Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐

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1巻

1-7

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《二十八日目》

 泣いて、疲れて、寝て、多少はスッキリしたのか、もしくは立ち直りが早いだけなのか、早朝彼女達の様子を見に行くと赤髪ショートに元気よく挨拶された。
 他の四人にはまだ怖がられている風であるが、それは仕方ない。時間が必要だって事で納得しつつ、略奪品の中にあった調理道具一式と食材を使って俺が作ったシチューモドキを出す。
 いやいや、久しぶりに文明的な食事が出来て嬉しいです。自画自賛になるが、このシチューは本当に美味しいぞ。
 食事ってやつは、生きるためには絶対に必要だ。
 そして食事は美味ければ美味い程精神を癒してくれる、一種の治療薬のようなモノでもある。飯を喰い、リラックスした状態で話し合いができるようになった事を見極め、彼女達についてさらに詳しく聞いていく。
 もし何かできるのであれば、出来る事をやらした方が気が紛れるだろうから、という考えがあったし、彼女達自身からもそんな要望もあったからだ。
 ほんわかとした雰囲気を持つ一人は【鑑定士】と【鍛冶師スミス】持ちであるらしいので、ショートソードやロングソードなどの刃を研いでもらったりする事に。鍛冶の設備が整えばもっと便利な物が作れるそうなので追々用意しようと思う。
 似た顔から姉妹だと分かる二人は両方とも【料理人コック】と【仕立屋テイラー】持ちであるらしいので、今後は料理や衣服製作を担当して貰う事に。流石に仇であるゴブリンの服を作れ、とは言えないので、今は自分達の服を作る様にと言っておく。ただ全体の為の料理だけはしてもらうが、これは我慢してもらいたい。俺だってできるなら調理された美味しい料理が喰いたいのだ。
 知的なクール系美人の一人は【錬金術師アルケミスト】持ちらしく、ポーション作成などをお願いした。ただ、もし毒物を作って飯に盛る時には、君達の安全のために護衛を選出しなくてはならないから、ヤル時は予め言って欲しいと囁いたら、怖がられました。何故だ。
 ちなみに赤髪ショート以外の四人は共通して【職業・行商人ペドラー】を持っている。
 赤髪ショートは農作業などはできるけど、現状ではハッキリ言って役立たずなので、今後は訓練に参加して強くなるって方針で決まった。
 女性は自分の身は自分で守れるのにこした事はない、特に今回の様な場合もあるのだし。



 早朝の食事を終えた後は午前訓練、というのが今までの流れだったが、今日はしない事にした。
 今日の午前は洞窟内にある全ての荷物を纏め、引っ越しの準備をする為だ。
 何故このタイミングで引っ越すのかと言うと、帰ってきたゴブリンを含めるとこの洞窟ではかなり手狭になったのだ。今までは産まれたゴブリンがこれほどまで生き残る事が無かったので問題は無かったそうだが、流石に今回はそうはいかない。
 だから、オークの元採掘場に引っ越すのである。あそこなら広さも申し分ないし、何より採掘場として機能していたので崩れない様に補強されていて頑丈だ。あと、さり気無く精霊石も狙っている。
 ある程度荷物を纏め、まずはゴブ吉くんをリーダーとした十ゴブを先発部隊として送り出した。採掘場に再びオークが居座っていた場合、力尽くで排除する実行部隊である。
 ゴブ吉くん達を送り出し、荷物を全て持って生まれた洞窟を出たのは、それから一時間後の事だった。
 五人の彼女達はゴブ美ちゃんやゴブ江ちゃんなど信頼できるメンバーだけで護衛させ、歩く事一時間以上。ようやく目的地に辿り着いた。
 どうやら再びオークがやってきていたそうだが、ゴブ吉くん達が既に殺した後だった。殺したオークの心臓は俺が貰い、他は褒美として先発メンバーに分配する。
 その後は採掘場内の内装を整え、暮らしやすく改造していく。
 とは言え、飾るモノなんて殆ど無いので武器や食料を置く場所を簡単に決め、トイレを作り、それぞれの寝る場所を整備する程度しか今はできないが。
 一通りの作業は終え、残りの細々とした事柄はゴブ爺達に任せ、俺は彼女達の暮らす一画の整備を開始。幸い【地形操作能力アースコントロール】があるので作業は簡単だった。
 鍛冶師さんの鍛冶場、姉妹さん達の調理場、錬金術師さんの作業場、そして彼女等の寝る場所を、と手早く済ませていく。寝所は俺の糸で造ったベッド――木の枠に糸を張り巡らせただけのかなり簡単な構造――であるが、そこそこ寝心地はいいので大丈夫だろう。
 飲み水や光源は、壁を掘ると火精石や水精石といった精霊石が出てくるので、全然問題は無い。
 鍛冶師さんも、ちょっと工夫すれば精霊石で簡単な鍛冶は出来ると言っていた。
 今日は引っ越しの片づけやら雑務で一日費やした。
 飯は姉妹さん達が作ってくれた。流石【料理人コック】持ち。大層美味であった。


《二十九日目》

 ようやく年上ゴブリン達の訓練を開始する。
 まずは見本と言う事で整列や実戦訓練を簡単に見学させた。年上ゴブリン連中はその光景に驚いていたが、実際にやってもらうので驚いたままでは困る。
 そんな訳で本番だ。まずは整列を素早く行う事や耐久ランニングなどの基礎から開始する。どこかの鬼軍曹のように汚い罵声を浴びせ、遅れた者には罰として腕立て伏せをプレゼント。殴りかかってきた馬鹿もいたが、そんな奴にはパンチをプレゼントすると共に腕を圧し折る。
 絶叫をしばらく捻りださせた後で治療し、再び訓練に戻す。
 そんな感じで数時間程訓練し、最後に俺との組み手を行った。
 そして最終的には何処かで見た光景になった。訓練を終えた時、誰も動けなくなったのだ。
 ちなみにゴブ吉くん達はその光景を遠巻きに見ながら、『ああ、やっぱり』『ああ、分かるぞ、その気持ち』『あれ、キツイんだべさ~』などと言っていた。
 まあ、流石に体力はあの時のゴブ吉くん達以上なので回復に費やす時間は少なかった。それで体力が回復するのが早かった分、訓練を早々に再開する事になったのだが、仕方なかったと思う。
 今日はハンティングには出かけず、年上ゴブリンの訓練と俺が定めた階級やら俺ルール等に関する勉強に時間を費やした。


《三十日目》

 今日は豪雨である。そんな訳で、丁度いいので再び群れの序列を決める祭りを開催した。群れの大雑把な階級はさっさと決めておいた方が何かと都合がいいのだ。
 ただホブゴブリンとゴブリンとでは基本的な能力面で大きな差があったので、その二つを分けて素手で勝負し、序列を決めていく。
 結果、まあ、順当に決まったと言えばそうだろう。
 トップは相変わらず俺で、次席はゴブ吉くん、その次が元ホブゴブリン・リーダーで、その後にゴブ美ちゃんなどなど、となった。
 年上のホブゴブリンである三ゴブは大体同じくらいの格闘技量だった。
 魔術使用可だったらホブゴブリン・メイジであるホブせいさんが俺の次にきたかもしれないが、今回は魔術使用不可だったのでこうなった。
 祭りが終了し、その後は実戦訓練を続行するゴブ吉くんのグループ、ピッケル担いで採掘訓練に赴くゴブ江ちゃんのグループ、ゴブ美ちゃんを教師役にして俺が決めたルールやら階級や大陸文字などについて色々と勉強をするグループ、と大体三グループに分かれる事になった。
 ちなみに俺はホブ星さんと色々話をした。どんな魔術が使えるのか、興味があったのだ。
 それで話を聞いた所によると、ホブ星さんが扱える魔術は【炎熱】、【水氷】、【深淵】の三系統らしい。とはいえ、中途半端な所から始まる書物しか読んでいない俺に系統とか言われてもどんなモノなのか正確には理解できないので、なるほどなるほど、などと言って理解したフリをした。
 その後は色々と情報交換してからそれぞれの用事の為に動く。
 ホブ星さんはゴブ美ちゃんの所で勉強しに、俺は彼女達が居る場所に赴いた。
 様子を見に行くと、鍛冶師さんの鍛冶場は火精石や水精石によって火と水が確保され、採掘訓練の際に大量に出てくる精霊石と鉄鉱石で道具を製造中だった。
 鍛冶道具は略奪品の中に数セットあったので問題なくできているようだ。
 何か不満が無いか聞き、鍛冶場をちょいと使い易いように組み直す。若干俺に対して怖がらなくなって来たようで、満足である。
 その次は姉妹さんの所に向かう。コチラも調理道具は略奪品の中にあったので問題は少ない様だ。
 ただ作る量が量だけに今から大量の食材を刻んで、炒めて、と二人でやるには大変そうだったので手伝いをする。
 まだちょっと怖がられるが、積極的に話しかけ続けたのがよかったのか、多少は話してくれるようになったのでよしとしておこう。
 偶に笑みもこぼすので、なおよし。美人の笑顔はいいもんだ。
 ついでに俺が知っているレシピも教えてみる。前世で食べた料理を再現して、また食べたいという野望をこの時抱いた。
 その次は日々ポーションを製作している錬金術師さんの所に行った。
 コチラも他と同じく道具が揃っていたので問題ない。幾つか出来上がった薬品を【物品鑑定】してみたが、今の所毒薬は作っていないようだ。
 興味があったので造る過程を見学する事に。冷たそうでかつどこか棘のありそうなクール系美人な錬金術師さんは製作中まったく喋らないのだが、それでも目の保養になったので問題無し。
 作り終えてから軽く会話し、俺は自分の作業場に赴いた。
 そこである程度加工しておいたブラックウルフの革を使った防具生成に勤しむ。
 俺の糸で革を縫い、慣れとアビリティ効果で製作は比較的早く進んだ。とはいえ、完成したのは夜遅くだったが。寝る前にハルバードで素振りを行い、感覚を慣らしておく。
 今日は激しく動いていて疲れたのか、ぐっすりと眠りました。


《三十一日目》

 今日も豪雨で、洞窟で過ごす事になった。
 今回は普段通りに午前訓練を終えた後、昨日製作したブラックウルフの毛皮と今まで集めた素材で造った新しい防具を着て、未だ実戦で使用していないハルバードの慣らしも兼ねて、完全武装なゴブ吉くんと結構本気な戦闘訓練を行った。
 現在の俺の防具はちょっと余裕のある黒い毛皮のパンツに黒のロングコート、左手には堅牢なる錬鉄製のガントレットを装備し、右手には甲殻補強したりと色々改良したラウンドシールド。頭部防具は無く、足には年上ゴブリン達が持ち帰った冒険者御用達の頑丈なブーツを、ってな具合だ。
 俺の肌の色も黒いので夜になると【隠密補正ハイディングボーナス】が非常に高くなる装備である。
 あと、保険って事で胸部の裏側には軽くて頑丈なオニグモの甲殻をさり気無く縫い付けているので、何気にアビリティの重複使用によって軽装な見た目に反して改造したフルプレートメイル並みの防御力があったりする。


 それに対し、ゴブ吉くんの装備もオーク討伐時に得られた品々に幾つか変わっている。


 主武装メインウェポンは俺が発掘したバトルアックスから、大きめの〝火精石〟が装飾として埋め込まれた事によって【火炎刃】を使えるようになった燃えるクレセントアックスに変更し、盾は甲殻で補強したラウンドシールドからかなり重いがその分防御力が高く、それに加えて特殊技能による素材強化まで施されているらしい黒鉄製のタワーシールドに。
 鎧はオークリーダーが装備していた重鎧をベースに、細々とした部位に俺の糸と甲殻と毛皮を組み合わせて防御力と動きやすさを向上させたモノに変わっている。
 まるで動く鋼の要塞のようになっているゴブ吉くんは、肉体能力も前衛特化になっているのでこの装備面の向上によってその戦闘能力は洒落にならなくなった。
 いや、ゴブ吉くんは本当に強いんだよ。
 普段の訓練でもその強さをヒシヒシと感じていたが、こうやって完全武装した状態で対峙すると、その強さがより一層感じられた。
 基本的に多彩なアビリティで自分を強化し、様々な手法で相手を混乱させ、後ろからブスリってなやり方を得意とする俺は、今回のようにアビリティ無しの真っ向勝負をした場合、ゴブ吉くんのように純粋に強い相手はちょっと苦手だった。
 それでもまだ技術で勝てる相手ではあったが、ハルバードの遠心力を乗せた重連撃をタワーシールドでほぼ完璧に防がれたのには流石にビックリした。
 それに繰り出す一撃一撃が非常に重いし、何より斧の扱いが熟練されていたのも驚嘆に値する。
 どうやったら斧をより鋭く、より速く、より重く振れるのかを経験で理解しているようなのだ。まあ、最初のハンティングからこれまで棍棒→斧→斧って感じで似た系統の武器を扱ってきたからだろうけどさ。
 何気に、ゴブ吉くんはこの【小鬼の集落ゴブリン・コミュニティ】で斧の扱いに関しては最強になっているようである。
 あと燃えるクレセントアックスは思った以上に厄介だ。
 俺は【炎熱耐性トレランス・フレイム】があるからクレセントアックスの刀身に纏わり付く【火炎刃】による炎熱攻撃を緩和でき、酷い火傷を負う事はないのだが、耐性はあくまでも耐性でしかないので熱いモノは熱いし、燃え盛る炎で視界が非常に悪い。あと長時間近くに居ると柄まで金属製なハルバートが熱を持つようになるのも勘弁してもらいたい。
 そんな感じで結構な時間を模擬戦闘に費やし、昨日の様に服を作って、採掘された〝精霊石〟を摘んで、姉妹さんが作ってくれた晩飯を喰って寝た。


 ――そして皆が寝静まった夜、それは発生した。
 五人の彼女が眠る場所にひっそりと向かう八体分の反応を、俺の【気配察知】が捉えたのである。
 何事かと思い目を覚まして気配のする方向を見て見れば、そこにはひそひそと小声でささやきあいつつ、彼女達の寝込みを襲おうと意気込んでいるゴブリン達の後ろ姿があった。
 それを見た瞬間、俺は枕元に置いていたハルバードを片手にその後を隠れながら追走し、ゴブリン達が彼女達の寝込みを襲ったのをしっかりと確認――言い逃れできない証拠って奴は非常に重要だ。殺した後で勘違いでした、とかだと洒落にならん――してから、ハルバードの一振りで一番後ろにいたゴブリンの頸部を薙ぎ払う。
 斧頭ふとうによってくびを斬り飛ばされ、重力に引かれて落ちてコロコロと転がる頭部を踏みつけ、グシャッと一気に踏み潰す。その際、頭部の中身が溢れ出てブーツを汚したが気にならない。
 ちなみに血が大量に噴出すると後処理が面倒なので、胴体の方の傷口は切った瞬間に焼いているので血はそれほど流れていない。
 肉の焦げる臭いが、俺の戦闘本能を刺激した。恐らく今の俺は、わらっているに違いない。
 突然発生した無残な殺害にピシリと固まる空気。
 何が起きたのか頭が処理できずに茫然と俺を見てくる全員の視線を意識して無視し、襲おうとしていたゴブリン全員を糸で捕縛する。捕まえた顔ぶれを見て、元ホブゴブリン・リーダーとその部下メンバー+αだと理解する。
 そして真っ先に赤髪ショートを襲っていた元ホブゴブリン・リーダーが股間をギンギンに膨らませた状態で目の前に転がっているので、誰が言い出しっぺなのかは確定している。
 殺す前に少し話を聞いてみると、どうやら性欲が抑えきれなかったようである。
 同族の雌で発散しろよと聞いてみれば、一度人間の女の身体を知ってしまえば雌ゴブリンの身体では満足できないらしい。快感が桁違いなのだとか。
 俺からすれば、そんな事知るかって話である。
 取りあえず頬を一発殴ってから、襲われた彼女達の服が一部破かれていたりしたので話を途中で打ち切る。聞きたい事は聞けたのでもう十分だ。
 自分の身体を抱きしめる様にして震える彼女達に、昨日の内に作っておいた俺の糸製の肌触り抜群なカーディガンを渡して回る。
 破けた服装で居るのは、他のゴブリン達にとって目の毒になる可能性があるからだ。



 全員に配り終えると赤髪ショートに抱きつかれて泣かれたので、背中をポンポンと叩きながら声をかけて落ちつかせてやる。そしたらさらに勢いよく泣きだしたけど、根気よく落ちつけるようにゆっくりと声をかけ続けた。
 そうこうしていたらゴブ吉くんとゴブ美ちゃんとゴブ江ちゃんがやってきたので、糸でグルグル巻きにしているゴブリン達を、訓練に使用している出入り口近くの広間に持って行くように指示。
 あと寝ている全員も起こす様に言う。俺が頸を刎ねてできた一つの屍は放置である。
 指示を出し終え、ちょっと時間を置くと赤髪ショートも落ち着いてきたようではあったのだが、俺の服を放してくれなかった。なんか、意思とは関係なく手が開かないそうだ。まだ微かに震えていたので、無理に解く事はしない。
 本当はコレからする事は精神衛生上見ない方が良いとは思うのだが、仕方ないので、一緒に連れて行く事になった。
 残った四人はまだ震えていたものの、約束通り助けた俺から離れるのを嫌ったのか、もしくは見届けるべきだとでも思ったのか、あるいはそれ以外の理由からか、ちょっと間を空けてついてきた。
 眠っていた全員を起こし、全員が出入り口近くの広間に集まったのを確認し、捕まえたゴブリン達をハルバードの穂先で指し示す。
 こいつ等が何をしたかあれこれや、俺の言う事がうんぬんかんぬん、と説き、何が悪くてこれから処罰されるのかを理解させ、レッツ拷問。
 手始めにボウィー・ナイフで指先から刻んでいく。出血死しない様に傷口を火で焼いたり、回復技能ヒーリングスキルを使って生命力強化・体力強化などの祝福を施して死に難くしてからジワジワと。
 悲鳴が五月蠅いので口を糸で塞ぐ。あと舌を噛み切らせないって意味合いもある。
 まあ、舌を噛み切ってもすぐに死ぬわけではないからそもそも無駄だけどなー。
 うん、周囲ドン引きだ。物理的にも精神的にも、ドン引きである。
 しかしながら、俺が交わした約束を反故ほごにしないと彼女達に証明するにはこうやって行動で示した方が分かり易いし、そもそも現リーダーな俺の言う事に従わず、前リーダーの言う事に従う輩などハッキリ言って必要ない。こんなのを残しておけば追々面倒を起こすに決まっているので、未来の為に厄介事の芽を摘むって感じでやりました。
 今これをやらなかったから未来で後ろから刺されて死んだ、って結末にでもなったら馬鹿らしいので。
 六体のゴブリンを様々な手法で処理し、最後の一体になった。
 最後の一体――元ホブゴブリン・リーダーは目で命乞いしてきたけど、サンドバッグにしてあんなに可愛がってやったのに何も理解できていない愚者コイツに、俺はどうしても存在価値が見いだせない。
 群れ内ではやはり強かったからそれに見合っただけの地位にしていたのだが、やはり馬鹿は馬鹿でしかなかったようだ。
 馬鹿でも理解できるように俺が幾つか定めた最低限のルールすら守れないような奴はもう知らん。
 こんな結果になったのはコイツの意思で、自業自得である。
 流石に俺だって気にいらないってだけで一応の身内を殺しはしないのだ。コイツの様に、殺すに足る理由が無ければ。そもそも、組織内に二つの勢力があってもいい事なんて限りなく少ない。
 という事で躊躇はなく、片腕を燃やしたり、水攻めしたり、重しを載せて鞭打ちしたりを繰り返し、繰り返し、死なないギリギリのラインを保つように拷問を続行した。


《三十二日目》

 元リーダーが息絶えたのは、朝日が昇って洞窟の入り口から陽光が差し込んできた時だった。
 どうも、ちょっと熱中し過ぎたようだ。ゴブリンよりも生命力強いから、なかなか死ななかったんだよね。俺が回復させ続けたってのもあるけどさ。
 正気に戻って周囲を見回す。全員完全に怯えてました。
 ニコッ、と笑って、理解できたか? と問いかけると皆、凄い勢いで頷いてくれた。


 それに満足したので、解散して昼まで眠る事を厳命。いや、皆疲れたら寝ればいいのにさ、ずっと動かずに見続けていたんだよね、拷問を。だから俺と同じく寝てないんだよ、気絶した個体を除いた殆どが。
 だからわざわざ命令して寝かせるのである。ついでに訓練も今日は休みと言う。
 能力で作った水球で手や顔に付着した返り血を流し終え、ふと誰よりも近くで作業を見続けていた赤髪ショートが小刻みに震えながら虚ろな目をしているのに気が付いた。
 新しい水球を作って顔面をバシャリと濡らして正気に戻す。
 驚いた隙に横抱きにして彼女達の寝所まで運んで行く。身体の震えが強くなっていくがあえて無視。無事に運んで広間に戻ってくると、他の四人もまだ動く事ができていなかったので、同じ事を四回繰り返しました。運搬作業を終えて、他のゴブリン達が寝所に戻るのを確認してから俺も眠る。
 午後二時辺りになって目が覚めた。
 殺したゴブリンの心臓と胃を昼飯代わりに喰らい、残りの部分は【地形操作能力アースコントロール】で地下に埋葬する。
 その頃になると他のゴブリンも起き始めたが、今日の訓練は無いと言ってあるので、そのままいつもの四ゴブでハンティングに出かけた。
 一応彼女達の守りは奴隷兼部下な五ゴブとゴブ爺達――襲ったら、分かってるよね? と聞いたら凄い勢いで頷いたので安全だろう――に任せているので問題ない、多分。
 まあ、俺の糸で造った避難区域もあるので何かあっても時間稼ぎくらいはできるだろう。護身用にショートソードを持たせた赤髪ショートも残っているし。それにオーク討伐時に得た非常招集用の角笛を持たせているので、危険があればそれを鳴らす手筈になっている。音は広範囲まで響くようになっているし、今回はあまり遠出しないようにしているので、何か危険があれば急いで帰れば間に合うはずだ。
 そんな訳で安心してハンティングに出かけた俺達が最初に見つけたのが、トリプルホーンホースだった。
 見るからに堅牢そうな鱗に、普通の馬よりも二回りは大きい体躯。今の身体だと、大きく見上げなければならない程の巨馬だ。生物としてホブゴブリンなどよりも遥かに上位者に進化している種である。
 それが二頭いた。恐らくはつがいなのだろう。もしかしたら、腹の中に子供もいるかもしれない。新しい生命が、もうすぐ誕生するかもしれない。
 しかしそんな事は知ったことではないので、俺達が生きる為の糧になってもらうべく、定番の奇襲を実行した。
 初撃は定石通りに、ゴブ美ちゃんとゴブ江ちゃんの毒矢を装填したクロスボウによる狙撃だ。
 狙撃の結果、ゴブ美ちゃんの一矢は一体の目玉を正確に貫き、ゴブ江ちゃんの一矢は僅かに狙いが外れて胴体に直進し、強靭な鱗によって火花を散らしつつ弾かれた。
『鱗硬ッ! クロスボウの一撃は並のプレートアーマーなら軽く貫通する程強力なのに、簡単に弾きやがったッ!!』と思わず叫びそうになる。
 それに鏃には俺が生成できる中でも結構強力な毒を塗っていたのだが、目に矢を受けたトリプルホーンホースは即死する事無く、しかしその痛みで激しく暴れだした。凄まじい生命力だと呆れる他ない。
 そう驚いている隙に、無事な一体が俺達に気付き、縦に並んだ三本の角を突き出すように、怒りにまかせて突っ込んできた。まあ、俺の糸と電撃のコンボで動きを止める事が何とかできたのだが、密度が薄い時の糸がブチブチと強引に引き千切られていく様は正直キモが冷えた。
 一体どれ程の馬力を持っているというのだろうか? ホブゴブリンなどとは比べ物にならない程の膂力であるのは間違いない。
 痛みで暴れている一体を、ダメージは微々たるものだがゴブ美ちゃんとゴブ江ちゃんの狙撃でその場に引き止めつつ、糸で雁字搦がんじがらめにした無傷な一体を俺のハルバードとゴブ吉くんの燃えるクレセントアックスで斬りまくる。
 最初の方はやはりその鱗で弾かれていたが、それを幾度も繰り返すうちに鱗の簡単な削ぎ方を発見するに至る。そうなれば話は早い。ハルバードとクレセントアックスの刃が鱗を削り飛ばし、その下の肉を切り裂き、その太い首を刎ねる事に成功した。
 もう一体は毒で弱っていたのに加えて殺し方も理解できていたので、最初よりは簡単に狩れた。
 かなりの重労働だったが大きな怪我も無く、実に有意義なハンティングだった。素材は全部持ち帰っても良いのだが、初めて狩った獲物だと言う事で俺達が全部食べる事に決定。
 大きいのでゴブ吉くんを除いた三ゴブで残りの鱗をせっせと削ぎ、その肉を切り分けていく。ちなみにゴブ吉くんは再び周囲の警戒役だ。適材適所って事で。
 んで、俺は六本の角と心臓と、四等分した肉を仲良く分け合ってボリボリと喰った。


 あと、なんか得られるかもと思い鱗もバリバリと。


[能力名【鱗鎧駆動りんがいくどう】のラーニング完了]
[能力名【鱗馬りんばいななき】のラーニング完了]
[能力名【高速治癒】のラーニング完了]
[能力名【脚力強化】のラーニング完了]
[能力名【突進力強化】のラーニング完了]
[能力名【三連突き】のラーニング完了]

 喰い終わるとアビリティを六つも獲得できた。これはトリプルホーンホースが強いって事の表れだ。普通なら、ホブゴブリンが四体居た程度で殺せる相手ではないのだから当然と言えば当然だろう。
 あと、転生して初めて物理直接攻撃系アビリティを手に入れたのは大きい。
【三連突き】ってなぐらいなんだから三度突くのだとは思うが、モノは試しにとアビリティを発動させながらエストックで木を刺突すると、その結果、幹に穴が三つできました。
 うん、これ、実は一度しかエストックを突き出していなかったりする。目に見えない程の速さで三回突いたとかではない。なのに穴が三つできた。それも突いた所の上下に一つずつ。
 もう一度突く。今度は左右に一つずつ孔ができた。上下、あるいは左右にできる穴はある程度俺の意思で生み出せるようだ。
 原理が不明なのは今更なので何とも思わないが、これって、上下、あるいは左右の攻撃は物理防御無効なのかな? と考えてみる。が、答え探しはまたの機会にしよう。
 その後は色々散策して、普段通り獲物を狩って帰って寝た。
 寝ていたら赤髪ショートが俺の寝所に潜り込んできたので、一緒に寝ました。
 言っておくが、エロスとかはなかった。ヒトの温かさは、やはりいいもんだと再確認。


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