Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐

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暗黒大陸編 5巻

暗黒大陸編 5-2

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《百五十四日目》/《二■五■四■目》

 今日は生憎あいにく曇天どんてんだ。
 空気は湿しめを帯び、しばらくすればこの辺りも雨が降るだろう。遠くでは雷の音も響いている。
 こういう日は気分も乗らないので、《ベリルリンのスコップ》で情報収集兼食事をする事にした。
 今日は宝肢泥掘師は居ないが、顔見知りになった他の【泥掘師】達と会話していく。
 最初この《ベリルリンのスコップ》に入ったのは、そこそこの大きさで綺麗に掃除されていたからというだけの理由だった。だが情報を集めていくと、数ある泥掘酒場の中でも頭一つ抜き出た実力者が多く集まっているらしい事が分かった。
 長年の経験に裏打ちされた豊富な知識を持つ宝肢泥掘師をはじめ、他の顔役も後輩育成に力を入れているかららしい。
 ここで【泥掘師】についてサラッと説明すると、正式に【泥掘師】として活動するなら、四十二ある泥掘酒場のどれかに所属するのが常識だ。
 所属すると色々面倒な制約を課せられる事になるが、それを上回る特典があるという。その為、所属しない場合は何かしらの事情を抱えていると判断される。
 俺の場合はあくまで短期間の活動であり、意味がないので所属まではしないつもりだ。
 ドロップアイテムの高価買取や効率的な依頼の斡旋あっせん、トラブった時のバックアップといった恩恵おんけいは受けられないが、それはどうにでもなるので気にならない。
 また各泥掘酒場の運営権は、それぞれ都市の有力者などが持っている。
 代々持ち続けている家もあれば、幾つかの面倒な許可を得た末に高額で買い取った者もいるそうだ。
 その為か泥掘酒場ごとに様々な特徴があり、上品な所もあれば下品な所もあるという。
 そういった点で言えば、ここ《ベリルリンのスコップ》は上等な部類に入る。
 大昔から《ベリルリン家》が運営権を保持しているそうで、単純に歴史がある。
 歴史があるので信用もあり、市民や商人から舞い込む依頼の数も質も良い。
 また長期間の運営によってつちかわれたノウハウがあるので、新人育成など独自の方策も多く、所属する【泥掘師】もある程度選別されており、本能のままに暴れ回るような馬鹿ばかはいない。
 店内も隅々すみずみまで掃除が行き届き、用意されている酒や料理も美味い。
 所属する【泥掘師】も一般人と比較すれば変わり者の部類とはいえ、ちゃんと自分を律する事ができる者が多い。
 まあ、それでも色々事情はあるらしく、面倒な新人や同業者に対する愚痴ぐち下世話げせわなバカ話が尽きることは無い。
 宝肢泥掘師の時と同様、迷宮酒をいで滑りの良くなった舌から情報を引き出しつつ、降り注ぐ雨の音を聞きながら今日も飲み比べを行った。


《百五十五日目》/《二■五■五■目》

 朝から、独特ではあるがスモーキーで美味おいしそうな匂いがただよっている。
 土や湿地やいぶした煙、それでいてどこか海藻かいそうのような風味を思わせる香りだ。
 何だろうかと思考を巡らせると、思い浮かんだのはピートのウイスキーだった。
 泥炭を使って大麦を乾燥させる為、この独特な匂いがつくのだったか。
 ある程度情報が集まったので、今日はいざ《大泥濘幻想領域・クレイタリア》に行こうと思っていたのに、何だか酒が飲みたくなってきた。
 これでは出端でばなをくじかれた感じだ。
 仕方ないので挑戦は後日でいいかと思い直し、今日も泥掘酒場で情報収集をする事にした。
 現在俺が宿泊している宿屋《ルビーシェルネイ》は、白と黒を基調としたモダンな色合いの調度品や内装が特徴的で、落ち着いた雰囲気の老舗しにせである。
 泥掘酒場までは直線距離で四百メートルも離れていないので、朝の運動がてら歩いていると、都市全体がにわかに騒然としているのを感じた。
 住民のやり取りに耳を傾けてみると、何やら『匂いが濃いなぁ。こりゃ今回は荒れるんじゃないか?』や『今年は頻度が多くないかしら? やだわぁ、洗濯物に匂いがついちゃう』、『加工場が作業員を募集し始めたんだって! 早く行こうよ!』や『あまり汚れないといいんだけど。ほら、三年前とかひどかったじゃない?』など、定期的な何かが起こりそうな雰囲気だ。
 とりあえず足早に泥掘酒場《ベリルリンのスコップ》までやってくると、中はかなりあわただしい感じだった。
 これまでは軽装だった者達も、今日は本気の装備で全身を包んでいる。
 朝なのに集まりも良く、それなりの広さがある泥掘酒場がかなり手狭てぜまだ。
 しかも、今は忙しいから所属する【泥掘師】以外は出ていてくれ、とまで言われた。
 流石にそうまで言われて無理やり入る気にはなれなかったので大人しく引こうとしたが、俺に気が付いた宝肢泥掘師が大慌てで声をかけてきた。
 宝肢泥掘師も色々と忙しいらしく、まるで暴風のような速度で語られた話を手短てみじかに纏めるとこうなる。
 まず、朝から漂うスモーキーな匂いは、襲撃の予兆だそうだ。
 襲撃元はもちろん《大泥濘幻想領域・クレイタリア》。
 そこから年に数回〝泥炭煙獣ピートウィス〟という固有モンスターが溢れ、数が多いと数日がかりの襲撃になる事もある為、十分な戦力になる【泥掘師】は防衛戦に参加する事が法律で定められている。
 これも【泥掘師】に課せられる制約の一つで、破ると幾つかの重い罰則があり、最悪の場合除名される為、大怪我おおけがをしているなど戦えない事情が無い限りは必ず参加しなければならない。
 だから宝肢泥掘師も防衛戦に出る必要があるのだが、間の悪い事に、昨日から本家の令嬢とその側近達がやってきていたそうだ。
 宝肢泥掘師の本家の子は、一定の年齢になると必ず修行して地力を上げる習わしがあるらしく、分家の出で十分な実力もあるなどの理由で、宝肢泥掘師にその師匠役の任が下されたらしい。
 面倒な家系の事情がアレコレあるらしいが、ともかく。
 宝肢泥掘師は朝起きた時点で、匂いで防衛戦が行われる事を悟ったので、一先ひとまず修行は後日にしてもらうおうと考えたそうだ。
 しかし泥掘酒場で合流した本家令嬢が『防衛戦に参加したい』と言い始め、更に本家の許可まで取ってきたから困った事になった。
 本家令嬢も同年代である側近達も実戦経験こそ少ないようだが、同世代からすれば十分すぎる程に本家で鍛えられている事に加えて、若さ特有の自信とやる気があるそうだ。
 内向的で戦闘を忌避きひするよりかは良いし、防衛戦に参加したという実績があるのは、今後の都市政治を考えると良い事ではある。
 だから本家も許可を出したのだろうが、困るのは師匠役の宝肢泥掘師だった。
 慣習からすると、実力のある宝肢泥掘師に割り振られる戦場は、城壁外の平原という激戦地。
 実力者は最前線で自由に暴れてこい、という配慮だが、そこに足手まといになる本家令嬢達を引き連れて行きたいはずがない。
 万が一本家令嬢達に何かあれば、その責任は宝肢泥掘師の家族にまで及ぶ可能性が高い。
 じっくり鍛えた後なら兎も角、今はまだ未熟で戦闘に耐えられる段階ではない。
 だから本家令嬢が防衛戦に参加するのは仕方ないとしても、できれば実力のある護衛を新しく雇って、最前線ではなく城壁での支援活動に回したいらしい。
 しかし宝肢泥掘師が認める実力者はそれぞれ忙しいし、後方支援部隊も同様で、いずれも頼る事はできない。
 それにお目付け役がいない場合、本家令嬢達が何をするのか想像がつかない。
 宝肢泥掘師からすれば、不安要素を抱えたまま戦地に行きたくないのは至極当然だろう。どうにかならないか、と悩んでいたそうだ。
 しかし解決策は出ず、刻一刻と猶予ゆうよが無くなっていく中、俺がのこのこやってきた訳だ。
 きっと救いに見えたのだろう。
 会って数日しか経っていないし、戦闘能力を直接確認した訳でもないのに、宝肢泥掘師は深く頭を下げて俺に助力を頼み込んできた。
 面食らったが、一緒に酒を飲んだ仲だ。短い付き合いながら宝肢泥掘師の事は嫌いではないし、それに都市の有力者とのコネが出来るのは嬉しい。
 しかも報酬として提示された幾つかの中には、ベテランだからこそ知っている秘匿ひとく情報も含まれているのだから、俺に損もなかった。
 一応、本家令嬢達が話を聞かなかったり無茶をしそうになったりした場合は力ずくで止めるし、どうなっても責任は負わない、とだけは伝えて依頼を受けた。
 そんな訳で、早速とばかりに泥掘酒場内に居た本家令嬢達と顔合わせした。
 本家令嬢は全身が(部位によって濃淡こそあるが)透き通る海のような淡い青色の宝石で出来た、〝宝石人ジュエムシェリア〟の一種で〝宝肢人〟よりも上位種である〝藍玉人ジュエムマリア〟だった。
 四肢だけでなく頭の天辺てっぺんから爪先まで、身体の全てが上質な魔力を内包する宝石で構築されたその姿は、まさに芸術品のような美しさをたたえている。
 それに着ている服も生体防具の一種なのだろう。あい色の宝石糸でつむがれた、濃淡鮮やかな美しいドレスの所々に白銀装甲を追加したようなドレスアーマーだ。
 生体武器として、左腕には小さく折り畳まれた宝石盾、腰には宝石長剣があり、立ち姿はまるで姫騎士のように凛々りりしかった。
 ただし、その年齢は十代前半。
 まだまだ幼さの残る、同年齢の平均身長よりも小さいだろう、ちんちくりんな少女である。


《百五十六日目》/《二■五■六■目》

 昨日から始まった〝泥炭煙獣〟の襲撃は今日も続いていた。
 泥炭で構築された身体は個体によって魔獣型や魔蟲型など千差万別。
 体格差も大きく、ねずみくらいから象くらいの大きさまで幅広い。
 しかし共通して、背中から管が無数に突き出て、そこから独特なピート臭を放つ白煙をモクモクと排出していた。
 白煙の匂いは吸い込むとむせるほど強烈で、しかも一定以上の濃度だとモンスター化する特性を持つ。
 つまり泥炭部と白煙部が独立しつつ協力し合う二体一組のモンスターと言える為、対応をミスると結構大変な事になるようだ。
 それが城壁の上からざっと見て、数千はいるだろうか。
 戦場全体に白煙が充満し、ここからでは詳細はあまり分からない。
 ただ、数が数だけに対応には相応の苦労はあるにせよ、最前線を担当するベテラン【泥掘師】達の活躍と防衛隊の慣れもあって、戦況には余裕があった。
 最短半日で終わる代わりにすさまじい量で攻めてくる最悪のケースに比べれば、日数はかかるが交代しながら戦える今回のような状況は楽な方らしい。
 忙しくないのは護衛役の俺としても有り難く、城壁の上から本家令嬢達が遠距離攻撃をしている横で、ノンビリと構えていられる。
〝藍玉人〟である本家令嬢は当然として、その側近である同年代の七人の男女も宝肢泥掘師と同じ〝宝肢人〟なだけあって、全員【宝石魔法ジェムマジック】が扱える。
【宝石魔法】には色々と種類があるらしいが、〝泥炭煙獣〟は泥炭部と白煙部の両方に強い可燃性がある。下手に燃やしてしまうと戦場全体で連鎖的に大爆発してしまうので、一撃で終わる代わりに被害甚大になる。
 意図的に引き起こした場合、犯人は裁判なしの極刑というのだから、どれだけ大変な事になるのか想像にかたくないだろう。
 その為、今回行使している【宝石魔法】はシンプルな砲撃だった。
 宙に出現した冷気を纏う青い宝石製の砲弾が、防衛線から漏れて城壁に近付いてくる〝泥炭煙獣〟に対して射出される。
 矢よりも速く飛翔する砲弾は、速度と質量により生み出される破壊力と衝撃波で〝泥炭煙獣〟の白煙部を散らし、泥炭部を一瞬で氷結・粉砕して、砕けた氷像を造る。
 一撃必殺の威力はあるが、コントロール力の不足により、本家令嬢達が外す事もそこそこあった。
 それでもすじは良いようで、横から適度に助言していくと、初日より命中精度や威力、魔力効率などが全体的に良くなった。
 傲慢ごうまんで話を聞かないかとも心配していたが、自信とやる気が少々肥大化しているものの、ちゃんと理由を話せば理解できるだけの分別はあった。なので予想外にアドバイスしながら過ごす事ができたのは良かった。
 これだと、護衛役というより宝肢泥掘師が担うはずだった師匠役をした事になるが、楽だったのでこのくらいならまたやっても良いかと思いつつ、常に変動する戦場を観察していった。


《百五十七日目》/《二■五■七■目》

 朝まで続いた襲撃も、昼には終わった。
 本家令嬢達も朝早くから参加していたが、流石に三日目にもなると元気が無い。
 自分から参加すると言った手前、途中で投げ出さなかった結果である。
 本家令嬢達は全員が十代前半で、種族的に魔力などは豊富だが、体力面や精神面はまだまだ年相応だった。
 ただ気力を振り絞った甲斐はあり、近くで戦っていた後方支援部隊にはその頑張りが伝わっている。評価は上々で、将来有望そうだとめられていた。
 本家令嬢達は意気揚々な様子だが、それが気に食わない者も当然居た。
 まあ、そういうのは悪影響になりやすいので、間に入って本家令嬢達の目に入らないようにするのも護衛の役目だろう。
 ともあれ防衛戦は終わったわけだが、何事も後処理というものがある。
 今回で言えば、荒れた戦場の修復と、色々な活用法のある泥炭部の回収だ。
 回収は戦闘に参加していない労働層の良い仕事になるらしく、大勢のヒトが都市の外に出ていく。
 参加するのに老若男女ろうにゃくなんにょは問われないようで、本家令嬢達よりも幼そうな子から、ヨロヨロと頼りないしわくちゃの老人まで居るようだ。
 極端な老若を見ると流石に大丈夫かと心配になるが、作業自体は戦地に散らばる泥炭をすくって運ぶだけ。
 泥炭はそれなりに重いようだが、参加者のほとんどは慣れているのか機敏に動いている。運搬用の使い古された荷車の数は多く、それを牽引する家畜もたくましいので、作業は順調そうだ。
 そんな様子を暫く眺めていると、宝肢泥掘師がやってきた。
 後始末を急いだらしく、汗を流し呼吸も荒い。
 戦闘中、本家令嬢に何もありませんように、などと色々と考えていたのだろうか。
 ともあれ、合流した俺達は一旦、泥掘酒場に帰還した。
 戦闘の交代休憩の時にはここで食事が格安提供されていた事もあり、泥掘酒場の空気にすっかり馴染なじんだ気がする。
 正式に所属しないかとも誘われたものの、それはまた別の話なので流しているが。
 ともあれ、仕事終わりの解放感もあって、周囲では汗臭い泥掘師達が大いに飲み食いし、お互いをねぎらい合いながら楽しんでいる。
 俺達もそれにならい、まずは乾杯だ。


《百五十八日目》/《二■五■八■目》

 ここ何日かは思わぬ仕事が入ったが、その分の報酬を得る事はできた。
 昨日の夜、報酬の一つであった地酒を宿に戻って晩酌に一本飲み干したところ、中々良かった。
〝泥炭煙獣〟の泥炭を使用しているのかピート臭の強い酒で、アルコール度数も高い。ロックでもストレートでも、もちろん他の飲み方でも良い。とりあえず樽単位で買って帰ろうと思うくらいには美味い酒だった。
 英気は十分養ったので、今日こそは《大泥濘幻想領域・クレイタリア》に行こうと宿を出たら、すぐそばの路地に見知った気配があった。
 その正体は宝肢泥掘師なのだが、その顔は少し申し訳なさそうに苦笑いを浮かべている。
 少し立ち話をしたところ、何やら頼み事があるらしく、簡単に言えば師匠役の補助を依頼したいそうだ。
 というのも、発端は本家令嬢のつるの一声だった。
 襲撃の間、俺が横でアドバイスしていたのが切っ掛けで、本家令嬢が『《大泥濘幻想領域・クレイタリア》に挑む際にまた助言してほしい』と言い出したらしい。
 どうやら体内魔力オドの流れを感知しつつ伝えた内容がおもいのほか効果的だったようで、ずいぶん気に入られたようだ。
 最初は本家令嬢本人が交渉に来たそうにしていたらしいが、それで何かトラブルがあったら困るので、宝肢泥掘師が交渉役を買って出たそうだ。
 そこで大人しく引くところからして、某お転婆姫てんばひめよりかは分別があるらしい。
 ――某お転婆姫とは誰だっただろうか。
 まだ戻っていない記憶の中、ポッカリと空いた穴に当てはまる誰かがいる。
 その輪郭りんかくだけは、何やらぼんやりと思い出せた。
 それはさて置き。
 交渉に宝肢泥掘師が来なかった場合、本家令嬢の側近やその関係者からアレコレ干渉が入り、強制的に依頼を受けさせようとするなどの無用なトラブルに発展する可能性があったらしい。
 それを避けられたのは良かった事だが、宝肢泥掘師も宝肢泥掘師で俺という保険が欲しいらしく、良い笑みを浮かべつつ賄賂わいろを渡してきた。
 賄賂は迷宮酒【アブサドーラ・エクリプ】。
 薄緑色の魔法薬草系リキュールの一種で、一口飲むと致命傷が癒え、二口飲めば万病が快癒し、三口飲めば至福が満ちるとうたわれる、《大泥濘幻想領域・クレイタリア》産の迷宮酒では最上位に位置する代物だった。
 迷宮酒【アブサドーラ・エクリプ】は、複雑で高難度な複数の条件をクリアする事で確定ドロップするが、それ以外では絶対に手に入らない。
 その条件を知っている者は、自身の稼ぎに直結するので多くは語らない。
 それでも口が軽かったり、自慢話でうっかり漏らしたりする事もあるので、そういった情報を集めて真偽を確認しようとする【泥掘師】も当然いる。だがその作業は困難を極め、正確な条件を発見する事はとんでもなく難しいそうだ。
 その為、迷宮酒【アブサドーラ・エクリプ】を自力で採取できるだけで、一般的に【泥掘師】としてはかなりの腕前と認識される。
 また酒としてだけでなく薬としての人気も高いようで、瀕死の状態にあってもこれを飲めば回復するどころか以前よりも元気になるらしい。
 実際、そうして命を取り留めた過去の偉人も多いのだとか。
 なので非常に価値が高い上、それなり以上の店舗にそれなり以上のコネが無いと、そもそも購入まで進めない。
 そんな訳で、広く知られているのに実際に見た者は少ないという、幻の逸品であった。
 それ程のモノを、交渉の結果がどうなるにしろ『気持ち』として貰えるのなら悪くない。
 個人的に上の層に行ってみたいとも思っていたので、本家令嬢とのコネが強まるのはやぶさかではない。
 という事で、今のところは頷く方に心が傾いていた。
 しかしアッサリ頷くだけでは面白くないので、少ししぶってみせながら交渉してみる。その結果として、結構な額の報酬に加え、『誰にも教えない』という条件付きで宝肢泥掘師が持つ秘匿情報の幾らかを引き出す事に成功した。
 もちろん【アブサドーラ・エクリプ】の確定ドロップ法もそのうちの一つだ。
 宝肢泥掘師はちょっと悲しそうな表情を浮かべているが、それは外面そとづらだけで、内心ではこの程度で済んで良かった、と思っていそうな気配がする。
 報酬金に関しては本家が出すだろうし、ベテラン泥掘師な宝肢泥掘師からすれば秘匿情報のストックはまだまだあるのだろう。
 それに【アブサドーラ・エクリプ】の確定ドロップ法には季節的な条件が含まれている為、ずっとここに居る訳ではない俺が活用できる機会はほとんど無い。であるなら、教えても問題なかったに違いない。
 それでも俺からすればメリットが大きい依頼には変わりないので、依頼を受けると答えると、早速前金代わりに《大泥濘幻想領域・クレイタリア》を案内するから行こうと誘われた。
 防衛戦の疲れを癒すのと、俺との交渉の為に数日の休暇を設けていたようで、本家令嬢達の引率前に一度は潜っておいてほしいようだ。
 確かに、体験しているのとしていないのでは色々違うから納得だ。
 朝からちょっとした道草をしたが、ベテラン泥掘師の案内で《大泥濘幻想領域・クレイタリア》に初挑戦できるのであれば、道草はとても有益だったと言えるだろう。


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