13 / 270
1巻
1-13
しおりを挟む
俺が断って数秒、男のエルフは間抜け面で固まった。どうやら断られるとは思っていなかったらしい。
暗喩で俺達を馬鹿にしていたのを、俺が気付かないとでも思っていたのか――一般的なオーガは脳筋らしいから、気が付かれないと思っていたのだろう。多分――と、視線で見下すのも忘れない。
やがて戦場であったならあまりにも致命的な時間が過ぎた後に再起動を果たし、俺の言った事と視線に込められた意味を理解した男のエルフが顔を真っ赤にさせて怒りを顕にしようとした所で、俺は睨み付ける事で沈黙を選択させる。
【蛇の魔眼】と【威圧する眼光】、それとついでに【強者の威圧】も重複発動させただけだが、それで十分過ぎたようだ。
うん、まさか呼吸までできなくなるとは予想外である。というわけで【強者の威圧】は解除した。
それでやっと呼吸できるようになり、怒りの紅潮から一転、恐怖から顔面蒼白になるその様には思わず笑みが零れ、それが余計恐がらせる結果に繋がった。
オーガの顔は恐いからね、と他人事のように。
ココまでビビらせた事で一応は満足し、銀腕で男のエルフの首を素早く掴んでグイッと引き寄せる。それを見て咄嗟に動こうとした護衛の女性エルフ二名を視線だけで制し、捕まえたエルフの耳元で、外に隠れている護衛達に弓を下ろさせるように命令。するのと同時に一本の矢が顔面に向かって飛来したが、それは口で銜えて止めた。
ボリボリと矢を喰いながら、コレ以上何かリアクションがあればお前の首が千切れるぞと視線だけで語ってみる。
まあ、ニコリと微笑んだだけだが。
なんか小声で言われたが何も言わずに聞き流し、さっさとしろと指に力を込める事で伝えてみる。慌てながら大声で命令を下した男のエルフに再び笑みを向け、【視野拡張】と【見切り】の重複発動で隠れて俺を狙っていた護衛達が命令通りにしたのを確認してから、解放する事無く耳元でゆっくりと言い聞かせる。
今回の其方の御願いは俺の気分が乗らないので却下するが、まあ、人間達が住処を荒らすというのなら協力するのは吝かではない。同じ森の住人なのだから、それ相応の対処には付き合ってやる。それくらいの分別はある。
だが、もし仮に今回の事で報復とかを考え、俺の部下達を傷つけようと行動するのならば、俺はお前達を喰らいに行く、お前の味方は全員を喰い殺してやる、と再び【強者の威圧】を発動させながら教え込む。
そしてそれだけの暴力が俺にはあるのだとハッキリと理解させる為にアイテムボックスから朱槍【餓え渇く早贄の千棘】を取り出し、地面に突き刺して朱槍に内包された固有能力の一つである【血塗られた朱槍の軍勢】を発動。
それにより、今日やってきたエルフ全員の眼前に朱槍が突如出現した。隠れていた筈の者も一人残らず、である。
その後色々あった末に血相変えて逃げ帰っていくエルフ達を見送りながら、手中にある朱槍を見下ろす。
その原理は分からないが、この朱槍ガルズィグル・ベイには半径一〇〇メートルの範囲内ならば、突き刺した対象やそれに触れている物体までなら際限なく朱槍を出現させる事ができる。
今回で使用したのは二回目なのだが、地面や木から無数の朱槍が出現するのは中々シュールな光景だ。
まあ、切れ味といい長さといい、オーガな俺にとっては非常に使い勝手が良く、〝突き刺し縫い付ける〟という事に特化しているので俺の戦術的にも最適な武器であるので不満は無い。
しかし、これと同等かそれ以上の事ができるマジックアイテムが幾つもあるというのだから、この世界は本当に理解し難い。
赤髪ショートとかと話した内容などからちょっと進歩した部分がチラホラと見受けられる程度のファンタジー世界かと思っていれば、明らかにオーバーテクノロジーと理不尽の塊が存在するのだから、この世界は酷く歪だ。
【神迷遺産】は神の遺物などと言われる事もあるそうだが、それにしたって文明と不釣り合い過ぎる様な気がする。
そこら辺は一先ず置いといて、これくらいやれば、報復などは考えないと思われる。それでも突っ込んでくる可能性は否定できないが、何事も零パーセントにするのは難しいのだ。
何かあった時は、その時に考えよう。
あ、そうそう。
補足だが、俺が脅した男のエルフは次期氏族長候補の一人で、相応に偉いらしい。
エルフの里的な場所はまだ行っていない未踏破区画のちょっと奥深くにあるらしく、今度見に行ってみるのも面白いだろう。
それと【異種族言語】などの効果のほどもある程度推察ができた。
グリーンリザードのように俺達と大きく発音の仕方が変わる種族とかには非常に便利だけど、オークやゴブリンや人間など多少は似通った言語を解するヒト型の種族だと、無くても何となくではあるが会話する事は可能なようだ。
これはエルフと話して分かった事だ。俺はまだエルフを喰って無かったからアビリティを持ってなかったけど、話は通じた。でもアビリティはあった方が意思疎通が楽なのは確かだ。そうだな、要するにこんな系統のアビリティがあれば独特な言い回し――つまりは方言の意味が理解できると言えばいいのか。
例を出せば『えらい』が『疲れた』とか、『こわい』が『疲れた』とか。
それぞれの方言に困惑せずに居られるのだ。
エルフを追い返した後、ハンティングしたりと普段通り過ごして、今日もガッツリと熱い夜を過ごした。
《四十五日目》
早朝、今日も独りで森の中を放浪中。
脳内地図の黒く塗り潰された未踏破区画を歩いていると、グリーンスライムの上位種だろう〝グレースライム〟を発見した。
体色は灰色で、グリーンスライムの二倍ほどの大きさがあり、うねうねと動く触手や全体の動きが思ったよりも速く、撒き散らす体液の消化力はグリーンスライムよりも格段に強い。
それに狩って分かった事だが、グリーンスライムと比較して遥かにタフである。というか、なんか変だった。
せっかく覚えたのだからという事で【炎熱】系魔術で攻撃してみたら今一つ効きが悪くてなかなか殺す事ができず、じゃあ【発火能力】の炎はどうだと思って試してみたら、結構簡単に殺せたのである。
この事から、どうやらグレースライムには【炎熱】系魔術に対する耐性があるようだ、と推察した。
転がった灰色の核を拾い、アイテムボックスに収納して次のグレースライムを捜索。
まずはどういった特性があるのかの調査が必要だ。
調査を開始して狩ったグレースライムの数は一時間で二十体ばかり。
それから判明した事だが、グレースライムは俺が扱える【終焉】系を除いた全ての魔術の効きが非常に悪かった。どうやらグレースライムは【炎熱】系魔術だけではなく、魔術そのものに対する耐性があり、一定レベル以下の魔術は全て中和してしまうようだった。
それに魔術だけでなく物理に対しての防御力も侮れるものではない。
スライムの基本的な能力である【物理攻撃軽減】系の能力によって、一定レベル以下の直接攻撃はダメージ激減かもしくは無効化され、スライム種にとって致命的な魔術に対しては少々強めの耐性がある。
それに動きは速いし消化能力も高いとくれば、普通に相手をすると相当な強敵になると思われる。
ただ不思議な事なのだが、【発火能力】の炎や【発電能力】の雷を使えばあっさりと殺せたのは一体どういう事だろうか。
魔術じゃないからだろうか? そこの所は分からないが、必要な事/殺し方は理解できたので別にどうでもいいか。
二十体分の灰色の核をアイテムボックスから取り出し、一気に頬張る。直径五センチ程の核は飴玉に近いだろうか。味は無いが、コロコロと口内で転がす感覚は飴玉そのままだ。
[能力名【物理攻撃耐性】のラーニング完了]
[能力名【自己分体生成】のラーニング完了]
[能力名【補液復元】のラーニング完了]
どうやらグレースライムは【物理攻撃軽減】ではなく、それの上位版アビリティ【物理攻撃耐性】だったらしい。
そら強いよなぁ、とこれで納得できた。
ところで、スライムが増殖するのはある程度体積が増えると二つに分かれるかららしい。いや、【自己分体生成】をラーニングして理解できたんだよね、これ。
指先を噛み切って血を流してみると、その血がウネウネと蠢き、真っ赤で小さな俺を造れたのだ。しかも【自己分体生成】ってアビリティ名だからか小さな俺とオリジナルな俺との間にはある程度の繋がりがあるらしく、思考共有や視覚共有ができた。
視覚共有を行うと俺の視界では小さな俺が見え、小さな俺の視界ではオリジナルな俺が見えている、という奇怪な状況に。流石に皮膚感覚などは無理なようだが、それでもこの能力は凄く使い勝手がいい。というか、自分の事ながらこれは酷い反則だと思った。
即座に能力を発揮する類のアビリティではないが、時間をかければかけるほどその有用性は発揮されるだろう。諜報とか、戦力確保とか、凄く簡単にできそうだ。
材料にした血液も、【吸血搾取】によって他者から簡単に補充できるのだし。
その後は気分良くコガネグモとかオニグモとかトリプルホーンホースなどを狩って喰った。
《四十六日目》
今日はハンティングには行かず、ゴブ美ちゃん達の為にプレゼントを製作中。
防具ではなく、遠出用の可愛らしい衣服が良いかなと思い、取りあえずサイズを測らせてもらう。彼女達の身体で見てない場所は既に無いが、大まかなサイズは兎も角、正確なサイズは知らないのだ。
服は街などに行った時に派手過ぎて悪目立ちする事が無い様に、それでいて地味にならないようなデザインを考える。それに何かあった時でも安全を確保できるように、という事でかつての略奪品の中から選んだ綺麗な布を俺の糸で編んでいく。
そしてそれに加えて何かあった時の為に、という事で裏側に俺の血で造った分体を密かに染み込ませ、緊急事態を俺に教えられる様に工夫を施す。いざとなれば足止め程度には働いてくれるだろうし、例え拉致されても居場所はすぐに把握する事が可能になった。
俺の糸と分体などによって製作された、下手な防具よりも遥かに防御力の高い衣服を渡し、それだけだとちょっと寂しいかな、とも思ったのでアカシカの紅水晶のような角やコガネグモの甲殻を材料に、豪奢になり過ぎず、それでいて綺麗なブレスレットなどのアクセサリーも追加でプレゼントした。
大層喜んでくれて、頑張ったかいがあったというものだ。
その夜は皆、ちょっと激しかったです。
あとゴブ美ちゃんと赤髪ショート、その衣服は普段の狩りや訓練に着るのは止めといた方が良いと思う。破けるかもしれないから。
まあ、大丈夫だとは思うんだが。
《四十七日目》
普段通り目が覚め、その時から【直感】が活発に働いていた。
今日はひっそりと身を隠して洞窟から動かない方が良いと、動けば後悔すると囁くのだ。
という事で【隠れ身】補正などが高くなる【職業・暗殺者】を発動させ、一応【気配遮断】も重複発動して洞窟の奥の方にある鍛冶師さんや姉妹さんや錬金術師さん達の所で寛ぐ事にした。
ただ本体の俺は寛ぐが、最近趣味になってきた脳内地図の穴埋めはしたい、って事で昨日の内に血や肉片やらで造った俺の腰ほど程しか無いサイズの分体――総合能力も半分程度、行動は一定の法則によって決められていて、自由意思も多少はある――を外に出す。
この分体、グレースライムから確保できたアビリティ【補液復元】が、四肢の欠損や腹に穴が開く様な攻撃を受けても取りあえず水分さえ必要量吸収する事ができれば肉体をある程度まで復元できるという能力だったので、造ってみたのだ。
現在の戦闘能力は俺よりも格段に低いが、それでもそれなりには強いので殺されたりはしないだろう。逃げ足も速いし。
【形態変化】を使い、まるで巨大な狼のような姿となって外へ疾走していく分体を見送ってから、当初の予定通り俺は奥に引っ込んだ。
鍛冶師さん一人では何かと不便そうだったので、後方支援部隊《プレジャー》に配属した同年代ゴブリンを補助に回したり、姉妹さんの所で新しい料理を考えて実際に作ってみたり、錬金術師さんの所でベルベットの遺産として確保した、何故か経年劣化していない大昔の秘薬などを解析したりしていたら時は過ぎ去り。
それは起きた。
基本的にゴブ吉くん達が訓練をしているのは洞窟の出入り口に直結している《大ホール》と呼んでいる場所だ。住処の中で最も大きな空間であるそこは、木剣を片手にゴブ吉くんやゴブ美ちゃん、赤髪ショート達が訓練に勤しんでいる真っ最中だった。
そんな時に俺の【気配察知】がその入り口に接近する敵性対象を感知。
表示された種族はなんと〝エルフ〟だった。しかもその中に、以前追い払った男のエルフの名前も交じっている。まさか早々にやってくるとは流石の俺にも予想外だ。
急いで洞窟内のゴブリンを招集し、準備を整える。幸い訓練中だったので装備は既に装着済みで、僅かな時間で事は済んだ。
装備を簡単に点検した後は大ホール付近に予め作っていた塹壕などに身を隠し、侵入した敵に対して奇襲し易い場所で待ち構えた。一応ゴブ江ちゃん達には精霊石の採掘を続行してもらい、採掘音を響かせてちょっとした偽装を施す。
しばらくすると、武装したエルフの集団が洞窟に入ってきた。
静かに迅速に、それでいて得物を手にして冷たい殺気を放っていた二十五名のエルフはゴブ吉くんなどのホブゴブリンならばともかく、今のゴブリン達では三対一でも勝てるかどうか難しいレベルの敵のようだ。
雰囲気だけで既に敵対する気満々なのは分かるが、それでも一応は捕まえて話を聞くべきだろう。
単身、物陰から飛び出すのと同時に【威嚇咆哮】と【鱗馬の嘶き】を重複発動した大声で怯ませ、その上さらに【威圧する眼光】と【蛇の魔眼】で咄嗟に動けなくしてからその隙に糸で捕縛する。
その後は縛ったエルフ達を並べさせ、次期氏族長だとからしい例の男のエルフの頬を朱槍でペチペチと叩きながら少々お話しした。
それによると、どうやら俺が自尊心を傷つけ過ぎたようだ。
二日あいだを挟んだ事によって恐怖が若干薄らいで、ちょっとだけ冷静に考えられるようになって、何故高貴なエルフである私がうんぬん、オーガ如きに恐怖せねばあれやそれや、って事があって自分を見下す奴は殺すしかないと決意し、配下の中でもレベルの高い精鋭エルフを引き連れて、感情の勢いに任せて強襲した結果、返り討ちにあって現在に至ると。
こんな上司の下で働くようになったエルフが不憫である。
以前護衛していた女性エルフ二名もうな垂れた状態で目の前に居るし。少々気になって話してみると、男のエルフは彼女達の話に聞く耳持たずだったそうだ。
上司が無能だったためにその下が被る被害は身に染みているので、このまま殺すのは流石にちょっとだけ気分が乗らなくて、多少の情けをかける事に。
まず、この次期氏族長的なエルフは死んだものとして諦めろ。
次に、俺以外のホブゴブリンかもしくはゴブリンと模擬戦をし、気絶などで無力化すれば勝ち、ギブアップと宣言させても勝ちとする。ただし殺した場合は即座に殺すので、両者ともに相手の殺害を禁ず。
最後に、模擬戦で勝てば殺さない、負ければ殺して喰らいます。
簡単に言えばこんなものだ。
説明し終え、次期氏族長的な例の男エルフ以外の糸を解いてやる。
すると忠誠心が高いエルフが一名俺に斬りかかってきたが、顎に銀腕のフックを決めて骨を砕くと共に脳震盪を引き起こし、フラフラと動けなくなったエルフの側頭部と砕けた顎を掴み、一気に捻って頸椎を砕いて殺した。
赤髪ショートや鍛冶師さん達には俺が戻るまで奥に居るように言っているので、心置きなく新鮮な死体をボリボリと。
【能力名【異種族言語】のラーニング完了】
エルフさん達の震えが止まりません。
身体が竦んで動けないそうなので、戦う気が起こる様にヒューマンとの抗争が近いのにこんなところで無様に死んでいいのかと、生きたくはないのかと語ってみる。
自分で言うのも何だが、非常に白々しい。
しかしそれでも一応の効果は有ったのか、皆さんやる気になった。
そして、模擬戦は始まった。
端的に結果を述べると、模擬戦に参加した二十三名のエルフの内、生き残ったのは十七名だ。 ゴブ吉くんやゴブ美ちゃん、ホブ星さんなどに当たった人はご愁傷様と言うしかない。普通のエルフとホブゴブリンなら十中八九エルフの勝ちで終わるのだろうが、訓練し続けているゴブ吉くん達の強さは既にホブゴブリンの枠を超越している。
命乞いする負けた方達には残念だが、俺達を殺しにきたのにそんな都合が良い事はありません、と言ってから殺しました。
残念だけど、これが戦争なんだよね。しかも最初に引き金を引いたのは向こうだ。同情する必要は無い。
負けてしまった六名――全員男だ。いや、美女・美少女をあえて無駄に殺す事は嫌だったので対戦を調整したらそうなりました――は、美味しく頂きました。
[能力名【深緑の住人】のラーニング完了]
[能力名【精霊使い】のラーニング完了]
[能力名【弓術の心得】のラーニング完了]
[能力名【追跡術】のラーニング完了]
[能力名【隠れ身】のラーニング完了]
敗者を喰い終わり、その様子をボンヤリと虚ろな瞳で見つめていた勝ち組エルフさん達に振り返り、装備しているマジックアイテムを全て一ヶ所に置かせてから、再び糸で捕縛する。
解放されない事に悲鳴が上がったが、俺は別に〝解放する〟とは言っていないのだとここに宣言しとこう。あくまでも殺さないというだけで、それを解放すると勘違いしたのかもしれない。
俺は赤髪ショート達などのように一方的に虐げられる存在を偽善と打算で助けたりする事はあるが、襲ってきた〝敵〟まで助けようとは思わない。
情けをかける事もあるが、今回の情けは〝殺さない〟事で、〝解放する〟事ではない。
そうだな……エルフの内訳は十名が男で七名が女だから、数を増やす事に協力してもらおうか。
ただ無理やりでは後々反発や恨みを強めるだけだろうから、今回は俺の体液を調整して造った興奮剤を全員に投与し、エルフ達が自分から求めるまでは手出し無用、と皆に厳命してから即席の牢屋に放り込む事にした。
同室に入れるとお互いで発散するかもしれないので、全員個室だ。
男のエルフは子を産めないが、まあ、雌ゴブリンなどの性欲発散には大いに貢献してくれるだろう。エルフの外見はほぼ例外なく上等であるし。
いやーしかし、正直タイミング的にはありがたい。
まだ異性を知らない同年代のゴブリンは兎も角、年上ゴブリン組はそろそろ雌ゴブリンの身体では満足できなくなっていて、ストレスが溜まってきていたのだ。今までは過酷な訓練で体力を奪い、気を逸らしていたが、訓練にも慣れてきたようで、そろそろ限界が近づいていた。
だから予想外ではあったが、エルフ達が襲ってきたのは思わぬ収穫でもあった。
……俺が外道だって? いやいや、勘違いしてもらっては困る。そもそも最初に仕掛けてきたのは向こうだ。
アチラはコチラを殺そうとした結果負けたのに、襲われた俺達がアチラの捕虜を無事に解放しろとでもいうのだろうか? それはあり得ないだろう。理不尽に殴られたのに、殴り返したらコッチが悪役にされるくらいにありえない。
そもそも、捕虜に対する条例なんて俺達の間には無いんだし、これくらいしても問題ない。もし問題があるとするのなら、それは感情からくる個人の問題でしかない。
それに自分で言うのも何だが、それなりに比較的良心的なルールを作るつもりだ。ただ使い潰すには、エルフは惜しい存在である。
という流れで生き残ったエルフに興奮剤を投与し、欲望で見悶えていくその光景を見続けた首謀者の男エルフが何か言ってきたが、無視した。
十七名のエルフが牢屋に連れて行かれた後は、一人取り残された首謀者エルフを材料に色々と。新しい拷問の仕方や、ヒト型の急所的な場所についてのレクチャーをしたりしました。
最後は当然腹の中に収めた。
[能力名【売値三〇%増加】のラーニング完了]
[能力名【買値三〇%減少】のラーニング完了]
喰った数もそこそこで、個人の能力も高かった上に重複した技能を持っていたので役に立つアビリティを多く確保できたりと、エルフ達は合掌して冥福を祈るくらいにはありがたい存在だった。
《四十八日目》
ハンティングに出かけ、コボルドやオニグモ、ハインドベアーにコガネグモなどなどを探して殺して喰いまくった。
久しぶりの平和で平凡な一日だ。
《四十九日目》
起きたらゴブ吉くんが大鬼に【存在進化】していた。
ここ最近はハインドベアーも単身で殺せるようになっていたので、そろそろだろうか?と思っていたら案の定。
ちなみに【通常】ではなく【亜種】だ。
肌の色は〝赤銅色〟。体色が赤いという事はレッドベアーと同じく火属性の神の加護持ちであるという証明であり、本人の証言だと【炎の亜神の加護】を獲得したのだそうだ。
奇しくもレッドベアーと同じ加護を得たので、試しに火を吹いてくれ、と言ったら実際に見覚えのある火炎放射器の様なブレスが吹けたので、間違いないようだ。
ゴブ吉くんが亜種になったのは、火精石を埋め込んだ燃えるクレセントアックスを使い、その次もベルベットの遺産の一つである【魔焼の断頭斧】という名称の身の丈ほどもある巨大な両刃の戦斧型マジックアイテムを愛用するなど、炎熱系の能力を有する主武装を愛用していたからかもしれん。
それに赤銅色の皮膚は鉄のような光沢があり、これはどうも【炎の亜神の加護】に加えて【戦乱の亜神の加護】まで所持しているんじゃないのか、とはいつの間にか横に来ていたゴブ爺の言。
実際その通りで、試しに腕を軽く叩いてみたら、ガツンガツンと金属のような手応えがあった。
二柱の加護持ちって凄いの? とゴブ爺に聞いたら珍しいと言えば珍しいが、お前さん程じゃないって言われました。
ああ、さいですか。
そして午前訓練の際ゴブ吉くんが組み手しようぜ、とオーガだけど何処か愛嬌のある笑みを浮かべて言ってきたのでやりました。
感想、ゴブ吉くん強くなり過ぎ。
身長は約二メートル八〇センチと俺より三〇センチほど大きく、赤銅の皮膚と筋骨隆々な肉体は、アビリティ無しの素のスペックでは膂力や耐久力などが俺を軽く超えていた。
俺も【吸喰能力】で肉体の能力も向上してる上に希少種だから、オーガ亜種なゴブ吉くんには負けてないと思ったんだが、どうやら能力構成の振り分けで負けたようだ。
俺は筋力やら体力やら耐久やら知能やらの能力にポイントを全部均等に振り分けている万能型だとすると、ゴブ吉くんは戦闘に関係する項目に集中して振り分けている特攻タイプである、と言えば分かり易いだろうか。見た目からして、俺とは筋肉量が明らかに違うし。
とは言え、まだまだ体術などの格闘技術は俺が優っていたので勝ちはした。かなりギリギリな勝負だったが、ゴブ吉くんは好敵手であるのは間違いなく。
暗喩で俺達を馬鹿にしていたのを、俺が気付かないとでも思っていたのか――一般的なオーガは脳筋らしいから、気が付かれないと思っていたのだろう。多分――と、視線で見下すのも忘れない。
やがて戦場であったならあまりにも致命的な時間が過ぎた後に再起動を果たし、俺の言った事と視線に込められた意味を理解した男のエルフが顔を真っ赤にさせて怒りを顕にしようとした所で、俺は睨み付ける事で沈黙を選択させる。
【蛇の魔眼】と【威圧する眼光】、それとついでに【強者の威圧】も重複発動させただけだが、それで十分過ぎたようだ。
うん、まさか呼吸までできなくなるとは予想外である。というわけで【強者の威圧】は解除した。
それでやっと呼吸できるようになり、怒りの紅潮から一転、恐怖から顔面蒼白になるその様には思わず笑みが零れ、それが余計恐がらせる結果に繋がった。
オーガの顔は恐いからね、と他人事のように。
ココまでビビらせた事で一応は満足し、銀腕で男のエルフの首を素早く掴んでグイッと引き寄せる。それを見て咄嗟に動こうとした護衛の女性エルフ二名を視線だけで制し、捕まえたエルフの耳元で、外に隠れている護衛達に弓を下ろさせるように命令。するのと同時に一本の矢が顔面に向かって飛来したが、それは口で銜えて止めた。
ボリボリと矢を喰いながら、コレ以上何かリアクションがあればお前の首が千切れるぞと視線だけで語ってみる。
まあ、ニコリと微笑んだだけだが。
なんか小声で言われたが何も言わずに聞き流し、さっさとしろと指に力を込める事で伝えてみる。慌てながら大声で命令を下した男のエルフに再び笑みを向け、【視野拡張】と【見切り】の重複発動で隠れて俺を狙っていた護衛達が命令通りにしたのを確認してから、解放する事無く耳元でゆっくりと言い聞かせる。
今回の其方の御願いは俺の気分が乗らないので却下するが、まあ、人間達が住処を荒らすというのなら協力するのは吝かではない。同じ森の住人なのだから、それ相応の対処には付き合ってやる。それくらいの分別はある。
だが、もし仮に今回の事で報復とかを考え、俺の部下達を傷つけようと行動するのならば、俺はお前達を喰らいに行く、お前の味方は全員を喰い殺してやる、と再び【強者の威圧】を発動させながら教え込む。
そしてそれだけの暴力が俺にはあるのだとハッキリと理解させる為にアイテムボックスから朱槍【餓え渇く早贄の千棘】を取り出し、地面に突き刺して朱槍に内包された固有能力の一つである【血塗られた朱槍の軍勢】を発動。
それにより、今日やってきたエルフ全員の眼前に朱槍が突如出現した。隠れていた筈の者も一人残らず、である。
その後色々あった末に血相変えて逃げ帰っていくエルフ達を見送りながら、手中にある朱槍を見下ろす。
その原理は分からないが、この朱槍ガルズィグル・ベイには半径一〇〇メートルの範囲内ならば、突き刺した対象やそれに触れている物体までなら際限なく朱槍を出現させる事ができる。
今回で使用したのは二回目なのだが、地面や木から無数の朱槍が出現するのは中々シュールな光景だ。
まあ、切れ味といい長さといい、オーガな俺にとっては非常に使い勝手が良く、〝突き刺し縫い付ける〟という事に特化しているので俺の戦術的にも最適な武器であるので不満は無い。
しかし、これと同等かそれ以上の事ができるマジックアイテムが幾つもあるというのだから、この世界は本当に理解し難い。
赤髪ショートとかと話した内容などからちょっと進歩した部分がチラホラと見受けられる程度のファンタジー世界かと思っていれば、明らかにオーバーテクノロジーと理不尽の塊が存在するのだから、この世界は酷く歪だ。
【神迷遺産】は神の遺物などと言われる事もあるそうだが、それにしたって文明と不釣り合い過ぎる様な気がする。
そこら辺は一先ず置いといて、これくらいやれば、報復などは考えないと思われる。それでも突っ込んでくる可能性は否定できないが、何事も零パーセントにするのは難しいのだ。
何かあった時は、その時に考えよう。
あ、そうそう。
補足だが、俺が脅した男のエルフは次期氏族長候補の一人で、相応に偉いらしい。
エルフの里的な場所はまだ行っていない未踏破区画のちょっと奥深くにあるらしく、今度見に行ってみるのも面白いだろう。
それと【異種族言語】などの効果のほどもある程度推察ができた。
グリーンリザードのように俺達と大きく発音の仕方が変わる種族とかには非常に便利だけど、オークやゴブリンや人間など多少は似通った言語を解するヒト型の種族だと、無くても何となくではあるが会話する事は可能なようだ。
これはエルフと話して分かった事だ。俺はまだエルフを喰って無かったからアビリティを持ってなかったけど、話は通じた。でもアビリティはあった方が意思疎通が楽なのは確かだ。そうだな、要するにこんな系統のアビリティがあれば独特な言い回し――つまりは方言の意味が理解できると言えばいいのか。
例を出せば『えらい』が『疲れた』とか、『こわい』が『疲れた』とか。
それぞれの方言に困惑せずに居られるのだ。
エルフを追い返した後、ハンティングしたりと普段通り過ごして、今日もガッツリと熱い夜を過ごした。
《四十五日目》
早朝、今日も独りで森の中を放浪中。
脳内地図の黒く塗り潰された未踏破区画を歩いていると、グリーンスライムの上位種だろう〝グレースライム〟を発見した。
体色は灰色で、グリーンスライムの二倍ほどの大きさがあり、うねうねと動く触手や全体の動きが思ったよりも速く、撒き散らす体液の消化力はグリーンスライムよりも格段に強い。
それに狩って分かった事だが、グリーンスライムと比較して遥かにタフである。というか、なんか変だった。
せっかく覚えたのだからという事で【炎熱】系魔術で攻撃してみたら今一つ効きが悪くてなかなか殺す事ができず、じゃあ【発火能力】の炎はどうだと思って試してみたら、結構簡単に殺せたのである。
この事から、どうやらグレースライムには【炎熱】系魔術に対する耐性があるようだ、と推察した。
転がった灰色の核を拾い、アイテムボックスに収納して次のグレースライムを捜索。
まずはどういった特性があるのかの調査が必要だ。
調査を開始して狩ったグレースライムの数は一時間で二十体ばかり。
それから判明した事だが、グレースライムは俺が扱える【終焉】系を除いた全ての魔術の効きが非常に悪かった。どうやらグレースライムは【炎熱】系魔術だけではなく、魔術そのものに対する耐性があり、一定レベル以下の魔術は全て中和してしまうようだった。
それに魔術だけでなく物理に対しての防御力も侮れるものではない。
スライムの基本的な能力である【物理攻撃軽減】系の能力によって、一定レベル以下の直接攻撃はダメージ激減かもしくは無効化され、スライム種にとって致命的な魔術に対しては少々強めの耐性がある。
それに動きは速いし消化能力も高いとくれば、普通に相手をすると相当な強敵になると思われる。
ただ不思議な事なのだが、【発火能力】の炎や【発電能力】の雷を使えばあっさりと殺せたのは一体どういう事だろうか。
魔術じゃないからだろうか? そこの所は分からないが、必要な事/殺し方は理解できたので別にどうでもいいか。
二十体分の灰色の核をアイテムボックスから取り出し、一気に頬張る。直径五センチ程の核は飴玉に近いだろうか。味は無いが、コロコロと口内で転がす感覚は飴玉そのままだ。
[能力名【物理攻撃耐性】のラーニング完了]
[能力名【自己分体生成】のラーニング完了]
[能力名【補液復元】のラーニング完了]
どうやらグレースライムは【物理攻撃軽減】ではなく、それの上位版アビリティ【物理攻撃耐性】だったらしい。
そら強いよなぁ、とこれで納得できた。
ところで、スライムが増殖するのはある程度体積が増えると二つに分かれるかららしい。いや、【自己分体生成】をラーニングして理解できたんだよね、これ。
指先を噛み切って血を流してみると、その血がウネウネと蠢き、真っ赤で小さな俺を造れたのだ。しかも【自己分体生成】ってアビリティ名だからか小さな俺とオリジナルな俺との間にはある程度の繋がりがあるらしく、思考共有や視覚共有ができた。
視覚共有を行うと俺の視界では小さな俺が見え、小さな俺の視界ではオリジナルな俺が見えている、という奇怪な状況に。流石に皮膚感覚などは無理なようだが、それでもこの能力は凄く使い勝手がいい。というか、自分の事ながらこれは酷い反則だと思った。
即座に能力を発揮する類のアビリティではないが、時間をかければかけるほどその有用性は発揮されるだろう。諜報とか、戦力確保とか、凄く簡単にできそうだ。
材料にした血液も、【吸血搾取】によって他者から簡単に補充できるのだし。
その後は気分良くコガネグモとかオニグモとかトリプルホーンホースなどを狩って喰った。
《四十六日目》
今日はハンティングには行かず、ゴブ美ちゃん達の為にプレゼントを製作中。
防具ではなく、遠出用の可愛らしい衣服が良いかなと思い、取りあえずサイズを測らせてもらう。彼女達の身体で見てない場所は既に無いが、大まかなサイズは兎も角、正確なサイズは知らないのだ。
服は街などに行った時に派手過ぎて悪目立ちする事が無い様に、それでいて地味にならないようなデザインを考える。それに何かあった時でも安全を確保できるように、という事でかつての略奪品の中から選んだ綺麗な布を俺の糸で編んでいく。
そしてそれに加えて何かあった時の為に、という事で裏側に俺の血で造った分体を密かに染み込ませ、緊急事態を俺に教えられる様に工夫を施す。いざとなれば足止め程度には働いてくれるだろうし、例え拉致されても居場所はすぐに把握する事が可能になった。
俺の糸と分体などによって製作された、下手な防具よりも遥かに防御力の高い衣服を渡し、それだけだとちょっと寂しいかな、とも思ったのでアカシカの紅水晶のような角やコガネグモの甲殻を材料に、豪奢になり過ぎず、それでいて綺麗なブレスレットなどのアクセサリーも追加でプレゼントした。
大層喜んでくれて、頑張ったかいがあったというものだ。
その夜は皆、ちょっと激しかったです。
あとゴブ美ちゃんと赤髪ショート、その衣服は普段の狩りや訓練に着るのは止めといた方が良いと思う。破けるかもしれないから。
まあ、大丈夫だとは思うんだが。
《四十七日目》
普段通り目が覚め、その時から【直感】が活発に働いていた。
今日はひっそりと身を隠して洞窟から動かない方が良いと、動けば後悔すると囁くのだ。
という事で【隠れ身】補正などが高くなる【職業・暗殺者】を発動させ、一応【気配遮断】も重複発動して洞窟の奥の方にある鍛冶師さんや姉妹さんや錬金術師さん達の所で寛ぐ事にした。
ただ本体の俺は寛ぐが、最近趣味になってきた脳内地図の穴埋めはしたい、って事で昨日の内に血や肉片やらで造った俺の腰ほど程しか無いサイズの分体――総合能力も半分程度、行動は一定の法則によって決められていて、自由意思も多少はある――を外に出す。
この分体、グレースライムから確保できたアビリティ【補液復元】が、四肢の欠損や腹に穴が開く様な攻撃を受けても取りあえず水分さえ必要量吸収する事ができれば肉体をある程度まで復元できるという能力だったので、造ってみたのだ。
現在の戦闘能力は俺よりも格段に低いが、それでもそれなりには強いので殺されたりはしないだろう。逃げ足も速いし。
【形態変化】を使い、まるで巨大な狼のような姿となって外へ疾走していく分体を見送ってから、当初の予定通り俺は奥に引っ込んだ。
鍛冶師さん一人では何かと不便そうだったので、後方支援部隊《プレジャー》に配属した同年代ゴブリンを補助に回したり、姉妹さんの所で新しい料理を考えて実際に作ってみたり、錬金術師さんの所でベルベットの遺産として確保した、何故か経年劣化していない大昔の秘薬などを解析したりしていたら時は過ぎ去り。
それは起きた。
基本的にゴブ吉くん達が訓練をしているのは洞窟の出入り口に直結している《大ホール》と呼んでいる場所だ。住処の中で最も大きな空間であるそこは、木剣を片手にゴブ吉くんやゴブ美ちゃん、赤髪ショート達が訓練に勤しんでいる真っ最中だった。
そんな時に俺の【気配察知】がその入り口に接近する敵性対象を感知。
表示された種族はなんと〝エルフ〟だった。しかもその中に、以前追い払った男のエルフの名前も交じっている。まさか早々にやってくるとは流石の俺にも予想外だ。
急いで洞窟内のゴブリンを招集し、準備を整える。幸い訓練中だったので装備は既に装着済みで、僅かな時間で事は済んだ。
装備を簡単に点検した後は大ホール付近に予め作っていた塹壕などに身を隠し、侵入した敵に対して奇襲し易い場所で待ち構えた。一応ゴブ江ちゃん達には精霊石の採掘を続行してもらい、採掘音を響かせてちょっとした偽装を施す。
しばらくすると、武装したエルフの集団が洞窟に入ってきた。
静かに迅速に、それでいて得物を手にして冷たい殺気を放っていた二十五名のエルフはゴブ吉くんなどのホブゴブリンならばともかく、今のゴブリン達では三対一でも勝てるかどうか難しいレベルの敵のようだ。
雰囲気だけで既に敵対する気満々なのは分かるが、それでも一応は捕まえて話を聞くべきだろう。
単身、物陰から飛び出すのと同時に【威嚇咆哮】と【鱗馬の嘶き】を重複発動した大声で怯ませ、その上さらに【威圧する眼光】と【蛇の魔眼】で咄嗟に動けなくしてからその隙に糸で捕縛する。
その後は縛ったエルフ達を並べさせ、次期氏族長だとからしい例の男のエルフの頬を朱槍でペチペチと叩きながら少々お話しした。
それによると、どうやら俺が自尊心を傷つけ過ぎたようだ。
二日あいだを挟んだ事によって恐怖が若干薄らいで、ちょっとだけ冷静に考えられるようになって、何故高貴なエルフである私がうんぬん、オーガ如きに恐怖せねばあれやそれや、って事があって自分を見下す奴は殺すしかないと決意し、配下の中でもレベルの高い精鋭エルフを引き連れて、感情の勢いに任せて強襲した結果、返り討ちにあって現在に至ると。
こんな上司の下で働くようになったエルフが不憫である。
以前護衛していた女性エルフ二名もうな垂れた状態で目の前に居るし。少々気になって話してみると、男のエルフは彼女達の話に聞く耳持たずだったそうだ。
上司が無能だったためにその下が被る被害は身に染みているので、このまま殺すのは流石にちょっとだけ気分が乗らなくて、多少の情けをかける事に。
まず、この次期氏族長的なエルフは死んだものとして諦めろ。
次に、俺以外のホブゴブリンかもしくはゴブリンと模擬戦をし、気絶などで無力化すれば勝ち、ギブアップと宣言させても勝ちとする。ただし殺した場合は即座に殺すので、両者ともに相手の殺害を禁ず。
最後に、模擬戦で勝てば殺さない、負ければ殺して喰らいます。
簡単に言えばこんなものだ。
説明し終え、次期氏族長的な例の男エルフ以外の糸を解いてやる。
すると忠誠心が高いエルフが一名俺に斬りかかってきたが、顎に銀腕のフックを決めて骨を砕くと共に脳震盪を引き起こし、フラフラと動けなくなったエルフの側頭部と砕けた顎を掴み、一気に捻って頸椎を砕いて殺した。
赤髪ショートや鍛冶師さん達には俺が戻るまで奥に居るように言っているので、心置きなく新鮮な死体をボリボリと。
【能力名【異種族言語】のラーニング完了】
エルフさん達の震えが止まりません。
身体が竦んで動けないそうなので、戦う気が起こる様にヒューマンとの抗争が近いのにこんなところで無様に死んでいいのかと、生きたくはないのかと語ってみる。
自分で言うのも何だが、非常に白々しい。
しかしそれでも一応の効果は有ったのか、皆さんやる気になった。
そして、模擬戦は始まった。
端的に結果を述べると、模擬戦に参加した二十三名のエルフの内、生き残ったのは十七名だ。 ゴブ吉くんやゴブ美ちゃん、ホブ星さんなどに当たった人はご愁傷様と言うしかない。普通のエルフとホブゴブリンなら十中八九エルフの勝ちで終わるのだろうが、訓練し続けているゴブ吉くん達の強さは既にホブゴブリンの枠を超越している。
命乞いする負けた方達には残念だが、俺達を殺しにきたのにそんな都合が良い事はありません、と言ってから殺しました。
残念だけど、これが戦争なんだよね。しかも最初に引き金を引いたのは向こうだ。同情する必要は無い。
負けてしまった六名――全員男だ。いや、美女・美少女をあえて無駄に殺す事は嫌だったので対戦を調整したらそうなりました――は、美味しく頂きました。
[能力名【深緑の住人】のラーニング完了]
[能力名【精霊使い】のラーニング完了]
[能力名【弓術の心得】のラーニング完了]
[能力名【追跡術】のラーニング完了]
[能力名【隠れ身】のラーニング完了]
敗者を喰い終わり、その様子をボンヤリと虚ろな瞳で見つめていた勝ち組エルフさん達に振り返り、装備しているマジックアイテムを全て一ヶ所に置かせてから、再び糸で捕縛する。
解放されない事に悲鳴が上がったが、俺は別に〝解放する〟とは言っていないのだとここに宣言しとこう。あくまでも殺さないというだけで、それを解放すると勘違いしたのかもしれない。
俺は赤髪ショート達などのように一方的に虐げられる存在を偽善と打算で助けたりする事はあるが、襲ってきた〝敵〟まで助けようとは思わない。
情けをかける事もあるが、今回の情けは〝殺さない〟事で、〝解放する〟事ではない。
そうだな……エルフの内訳は十名が男で七名が女だから、数を増やす事に協力してもらおうか。
ただ無理やりでは後々反発や恨みを強めるだけだろうから、今回は俺の体液を調整して造った興奮剤を全員に投与し、エルフ達が自分から求めるまでは手出し無用、と皆に厳命してから即席の牢屋に放り込む事にした。
同室に入れるとお互いで発散するかもしれないので、全員個室だ。
男のエルフは子を産めないが、まあ、雌ゴブリンなどの性欲発散には大いに貢献してくれるだろう。エルフの外見はほぼ例外なく上等であるし。
いやーしかし、正直タイミング的にはありがたい。
まだ異性を知らない同年代のゴブリンは兎も角、年上ゴブリン組はそろそろ雌ゴブリンの身体では満足できなくなっていて、ストレスが溜まってきていたのだ。今までは過酷な訓練で体力を奪い、気を逸らしていたが、訓練にも慣れてきたようで、そろそろ限界が近づいていた。
だから予想外ではあったが、エルフ達が襲ってきたのは思わぬ収穫でもあった。
……俺が外道だって? いやいや、勘違いしてもらっては困る。そもそも最初に仕掛けてきたのは向こうだ。
アチラはコチラを殺そうとした結果負けたのに、襲われた俺達がアチラの捕虜を無事に解放しろとでもいうのだろうか? それはあり得ないだろう。理不尽に殴られたのに、殴り返したらコッチが悪役にされるくらいにありえない。
そもそも、捕虜に対する条例なんて俺達の間には無いんだし、これくらいしても問題ない。もし問題があるとするのなら、それは感情からくる個人の問題でしかない。
それに自分で言うのも何だが、それなりに比較的良心的なルールを作るつもりだ。ただ使い潰すには、エルフは惜しい存在である。
という流れで生き残ったエルフに興奮剤を投与し、欲望で見悶えていくその光景を見続けた首謀者の男エルフが何か言ってきたが、無視した。
十七名のエルフが牢屋に連れて行かれた後は、一人取り残された首謀者エルフを材料に色々と。新しい拷問の仕方や、ヒト型の急所的な場所についてのレクチャーをしたりしました。
最後は当然腹の中に収めた。
[能力名【売値三〇%増加】のラーニング完了]
[能力名【買値三〇%減少】のラーニング完了]
喰った数もそこそこで、個人の能力も高かった上に重複した技能を持っていたので役に立つアビリティを多く確保できたりと、エルフ達は合掌して冥福を祈るくらいにはありがたい存在だった。
《四十八日目》
ハンティングに出かけ、コボルドやオニグモ、ハインドベアーにコガネグモなどなどを探して殺して喰いまくった。
久しぶりの平和で平凡な一日だ。
《四十九日目》
起きたらゴブ吉くんが大鬼に【存在進化】していた。
ここ最近はハインドベアーも単身で殺せるようになっていたので、そろそろだろうか?と思っていたら案の定。
ちなみに【通常】ではなく【亜種】だ。
肌の色は〝赤銅色〟。体色が赤いという事はレッドベアーと同じく火属性の神の加護持ちであるという証明であり、本人の証言だと【炎の亜神の加護】を獲得したのだそうだ。
奇しくもレッドベアーと同じ加護を得たので、試しに火を吹いてくれ、と言ったら実際に見覚えのある火炎放射器の様なブレスが吹けたので、間違いないようだ。
ゴブ吉くんが亜種になったのは、火精石を埋め込んだ燃えるクレセントアックスを使い、その次もベルベットの遺産の一つである【魔焼の断頭斧】という名称の身の丈ほどもある巨大な両刃の戦斧型マジックアイテムを愛用するなど、炎熱系の能力を有する主武装を愛用していたからかもしれん。
それに赤銅色の皮膚は鉄のような光沢があり、これはどうも【炎の亜神の加護】に加えて【戦乱の亜神の加護】まで所持しているんじゃないのか、とはいつの間にか横に来ていたゴブ爺の言。
実際その通りで、試しに腕を軽く叩いてみたら、ガツンガツンと金属のような手応えがあった。
二柱の加護持ちって凄いの? とゴブ爺に聞いたら珍しいと言えば珍しいが、お前さん程じゃないって言われました。
ああ、さいですか。
そして午前訓練の際ゴブ吉くんが組み手しようぜ、とオーガだけど何処か愛嬌のある笑みを浮かべて言ってきたのでやりました。
感想、ゴブ吉くん強くなり過ぎ。
身長は約二メートル八〇センチと俺より三〇センチほど大きく、赤銅の皮膚と筋骨隆々な肉体は、アビリティ無しの素のスペックでは膂力や耐久力などが俺を軽く超えていた。
俺も【吸喰能力】で肉体の能力も向上してる上に希少種だから、オーガ亜種なゴブ吉くんには負けてないと思ったんだが、どうやら能力構成の振り分けで負けたようだ。
俺は筋力やら体力やら耐久やら知能やらの能力にポイントを全部均等に振り分けている万能型だとすると、ゴブ吉くんは戦闘に関係する項目に集中して振り分けている特攻タイプである、と言えば分かり易いだろうか。見た目からして、俺とは筋肉量が明らかに違うし。
とは言え、まだまだ体術などの格闘技術は俺が優っていたので勝ちはした。かなりギリギリな勝負だったが、ゴブ吉くんは好敵手であるのは間違いなく。
216
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
強くてニューサーガ
阿部正行
ファンタジー
人族と魔族が争い続ける世界で魔王が大侵攻と言われる総攻撃を仕掛けてきた。
滅びかける人族が最後の賭けとも言うべき反撃をする。
激闘の末、ほとんど相撃ちで魔王を倒した人族の魔法剣士カイル。
自らの命も消えかけ、後悔のなか死を迎えようとしている時ふと目に入ったのは赤い宝石。
次に気づいたときは滅んだはずの故郷の自分の部屋。
そして死んだはずの人たちとの再会…… イベント戦闘で全て負け、選択肢を全て間違え最終決戦で仲間全員が死に限りなくバッドエンドに近いエンディングを迎えてしまった主人公がもう一度やり直す時、一体どんな結末を迎えるのか? 強くてニューゲームファンタジー!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。

