Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐

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暗黒大陸編 1巻

暗黒大陸編 1-2

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 ――さて、そうなると、どの【大神】の【神獣】なのだろうか。
 俺との関係が深い【終焉しゅうえんと根源を司る大神】と、【救世主】に関係が深い【誕生と叡智を司る大神】は何となく違いそうだ。
 それっぽいとなれば【自然と魂魄こんぱくを司る大神】か、【時空と星海を司る大神】だろう。
 どちらもありそうだが、司る象徴色からすれば【自然と魂魄を司る大神】が有力だ。
 グランド・レヴィアタンの体色は、赤みがかった薄い紫色をしている。
 周囲のレヴィアタンが海のような青い体色である事、また【自然と魂魄を司る大神】の象徴色が赤色という事を考えると、青と赤が混ざってそうなったのではないだろうか?
 象徴色が青である【時空と星海を司る大神】だったら、もっと深い青色になるはずだ。これは結構的外れな推理ではないのではと思われる。
 そこまで考え、ふと、以前《クラスター山脈》で遭遇した恐るべき〝ディアホワイト〟を思い出す。
 当時は分からなかったものの、ディアホワイトもまた【神獣】の一種であるのは、ヤツの角を喰ってラーニングしたアビリティ【神獣の守護領域】からして間違いない。
 となれば、ディアホワイトはどの【神】の【神獣】なのかという事だが、一定以上の力を持つ事、かつ象徴色から考えると、【誕生と叡智を司る大神】かその従属神である可能性が非常に高い。
 そしてあの時は俺の子供達が生まれたばかりだった事からして、【誕生】を司る【大神】が正解であるようにも思えるのだが、それにしては角から得られた力が微妙だ。本当にそうなら、もっと途轍とてつもない力を得られただろう。
 いや、もしかしたら本体で出てきた場合は何かしらの影響が強すぎるので、あのディアホワイトには封印が施されていたとか、あるいは弱体化した状態だったとかかもしれない。
 そう考えれば、納得はできる。
 しかしそうなると、どうしてわざわざ会いに来たのだろうか? 俺が同格の【終焉と根源を司る大神】の【加護】を得ていたからだろうか。あるいは何か他の理由だろうか。
 しばし悩むが、以前手に入れてから今も用途不明のままの【■■■の眷属】が怪しい気がする。
 これがあるから、【誕生と叡智を司る大神】は子供達の誕生祝いに角を持ってきてくれたのだろうか? 考えても分からない。
 これ以上は脱線しすぎるので、一旦グランド・レヴィアタンに話を戻そう。
 この星の全ての海を支配していそうな【神獣】グランド・レヴィアタン。正直コイツこそが【世界の宿敵ワールドエネミー】の一体ではないか?とすら思う。
 しかし違うな、とすぐに自分で否定する。
 実際、【世界の宿敵】と成り得る可能性は、大いにあるだろう。こんな巨体が暴れれば、陸地はかなりの範囲が浸蝕され、島であれば海に沈んでしまう。
 それだけの力はあるものの、しかし【世界の宿敵】になるには何かが足りないのだ。
 大海の中で暮らしているだけで、陸上に進出する気など全くないからだろうか。
 ともかく、過去最も手応えのあった【救世主】と同等かそれ以上だろう上物を前にして喰い損ね、我慢するしかないというのもなんだかなぁ、と思いつつ。
 また会ったその時には準備を整えて喰ってやろうと心に決め、グランド・レヴィアタンによってまるで海の楽園のような環境が出来上がっている凪いだ周辺海域を観察する。
 群れから離れたレヴィアタンが居ればそっと首を切り落として回収してやろうと思っていたのに、残念ながら居ないらしい。
 それにしても、こうして未知の存在に遭遇するのも、旅の醍醐味の一つではなかろうか。百聞は一見にかず。実際に見る事は、ただそれだけで大切なかてとなるのである。
 などと思いながら、今日も最上階のプールでゆったりと過ごした。
 皆水着姿であり、男性陣はともかく、女性陣の華やかな事華やかな事。様々な水着を着たカナ美ちゃん達は眼福ものだ。
 良い機会なので、こちらもジックリ見させてもらう事にしよう。


《四日目》

 何処までも続くような大海を、二隻の船舶が進んでいく。
 一隻は、当然【アンブラッセム・パラベラム号】。
 雄大で危険に満ちた大海を王者のように進むさまは、もはや圧倒的とすら言える。
 そんな【アンブラッセム・パラベラム号】と並ぶと小さく見えるものの、それでも百メートル級のもう一隻は、海龍船【シャークヘッド号】である。
 これは、普段俺がベルト代わりに腰に巻いている【召雷黒龍しょうらいこくりゅう鬼鮫縄きさめなわ】によって召喚された黒鬼鮫龍――〝デスシャークヘッド・ブラックボルトドラゴン〟が、【神器】である【船舶神之操舵輪ポライドラス・ハルドラ】の能力の一つ【船舶昇華】で一時的に船舶と化したモノだ。
 折角の航海だ。最後まで【アンブラッセム・パラベラム号】に乗って楽しむのも良いが、こんな機会にしか体験できない事をしてみたい。
 という訳で、もっと使いやすい大きさの船として【シャークヘッド号】を用意し、今は俺をはじめほぼ全員がこっちに乗船している。
【シャークヘッド号】は元となった黒鬼鮫龍の特徴が色濃く出ていて、外敵をほふる武装が船体各所に取り付けられた軍艦のような形状だった。
 鋭利な龍角は鋭く伸びる衝角となり、敵船舶や海洋モンスターに風穴を開ける事が可能だ。
 船腹には雷鳴宝石製のひれの一部が変形した数十門の魔砲がズラリと並び、試し撃ちしてみると雷で構成された砲弾が発射された。着弾すると海面に拡散していく為、海中よりも海上の敵に対する攻撃法として優れるようだ。
 船体の装甲は鮫の楯鱗のような構造で、波を効率良く受け流したりして航行速度を上げる役割に加え、触れれば敵を削る能力まである。速度の乗った体当たりをすれば、それだけで敵を削り殺せるだろう。
 船底を覗いてみれば、そこには無数の雷針が備わっている。こちらは海中から襲い掛かってくるモンスター対策らしく、魔力を帯びた雷撃が放たれれば海中でも関係なく敵を穿うがつだろう。
 そして船の顔とも言える船首像は、まるで大口を開いた黒鬼鮫龍の獰猛どうもうな頭部のようなデザインで、その口には龍種のブレスを放つ主砲が隠されている。
 他にも多種多様な武装を搭載している【シャークヘッド号】は、雷鳴宝石製の鰭による高速航行と自動航行を可能とした高速戦闘戦艦とでも表現するのが適切だろうか。
 ちなみに船舶状態でも黒鬼鮫龍の意識は残っているらしく、襲ってくるモンスターを自動的に迎撃してくれる優れモノだ。
 倒したモンスターの回収までしてくれるので、ここぞとばかりに新鮮なブラックフォモールのブロック肉を撒き餌としてドボドボと投下。
 後は釣り糸を垂らして待っているだけで、血肉に誘われたモンスター達が大量に釣れた。
 普通に釣り上げたモノもあれば、雷撃で仕留められたモノもある。中には、船腹で釣りを楽しんでいた俺達に向かって海中から襲い掛かってくるモノまで居た。
 釣り上げられたのは、丸々と脂の乗った厳ついつらの〝極道ごくどうマグロ〟や、青蛇のような見た目の〝青蛇ウナギ〟など、やや小型の獲物だ。
 雷撃で仕留められたのは、船舶を海中に引きずり込む事で有名な〝大海大烏賊タイショウオオイカ〟や、巨大海洋モンスターに引っ付いてお零れを狙う〝大判鮫オオバンザメ〟など、大型の獲物が多い。
 勢いよく襲い掛かってきたので俺達が直接仕留めたのは、上顎うわあご螺旋らせんを描く槍のように伸びて特徴的なフンを形成する〝螺旋槍羽魚スパイラルカジキ〟や、頭部から胴体までが白鯨でその後ろに大蛸おおたこが合体したような〝白鯨大蛸ホワイトホエール・ギガオクトパス〟など、大型で獰猛な獲物だ。
 流石にここまで遠くに来ると、見た事のないモンスターで溢れている。
 そして未知とはつまりまだ体験した事のない味との出会いであり、姉妹さんと飯勇達によって調理されたそれらはどれも美味うまそうだった。
 見た目的にそれはどうなのよ、というモノもないではないが、普段とは違う状況なのだからと柔軟に受け入れ、どれも美味おいしく頂きました。
 個人的には白鯨大蛸がオススメだ。コリコリとした食感の蛸足が、鬼酒のツマミに最適だった。
 鬼酒、蛸足、蛸足、鬼酒。そんな流れでどんどん腹に入っていく。
 そうして【シャークヘッド号】にて開かれた宴会も夕方には片付けて、夜は【アンブラッセム・パラベラム号】に戻ったが、そこでもまた宴会は続いた。
【シャークヘッド号】には【シャークヘッド号】の良さがあり、【アンブラッセム・パラベラム号】には【アンブラッセム・パラベラム号】の良さがある、と比べて初めて分かる事もあった。
 一つひとつ経験を積みながら、俺達は進んでいくのであった。


《五日目》

 今日は、波が穏やかでんだ青色が特徴的な海域に到達した。
 ここは特殊海域ではないが、潮流が速く、それでいてこれまでのような危険な海洋モンスターはあまりいないようだ。
 その為、グランド・レヴィアタンが居た特殊海域ほど豊かではないものの、普段なら他の生物の餌になってしまう小魚などが多く生息している。
 折角なので、アイテムボックスに収納していた魔導船を二隻取り出し、それを使って漁を行う事にした。魔導船の上から【豊漁の大網】という漁網型マジックアイテムを海に投げ入れて引き上げるだけの、簡単なお仕事だ。
 本来ならもう少し手間とかが必要だろう。しかし【豊漁の大網】は魚類に対して【魅了チャーム】効果を発揮するので、適当に展開しておけば後は引っ張るだけで魚が獲れる。
 漁師からは何だそれ、と言われそうなマジックアイテムだが、そういうシロモノなのだから仕方あるまい。
 そんな訳で、獲りすぎないように気をつけながらせっせと網を広げたこの日の夜。
 食事中、カナ美ちゃんに『後で私の部屋に来て』と言われたので、彼女の部屋――各自の分を用意してあるが、カナ美ちゃんは俺と一緒に寝る事が多いので私物置き場のようになっている――におもむいた。
 といっても俺と隣の部屋なので、すぐに到着する。
 ノックをすればすぐに『入って』と言われ、ドアを開けた。
 そして視界に飛び込んできたのは、まるで宮殿の一室のような豪華な内装の部屋で、薄い生地のドレスを着てソファに腰掛けるカナ美ちゃんが、優雅にワイングラスを傾けている姿だった。
 カナ美ちゃんの姿は美しく、扇情的である。しかし、俺の意識はワイングラスに注がれた赤い液体に傾けられた。
 離れていても感じる、その液体に秘められた魔力。酒精を帯びた豊潤ほうじゅんな香りに思わず喉が鳴る。
 ワイングラスに視線を固定したまま、呼び出した理由を尋ねると、一緒に飲もうという事らしい。
 それは嬉しい限りなのだが、この赤い液体は何なのだろうか。そう思いながら対面に座ると、カナ美ちゃんはその正体を教えてくれた。
 それは、彼女が【聖戦】で倒した前【魔帝ミルディオンカイザー】ヒュルトンの血を原材料に製造した鬼酒だった。
 どうやら、ヒュルトン――通称魔帝まていとの戦闘時に集めた血と自分の血とその他あれこれをブレンドしたそうで、その味は恐るべきモノがある。
 ひと口飲んだだけで全身を駆け巡る、濃厚で豊潤で複雑な熟成された味わいの衝撃。
 心身がてつくような、しかし同時に燃えるような不思議な感覚がする。
 熱いのに冷たい、冷たいのに熱い。カナ美ちゃんとヒュルトンの魔力が混ぜ合わさったそれは、両者の良い部分を損なう事なく高め合い、思わず嫉妬するほど渾然一体となっている。
 全く、死んだ後でも良い一撃を入れてくれる。
 ちょっとだけ複雑な思いでグビリグビリと飲み、ついでに飯勇に予め調理してもらってあった【魔帝料理】を取り出して喰いました。
 ちなみに衣服を剥がれたヒュルトンは、ヒト型の黒っぽいスライムのような肉体をしていたので、調理によって豆腐のような独特な柔らかさとなっている。


能力名アビリティ【帝王勅命】のラーニング完了】
【能力名【召喚術】のラーニング完了】
【能力名【契約術】のラーニング完了】
【能力名【異界を観る者】のラーニング完了】
【能力名【魔界揺蕩う魔帝の僕ワグレス・クリフォポトス】のラーニング完了】

 内包していた【神力】の分だけ竜帝肉にすら勝る【魔帝料理】に満足した後は、ベッドの上でカナ美ちゃんの事も頂きました。
 意図的に俺の嫉妬心を刺激したのだから、相応の結果が待っているのも覚悟の上だろうさ。



《六日目》

 今日も大海の上で遊ぶ事になった。今回は、条件を満たした為に新しく精製できるようになった〝ブラックイグレスシードラゴン〟に【船舶神之操舵輪】を使用する。
 俺の影響を受けた黒化によって普通のイグレスシードラゴンよりも大きかった身体はギュッと圧縮され、最終的には特殊小型船舶――つまりは水上バイク【ブラグレス】となった。成人男性が三、四人は余裕で乗れるほどの大きさで、速度も出る。
 浮き輪代わりになる俺の分体製ジャケットを装備し、オーロやアルジェントら子供達を後ろに乗せて海上を走ってみる。
 地上より速く感じられる疾走感に子供達も大はしゃぎで、意図的に振り回して海上に投げ飛ばしても、楽しそうに笑っていた。
 今居るのは、波が比較的穏やかで、透明度の高い海水が特徴的な《レースルード海域》だ。
 襲い掛かってくる海洋モンスターもいないので思いっきり楽しめている訳だが、子供達は次第に慣れてきたのか、最初ほどの反応はなくなる。
 そこで【ブラグレス】をモーターボートくらいの大きさにし、持ち手の付いたロープを設置。簡単に言えば、両足にボードをつけて曳航えいこうされながら水面を滑る、ウェイクボードにしたのである。
 最初は手本という事で俺が挑戦したところ、ここで希少レア能力スキル【水乗りジョニー】が効果を発揮した。自動的に航行する【ブラグレス】に曳航されながら、飛んだり跳ねたり回ったりと技を決めていく。
 初めて見るそれに興奮した子供達がこぞって挑戦するも、ちょっと難しかったのだろう。最初のうちは立ち上がるのに手間取ったり、途中でロープを手離してしまったりと、失敗続きだった。
 しかし慣れれば早いもので、すぐにそれぞれ乗りこなせるようになった。
 結構体力を使うのに、子供達はケロリとして余裕そうだ。
 ちなみにミノ吉くん達も挑戦したが、身体の大きさが大きさだけに【ブラグレス】ではパワー不足で思うようにいかなかったので、【シャークヘッド号】なり魔導船なりでカバーしておいた。
 ともあれ、そんな感じで大海を満喫した日だったと言えるだろう。
 夜飯には素潜りで獲った魚を焼き魚にしてウマウマと喰いつつ、この調子なら明日も良い一日になりそうだと思うのだった。


《七日目》

 残念な事に、今日は時化しけである。
 雷雨が激しく降り注ぐ外に出るのは面倒だったので、船内にてゆっくりと過ごす。
 設置した場所同士を行き来可能な【鬼哭門きこくもん】を使うという選択肢もあったが、書かねばならない書類などもあったので、事務仕事に徹した。
 そして気がつけば夜がやってきていた。
 まあ、こんな一日もあるだろうさ。


《八日目》

 今日は《星降ほしふりの海》と呼ばれる特殊海域を航行中だ。周囲に降り注ぐ小さい隕石が鬱陶うっとうしい。
 不可思議な守りでもあるのか直撃する事もないし、大荒れの波で揺れる事もない。
 しかし爆音と衝撃波までは止まらず、飛び散った海水が雨のように降り注いでくる。
 面倒なので今日も船内にて過ごす。
 仕事を消化しつつ、休憩時間にはカナ美ちゃんを背負った状態で、鍛冶師さんや錬金術師さん達の所に顔を出す。
 鍛冶師さんはここ最近、アス江ちゃんと一緒になって宝飾品の製作に夢中である。
 傍らには、鍛冶に興味がある鬼若おにわかだけでなく、【宝石の神】の【加護】を持つオプシーもいて、あれこれ思った事を言っているようだ。談笑しているそこに交ざり、俺もデザイン案を出してみる。
 錬金術師さんは、姉妹さん達と一緒に厨房で何かやっているようだ。興味を引かれたので覗いてみると、海鮮食材に合う新しい調味料の研究中らしい。
 あーでもない、こーでもない、と楽しそうに笑い合っていたので、保存してある食材を手土産に俺も会話に交ざる。新しい調味料の道はまだまだ長く険しいが、そのうちきっと何か作ってくれるだろう。後から飯勇達も交ざってきたから、すぐにどうにかなりそうだ。
 その他にも仕事の合間合間に皆の所を回り、あれこれやった。
 そうこうしているうちに時間が過ぎて鬱陶しかった《星降りの海》を越え、夜には外も穏やかだった。
 晩飯の後、ふと単鬼たんきで鬼酒が飲みたくなり、夜風に吹かれながら晩酌していると、ミノ吉くんが無言でやってきた。
 その手には、飯勇によって調理されたらしい、前【獣王ビーストキング】ライオネルの肉料理がある。
 ひと言も発しないまま肉料理を挟んで座ったミノ吉くんに、鬼酒を注ぐ。
 鍛えられた四肢の肉と、熱くたぎっていた心臓を用いた料理をツマミとして、無言で同時に鬼酒を呷る。
 鬼酒は変わらず美味いが、今晩だけは肉料理を彩る脇役に過ぎなかった。
 さほど手の入っていない、焼いただけのようなそれは、しかしひと口食べただけであの黄金に輝いていたライオネルが思い浮かぶほど鮮烈だった。
 噛む毎に全身に野性が宿ったと錯覚するほど、溢れ出る魔力が四肢に満ち、全身に力が漲る充実感。
【聖戦】において、ライオネルの相手はミノ吉くんに譲ったが、一手だけでも手合わせしたかった、と今更ながら思う。
 その僅かな後悔をスパイスに、肉を喰う。


【能力名【獅子王ノ黄金鎧】のラーニング完了】
【能力名【獅子王ノ覇道咆哮】のラーニング完了】
【能力名【百獣ノ獅子王】のラーニング完了】
【能力名【獣統べる獣王の断罪ビーキグンド・ヴァナス・ガロ】のラーニング完了】

 殺した強敵の味を忘れぬように、俺達はただ黙って、肉料理を全て平らげたのだった。
 夜空に、ライオネルだけでなく、ヒュルトンの姿も見えた気がした。


《九日目》

 チラホラあった特殊海域が少なくなり始め、どこか出航した頃のような感じがしてきた。
 もしかしたら新大陸が近いのかもしれない。
 そう思って黒鯱提督に確認してみると、どうやら本当にかなり近くまで来ているようだ。今日中の到着は無理だが、明日には到着できるらしい。
 普通なら数ヵ月単位の時間をかけねば大海を越えて大陸間を行き来する事はできない、と聞いていた。それがこれほど短縮できたのは、それだけ【アンブラッセム・パラベラム号】の性能が素晴らしかったという事と、黒鯱提督の航路選択が正しかったという事の証明だろう。
 まあそんな話はいいとして、今日もプールサイドで優雅に鬼酒を楽しんでいると、遥か遠くに、何かの影を見つけた。
 最初は遠すぎてよく分からなかったが、それは俺達と同じ方向に進んでいるし、こちらの方が速いので段々距離が縮まっていき、次第にその姿をハッキリと視認できるようになる。
 それは、十数隻の武装船舶で構成された船団だった。
 全ての船体に損傷が目立つ。比較的損傷が少ない船舶もあるもの、多くはあの手この手で応急処置してギリギリ浮いていられるような状態だ。
 長い長い航海中に、様々な海洋モンスターに襲われたのだろうか。
 今ここにいる他にも、沈んだりはぐれたりした船舶があったのかもしれない。彼等の苦労がありありと想像できた。
 しばらくして追いつき、そのまま横並びになった時、向こうの船乗り達がこちらに笑みを浮かべながら手を振ったり、手を組みひざをついて祈りを捧げたりする姿などが確認できた。
 反応はそれぞれだが、皆一様にホッとした感じで、何かから解放されたようにほがらかだ。
 新大陸はもうすぐそこで、命がけの航海もあと少し。
 しかし船体の状態は良好ではなく、海洋モンスターに襲われたり、大きな時化と遭遇したりすればかなり危険な状態になりかねない状況には違いない。心身の疲労やストレスが船乗り達に重くかっていたのだろう。
 そこに、海の男達にとってとても関係の深い神々の一柱である【船舶の神】の【神代ダンジョン】が通ったと考えれば、まるで守り神にでも遭遇したかのようなあの反応も頷ける。
 そういう理由もあって沸き返る船団は、何と速度を上げた。
【アンブラッセム・パラベラム号】の近くなら凶悪な海洋モンスターに襲われないと思ったのか、あるいはただ単純に離れたくなかったのか。
 何はともあれ、彼等の努力もあってしばらく並航する事になったのだが、それでも地力が違いすぎたので、徐々に離れていく。
 他にも色々と暑苦しい海のおとこの儀式のやり取りがあり、その一部始終を見学した後、俺は気持ちを切り替えて残り少ない休暇を楽しむ事にした。
 うん、青空の下で飲む鬼酒は良いもんだ。


《十日目》

 陸地が近いだけあって、昼頃から見かける武装船舶の数が増え始めた。
 それは俺達に随行する船団の拡大に繋がり、加えてチラホラと漁船らしい装甲を補強した中型船舶の姿を見つけられるようになった。
 武装船舶ほどは遠くまで行けないそれを見かけるという事は、つまり中型船舶で行き来できる距離に新大陸があるという事だ。
 ワクワクしながら到着するのを待つ間、中型船舶に居る【職業ジョブ・漁師】持ちだろう人間が網を設置したり、魚人達がもりを持って海に潜ったりしている漁の様子を見学する。
 俺達はマジックアイテムによって手っ取り早く行った漁だが、彼等は本業だけあって動きに迷いがない。
 それをぼんやりと見下ろしながら、短いような長いような、振り返ればあっという間だった初航海をゆっくり振り返っていると、自然と皆が集まってきたので、プチ宴会を行う事にした。
 新大陸に到着すれば、未知なる食材を求めて勢力図を拡大するなど、やるべき仕事は多い。
 その英気を養うという意味もあってのプチ宴会では、飯勇と姉妹さん達の料理が振る舞われ、エルフ酒や迷宮酒などの酒樽が幾つも空となって転がる。
 何だかんだと気分良く酒を飲む理由にしたところもあるが。
 そうしていると、気がついた時には初航海は終わりを迎えていた。
【アンブラッセム・パラベラム号】はやや沖合で停泊し、黒鯱提督が到着の知らせを持ってくる。
 見れば確かに新大陸がそこに在り、港湾都市の賑わいが目から伝わってくる。
【アンブラッセム・パラベラム号】のサイズと水深の関係から、ここから先は小舟を下ろして上陸する必要がある。夕暮れが近かった事もあって、今日はこのまま休む事にした。
 プチ宴会は普通の宴会となり、飲めや歌えの大騒ぎ。
 新大陸という新天地で、未知の美味なる食材を発見する事を祈って、俺達は杯を掲げた。
 鬼酒を注いで、乾杯だ。


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