一途くんの、失恋物語。

イヌノカニ

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初稿

お兄さん22歳 一途くん16歳②

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晴れだと言っていたのに、どんよりとした曇り空になった今日、お兄さんと会う日になった。あれから、しばらく経った日だった。
いつもは時間ぴったりに待ち合わせのファミレスにやって来るお兄さんは、今日は少し遅れて来た。相変わらず、黒い洋服の女性の格好をしていた。

「ごめん。」

うつむいて、お兄さんは言う。僕の目を見ようとしてくれなかった。それが遅れて来たことに対してだけに言っている言葉ではないことくらい、子供の僕にも分かった。お兄さんは、あーとか、うーとか、言いながら、両手を何度も何度も組み直して、言いにくそうに言った。

「この間さ、見た?……その、俺が、」
「見ました。」

僕はお兄さんが言おうとしている言葉を、僕に言ったらお兄さんが傷つくと思ったから、今までした事のない、お兄さんの言葉を遮るという事を初めてした。体をビクっと揺らして、不安そうに僕の言葉を待っている。

「暗かったので、よく見えなかったですけれど、やっぱりお兄さんだったんですね。夜遅くに、あんなところ歩くなんて危ないですよ。」

僕は嘘を吐いた。お兄さんが傷つくなら、嘘つきになった方が良いと思ったから。僕が言った一人でという言葉に安心したように、小さく息を吐くと、お兄さんは泣きそうな顔で笑って「ごめん」と小さく、向かい合わせに座っている僕でも聞き逃してしまいそうなくらい、小さく、つぶやいた。

「子供が、そんな心配しなくて良いの。でもそっか、バイトってあんな遅くまでやるんだな、もう高校生だもんな。あっという間に、一途くん、俺より大人になっちゃうんだろうな。」
「はい。すぐに大人になります。」
「うん、そうだよな。……俺も、ちゃんと、いつ会っても、素敵ですって、そう言ってもらえるような大人にならないとな。」

ファミレスの大きな窓から光が入る。空を見ると、雲に隙間ができて、そこから光が入ったみたいだ。それは僅かな時間の事で、すぐにまた雲は空を隠してしまった。

お兄さんが二十歳になって最初に会った日以来、お兄さんはタバコの匂いを纏わなくなった。代わりに、匂いを誤魔化すかのように、ほのかにミントの香りを纏っている。胸ポケットにある四角い膨らみが、本当はまだお兄さんがタバコを吸っている事も、僕に会う前に消臭スプレーで匂いを消している事も、僕は気付いている。
どこかで気付いていた。寂しがり屋だという事だけじゃなく、お兄さんの本当の部分は、きっと僕に見せている部分ではなくて、タバコの匂いを誤魔化すように隠しているのだという事を。
いつか、ううん、高校を卒業して、お兄さんと初めて会った時の、お兄さんの年齢に追い付いて、十八歳になって大人になったら、僕はお兄さんに、どんな姿でも、どんなお兄さんでも、大好きですって伝えようと思う。だから、ありのままのお兄さんでいて欲しいって伝えようと思う。

十八歳まであと二年。
あと少し。
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