感じた。
お兄さんは僕の顔を見ると、顔を真っ青にして、動揺して目を右へ左へとさまよわせた。相手の男の人に声を掛けられると、無理に笑顔を作って僕から目をそらした。
――そんな顔をさせたかったわけじゃなかったのに。
奥歯をグッと噛み、うつむく。
本当は笑顔にさせるどころか、毎回変わる男の人達よりも悲しい顔をさせてしまう事を知っていたのに、気付きたくないだけだったのかもしれない。
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