Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐

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1巻

1-14

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 組み手を終え、ガッチリと握手を交わし、目と目で語り合う。最初は捨て駒として仲間に引きずり込んだゴブ吉くんがココまで成長するとは、ハッキリ言って予想外だ。今では俺の右腕のポジションを独占してるし、既に心友として、居なくてはならない存在である。
 ランクアップしたお祝いとして、ゴブ吉くんの装備も整えていく。
 主武装メインアームは変わらず巨大な戦斧型のマジックアイテム【魔焼の断頭斧】。数十キロはある斧なのだが、ホブゴブリンの時には両手で持たねば重過ぎて扱いきれなかったそれを、オーガに成ったことで片手で操れるようになったので、再び盾を装備する事に。
 贈った盾は【黒鬼の俎板まないた】という名称の、無骨で分厚い黒星鉄製の城壁のようなタワーシールドだ。戦斧と同じくベルベットの遺産であるマジックアイテムの一つで、ランクは斧と同じく【遺物エンシェント】級。
 その能力は【重量軽減】と【突破困難】に【衝撃反射】という非常に手堅い仕様だ。ゴブ吉くんがコレを装備すると、俺でも突破するのにかなり苦労するだろう。
 防具は俺の糸やらゴブ吉くんが狩ってきたハインドベアー等々の素材と、コレまたベルベットの遺産の一つである【固有ユニーク】級の金属鎧の一部を流用し、ゴブ吉くんに合わせてカスタマイズしたモノだ。
 うん、凄い迫力である。というか、凄まじい迫力である。
 巨大な両刃の両手持ち戦斧を片手で木の枝のように軽々と、それでいて熟練した戦士のように巧みに扱うその姿。
 巨大な身体の四分の三ほどを隠す黒く巨大でかつ強固なタワーシールドが、敵の攻撃のことごとくを阻む様が容易に思い浮かぶ。幾つか補助として持っているマジックアイテムに、レッドベアーとまではいかないものの相応に丈夫なハインドベアーの毛皮とマジックアイテムの鎧を複合して製造されたロングコート装備の大鬼オーガ亜種とか、俺が人間だったら、あまり遭遇したくはない存在になってしまった。
 フル装備なゴブ吉くんの迫力は、オーガになったばかりの俺よりも間違いなく上だろう。装備云々があるとはいえ、凄まじいモノがある。まあ、自分の事なので比べ難いってのもあるが。
 しかしそれにしても、どこの重機兵だ、と小一時間ほど問い詰めたくなる姿だ。
 眼前にすると今の俺でも見上げるのだから、普通の人間からすればどう見えるのか。想像するのは簡単だろう。
 この日は内部の雑用をやって過ごしました。
 エルフ達は、まだ欲望に屈することなく牢屋の中。プライドが生物としての欲望を抑えているのか、もしくは欲望自体が種族的に薄いから対抗できているのか、もしくはその両方なのだろうか。
 だから、ゴブ爺。いちいちたぎらせながら来るなと小一時間……


《五十日目》

 夢を見た。それもかなり不思議な夢だったような気がする。
 何だかどっかで見た事のある老人に、『すま――謝――』『――を頼む』『これはせ――プレゼ――』などと、何かを言われたような、そうでないような。
 目が覚めてから時間が経つと普通の夢と変わらず詳細は忘れてしまったのだが、コレは凄く重要な事であると思えてならない。
 俗に言う、フラグ的な何かではないだろうか?
 何だったんだろうかと詳細を思いだすべく小首を傾げるが、やはり思いだせない。薄いもやのようなものがかかっている様な感じがする。思いだせないのではなく、思いだせなくされているような、微妙な違和感がある。
 まあいいかと気分を切り替え、今日の午前中はゴブ吉くんと組み手をしたり、午後は二時間ほどゴブ美ちゃんとバディーを組んでハンティングに出かけ、外でちょいとイチャついてみたりした。
 その後は鍛冶とか料理とかを学ばせている後方支援部隊《プレジャー》に所属しているゴブリン達の様子を見学したりして時間を過ごし、夜も皆で楽しんでぐっすり寝ました。


[ゴブ朗は【■■■の眷属】を手に入れた!!]

 あれ? 眠る直前に、何か、表示された様な……
 浮かぶ疑問。だが俺の意識はそれを考える前に眠りの闇に埋没した。


《五十一日目》

 目が覚めると新しいホブゴブリンが四ゴブ増えて総数十二になっていた。
 しかも四ゴブの内一ゴブはメイジの素質があり、さらに一ゴブはクレリックの適性持ちだった。
 今まで大きな怪我は基本的に俺が治していたので、他者を治療する能力を持つクレリックが増えたのは正直言ってありがたい。一度に大勢の怪我人がでた場合は手遅れになる可能性も捨てきれないのだから。
 そんな訳で、ホブゴブリン・クレリックになったゴブくんを隊長とした医療部隊《プレアー》を新設した。
 今の所はゴブ治くんしか隊員はいないが、今回のゴブ治くんに引っ張られる形で他にもクレリックとなる個体が出てくるかもしれない、と期待しつつ。
 ちなみに『あれ? ホブゴブリンの数が少なくない?』と思うかもしれないが、数はこれで間違っていない。
 ゴブ美ちゃんにゴブ江ちゃん、ホブ里さんに奴隷兼部下な五ゴブの計八ゴブに今回の四ゴブが加わったのだから、数は十二なのだ。簡単な足し算だな。
 名前を出さなかったホブ星さんだが、今日目が覚めると【存在進化ランクアップ】していた。本人によると、数年ぶりの事だそうだ。
 ホブ星さんがランクアップして成った種族は、【鬼人ロード】系種の一つに数えられる【半魔導鬼ハーフ・スペルロード】。
 ホブ星さんが今回の数に入ってなかったのは、そんな理由があったからだ。
 半魔導鬼ハーフ・スペルロードについてだが、どうやら中鬼ホブゴブリンから大鬼オーガになるという一般的なルートではなくて、メイジ系のモンスターが低確率だが魔術行使に特化したルートに進むと成れる種族だそうな。
 魔術を得意とするホブ星さんらしいと言えばらしいと言えるだろう。自分の長所を生かす種族になるのは良い事だ。ただ特化型であるが故に身体能力は他の鬼人ロード系よりも大幅に低いそうだが、そもそも魔術は遠距離から一方的に敵をなぶる技法である。
 ほとんど肉弾戦を行わない魔術行使に特化した種族になったのだから、別に問題ないそうな。
 半魔導鬼となったホブ星さんの見た目は、額に二本の小さな角を生やした人間のようだった。
 ホブ星さんだけしか見た事が無いので個体差があるのかもしれないが、容姿からパッと見で推察できる年齢は二十代前半から後半の間程度で、可愛い、と言うよりも錬金術師さんのようにスーツが似合いそうな知的クール系の美人である。
 生気の抜けた青白い肌、ややつり目な知性を帯びた緑色の瞳、額の中心部には双角に挟まれた状態で直径三センチほどの丸い蒼玉サファイヤのような珠が埋まっていて、腰まで伸びた灰色の長髪と、両腕の前腕部に刻まれている俺と同じような紋様だが微妙に違う黒い刺青が特徴的だ。身長は目測で一八〇センチほどだろうか。
 本人が言うには腕の刺青は本来無いはずのモノらしいが、何故あるのか分からないそうだ。ただ、そこから力が漲る感覚がして、悪い気分では無いそうだ。
 ゴブ吉くんのように何かしらの【亜神の加護】持ちなのかどうか聞いてみたが、それは否定された。そんなモノは持っていないらしい。
 ふむ、謎である。まあ、これも追々判明する事に期待して。
 そしてゴブ爺が補足として、〝ハーフ〟と種族名の前につく場合は、本来の種族――今回は魔導鬼スペルロードだ――よりも全体的なスペックが劣っているのだ、と教えてくれた。
 まあ、ハーフだからそうだろうとは以前から思っていたけど。ハーフがどういったモノか分からない人は、大鬼オーガ中鬼ホブゴブリンのような関係だと思っておけばいいだろう。それに成る一歩前という意味だ。
 今度ランクアップすれば正式に魔導鬼になるそうだし。
 その後、半魔導鬼になってどの程度能力が向上したのか確認を、という流れで外にて魔術を実演してもらったら、うん、凄かった。いや、凄まじかった。
 ホブ星さんが扱える魔術の中に、〝炎禍の嵐群シャル・ダイ・ディロウ〟と呼ばれる炎熱系統第二階梯魔術に分類される魔術がある。
 今までにチラホラと第一階梯魔術などと言ってきたが、丁度いいので今回詳しく説明しようと思う。
 魔術は一般的に発動難易度やその破壊力、呪文解放レベル制限などにより、最低ランクである第一階梯から最高ランクの第十階梯まで、十のランクで【神】が全て定めている、らしい。
 アビリティでもちょくちょく【なんたらの亜神】などとあったように、この世界には俺達の一つ上の領域に立つ存在――【神】が実在する。
 ちなみに実際に神々と会える場所――〝聖域〟も世界には幾つか点在するそうだ。
 まあ神様うんぬんは一旦置いといて、話を戻そう。
 今回ホブ星さんが使ってくれた炎熱系統第二階梯魔術〝炎禍の嵐群シャル・ダイ・ディロウ〟は、十段階の中で下から二番目の魔術、と聞くと簡単で弱そうなモノに思えるかもしれないが、それは誤りだ。
 最低ランクである第一階梯の魔術を扱えるだけでも、人を数人纏めて容易く殺傷できる。
 炎熱系統第一階梯魔術〝炎禍シャル・ロウ〟で放つ一発の炎球でさえ、ヒト数人分を容易く焼死させられる。
 ちなみに以前俺の顔に直撃した雷光系統魔術は第三階梯の魔術だ。本当ならオーガクラスのモンスターでも一発で肉体全てを消し飛ばせる程の破壊力を秘めていた。
 俺の場合はアビリティでその威力を激減させていたのでそういった事にはならなかったが、それでもアレは痛かったなぁ……
 それと、第五階梯の魔術が扱えるのならば街一つを単騎で燃やす事もできるらしい。


 そこまで行くとまさに〝一騎当千〟の化物で、赤髪ショートもそれと同じかそれ以上の事ができる人物を話だけだが何人かは知っているそうだ。
 ……喰えばどんなアビリティを獲得できるのだろうか? 以前殺して喰った高位魔術師ハイ・ウィザードは最高で第三階梯までしか行使できなかったようなので、想像するだけで楽しみだ。
 そんな機会があるかどうか分からんが、想像するだけだからいいだろう。
 話を〝炎禍の嵐群〟に戻すが、かつてホブ星さんが駆使した〝炎禍の嵐群〟は直径一〇センチ、総数五発の火炎弾を連続射出する広域破壊系の魔術だった。
 ただホブ星さんでは発動するのにかなりの集中と長い詠唱時間を必要とし、しかも一度使用すれば数日間は上手く魔術が行使できないようになる、等の反動リスクがあった。
 だがそのリスクと引き換えにするだけの破壊力がある、奥の手の一つだった、のだが。


 ランクアップした現在は、そんな昔とは比べ物にならない魔術に変化していた。
〝炎禍の嵐群〟を発動させるのに要する時間――呪文詠唱時間が以前の五分の一程度にまで短縮されていたばかりか、撃ち出される火炎弾は直径三五センチ、総数二十発と強化されていたのだ。
 その上発動させても大した疲労感はないようだし、体内魔力オド量的にもまだまだ余裕があるそうで、あと二十回は連続使用したとしても以前のような強い反動はないらしい。
 さらにそれよりも強力な魔術を扱えるようになったそうだし。
 流石魔術特化な種族だと言うよりないだろう。
 ちなみに、全て空に向かって撃ち上げられてます。地面に撃つと後処理が非常に大変だから、そうするしかなかったのだ。
 それにしても、これでもまだ半端者ハーフだと言うのだから、魔導鬼スペルロードが扱う魔術はどれほど凄いのだろうか。どうもこの世界の情報が少な過ぎて、上限が不明なのは怖い所だ。
存在進化ランクアップ】したお祝いとして、四ゴブにはこれまで通りにそれぞれ二つのマジックアイテムを贈る。
 ホブ星さんにはベルベットの遺産の一つの、【体内魔力増幅オド・アンプリフィケーション】や【物理・魔法攻撃耐性】など幾つか優れた特殊効果を発揮する白銀と金糸と赤い聖骸布で製造されたらしい【神迷遺産アーティファクト】の【遺物エンシェント】級ローブ【杯福ノ骸はいふくのむくろ】を一着。
 それに以前ベルベットのダンジョンで殺した【職業・高位魔術師ハイ・ウィザード】持ちの冒険者な青年が所持していた、古代樹の杖に魔法石なる赤い宝石がめこまれた魔杖【アランノートの杖】をプレゼント。
 それと普段は邪魔になる魔杖や小道具等を収納する能力を持つ腕輪タイプのマジックアイテムも、ゴブ吉くんと同じく渡しておく。
 今回の武器更新によって今までホブ星さんが使っていた装備――魔杖と灰色のローブだ――は、ホブ星さんの部隊に所属させた弟子のメイジ二ゴブに贈られました。
 さて、今回は最近分かってきた事でも呟こうかと思う。
 どうやら俺と同年代だったゴブリン達の成長率――もしくは経験値吸収能力――は、普通では考えられない程に高いようだ。それは森の外に出る前にホブゴブリンが量産されている事が証明している。
 ゴブ爺にも以前言われた事だが、普通、ゴブリンがホブゴブリンになるのには年単位の月日が必要だ。しかし現在の集落は、【存在進化】する者があり得ない程に多い。
 こうなった原因は、俺であるのは間違いないだろう。
 それでちょっと考えてみたのだが、恐らくゴブリンは生後一ヶ月かそこらの生活環境によって今後の成長率が変化するのではないだろうか。ほら、ゴブリンは種族的に身体の成長が早いのだから、能力の成長期も他より早くにくる、そんな仮説だ。伸び盛りに伸ばす、と言えばいいのか? 
 産まれてから一ヶ月以内に自分と同等かそれ以上の生物を多数殺して喰う、過酷な訓練を産まれてから繰り返し行う、など普通のゴブリンではできないような特異的行動をする事によって、成長率は大きく変化する、とか。
 普通の一般的なゴブリンの成長率を一とすると、俺達のように殺して喰って腹一杯で厳しい訓練を続けているゴブリンは成長率が十である、というような感じで。
 確証は全くないが、しかしその可能性は非常に高いと思われる。そうでなくては納得できる理由が無いのだし。
 それに、俺の【群友統括】などもそれを補助アシストしている可能性が高い。 
 このアビリティ、配下の能力を底上げする効果があるのは以前にも言ったが、効果発動の条件を満たす為にそれぞれの部隊のコンセプトに合わせ、個々の性格や能力的な事などを考えてそこが最も適正だと判断した個体を選抜し、配属させている。
 その為【群友統括】が効果的に発動され、普通よりもさらに強くなり易くなっているのではないだろうか。
 まあ、そんなこんなで強い仲間が増えるのは歓迎するべき事だし、まだハッキリと解明できていないのでこの話はここまでとしよう。
 ただ、ランクアップしてオーガとかに成った場合、そこら辺は今後どうなるのか要調査だな。特に寿命とかは調べにゃならん。
 オーガがゴブリンよりも短命とかだったら、流石にやるせない。
 それから捕虜とした十七名のエルフだが、十人居た男の内三名と、七名居た女の内一名は肉欲に屈服した。
 俺には既にゴブ美ちゃん達が居たが、エルフの生態がどうなっているのか気になったので、彼女の最初の相手は俺が担当した。
 とりあえず、できるだけ相手が痛くない様には気を使ったつもりである、とは言っておく。しかし失神させ過ぎた感が否めない。
 いや、うん、凄かったんだ。何がとは言わないけど。美人が積極的だったからとか言うつもりも無い。
 ただ多対一ではさせていない。基本はあくまでも一対一。
 プライドの高いエルフなのだから嫌々していると思うかもしれんが、薬のたかぶりを我慢した反動か、大変嬉しそうに喘いでいます。幸せそうだから外野が口を挟む事ではないか? と思っている。
 もしくはこうなるのは運命だったんだ、と諦めてもらう他ない。
 彼・彼女達は大切に扱う様に言い含めているので、と言うか普段は下位のゴブリン達以上に快適な生活環境にあるので決して悪いモノでは無く、以前の女性達のようにボロボロになって死んでしまう事は無い、筈だ。
 そこら辺は前科のあるゴブ爺に特に言い聞かせているので、率先して行動に移しているから大丈夫だろう。
 最後になったが、起きたら得ていた【■■■の眷属】の話をちょっとしよう。
 うん、これ全く使い方が分からんのだ。と言うかどんな効果があるのかさえ現状では不明である。最初の文字が見えないので、推測する事すら不可能である。
 誰か教えてくれ、と言いたい気分だ。
 眷属ってんだから、何かしらが俺に干渉しているのだとは思うのだが……
 自分でラーニングしたアビリティならその使い方は概ね理解できているのだが、このアビリティは多分この世界の法則に則って得たモノなので、うん、分かりません。
 解析する事は今の所諦めている。


《五十二日目》

 ゴブ吉くんと今日も朝からハンティングに出掛け、夕方になる頃にはヨロイタヌキやトリプルホーンホースなど大量の成果を確保した。
 これ等を姉妹さん達に調理してもらえば、今夜も美味い飯が喰えるぞと思っていたら、その前にイべントが発生した。
 帰り道に、ゴブリンと遭遇したのだ。それも知らない顔ではない。年上ゴブリン組でも、かつては上位のメンバーだった六ゴブである。
 ただし現在では赤髪ショート達を担いでいた下っ端ゴブリン達にさえ実力が追い抜かれた、訓練についてこれずに落ちこぼれとなっている奴らだ。
 下っ端扱いされていたゴブリン達は比較的若く、訓練によって多少なりとも伸びる可能性を見せ、結果的に彼らを追い抜いたという今はどうでもいい裏話がある。
 さて置き、そんなゴブリン達に『こんな所で何してんだ』と言おうとして、年上ゴブリン達が何か焦っていたのでジーと無言で見つめながら観察していると、観念したのかあるいは耐えきれなくなったのか、その中でも一番腕の立つゴブリンが言った。
 曰く、俺にはついて行けないんだと。
 以前のように捕まえてきた女を無理やり抱けなくなっただけでも辛いのに、日々の過酷な訓練にはもう耐えきれない。それでも何か機会があるかと思って我慢していたが、エルフの女を捕虜とした事でどうしても我慢できなくなった。
 エルフの女達を抱く事は自分達の立場では不可能で、女エルフの極上の身体に一生届かないだろう現状はどうしようもなく、歯痒い。
 生殺しにも程がある。極上の料理が目の前にあるのに、自分達以外の奴らだけがそれを喰える環境など、どうしろというのだ。
 だから、出ていく。つまり、群れから離反するのだそうだ。
 そこまで言って、彼らは震えながら押し黙った。
 殺される、そう思ったのかもしれない。
 俺としては、ああついに出たか、という想定された話でしかなかった。
 現段階のこのゴブリン達だと、従わないのにこのまま留めておく必要は特にないので、俺としても出ていくのなら、そうか、と言う感じだったりする。
 これがゴブ吉くんとかだったら引きとめただろうが、こいつ等だしなぁー。という事だ。
 俺はルールを厳守させるが、それが気にくわないので出て行きます、という奴は今の所どうにかしようとは思っていない。出て行きたいのなら行けばいい。
 ただ何かしらの違反をし、逃げるように出て行こうとした奴等は別だ。その場合は何があろうと追走し、殺して喰ってやるつもりである。
 だけど今回はそうではないし、それに今は数を増やす事よりも個々の能力を高める事を目的としている事も大きい。
 これは無駄に足手まといの数を増やすよりも、ある程度実力のある状態で仲間を増やした方が今後を考えれば良いのではないか、と思ったからだ。
 だから、現段階で既に挫折してしまった奴を無理やり置いておくつもりはない。才能が無くとも努力しようとする者には手を差し伸べるつもりではあるのだが、この六ゴブは諦め、出て行く事を既に選択している。
 だから引き止める事はしないし、だからと言ってココで殺そうとも思わない。
 とはいえ、情報が漏洩しないように多少の細工は施さねばなるまい。
 小刻みに震え、緊張した表情でコチラを見上げる年上ゴブリン達を観察し、現在の武装は俺が統一して配給したモノで、ランクで言えば最低から一段階上とされる【通常ノーマル】級ばかりだ。
【通常】級の武具と、幾つかの【希少レア】級の品が放り込まれている武器庫の品に手は出さず、配給された武装だけを手に黙って出て行こうとしたらしい。
 武器庫の品に手を出せば殺されると思ったからに違いない。それは正しい判断だった。
 話を戻すが、ゴブリンの武装としては良い物ではあるのだが、実力が飛び抜けて高くはない彼らが数の利を捨てて今後生きていくには、非常に心もとない武装であるのは確かだ。
 俺としても、まあ、餞別くらいは贈って見送るのが情けだろうと考える。と言う事で、アイテムボックスから六本のナイフを取り出した。
 これはベルベットの遺産の一つであり、刀身は青い銀――鑑定した結果、祝青銀ミスラルと呼ばれる魔法金属製らしい――で作られたナイフは、ただのゴブリンが所持するにはあまりにも破格なシロモノである。
 ナイフに特殊な能力は備わっていないが、その切れ味は現在装備している鋼鉄製のショートソードとは比較にならない。ミスラルの刃は鋼鉄製のショートソードぐらいなら刃毀れする事無く容易く切断できる、と言えば分かり易いだろうか。
 エルフだけが製造する技術を持つというミスラル製のナイフは、冒険者でもそうそう得られない希少レア物だそうだ。
 そのミスラルナイフの切れ味を見せる様に、俺は自分の指先を浅く切って数滴ほど血を流してから、鞘に収めてゴブリン達に渡す。
 呆けた表情で立ち尽くす年上ゴブリン達。それに苦笑しつつ、俺とゴブ吉くんはその存在を二度と振り返る事無く、帰還するのであった。
 彼らとは縁があったら出逢うかもしれないが、その前に高確率でミスラルナイフ目当ての冒険者達に殺されるだろう。身の丈にあわない財宝は、破滅を呼び込むと相場が決まっている。
 彼等の今後の頑張りを祈ろう。
 最後に、今回の重要ポイントは血を流した所だ、とだけ言っておく。


《五十三日目》

 今日は一人で未踏破地区を散策していると、久しぶりにオークを見つけた。オークは拠点を得る際に殺してから今まで一度も見かけなかったので久しぶり感がある。相変わらずの豚面はどこか懐かしく、オーク肉の美味さが俺の中で蘇った。
 出逢ったのならば仕方ない、早速狩って喰いますか、と思って近づくと、遠くからでは視認できなかったが、オークが頭部を陥没させた死体――人間の青年で、歳は二十前後といった所か――を引き摺っている事に気が付いた。
 青年はボロボロの革鎧を纏い、全身血塗れの傷だらけで、腰に剣の無い鞘がある。
 得られた情報を纏めると、どうやら冒険者が森に入り、オークに返り討ちにされ、その死体を持ち帰られているようだ。
 まさに弱肉強食。弱かったが故に肉になってしまった青年の冥福を祈り、まだ俺に気が付いていないオークを問答無用で強襲した。
 背後から近づいてオークを一撃で殺害してアイテムボックスにその死体を収納し、青年の死体を放置するのは忍びないので頭部と心臓を喰ってから燃やす事に。


[能力名【職業・魔獣飼いモンスターテイマー】のラーニング完了]

 どうやら青年は【魔獣飼い】を持っていたらしい。が、オーク程度のモンスターに殺されるくらいだから才能は乏しかったようである。【職業】を得ても、才能とかレベルとか色々考えねばならない部分もあるのだな、と俺は一つ教訓を得て帰還した。


 あ、捕まえたエルフはさらに男二名に女二名が自分から求めるようになりました。ただ、今回はその気はなかったが、最初はトップからってな暗黙のルールができていたようなので、その流れに身を任せた。
 一度エルフを経験していたので、最初の時のように激しくなる事はなかった。


《五十四日目》

 今日は午前訓練を終えた後、皆に食料調達やら会場のセッティングやらの役割を与えて実行した。というのも、俺が単純に宴会をしたくなったからだ。
 そう思ったのは昨夜、錬金術師さんがとある成果を出してくれた事にある。
 何と錬金術師さん、木の実などから簡単な酒を造ってしまったのである。俺の大好きな酒を、だ。
 話を聞き、俺は即座にその酒を試飲させてもらったが、『美味い』と絶賛できるほどではないものの、十分酒と呼べるシロモノだった。酒は、ベルベットとリターナを送る際に飲んだぶりである。
 だからこそ、宴会だ。
 そして夜、多くの料理が並び、酒が振舞われた。量が少ないので浴びるほどは飲めないが、それでも十分だった。
 うむ、なかなかいい一日だった。


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