Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐

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暗黒大陸編 2巻

暗黒大陸編 2-2

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 武器は《第二宝物殿》で得た、魔力を籠めると三種類の魔弾を発射する魔杖砲【クシュペリアの砲杖キャノンロッド】だけ。指輪や護符などの防御系マジックアイテムを複数持たせて、守りに特化させた。
 その大きさとマジックアイテムの効果によって戦闘能力は高いが、搭乗者の技量や機動性の低さからして、近接戦はできないと思った方がいい。
 ただ、錬金術師さんだけは第四子のニコラと一緒に搭乗するので、ニコラの幼いながらも豊富な魔力を活用すべく、魔力を消費して自己を強化できるマジックアイテムを持たせている。それにより、ギガトロル・アルテの中では錬金術師さんの機体が最も攻撃力がある。
 それからオーロやアルジェント、オプシーといった子供らや飯勇達の乗るバランス重視の機体が〝ギガトロル・ゾルダ〟。ある程度装甲を減らして機動力を上げるなど対応力を高め、どんな環境でも同じような性能を引き出せるようにした。
 武装はギガトロル・アルテと同じく【クシュペリアの砲杖】に加え、近接戦もできるように巨剣や巨槍、または敵の攻撃を弾き受け流す大盾も装備している。
 また追加武装として、薄緑色の【風纏の飛び衣エアトリアーダ】という巨人族のマントを羽織はおる。これは一時的に跳躍力を高め、短時間なら空も飛べるというマジックアイテムだ。これの影響で、鬼の騎士のように見えなくもない外見となった。
 特にくせも無く、武装次第で全距離に対応できるので、今後主力機になるだろうと思われる。
 赤髪ショートと鬼若の機体は、近接特化型となる〝ギガトロル・エゲド〟だ。
 ギガトロル・アルテでは遠距離攻撃に費やしていた分を、最大出力や機動性、装甲強化などに振り分けている。
 遠距離攻撃はほとんどできない代わりに最も力が強く、また速くて硬い。近中距離まではどうにかなるので、搭乗者を選ぶものの、前衛として十分な性能を確保できている。
 ただ、赤髪ショートのギガトロル・エゲドは本人の強い希望があり、かなり獣じみた形状に変化していた。
 敵に喰らいつく狼を思わせる頭部に、前傾姿勢の曲がった背中。速度と柔軟性を求め、金属装甲よりも軽くしなやかな巨獣の毛皮を多用した外装。脚部は速度を求めた肉食獣のような逆関節で、やや長い両手に長方形で肉厚の双剣【巨人兵長の骨肉断刀リヴァル・アーガ】を装備しているが、四足歩行もできるように可変式の鉤爪を手首に追加した。
 まるで巨獣と巨鬼が融合したような姿であり、獰猛な獣鬼士じゅうきし、とでも表現すればいいか。
 明らかに赤髪ショートのだけ別物なので、〝ギガトロル・ベルク〟としてまた別の新しいコンセプトの機種に分類するとしよう。
 当初の予定とは大きく異なる部分もあったが、ともかく完成したのなら試運転が必要だ。
 細かいメンテナンスや不具合を洗い出す為、皆を呼んで早速取り掛かる。
 王城内にある訓練場にて、ギガトロル達は一日中動き続ける事となった。


《七十五日目》

 ギガトロルの操作は極めてシンプルである。
 まず胸部にあるコクピットに乗ると、スライムに似た擬似生体素材製の特殊な保護器具で全身を隙間無く包まれ、衝撃などから守られるようになる。
 保護器具も含め、コクピット内には精神感応系の魔法金属が使用されている為、操作には専門的な技術も知識も不要で、搭乗者は自分の身体を動かすような感覚で機体を意のままに動かせる。
 ちなみに、何を触ったか分かる程度の触覚はあるが痛覚は無いので、壊されるのも怖くないし、極度に熱いモノでも冷たいモノでも問題なく扱える便利仕様だ。
 搭乗して行う訓練も、生身との違いを埋める為のようなものであり、個人差は存在したが、数時間もあれば皆どうにか慣れる事ができた。
 実際に動かして感覚を養えば、内部構造を詳しく知らなくても動かせるという意味で、車を運転する感じに近いだろうか。しかもギガトロルは自分の身体のように感じられるのだから、理解するのはより簡単だ。戦闘に慣れない鍛冶師さん達でもそうだったので、誰でも似たような結果になるだろう。
 ともかく、かなり操作を簡略化しているので動作に問題はないはずだが、いざという時にコケないよう、ギガトロルに搭乗した鍛冶師さん達は王城内の訓練場をひたすら歩き、時には走る。そしてひたすら照準を合わせて撃つ、合わせては撃つという訓練を繰り返した。
 それだけに集中し、移動砲台としての役割なら何ら問題なくこなせる程度になってもらった。ちなみに鍛冶師さん達のギガトロルには、安全の為に俺の分体を仕込んでいるので、照準は自動で合う。
 一方の赤髪ショート達は、ほとんど生身の時と同じように動かせる段階に達した。普段から戦い慣れているだけはある。
 ただ、可動域の違いなどがあるので、その辺りを調整すべく、今日は巨獣狩りに出かけていた。【光武王子】達に付き添ってもらったので、機体は破損なく帰ってくるだろうとは思いつつ、いざという時はすぐ整備できる用意をしておいた。
 まあ、杞憂きゆうに終わったのだが。
 さて、急な話だったが準備は大体整った。
 今夜は英気を養う宴会を楽しむのみ。そして明日最終的な打ち合わせを終えたら、明後日には楽しい楽しい蛇狩りである。


《七十六日目》

 明日、俺達は〝ミルガルオルム〟に挑む。今日は早朝から夕方まで、皆のギガトロル習熟訓練に付き合った。
 それから整備点検を行った後、夜は【巨人王】が用意してくれた決起宴会に向かう。
 決起宴会が行われる食堂は、どうやら普段から王族が集まって食事をする場所らしい。
 天井は巨人達の歴史と思われる戦を描いた壁画で彩られていて、シャンデリアと言うには余りにも巨大なマジックアイテムが優しい太陽のように光り輝く。
 壁には視線を引き寄せる魅惑的な絵画や調度品が飾られ、そしてその一部であるかのように巨人メイドや執事が気配を薄めて控えていた。
 そして部屋の中央に置かれた円卓には、出来立ての料理が並ぶ。
 俺達が案内された席の正面には、【巨人王】が座っている。【巨人王】の左右には王妃らしき三名の貴婦人が、更にその横に【光武王子】や【闇法王女】と、二人の弟妹らしき子供巨人が四名腰掛けていた。
 それに加えて、俺達の周りの席には、精悍せいかんな顔に傷を持つ筋骨隆々な中年の巨人将軍や、立派なひげを生やす年老いた巨人宰相、黒紫色のローブをまとった中年女性の巨人魔術師長までいる。
 どうやら俺達との顔合わせも兼ねて、重鎮を招いたらしい。
 分体による情報収集で、食堂にいた全員の顔や大まかな性格などは把握していたが、実際に顔を合わせるのは初めてだ。
 子供達は俺達に対して純粋な好奇心を持つか、あるいは無関心かだが、大人組は違う。好奇心、不信感、不快感、困惑、苛立ち、その他様々な感情がにじむ眼でこちらを見つめていた。
 何故そうなっているのか、すぐには分からなかったが、ともあれ決起宴会は始まった。
 用意された料理を食べ、大いに飲む。とにかく量が多く、鍛冶師さん達はすぐにお腹が膨らんだらしいが、ミノ吉くんや俺などはバリバリ食べて飲み続ける。
【巨人王】が特別に用意させたというだけあって、どれもとにかく美味かった。
 ただ、飲み食いだけに集中できる場でもない。
 ミノ吉くん達は我関せずで飲み食いを続けるが、俺は客側の代表として【巨人王】や王妃などと話をせねばならなかったのだ。
 その中で、ようやく大人組が様々な感情を抱いている理由が分かった。
 どうやら【巨人王】が〝ミルガルオルム〟に挑む事は、王妃達も巨人将軍も巨人宰相も巨人魔術師長も、完全に了承している訳ではないらしい。
 王妃達は、ただ【巨人王】の身を案じて不安を抱いており、自分達からすれば虫か妖精のような大きさの俺達にだまされてはいないのかと警戒している。
 巨人将軍は、そんな大物に挑むのならば余所者よそもの――俺達の事だ――ではなく、自分と部下を選んでくれればいいのにといきどおっている。
 巨人宰相は、【巨人王】を止める事はできないと理解し、本当に討伐できたのならば今後色々と有益なのは認めつつ、それが可能なのか疑っている。
 巨人魔術師長は、【巨人王】が認めたという俺達を観察し、その本質を探る研究者の眼で見てきている。
 他にも理由はあるだろうが、大体その辺りらしい。
 まあ、それはどうでもいい事だ。
 何を考えていようと、こちらとしては【巨人王】との約束通りに事を進めるだけである。
 とりあえず忌避感や嫌悪感だけは持たれないように気をつけたが、やはり巨人将軍は武人らしく力で白黒ハッキリさせたいようで、勝負を挑まれた。
 巨人将軍の大きさは、【巨人王】達王族に迫る九十メートル級。
 公爵家のような立場となる名門の長であり、王族の血も混ざっているそうなので、体格以外の能力も軒並み高い。
【巨人王】よりも少し若く、昔から【巨人王】を目標としてきただけに忠誠心が強いが、頑固なのが玉にきずらしい。巨人種こそ至高という思想の持ち主でもあるので、敬愛する【巨人王】と俺が、肩を並べるのが我慢ならなかったようだ。
 それはともかく、余興としては悪くない。
 実力を示せば今後の活動がしやすくなるのだから、挑戦を受け入れる事にする。
 戦う場所は、食堂と隣接している広い庭を使う事になった。
 庭には様々な種類の花が植えられ、美しく咲き誇っていた。本来なら季節ごとに変わる花を見ながら食事でもするのであろうその場所で、俺と巨人将軍は対峙する。
 身長二メートルほどの俺と巨人将軍では、比べるのも馬鹿らしくなる圧倒的な体格差がある。通常なら、勝負は人間が地を這う虫を踏み潰すようなものだろう。
 しかし、実際は当然違う。
 最初、向こうの攻撃はやはり踏み付けばかりだったので、俺は地を這う黒い魔蟲的な気持ちで動き回って回避していた。しかしそれでは、観客からすると巨人将軍が何だか不格好だろうと思い、戦いやすいように空を飛び、拳や蹴りをヒラヒラと避ける。
 こうも巨大だと遠近感が狂い、ゆっくり動いているように見えるが、巨人将軍の攻撃は全て速かった。
 だが俺を捕らえるほどではなく、ある程度時間が経ったところで、怒りからか赤らんでいた巨人将軍の右頬を思いっきり殴る。
 その際は、普段よりも手加減をしなかった。大きさに相応の耐久力がある巨人将軍相手には、普段通りだと効き目が薄いと思ったからだ。
 そして殴打した瞬間、肉が潰れ骨が砕ける音がした。それも、骨が大きかったからか、爆発したかのような大音量である。
 巨人将軍の巨体は高速回転しながら浮き上がり、少し勢いを落とした後、顔面から地面に沈んだ。白目をいた顔は頬骨が砕けて歪み、口からは流血と共に巨大な歯の破片がこぼれ出る。
 とりあえず確認してみると、気絶しているだけだった。
 さっさと治療した方がいいだろうと、近くに控えていた執事やメイドを呼ぶと、慌てて駆け寄ってきた。
 しかし、巨人将軍が大きすぎて運ぶのに苦労していた。鎧こそ着ていないが、大きさが大きさだけに相応の重量があるから、それも当然だろう。
 必死に動かそうとする姿が何だか不憫ふびんだったので、【森羅万象オールネイチャー】を用いて宙に浮かして運んでやる。驚かれたが、この程度の反応は慣れている。
 ともあれ、そういう一幕があったからか、王妃達の態度は軟化した。
 何だかんだで、実力主義の文化はこういう時に便利である。力が無いとしいたげられる事もままあるが、逆に力があれば大抵は何とかなるので楽だ。 
 その後は【巨人王】と酒をみ交わした。
 お互い酒豪だからか巨獣料理をさかなに今まで飲んだ酒の話で盛り上がり、有意義な時間だったと言えよう。
 余談ながら、酒の海で泳ぎながら飲んだりもした。
 何度もやるのは気が引けるものの、偶にはこういう飲み方も悪くはないなぁ。


《七十七日目》

 早朝、昨日の酒は既に抜けている。
 他の皆も酒の影響はほとんど無く、太陽が昇る前から準備を進め、既に出発準備は出来ていた。
 今回の戦闘に参加するメンバーは、俺達全員と【巨人王】である。
【エリアレイドボス】である古代絶界蛇龍覇王〝ミルガルオルム〟に挑むにしては余りにも少ないが、【巨人王】が他の巨人は足手まといになると言って参戦を拒否したので仕方ない。
 また、本当なら鍛冶師さん達など普段は非戦闘員であるメンバーは連れていくべきではないとも言われ、まあそうだろうなとは思ったが、援護だけだからという事で了承してもらっている。
 ただ、見届け役として、【光武王子】や【闇法王女】とその護衛の巨人百五十名が一緒に出立する事になっている。
 総数百五十二名の彼らは、《樹栄古都ティタンマギア》の外縁から成り行きを見守る事だけに徹し、仮に俺達が死んでも手出しはしない予定だ。
 王妃達が妥協案として提案し、【巨人王】が受け入れたこの集団は、戦闘には参加しない条件にもかかわらず緊張感で満ちている。戦闘の余波だけでも危険だと予測される事に加え、何より歴史的に因縁深い強敵のところに出向くのだから、当然の反応だろう。
 まあ、実は王妃達からの密命で、何かあれば命がけで俺達を救助する為の部隊なのだろうから、その辺りから来る緊張感もあるはずだ。
 どちらかというと、ギガトロルに対して興味津々で緊張感の欠片かけらも無い【巨人王】の方がおかしいくらいである。
 何にせよ、予定通りに状況は進む。
 道中、習熟も兼ねて、襲い掛かってくる巨獣や巨蟲などのダンジョンモンスターを赤髪ショートのギガトロルが先頭に立って流れるように討伐し、素材も有難く回収しておく。そうして昼前には《樹栄古都ティタンマギア》に到着した。
 飯勇達や巨人宮廷料理人達が作ってくれていた弁当を【異空間収納能力】から取り出して食べた後、断崖絶壁を下りて都市の中に入り、巨石畳きょせきだたみの道を進んでいく。
 視線の先には目的地である王城があり、その王城に巻き付く深緑色の壁のようなは、近づくにつれてより迫力を増していく。
 古代絶界蛇龍覇王〝ミルガルオルム〟。
 圧倒的な巨大さを誇る【エリアレイドボス】。
 ただそこに存在しているだけで発せられる途轍もない重圧。鍛冶師さん達はそれに負けそうになっていたが、事前に精神力を強くするマジックアイテムを装備していた事に加え、イヤーカフス経由で耳元で励ます事でどうにかこらえた。
 それでも、重圧が心身に影響を与えるので足元がフラフラして心許こころもとない。なので、【下位巨人生成】と【真竜精製】の重複発動にて生み出した、大盾を持つ竜頭の黒い巨人〝黒王守護巨竜人ブラックガーディアン・ドラグギガス〟達に支えられながら移動していった。
〝黒王守護巨竜人〟は、竜鱗や竜殻で造られたような大盾を装備した、黒い鱗を持つ巨大な竜人ドラゴニュートであり、とにかく守備に特化している。
 それが合計十体。肉の盾として特殊な能力を発揮する陣形を組ませつつ移動し、鍛冶師さん達が乗る遠距離型のギガトロル・アルテは、射程ギリギリの位置で【クシュペリアの砲杖】を構えた。
 魔力を籠めると三種類の魔弾を発射できる能力を持つ【クシュペリアの砲杖】だが、その中の一つに遠距離狙撃魔弾というのがある。
 この弾は魔力のチャージに少し時間がかかり、六発撃つとまたチャージが必要になるが、その分射程が長いし威力もある。
 鍛冶師さん達の役割は、俺達が最初の一撃を叩き込んだ後、その傷口に遠距離狙撃魔弾を六発全弾撃ち込み、その後は退避するだけ。
 これ以上の役割は重すぎる。やってもらうのに精一杯のラインである。
 緊張する鍛冶師さん達が俺達と離れて持ち場に行くのを見守った後、俺は赤髪ショートと子供達にも注意を飛ばした。
 即死だけはしない事、無理は絶対にしない事、援護に徹する事、といった内容だ。今回のボスを相手するには実力に不安の残る彼女らは、あくまでも援護としての参加であって、無理されては困るのだ。
 そして戦闘のかなめとして前線に立つのは、そんな赤髪ショートらを除いた俺達大人組と、【巨人王】である。
 誰も死ぬなとだけ厳命した俺は、カナ美ちゃんと共に空を飛んで【巨人王】の傍らで滞空し、ミノ吉くんとアス江ちゃんの準備を見守った。
 ミノ吉くんとアス江ちゃんは、身長が俺の倍以上に大きい。
 しかし巨人種からすれば小さく、ギガトロル達よりもまだ小さい。
 二鬼が幾ら強いとはいえ、そのサイズ的に〝ミルガルオルム〟と戦うにはやや不足しているように感じられるかもしれない。
 だが、二鬼は【神秘豊潤なる暗黒大陸】で暮らす巨人達の存在を知り、どうすればいいのかを考えた結果、新しい技を身に付けていた。
 そう、【合体ユニオン】だ。
 いや、パッと聞いても意味が分からないのは当然である。健全な者なら、男女で合体と言えば下ネタの方に思考が巡るかもしれない。
 しかし二鬼の場合は、巨大な敵に対してどう戦えばいいのかを真面目に考え、どういう思考過程があったのかは分からないながらも、この答えに到ったのである。
 俺も話を聞いていただけで、この時初めて実際に見る事になり、そして驚愕した。
 まず、仁王立ちするミノ吉くんの肩に、アス江ちゃんが乗る。肩車かたぐるまである。
 それの何処どこが【合体】なのかと思ったが、すぐに大きな変化が起こった。
 肩車する二鬼から目もくらむような雷光がほとばしる。
 途端に周囲の地面が大きく隆起し、それに合わせて家屋はひっくり返るように倒壊し、まるで世界を燃やすような勢いで白炎が巻き上がる。
 変化はミノ吉くん達を中心に発生し、大地の流動はあっという間だった。
 アス江ちゃんの操作する大地が圧縮変換されて金属の骨格となり、流動して伸び縮みする擬似剛筋となり、雷獄結晶らいごくけっしょうが皮膚や毛皮のように全身を覆う。
 ミノ吉くんの黄金雷が全身に張り巡らされた結晶神経を駆け巡り、白炎が擬似剛筋を動かす原動力となり、雷獄結晶に過剰に流された雷炎が更なる力と色を加える。
【合体】する前、ミノ吉くん達は言っていた。
 この形態は、愛鬼合体【斧鎚蚩尤フツイシユウ】。
遺跡の陥墓塔ミーマナヤ・パンダマ】で拾った古文書に記載されていた、とある巨大なモンスターを基にしたと。
 ――【斧鎚蚩尤】は巨大で異形な鬼だった。
 頭部はミノ吉くんのように牛に似て、胸部はアス江ちゃんのように豊満。
 肩甲骨の辺りから二本追加で生えた合計四本の太い腕。その手には二鬼の力を含んで超高圧縮されたらしき雷獄結晶製の重厚な巨盾と、太陽のような熱を秘めた巨斧、大地を叩き潰しそうな巨鎚、大地を穿うがちそうな巨鶴嘴つるはしが握られている。
 背中はとげにも似た赤黒い雷獄結晶製の毛で覆われ、下半身は人間の足にひづめが加わったような造形だ。
 ミノ吉くんとアス江ちゃんの特徴が混ざり合ったような外見となったこの【斧鎚蚩尤】状態では、二鬼の能力が互いを損なう事なく上昇していた。
 身の丈は【巨人王】とほぼ互角。流石にこれには驚いたのか、【巨人王】も唖然あぜんとして口を開けていた。
 もちろん、俺やカナ美ちゃん達もである。
 いや、予想できるかこんなもん。パラベランジャーの五鬼がここにいれば、狂喜乱舞していたかもしれない、戦隊モノに巨大ロボットは欠かせないからな、なんて思う。
 ともあれ、何とか気を取り直す。
 ここまでの変化があれば、寝ていた〝ミルガルオルム〟も流石に反応するらしい。
 巨大な顔をもたげ、こちらを見ている。巨大な舌がチロチロと動き、獲物と判断したのか、俺達の様子を観察している。
 戦いは既に始まっている。
 となれば、先制攻撃される前に先制攻撃した方がいいだろう。
 という事で、俺はあらかじめ用意していた終焉系統第十階梯魔術〝終焉門カレス飢餓ゲドナ〟を発動した。
 倦怠感すら覚えるほど、身体からゴッソリと魔力が抜け出し、それは現れる。
〝ミルガルオルム〟の上空、そこに開く巨大な黒いあな
 まるで世界がそこで終わっているような空間から、地上へと黒い光が降り注ぐ。それは触れたモノを喰らう光だ。
 光速で放たれた攻撃を回避できるはずもなく、降り注ぐ黒い光は〝ミルガルオルム〟の肉体表面を見る見るうちに勢いでむさぼり喰らい、その力を俺に還元する。
 普通なら一瞬で効果範囲内の全てを殺す威力があるものの、〝ミルガルオルム〟が巨大すぎるせいで身体全体は捉えきれなかった。それでも、十分な範囲の肉体を大きくけずる事ができた。
 明確な痛撃により〝ミルガルオルム〟から発せられた、空間が裂けるような絶叫すら心地よく思える。それほどの美味に酔いそうになりながら、蛇狩りは始まりを告げた。

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