Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐

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1巻

1-5

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《二十二日目》

 ちょっと増長していたゴブリンを叩き潰した。
 当然殺してはいないが、最近上がってきた自分の実力に溺れかけていたので、こうして矯正してやらないと、そう日を待たずに死ぬ事になるだろう。だから、俺は心を鬼にして叩き潰したのである。
 油断がそのまま死に繋がる現在の環境では、これくらいが丁度いいだろう。
 まあ、そのゴブリンはちょっと俺に反抗心が芽生えたかも知れないが、もし何かしてきたらぶちのめすので問題無し。
 それから、今日も四ゴブでハンティング。
 そろそろ新しいアビリティをラーニングできそうなコボルドを探し、そして見つけた。



 数は六と今までで最大の集まりだが、今の俺達ならば問題なく潰せると思われる程度の相手である。数はアチラに分があれど、コチラには個人の能力と装備の面で大きなアドバンテージがあるのだから。
 行くか――そう結論を出し、ゴブ美ちゃんがクロスボウでショートボウを装備した一体を狙い、トリガーを引こうとした時、それは岩陰から現れた。
 額に縦に生えた三本の角から恐らくはトリプルホーンホースのものと思われる頭骨を被り、手には歪に捻じれた木製の杖。着ているのは黒くボロボロのローブで、何やらぶつぶつと呟きながら狙っていた群れに近づいていく、小柄なコボルド。
 見た目からして、恐らくはコボルド・メイジだと思われる。
 ゴブ爺から聞いて知っていたのだが、ゴブリンやオーク、それにコボルドなどの下位クラスモンスターは亜種などを除いて、普通は世界の理に干渉して一定の効果を発揮する〝魔術〟などを行使する事はできない。
 が、例外もあって、普通のコボルドやゴブリンでも魔術を扱う事ができる個体が存在する。
 それがコボルド・メイジやゴブリン・メイジなどと呼ばれる個体だ。亜種ほど稀有ではないが、それでもそれなりに珍しく、個体の能力は非常に高いモノが殆どだとか。
 俺はまだ魔術を扱う感覚が掴めておらず、魔術を思い通りに行使する事はできないので、今回発見したコボルド・メイジとそれの取り巻きだろう六体のコボルドを相手にするのはなかなかに難しいかもしれない。
 ――などと最初こそそう考えはしたが、これはチャンスである。
 コボルド・メイジが魔術を行使してくれるのならば、俺はその様子を観察し、もしかしたら魔術が使える様になるかもしれない。
 それができなくても、まず間違いなくアビリティを入手できるだろう。
 そんな考えで、俺達はコボルド一行を尾行した。やや面倒なミッションだったが成功し、俺達は魔術の行使を初めて見た。
 コボルド・メイジの魔術の犠牲になったのはグリーンスライムだ。
【物理攻撃無効】のようなアビリティを持つこいつも、轟々と燃え盛る炎によって体液は蒸発し、緑色の核だけを残して消滅してしまったのである。少々、派手な光景だった。
 しかしその光景を見て、俺は魔術が何たるのかを大まかに理解した。洞窟に帰って多少練習すれば、恐らくは問題なく行使できるようになるだろう。
 そんな訳で用済みになった一行を強襲。一気に全滅させる。
 コボルド・メイジはゴブ美ちゃんの毒矢を後頭部に受けて即死、他は俺とゴブ吉くん、あとゴブ江ちゃんの毒石攻撃とゴブ美ちゃんの速射で沈黙した。いくら強いと言っても、それを発揮させる前に潰せば問題はないのである。
 普通のコボルド達の装備を剥ぎ取ってゴブ江ちゃんのバックパックに納め、コボルド・メイジの持っていた杖を確保。それに三つの小袋に分けて入れられていた八個の〝水精石〟――握り締めると水が溢れ出る不思議な石――と、六個の〝雷精石〟――かなり強い衝撃を与えると放電する不思議な石――と、以前喰った事がある十個の〝火精石〟をありがたく頂戴する。
 コボルド・メイジと六体の心臓は俺が貰い、他は一ゴブにつき二体ずつ喰いました。
 ついでに、そこに転がっていたグリーンスライムの核もパクリと。


[能力名【物理攻撃軽減】のラーニング完了]
[能力名【体内魔力制御オド・コントロール】のラーニング完了]
[能力名【魔術師の心得】のラーニング完了]
[能力名【威嚇咆哮】のラーニング完了]

 どうやらグリーンスライムは【物理攻撃無効】ではなく、それの劣化版アビリティ【物理攻撃軽減】持ちだった模様。いや、それでも十分驚異的だけど。
 でもこれで、次グリーンスライムに遭遇した時の対処法はバッチリ理解できた。【発火能力】で燃やしてしまえばいいのだから、簡単だ。
 んで、コボルド・メイジの杖と、三種の〝精霊石〟を全部喰ってみました。
 取りあえず、新しいアビリティを取り込むのが癖なモノで。


[能力名【水流操作能力ハイドロハンド】のラーニング完了] 
[能力名【水氷耐性トレランス・アクア】のラーニング完了] 
[能力名【発電能力エレクトロマスター】のラーニング完了] 
[能力名【雷光耐性トレランス・ライトニング】のラーニング完了]
[能力名【炎熱耐性トレランス・フレイム】のラーニング完了]
[能力名【外界魔力精密操作マナ・オペレーション】のラーニング完了]

 うん、中々良いアビリティだ。これで練習すれば魔術もようやく使えるだろう。
 その後、ヨロイタヌキやナイトバイパーなどを狩りながら帰った。大半は経験値稼ぎとしてゴブ江ちゃんが殺して美味しく頂いた。 


[能力名【耐え忍ぶ】のラーニング完了]
[能力名【魔眼耐性トレランス・イーヴィルアイ】のラーニング完了]

 どうもナイトバイパーとヨロイタヌキからラーニングできるのはこれで打ち止めであるようだ。まあ、結構喰ったのでこんなモノだろう。
 その後、夜になって一人、魔術の練習をした。
 最初は苦戦したものの、一時間ほどやっているとコツを掴み、少々発動までの時間が必要だが問題なく行使できるようになった。これはコボルド・メイジから獲得した【魔術師の心得】の補助があったからだろう。
 魔術の練習中に闇に紛れてグリーンスライムが襲ってきたが、良い練習台だったとだけ言っておく。俺が今覚えているのは漆黒の投げ槍を生み出すという魔術だけなのだが、ただ一撃でグリーンスライムの粘液を消し飛ばして殺すとか凄まじい威力だと慄いた。
 コロリと転がった核は拾ってパクリと。


[能力名【自己体液性質操作】のラーニング完了]

 そしたらこんなアビリティを得られた。汗を酸性の液体にできるとか、中々有用そうで満足です。
 しかし装備品が酸で溶けないのは不思議である。


《二十三日目》

 今日は雨だった。よって外には出かけず、洞窟内で祭りを開催した。
 いや、何日頃くらいからかは分からないが、同年代のゴブリン達は俺を筆頭とした新しい群れとして機能し始めたので、群内の序列を決めるって事で祭りという名の総当たり戦である。
 その結果、大体予想通りの結果になった。
 頂点には俺、その次にゴブ吉くんで、ゴブ美ちゃん、ゴブ江ちゃんにその他という流れである。
 総当たり戦後、序列を理解できるように勉強会をした。上には責任があるし、下は上の命令には従う様に厳命。あと幾つかのルールも今の内に決めていく。これで命令等も効率良く行き届くだろう。
 分かり易く軍の階級――大佐や中佐などなど――を取り入れようかとも思ったが、まだ数が少ないので四人の部下を指揮する五人長、九人の部下を指揮する十人長、といったかなり大雑把な指揮系統とする事にした。
 もっと数が多くなれば階級の仕組みなども変えようかとは思うが、取りあえず今はこんなもんだ。


《二十四日目》

 本日も訓練後、四ゴブでハンティングに出かけた。
 最初に見つけたのは黒い甲殻に黄色いラインが特徴的な、体長七〇センチ程の大蜘蛛〝オニグモ〟である。
 木々の間に円網えんもう状の巣を造っていたので、【発火能力パイロキネシス】を使って丸焼きにしてやりました。思いのほか糸が勢い良く燃えたので木々に燃え広がらない様にするのにちょっと苦労しました。
 流石に火事とかになったら死ねる。
 こんがりと焼けたオニグモを喰うと、ちょっとだけエビのような気がするという微妙な味がした。


[能力名【蜘蛛の糸生成】のラーニング完了]

 鋭い指先から蜘蛛の糸――いや、正確にはゴブリンの糸か?――が噴出できるようになった。
 指先からブリュリュリュリュリュと勢い良く糸が噴出するという結構シュールな光景だが、非常に使えるアビリティなので問題無し。
 ただこのアビリティは糸を生成できるだけで、細かい作業ができるようになる訳ではない。
 蜘蛛の様に糸を操作する専用の器官を持たない俺では、思ったように糸を操る事ができないのだ。
 粘着性のある横糸はもちろん、粘着性のない縦糸の扱いも横糸よりはマシとは言えそれでもかなり難しい。
 今できるのは単純に糸を噴出させ、狙った標的を捕まえる程度。少し複雑な動きをさせようとしたら、自分に絡まって身動きがとれず自滅する。
 うん、裁縫とは訳が違う。
 と言う事で糸を自在に操れるようになる為、オニグモを探す事となった。しばらく森の中を散策してオニグモを発見し、今度は雷なども試しに使って殺して喰いました。
 狩ったオニグモは三体。美味しく頂いた。


[能力名【操糸術】のラーニング完了]

 これで細かい作業もできるようになった。
 糸はしなやかでありながら丈夫そうなので、これで服などを造ろうと思う。あと、オニグモの甲殻は頑丈そうなので防具に転用するため回収した。
 その後も散策を続けていると、久々にオークを発見した。
 発見したのは以前オークを見かけた場所からほど近くの所だった。この辺りは俺達が生まれ暮らしている洞窟からそれなりの距離があったのでなかなか来なかったのだが、もっと早くにくればよかったか、と思う。
 発見したオークは六体で、以前のように上下の衣服にピッケル装備ではなく、柄まで鋼鉄製のハルバードや魔術師が持つような奇妙な形の杖、切れ味が鋭そうなハンティングナイフやよく磨かれたロングソードを持ち、ブレストプレートやフルプレートアーマーなどと結構重装備だった。
 それに恐らく、ハルバードとフルプレートアーマーを装備した一番体格のいいオークが群れの統率者――オークリーダーだと思われる。
 流石に現状では襲えない敵だと判断し、でも情報収集は重要だって事でその後をついて行くと、山を一時間ほど登った所に、カツンカツンと掘削音が外にまで漏れ出ているオーク達の採掘場を発見した。
反響定位エコーロケーション】で調べた限り、採掘場の中にはオークリーダー達の他にもピッケル装備なオークが数十体は動き回っているようだった。
 一先ず採掘場を発見した事で満足し、俺達は速やかに山を降る。いや、この人数で突っ込めば死ぬから。発見されない内に、そそくさと逃げるが勝ちだ。
 と思っていたら、丁度登ってくる三体のオークを発見した。
 既に採掘場からそれなりに離れていて悲鳴を上げても増援がくるには相応の時間が必要になるだろうし、周囲には他のオークが居なかったので襲う事にした。
 深緑の茂みに身を潜め、オーク達が射程距離に入るのを待つ事しばし。



 射程に入ったオーク達は、ゴブ美ちゃんとゴブ江ちゃんのクロスボウによる狙撃によって頭部を穿たれた二体がまず死に、残る一体は俺の雷で身体を麻痺させてから近寄って喉元を掻っ切って殺害。
 死体は俺とゴブ吉くんがそれぞれ一体、最後の一体はゴブ美ちゃんとゴブ江ちゃんが、と分担してせっせと運び、安全圏にまで到達できたと判断した所でゆっくりと喰いました。
 無論三本のピッケルは回収です。汚い布の衣服は悪臭がするので即座に燃やした。


[能力名【悪臭】のラーニング完了]

 うん、ハッキリ言って必要ないアビリティだ。なんだ、【悪臭】って。いや、確かにオークは臭いけども。
 まあ、使わなければどうという事は無いし、オーク肉は美味かったので我慢するとしよう。万が一にでも使い道があったら儲けモノだと思うことにた。


《二十五日目》

 訓練最後に行う組み手でも、若干ではあるが手古摺るようになってきた個体もチラホラとおり、今の所ハンティングに出かけて死者が出るという事はない――大小多数の怪我は絶えないが――ので、俺の育成は間違っていないと感じられて安心する。
 その後普段通り四ゴブでハンティングに出かけ、ナイトバイパーやらヨロイタヌキにオニグモなど定番となってきた奴等を狩っていると、新たな獲物を発見した。
 それは、まるで金属製の繊維で造った様な黒い体毛を持つ狼の群れだった。
 とりあえず何の捻りも無く〝ブラックウルフ〟と呼ぶ事にし、しばらく様子を観察する。



 総数十六頭と結構な数のブラックウルフ達はどうも、現在食事中であるようだ。幸いにも俺達は風下に居たので気付かれてはおらず、観察する余裕があるが、もし何かが違っていれば今ブラックウルフ達に美味しく貪られているコボルドだった肉塊のようになっていたかもしれない。
 俺達の四倍という数もそうだが、何よりも群れの統率者であるブラックウルフリーダーの存在が厄介極りない。体格も他の個体より二回りは大きいし、個体としての能力も段違いなのは間違いない。
 正面からやりあえば、コチラも大きな被害を受けてしまうだろう。数は向こうが多いので、どうしてもアドバンテージはアチラにある。
 が、それでも奇襲はそのアドバンテージすら覆す。
 コボルドだった肉塊を喰うのに夢中になっているブラックウルフリーダーの胴体を、ゴブ美ちゃんが放ったクロスボウの一矢が突き刺した。それと同時に、ゴブ江ちゃんもすぐ傍にいた一体の頸部を撃ち貫く。
 ブラックウルフリーダーの強靭な生命力ならば、胴体に普通の矢が突き刺さっていても即死しないのだろうが、鏃には俺の毒液をタップリと塗っているので、数秒だけヨタヨタとよろめいた後、バタリと倒れてブクブクと泡を吹いて痙攣しだした。
 それでもまだブラックウルフリーダーはギリギリの所で死んでいないようだが、そう時間は必要とせずに死ぬだろう。このまま放置しても、即効性の毒に耐性が無かったようで、頸部を穿たれて早々に死んでいる普通のブラックウルフの後を追う。
 これで、迅速な連係プレーを封じる事ができた。
 群内の序列が入れ替わってトップがどの個体になるにしても、それ相応の時間が必要だ。突然の事態に慌てふためく姿が見える。
 その混乱を逃さず、近づいていた俺とゴブ吉くんが突っ込む。
 ウルフ系のモンスターは転生して初めて戦うが、火を吐く、瞬間移動テレポートする、飛行するなどの特殊能力が無い限り対処方法は大体同じだから問題はなかった。
 鋭い牙を剥き出しにして最大の攻撃である〝噛みつき〟をしてくるブラックウルフの口腔、そこに剣尖から毒液の滴るエストックを突き入れる。双方の突進力が合わさった一撃は容易く肉を裂き、頭骨を穿つと共に脳を破壊した。
 混乱して逃走しようとする個体が視界の隅に映ったので、ほとばしる雷撃や高圧の水刃を発生させてその個体の四肢を斬り飛ばす。悲鳴を聞きつつ、止めを刺していった。
 ゴブ吉くんの振るうバトルアックスでも強靭な体毛を持つブラックウルフを切り裂く事はできなかったが、その重撃は強引に背骨や肋骨などをし折り、走る勢いと共に押し出された盾と正面衝突したブラックウルフの頸椎は強引に砕かれた。
 ゴキャ、と鈍い音が次々に響く。
 そして俺とゴブ吉くんが近接戦を繰り広げている合間を縫って飛来するゴブ美ちゃんとゴブ江ちゃんのクロスボウの狙撃により、ブラックウルフは確実にその数を減らしていった。
 しばらくして、最大の武器である連携を失い、噛みつき攻撃も効果を発揮しないままブラックウルフの群れは一匹も逃げ出せずに全滅した。
 その後、ゴブ吉くんを除いた三ゴブでブラックウルフの解体作業である。ちなみにゴブ吉くんを除いたのは不器用過ぎるからだ。装備に転用する為に、そしてまだ狩った事がなかったので出来るだけ綺麗な状態の毛皮が欲しいって事で、不器用なゴブ吉くんには任せられないのである。
 だから周囲の警戒を任せている。
【気配察知】があるのでしなくてもいいのだが、何事も経験しておいて損はない。生存競争が激しい自然界なのだから尚更だ。
 ゴブ美ちゃんとゴブ江ちゃんは、これからも数をこなせば問題なく【解体】技能を取得できると思われる。二人とも手先が器用であるし。
 その後、毛皮を回収して肉は一ゴブ四頭計算で美味しく頂きました。


[能力名【群友統括】のラーニング完了]
[能力名【集団狩猟の心得】のラーニング完了]
[能力名【鋼硬毛皮】のラーニング完了]

 やはりブラックウルフリーダーは統率者として優秀だったようだ。
 今回得た【群友統括】と【集団狩猟の心得】はどちらも配下運用に対してボーナスが発生する。
 それに加えて【群友統括】は俺が指示する事に最も見合った能力を持つ個体を素早く選出する事ができ、全体の能力を若干強化する効果がある。
【集団狩猟の心得】は指揮の回数を重ねれば重ねる程、味方全体を効率良く的確に動かせるようになる。
【鋼硬毛皮】は自分自身の毛や皮膚に加えて、毛皮系や革系の装備品の防御力を上昇させる効果がある。純粋に防御力が上がるアビリティを持っていて損は絶対にない。
 今後の事を考えるととてもありがたいアビリティである。
 その後グリーンスライムやらオニグモなどを狩って帰って喰って寝た。


《二十六日目》

 朝起きたらゴブ江ちゃんがホブゴブリンになっていた。
 祝い品を贈る。品は牙などで使った民族品的アクセサリーだ。
 今日も滞りなく訓練を終え、普段ならばハンティングに赴くためにここで解散する。



 だが、今回は解散せず皆に武装の点検をさせた。
 一番下っ端で一番多い階級のゴブリン達の武装はホーンラビットの角に木の棒を取り付けただけの簡素な槍と甲殻製の盾、それにボロ布製の服だけだが、五人長や十人長などになってくると革の軽鎧や金属製の武器となっている。
 とは言えそれでも点検する箇所は数える程しかないので、三十分とせずに皆揃って洞窟を出た。
 今日は全体のレベルの底上げと、俺のアビリティ熟練度上昇の一環として、オークの採掘場に奇襲をかけようと思うのだ。
 特にオークに恨みはないが、俺達が強くなり、今後も長く生きるためには必要な行為である。
 だから、襲う。襲って、喰うのだ。今後も生き抜くために。 


 そして一つの生存戦争が終わり、コチラの陣営は重軽症者多数ではあるが死者は一ゴブも出なかった。
 その代わりにオーク達は採掘場に居た全てが死んだ。それには採掘場にたまたま居たオークリーダーなども含まれる。
 このような結果になったのは今までの訓練の内容が攻撃よりも防御に重点を置いた方針だった事と、組み手で俺が果断に苛烈に攻め立てた結果だろう。
 だから自然、ゴブリン達は攻撃技能よりも防御技術の方が高くなっていたようだ。
 まあ、オークリーダーなどの主戦力は俺の糸で一網打尽にして、その隙にチクチクと削り殺した事が一番大きいのだろうが。
 え? 卑怯? いや、自然界ではそんなの大した問題では無い。死んだらそこでお終いなのだから、どんなに卑怯な手を使ったって生きてりゃ勝者なのである。
 勝てば官軍負ければ賊軍、って事だな。
 俺は死なないように、賊軍にならないように常に気を張っているけども。
 とにかく、こうして生存戦争が終わった後に待っているのはその後始末である。



 数が多い軽傷者には、持ってきていた【癒し草】という名称の薬草を磨り潰し、絞った液体に浸した布を傷口に当てる、という簡単だが意外と効果のある治療を施していく。
 命に係わる怪我を負った重傷者には、【職業・森司祭】によって扱えるようになった祝福系の【回復技能ヒーリングスキル】の一つである【持続再生キュソワ】などを施し、その怪我を癒していった。
 いつの間に【回復技能】なる便利な術を使えるようになっていたのかというと、魔術の練習をしていて使えるかなー、と思って色々と試していたら、扱えるようになったのだ。
 使えるようになった時は、何事にも挑戦する事の大切さを再認識した。
 片腕が斬り落とされていても、無理やり繋げて回復技能を使えば時間は多少必要だが癒着できる――しばらくは違和感があるようだが、それでも隻腕などになるよりかはマシだ。動かすのも、リハビリすれば問題なさそうだし――とか、凄い治癒能力だと思わざるを得ない。
 原理は不明だが、ありがたい事には違いないので深く考えない事にしよう。
 そしてかつて【職業・森司祭】だった女性には、本当に感謝の念を抱く。もしこれがなかったら、それなりの数が減っていただろうから。
 以前ならばゴブリンがどれ程死んでも何とも思わなかっただろうが、日々鍛えていくこいつ等は俺の部下か弟子のような存在になってしまっている。
 だから、助けられるのなら助けてやりたいと思うようになっていた。
 あの日亡くなった彼女達を思い浮かべ、南無阿弥陀仏と祈りを捧げる。
 重軽傷者を治療している間、怪我していなかったゴブ吉くんやゴブ美ちゃん達にはオークの死体と装備品の収集を命令していたので、ある程度負傷者の治療が終わったらすぐに次の行動に移れた。
 どうやらオークリーダーが持っていたハルバードは何かしらの技法による素材補強がされているらしく、結構な業物である。軽く振ってみたが今の俺には丁度いい重さで、切れ味も悪くない。
 早速、俺の新しい得物にした。エストックなどの剣もいいのだが、俺としては長物の方が使い慣れているのでよく手に馴染む。
 その他にも多種多様な武装が獲得できたし、これで全体の武装のランクを引き上げられそうだ。これまでホーンラビットの角短槍だった最低ラインの武器に、ショートソードが追加された事は非常に大きい。
 それに何より、火精石や雷精石は勿論だが、風精石や土精石などまだ喰っていなかった精霊石を多く得られたのは重要な事だ。しかも採掘場の奥ではまだまだ発掘できそうで、色々と便利な精霊石の使い道を考えると、笑いが止まらなくなった。
 そうこう色々しながらオーク達の身ぐるみを剥いだ後は、皆で美味しく頂きました。全体に行き届く数は十分にあったので、階級が上の個体がより多く喰えるように分配している。
 オークリーダーにオーク・メイジなど主戦力部隊だったオークは勿論俺の腹の中に収まった。


[能力名【同族を呼ぶ声】のラーニング完了]
[能力名【消化吸収強化】のラーニング完了]
[能力名【斧槍使いの心得】のラーニング完了]

 ただ得られたアビリティは正直微妙なモノだが、まあ、あればそこそこ役に立ちそうなアビリティではあるだろう。アビリティはあって困る事はない。一部例外を除いて、ではあるが……
 気を取り直し、オークの焼肉を貪りながら、火精石や雷精石に水精石、新しく手に入った風精石と土精石はつまみとして俺だけが美味しく頂きました。


[能力名【大気操作能力エアロマスター】のラーニング完了] 
[能力名【風塵耐性トレランス・ストーム】のラーニング完了]
[能力名【地形操作能力アースコントロール】のラーニング完了]
[能力名【岩土耐性トレランス・アース】のラーニング完了] 

 それにしても、今日の焼き豚祭りは本当に満足がいくモノだった。
 豚面のオークの外見は見ていて気分がいいものではないのだが、しかしオーク肉は独特な味と食感というか、熱した鉄板の上でジュウジュウと音をたて、香しい肉汁を溢れさせるのだから最高だ。
 それにしても、ああ、喰えば喰うほどご飯と酒が欲しくなってくる。特に酒の方が、本当に欲しくて堪らない。
 思い返せば、というか思い返すまでも無く、俺は転生してから一滴も飲んでいない。


 居酒屋を巡り、霧壺を自宅のベッドに寝かせ、近くのコンビニで酒を買った帰り道にアオイに刺されたのだが、あの時買ったビール達はどうなってしまったのだろうか。
 気になる、とても気になる。ああ、考えれば考えるほど酒が余計に恋しくなってきた。


 酒を飲みたい、という欲望をグッと我慢し、俺達は夜になる前に洞窟に帰還した。
 心身の疲れからか、今まで以上に深い眠りについた。


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