12 / 270
1巻
1-12
しおりを挟むこの森で生活するのなら知っておいて損は無い多くの有用な情報を得られ、今日ドライアドさんに出会えてよかったと、話を聞いている時に何度も思ったものである。
それが、何故このような状況になったのか。
それは分からない。いや、多分オーガ希少種である俺が最初の言葉通りに珍しく、話していたらドライアドさんに気に入られたのかもしれない。
つまり、このまま流されていくと色々できるが、そうなると行為が終わった後は二度と覚めぬ夢の中に捕らわれて大樹の養分にされてしまう。
それは避けたい。まだ俺は死にたくないし、この世界を見てみたい。殺して喰った奴らの分まで生きる義務が俺にはある。
でもドライアドさんを殺したいとも思えない。これからも有用な情報を引き出せるだろうし、他者から命を吸いとる【吸性】は種族としての本能だろうから仕方ないと思ってしまう。
だから、俺は今まで一度も使っていなかった【精力絶倫】を使う事にした。
ドライアドは行為が終われば養分にする為に相手を眠らせる。
だったら単純に、アチラが先に果てるまでやればいいに違いない。効果がどれ程のモノなのか正確には分かっていないが、オーガ希少種生来の体力に【精力絶倫】を追加した状態ならばいけるはずだ。
アビリティを発動した途端、より硬く、より大きくなった自分のそれから意識を逸らし、胸を押し付けてすり寄ってくるドライアドさんを見下ろした。
「ドライアドさん」
「なぁ、に?」
それに合わせて動いた美貌を彩る美しい碧眼が俺を映す。
変わらずに凶悪な面だなと思いつつ、甘く切ない吐息の香りが脳を揺さぶってくる衝動に、俺は本能のままに反応した。
「頂きます」
「きゃっ……もう、乱暴なんだね、君って。でも、いいよ」
いきなり身体の上に覆い被さった俺に思わず驚きの声を出したが、しかし赤く頬を染めて潤んだ碧眼でジッと見つめてくるドライアドさんは嬉々とした表情で俺を受け入れた。
ドライアドさんの華奢な肉体を潰さない様に気をつけながら、その後約五時間、俺はその美しい肉体を貪るように堪能する事となる。
[ゴブ朗は〝宿り木の祝愛〟を手に入れた!!]
密着し耳元で甘い声で『また来てね』と囁かれた事に加えて、非常に色っぽく蕩けた表情で見送ってくれたドライアドさんと別れて再び森の中を散策していると、それなりの規模の川を発見した。
特に理由は無いがその川の上流に向けて歩いていると、今度は二〇メートルくらいの高さがあるであろう滝を発見。その下にある澄んだ湖で、ドライアドさんと行為をした事で流した汗と独特な匂いを放つ身体を洗う事にした。
服を脱いでそれなりの大きさがある湖で泳いでいると、水中から近づいてきていた緑色の鱗を生やした蜥蜴人に取り囲まれてしまった。
俺が油断し過ぎていた事もあるが、どうも今のレベルの【気配察知】では、水中の敵に対してはやや反応が鈍いようだ。
その事に今の段階で気が付けたのは、僥倖と言う他ない。
この事実について、真正面からでは対処できないような強敵に遭遇した時にようやく自覚する事になったりしたらと思うと、背中に寒気が走るのを禁じ得ない。
まあ、とりあえず、今回は過ぎた事は置いといて、即座に思考を切り替える。
見た目からして、目の前のリザードマン達はゴブ爺から聞いていた〝グリーンリザード〟だと思われる。
俺を取り囲むグリーンリザート達の武装はしっかりと手入れされたファルシオン――刃が緩やかな弧を描き、棟が真っ直ぐな刀剣――が一本。それと少々損傷が目立つが問題なく使えそうなラウンドシールドの一種である円盾が一つ。
身にはオークやコボルドのように革鎧や金属鎧などの防具は一切無く、精々局部を隠す厚い布で出来た服程度とかなり軽装だった。殆ど全裸と言っていい。
つまりグリーンリザードにほぼ防具は無い。
しかし全身をビッシリと覆う緑色の鱗が鎧と同じか、もしかしたらそれ以上の効果を発揮するのは目に見えているし、長く太い尻尾による死角からの攻撃も決して侮れるモノではないだろう。
尻尾は第三の腕であると考えるべきだ。しかもその尻尾が今は水中にあるので、目視し難くなってその危険度を増している。
そんなグリーンリザードの数は八とそれなりに多く、群れでの狩りに慣れているのだろう。単純なハンドシグナルやアイコンタクトなどで細々とした連携も取れている。
それにアチラさんは無駄に長い舌やファルシオンをチラつかせて『ヒャチャヘッチィゾォー』『ゴォーギャクッテェロウィキャー』『ジャンベッテンバチュルアー』と俺では理解不能な奇声を出しているのだが、奴等がやる気満々であるのは雰囲気で誰でも読み取れる。
今日のハンティングは銀腕の慣らしや性能の確認を兼ねてずっと無手で探索していたし、独りで行動をしていたから仲間の助けはない。そして下半身は腰まで抵抗の強い水の中、ってな具合に地の利はアチラにある事から、例えオーガ――そう言えば、今更ながら、ゴブ爺によると【希少種】って存在は聞いた事すら無いそうだ。いつか機会があれば調べてみよう――でも殺せるとでも思ったのかもしれないが、何も問題は無かった。
アビリティを重複起動させ、即座に行動に移す。
未だに下半身は腰まで水の中だが【水流操作能力】を使用すれば水流を操作して推進力を得る事は容易く、そもそもアビリティの重複発動によって強化されたオーガ希少種の優れた脚力は重い水の抵抗を受けつつも普通では考えられないほど素早く動く事を可能にする。
水流操作によって生み出した背後から身体を押し出す激流の補助と【突進力強化】によって圧倒的な速度を得た俺は、まるで爆発した様な水飛沫を上げながら一瞬で一番近くに居た敵の懐深くに踏み込み、普段以上の勢いを乗せた拳をグリーンリザードに叩き込んだ。
思っていたよりもグリーンリザードの反応は良く、初撃となった銀腕の拳をギリギリの所でバックラーを間に挟んでガードした。
しかし拳をガードしたバックラーは一瞬で爆散してその意味を成さず、一体の命はそこで潰えた。
銀腕の一撃はグリーンリザードの片腕をバックラーもろとも千切り飛ばし、それで勢いが衰えることなく胴体に深々と突き刺さったのだ。そして胴体も結果は腕と大差無く、緑色の鱗は砕け散り、肉は引き千切れ、硬い骨は砕けて、とそのまま軌道上の一切合切を貫通した。
その後、側面から襲いかかってきたグリーンリザードには生身の右腕の拳を叩き込んだが、鱗を砕いて肉を潰し骨を折るだけに止まった。それでも驚異的な一撃には変わりないが、威力は銀腕とは比べるまでもなく低い。
銀腕の性能を確認しつつ殴っては殴る、時に蹴る、を繰り返していたらグリーンリザード達を殺すのに三十秒も必要としなかった。慌てて潜って逃げ出そうとしたのは糸と雷で真っ先に捕まえたので、取りこぼしは無い。
殺した後は回収したグリーンリザード達の武装をアイテムボックスに収納し、解体は面倒になったのでそのままバリバリと喰いました。
[能力名【水棲】のラーニング完了]
[能力名【異種族言語】のラーニング完了]
グリーンリザードの肉や骨は独特な味と歯応えで、なかなか美味い。
もうちょっと量を喰いたくなって、近くに他のヤツが居ないかなーと探してみたがそれ以上いなかったので一旦諦めて次を探す事にした。
アビリティ【脳内地図製作技能】により自動的に作成されている脳内地図上の、黒く塗り潰されて表示されない未踏破区画を目指して歩いて行く。
しばらく未踏破区画を歩いていると森を抜けてしまい、そこに広がる草原を確認。
転生して初めて森と川と山以外を見た。吹き抜ける風が心地よい。
軽く物想いに耽っていると、コチラに突っ込んでくる牛を発見した。鋭い二本の黒角に、人面牛と言う事で〝バイコーン〟と呼ぶ事に。
只管に真っ直ぐ突っ込んでくるバイコーンに対して踏みこんでのジョルトカウンター!! とか思いながら銀腕で真正面から殴ったら、銀腕が肘まで埋没してバイコーンはスプラッタ死体になってしまった。
うん、今日一日で銀腕の使い勝手の良さを確認するのには十分過ぎた。銀腕をくれたベルベットには幾度感謝しても足りないだろう。
南無。ベルベットに向けて再度祈りを捧げる。
バイコーンは一匹だけだったのでまるまる喰ってもアビリティは得られなかったが、僅かにではあるが肉体強化ができた上に独り焼肉できて満足である。
しかもバイコーンは全身全てが美味しかった。
皆で来た時は、大量に狩ってバイコーンの焼肉パーティーをすると今決めた。
その後は時間も丁度良かったので、帰り道にナイトバイパーなどをお土産として狩り、帰って喰って寝た。
《四十二日目》
奴隷兼部下な五ゴブのホブゴブリンの内、二ゴブにメイジ適性がある事が判明した。
さっそく俺直属からホブ星さんの魔法行使部隊《アゴニー》に所属を変更させ、魔術の勉強を開始させる。俺も興味あったのでついて行ったら、ホブ星さんの寝所には魔術などに関する書物が数十冊もある事が判明。
何故こんなに持っているのか訊いてみると、どれもこれも今までの略奪品で、数年単位でコツコツ溜めたそうだ。中にさり気無く俺の書物――〝魔術師入門・基礎魔術一覧 中巻〟――が加えられていたが、内容は既に覚えているので見なかった事にした。
魔術に関しての話を聞いていくと、ホブ星さんも最初から今の様に三系統――【炎熱】【水氷】
【深淵】――の魔術を扱えたわけでは無いそうだ。
メイジ適性のある個体は俺がそうだったように、自分に一番相性のいい系統の基礎魔術――俺が
【終焉】だったように、ホブ星さんは【炎熱】らしい――の呪文がいつの間にか脳内に記録されている。
そして特定のレベルになる毎に新しい呪文が追加されていくのだが、そのままでは最初の系統の魔術の上位版が扱えるようになっていくだけで、他の系統の魔術は扱えない。
脳内で自動更新されるのは、最も相性のいい系統の魔術だけであり、他の系統の魔術は鍵となる呪文を自動的には知る事ができないのだから、当然の事だろう。
しかしこの集められた書物を教材にして勉強した結果、ホブ星さんは様々な呪文を覚え、今の様に使える魔術の幅を広げたそうな。かなりの努力家である。
それで、ホブ星さんは初めてできた弟子が嬉しいらしく、魔術などに関する基本的な教育を二ゴブにみっちりと教える気満々で、その時の笑みはどこか寒気を感じさせるモノだった。
俺は邪魔にならないように横で書物を読み漁る。下手に横槍を入れると、思わぬ怪我をしそうなほどの狂気をホブ星さんから感じたからだ。
ふむふむ、おお、なるほどな~。って事で今まで使っていた破壊力抜群な投げ槍《終わりの一槍》などの【終焉】系魔術以外にも、【炎熱】系やら【水氷】系やら【雷光】系など、他の系統魔術の扱い方をそれとなく学習できた。
どうやら【終焉】と共に俺が持っている生体属性【根源】はなんでも即座に扱えるようになる便利属性らしいのだ。
本来なら扱う魔術との相性が悪くて威力が半減したり、そもそも発動自体しないなど、他の奴らじゃ必ず苦労するらしいのだが、俺は試した魔術は全て成功した。
ただ俺の場合は【発火能力】や【発電能力】がアビリティとして既にある事に加え、アビリティは呪文の詠唱や魔力操作を必要とする魔術と違い予兆無しの溜め無しで行使できるという利点があるから、戦闘で【終焉】系統以外の魔術は恐らく今後使わない。
それでも使える幅が広がるのは悪い事ではないし、敵の使うかもしれない魔術を知っておくのはいい事だ。
かれこれ読書を始めて三時間ほどの時が過ぎた頃、ホブ星さんのコレクションの中の新たな一冊を読んだ結果、俺はようやく【職業・付加術師】の使い方を見出した。
ベルベットの迷宮を荒らした冒険者から得た【職業・司祭】はちょっと違うが【職業・森司祭】と似ている部分が多々あったのですぐに使える様になったが、【職業・付加術師】は【職業・魔術師】などと比較しても扱いがやや異なり、上手く発動させる事ができなかった。
だから半ば放置してたんだ、今までは。
ええと、そうだな。
【魔術師】は基本的に力を外に解き放つ職業であり、【付加術師】は物質に干渉する職業である。
魔術師は素材の強化など付加術師と似たような事はできるが、補助という一点に置いて、効果上昇率の度合いは付加術師に遠く及ばない。数値にすると五倍以上の圧倒的差があるだろうか。
ただその代償として付加術師って職業自体の戦闘能力は非常に低い。
まあとにかく、付加術師が扱う【付加術】は魔術とは扱いが違うとだけ覚えておけばいい。
難しい事は一先ず置いといて、一応【付加術師】が使えるようになった。その経験値稼ぎを兼ねて鍛冶師さん達の所に向かう。
俺の顔を見た瞬間ちょっと不機嫌そうになった鍛冶師さんに小首を傾げつつ、出来上がっていた品々を練習に使わせてもらった。
精製された精霊石製のナイフとか、鉄鉱石から造った錬鉄製のナイフとかに付加術を施してみた。
その結果、火精石製ナイフならもっと強力な炎を噴き出す様になったし、水精石製ナイフならもっと大量の水を噴出するようになり、錬鉄製のナイフは強度と切れ味が飛躍的に上昇した。
こうして使えるようになってみると、【付加術師】の使い勝手の良さには驚かされる。付加、という術によって強力な武器が比較的簡単に造れる様になったのだから。
まあ、その陰で付加術失敗で砕け散った試作品の数々があるのだが……
慣れない内は、成功確率が低いようだ。
コレからの為を考えて、失敗覚悟で使い続けてレベルを上げる必要があるだろう。鍛冶師さんには悪いが、一定のレベルになるまで付き合ってもらう事にした。
そんなこんなで時間が流れて、ハンティングに行って喰って寝た。
《四十三日目》
最近ゴブ美ちゃんが不機嫌だ。正確に言えば二日前、俺が一日独りでハンティングして帰ってきた辺りから。
何故だろうか? と小首を傾げながらゴブ吉くんに相談したら『分かラなイ』と言われ、ゴブ江ちゃんに相談したら『自分の行動を振り返ってみーや』と言われ、ホブ星さんやホブ里さんに相談したら『若いっていいわねぇ~』『自分で考えなさい』などと言われたが、結局は明言を避けられた。
しばらく悩んだが、本気で分からなかったので赤髪ショートの所に行ったら可愛らしく頬を膨らまして顔を背けられ、次いで鍛冶師さんの所に行ったら『私もちょっと不機嫌なんですけど』と言われた。
それは昨日から思っていたけど、なんで? と聞いたら呆れられてちょっと怒った様な顔をして何処かに行ってしまった。
何故だ。
悩みながら姉妹さん達の所に行ってみたら有無を言わさずに『試作品ですどうぞ食べて下さい』とちょっとした毒物混じりの品が差し出された。
何故だ。結構美味しかったからいいけど。
ほとほと困って、最後の頼みだと思いながら錬金術師さんの所に赴くと、ちょっと呆れられつつも原因を教えてくれた。
うん、原因は嫉妬だったそうです。
いや、ドライアドさんとの一件で俺の首筋には幾つかキスマークをつけられていたそうで、それを見つけて怒っていたそうだ。今は持ち前の回復能力で残っていないけど、どうやらドライアドさんが一日は消えないように何らかの細工をしていたみたいである。無害だから別にいいけどな。
そうなのかー、と謎が解けて頷いていたら錬金術師さんに不意に抱きつかれて、そのまま貪る様なディープキスをされた。
情熱的に舌と舌を絡ませ、唾液を交換しながらあれぇー? と思いながら続けていると、しばらくして解放される。
こんな事をしたのは、命を助けてくれたお礼と私の気持ちだから受け取ってくれ、だってさ。
正直最初はストックホルム症候群、もしくは吊り橋効果だろうかと思った。
改めて錬金術師さん達の境遇――拉致され、周囲には小鬼や中鬼など人外ばかり――を考えればそうなっても仕方ない状況かもしれない。
もしくは頭のいい錬金術師さんの事だ、自分の身を守る為にこの中で最も強い俺に取り入る、という選択をしたという事も十分あり得るだろう。他のゴブリン達に複数で犯されるよりも、俺に囲われた方がまだマシだと判断したか。
その真実はともかく、錬金術師さんに打算があっての行動だろうが、本心からの行動だろうが、個人的には嬉しい事なので頷き、ちょっと見つめ合って、潤んだ瞳と唇にクラッときて、錬金術師さんのバランスのとれた身体を触ってみたらコッチも触られたりして、気分が乗ってエスカレートしていった。
壊さない様に気を付けながら身体を抱き寄せて隠れてイチャイチャしてたら、そこにゴブ美ちゃん乱入。
俺が浮気を発見された夫みたいに慌てふためいていたら、抱きつかれました。
それで、何と、私にもしろとの事。
ゴブリンの時と比べ、ホブゴブリンになった辺りから可愛くなっていたので俺の心境的にも何ら問題はなく、そうこうあれこれしていたら次々と乱入者が。
その後は正確には語らないでおくが、乱入してきた赤髪ショートとか鍛冶師さんとか姉妹さんとかも交えての一夜を過ごす事となりました。
【形態変化】と【自己体液性質操作】の二つが大活躍だった。
うねうねと自分が触手的な事をするとは、転生してから夢にも思ってませんでした。
そしてこんなに大人数でやるとも思ってませんでした。
あと、【自己体液性質操作】でまさか体液が天然の興奮剤になるとも思いませんでした。
ちなみに糸で他のゴブリン達が覗かない様に簡易密室を造ったし、【大気操作能力】で声も外に洩らさないように極力努力してある。
感想。凄く気持ちよくて爛れた一夜だった。
ただ、俺の体力値が半端じゃないので何回出しても全く衰える事が無い。その上アレが大き過ぎて、【形態変化】を使わなかったら皆を確実に壊してしまったに違いない。
一応、それでも非常にキツかったとだけは言っておこう。
うーん、こんな予定は全く無かったんだが、な。
まあ、やってしまったモノは仕方ない。何かあれば責任をとればいいのだから。
《四十四日目》
【気配察知】に感あり。
最近ではアビリティレベルも上昇し、一度見た事のある種族限定ではあるがその種族名が表示され、個人名を知っていればその個人名も表示されるようになっていたりする。
しかも敵味方識別機能つきで、表記される文字の色でおおよその強さも分かるようになった。
かなり便利である。
そして【気配察知】によるとどうやら近づいてくるのはゴブ吉くんとその部下の二ゴブらしく、何かあったのかと思って起きあがろうとして、俺の身体にピッタリと寄り添う様にして寝る存在達に気が付いた。
昨夜の激しい行為の疲れからスヤスヤと眠っている彼女達を起こすのは忍びないので、【形態変化】を使って身体をスライムのようにし、起こさない様にそれぞれの肉体の間をすり抜けた。
そして糸で造った部屋の壁から出てゴブ吉くんと小声で会話。
ゴブ吉くんの話によると、どうやら耳の長い美形な亜人種が三名、洞窟の入口にやってきてふんぞり返っているそうだ。そいつ等を襲って殺すにしても、洞窟内部に招き入れるにしても、トップである俺の判断が必要だろうって事で呼びにきたんだと。
今は俺の判断を聞く為、亜人達は外で待たせているそうだ。
間違った考えでは無い。これも教育の賜物だろう。以前のゴブ吉くん達なら問答無用で襲いかかっていただろうし、と一人頷いておく。
一先ずアイテムボックスから先日グリーンリザードに襲われた湖の水を入れておいた大瓶を取り出し、中に入っている水で素早く身体を洗って最低限の身だしなみを整えてから出口に向かうと、そこに居たのは男一名にその従者兼護衛だろう武装した女性二名の亜人――〝エルフ〟だった。
三名ともかなりの美形で、男の小奇麗な礼服や女性二名が着ている軽金属鎧などはどれもそれなりに上等なシロモノだ。
装飾などのセンス云々は種族が違うのだから何とも明言できないが、大雑把に見ても相応の身分なのだろうと容易く予測できた。
後ろに控える女性二名の腰にある刺突細剣を【物品鑑定】して見た所【希少】級のマジックアイテムで、銘は【静謐の樹剣】と【葉隠の樹剣】、それぞれが秘めた固有能力は前者が行動時に発生する全ての音の消失、後者は刀身の不可視化と形態変化、など使うモノが使えばかなりの脅威になる品だった。
その他にも装備されているマジックアイテム【秘匿者の指輪】や【収納する銀の腕輪】なども全て【希少】級だ。
これはやはり相当の身分じゃないと、揃えられる筈のない装備の質である。
ちなみに、以前の冒険者の方が装備よかったよな? と思うかもしれんが、冒険者が持つ高品質な装備の大半はダンジョンから発掘した品であり、高レベルの冒険者の装備の質は必然的に良いモノとなる。
しかしダンジョンに潜らないモノがそれ相応の品を揃えるには、どうしたって財力が必要になる訳で、つまりはそう言う事だ。
それに、かなり高圧的な態度も身分を判断する要素の一つだろう。ただこれは種族的特徴かもしれないから、そんなに信用はできないかもしれない。
アポなしでやってきたくせに、『遅い! 私が来たのだから即座に出迎えるのが礼節であろう』などと偉そうな口調で喚くモノだから『腕むしって喰い殺すぞこの野郎』と本音を内心で吐き出す事で諸々を我慢しながら訪問した理由を聞いてみると、どうやら我らが傘下にうんぬんかんぬん。
全てを話すと長話になるので整理しながら説明していくと、俺とその配下を自分の部下――というよりは奴隷に近いと思われる、言い方的に――にしたいってのが主な要件だそうだ。
なんでも『下等なるヒューマン共がエルフの秘宝を狙って争いを近々仕掛けてきそうな雰囲気とそれを裏付ける情報があり、それに備えて少しでも強そうな手駒が欲しい』のだそうだ。
エルフからすれば戦力はできるだけ早急に、より多く集めたい。
そうなると、エルフの狩人達でも狩るどころか逆に狩られていた今は亡き山の主〝レッドベアー〟を殺した俺――最近森で噂になっているらしい。まあ、レッドベアーの毛皮で造った防具装備の黒いオーガは目立つよな、そりゃ――はまさに最適だったわけだ。
雇う報酬として配下のゴブリン達の分まで含んだ数ヶ月分という大量の食糧は当然として、【固有】級のマジックアイテムを一品か、もしくはエルフの美女二名を俺にくれるそうだ。
これはゴブ爺によると、オーガに対する報酬とするにはあまりにも桁外れであるらしい。
【固有】級のマジックアイテムはオークションに出せば最低でも一千万ゴルド以上の金額になる。それに当然だが、能力などによって値段は大きく変わる。それこそ三千万ゴルド以上になるモノもあるのだとか。
流石に【神迷遺産】ではないだろうが、それでも高額なのは違いない。
そしてエルフは目の前の女性二名を見れば分かるが、非常に美人だ。こう言っては悪いが、赤髪ショート達よりも数段美人である。個人の好み云々は兎も角としても、一般的な美醜の観点では間違いなく美なのだ。
提示された報酬についてはちょいと驚いたが、しかしそれを報酬とする程にエルフは切羽詰まっているんだろうか、と思わなくもない。表面上は余裕を見せているが、多分戦力的に大きく負けているんだろうな。
実に定番と言えば定番な展開である。
この後戦争に負けたエルフの王族が奴隷になって、とかだと王道過ぎて逆に笑えないな。
数はそれだけで暴力だ。圧倒的な力を誇る個も、やがては集団に押し潰される時が来るってのは前例が多過ぎる話であり、だから俺は仲間を育てている。
ともかく、数日前ならエルフの話に乗っても良かったんだが、もっと上質で強力なマジックアイテムが既にベルベットの遺産として相続されているので、俺の心は動かなかった。
エルフの女性二名は惜しいと言えば惜しいが、まあ、ここは内通者など要らん、としておこう。容姿は勿論大切だが、長い付き合いになると、やはり内面が重要だと思うし。
最終的に、エルフの勧誘はキッパリと断りました。
理由は、建前を抜かして言ってしまうと『そっちの事情なんぞ知るか』って事で完結する。
下等なるヒューマンうんぬんは俺にとってどうでもいいし、利害や思想などの違いから発生した争いも勝手にすればいい。戦争はその良し悪しは兎も角、大量のアビリティ確保のいい機会であるので俺にとって好都合なのは確かだし、提示された報酬も悪くは無い。優れた品が手元に多く在って、悪い事は少ない。
けど、ココまで分かり易く見下された状態で一方的に命令のような話し方をされれば、誰だって嫌だろう。命を懸けるような仕事なら尚更だ。誠意を見せろと声高々に言いたい。
せめて下手に出ろと内心で忠告する。意味は無いが。
222
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
強くてニューサーガ
阿部正行
ファンタジー
人族と魔族が争い続ける世界で魔王が大侵攻と言われる総攻撃を仕掛けてきた。
滅びかける人族が最後の賭けとも言うべき反撃をする。
激闘の末、ほとんど相撃ちで魔王を倒した人族の魔法剣士カイル。
自らの命も消えかけ、後悔のなか死を迎えようとしている時ふと目に入ったのは赤い宝石。
次に気づいたときは滅んだはずの故郷の自分の部屋。
そして死んだはずの人たちとの再会…… イベント戦闘で全て負け、選択肢を全て間違え最終決戦で仲間全員が死に限りなくバッドエンドに近いエンディングを迎えてしまった主人公がもう一度やり直す時、一体どんな結末を迎えるのか? 強くてニューゲームファンタジー!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。