一途くんの、失恋物語。

イヌノカニ

文字の大きさ
15 / 17
初稿

お兄さん22歳 一途くん16歳①

しおりを挟む
あの駅の近くにあったカードショップは潰れてしまって、今はお兄さんとファミレスで会うだけになっている。待ち合わせの時間ぴったりになると、今日も相変わらずお兄さんは黒い服に、黒のスカートを履いて現れた。

「もう一途くんも高校生になるのか、早いな。」

そういって僕の頭を撫でて、お兄さんは変わらずまぶしい笑顔で言う。僕の胸も変わらず、お兄さんにドキドキしている。

「お兄さん、僕、高校生になったので、バイトが出来るようになりました。なので、今年の誕生日は手紙じゃなくて、ちゃんとした物を用意しますね。お兄さんは何が欲しいですか。」
「手紙。」
「お兄さん、いつまでも子供扱いしないで下さいってば。」
「俺からしたら高校生は子供なんだよ。それに、嘘じゃないって、毎年、一途くんからもらう手紙楽しみにしてんだ。だからさ、大人になっても変わらず、一言でも良いから手紙ちょーだい。」

そう、お兄さんに言われると僕はとても弱ってしまう。よし、絶対に毎年手紙を送ろう。

「そうだ、これ俺から一途くんに高校の入学祝。」

そう言って、お兄さんは高そうな万年筆を僕にくれた。すごく嬉しいのに、こういう風に素敵な物をスマートに渡してくれるお兄さんと僕との、大人と子供の差にショックを受けてしまう。その万年筆が入った箱をぎゅうっと力いっぱいに握りしめた。

「ありがとうございます。これで手紙を書きます。学校にも持って行って日誌もこれで書きます。僕も、お兄さんのお誕生日には、手紙と、素敵な物をプレゼントするので楽しみにしていてくださいねっ!」
「いいのに、ありがと。」てか日誌って、なつっ。そう言って、グラスに入ったカフェラテをストローでくるくるとかき混ぜて、嬉しそうに笑うお兄さんの顔に、僕はまた見惚れた。



僕はファーストフード店のキッチンで、週四日バイトを始めた。平日はいつも高校生が働ける時間ギリギリまで働く事が多い。そして、その帰り道――。

「あっ、お兄さん。」

賑やかな街並みに独り言は溶けていった。
バイトの帰りに、ホテル街へ続く道の近くを通る。その道を、お兄さんが男の人と腕を組んで、笑いながら歩いているのを見かけた。実はこれが初めてではない。お兄さんは変わらず、黒い洋服の、女の人の格好をして、毎回、違う男の人と腕を組んで笑いながらホテル街を歩いて行くのを何回か目撃した事がある。
その笑顔は笑っているのに、どこか空虚で、僕はその笑顔を見る度にギュッと胸が締め付けられる。
十二歳の頃とは違って今はもうハッキリと、大人がする事の意味を知っている。この道の先へ進めば、お兄さん達がどんな事をするのか、お兄さんが、大人ぽく見せていて、寂しがり屋だという事も僕は知っている。
そんなことしないでよ。僕じゃダメなの。僕だったら、お兄さんにそんな顔させないよ。そんなことしなくも、僕がたくさん、お兄さんの楽しいと思う事をするよ。ファミレスで話している時みたいに面白い話をいっぱいして笑わせるから、僕を隣に置いてよ。そう何度も言いかけて出なかった言葉は、お兄さんが子供の僕と恋人のような関係になる事を拒絶するのを知っていたからだ。僕はお兄さんを、その寂しさから救い出せないでいた。

強い風が吹いて、お兄さんの隣にいる男性の帽子が飛ばされる。
来た道を戻るように、お兄さんが後ろへ歩き出し、かがんで帽子を拾う。
前へ垂れた綺麗なブロンドの髪を耳に掛けた。
その時、お兄さんと目が合ってしまった。
一瞬、時が止まったように感じた。

お兄さんは僕の顔を見ると、顔を真っ青にして、動揺して目を右へ左へとさまよわせた。相手の男の人に声を掛けられると、無理に笑顔を作って僕から目をそらした。
――そんな顔をさせたかったわけじゃなかったのに。
奥歯をグッと噛み、うつむく。
本当は笑顔にさせるどころか、毎回変わる男の人達よりも悲しい顔をさせてしまう事を知っていたのに、気付きたくないだけだったのかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

おめでとうが言えなくて

まめなぎ
BL
祝えないのは、最低だからじゃない。 まだ手放せていないからだ。

恋した貴方はαなロミオ

須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。 Ω性に引け目を感じている凛太。 凛太を運命の番だと信じているα性の結城。 すれ違う二人を引き寄せたヒート。 ほんわか現代BLオメガバース♡ ※二人それぞれの視点が交互に展開します ※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m ※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です

処理中です...