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しおりを挟む《五十五日目》
昨日は宴会の席にて離反したゴブリン達の事を聞かれたので、状況を説明。
他にも出ていきたい奴が居たら何時でも出て行ってもいいから報告するように、その時には餞別をやるから、といった事に加え、俺の方針を色々教えておいたが、結局誰も名乗りでなかった。
まあ、それならそれでいいか、って事で今日は抜けたゴブリン達によって変化した序列の微調整を手早く終わらせ、ハンティングに出かける。
それから帰ってくると、以前から考えていたとある品の製作作業に費やした。
《五十六日目》
朝、昨日から徹夜で製作していた自作の通信機達が全て完成した。
何の事か分からないと思うので、簡単に製作作業を纏めると以下のようになる。
まずベルベットの遺産の一つであるミスラルの塊を銀腕の能力の一つである【自己進化】を使って取り込む。
次いで取り込んだミスラルを希釈したモノを指先から絞り出して青銀のイヤーカフスを作成。
それが終わったら指先を小さく切り裂いて血を数滴流し、赤く小さな分体を生成。
分体を宝石に見立てて装飾とし、青銀のイヤーカフスに嵌めこむ。
その後エンチャントし、という工程で通信機の完成、となった。
要するに、【自己分体生成】の思考共有を活用した通信手段である。
赤髪ショート達から聞いた所によると、この世界にはまだ通信機が一般的に普及していないようなので、迅速な情報共有ができるこの手法は驚くべき効果を発揮してくれるに違いないと期待している。
しかしそれにしても、エンチャントするのに思ったよりも手間取ってしまった。
素材が素材だけに壊れる事こそなかったが、流石に三つの効果を付加しようとした時の成功確率の低さが面倒だった。
色々と苦労しながら完成させたイヤーカフスを全員に支給する。
この通信機イヤーカフスは肉と融合してしまうように細工したので一度装着すると俺でなくては肉を切らない限り取り外せない、でも装着している間は【持続再生】と【下級筋力増大】と【下級俊敏力増大】の三つが発動するようになってるから気にするな、と説明しつつ。
個々の着け心地を聞きながら微調整を施し、終わった時には疲れたので寝た。
夕方になって目を覚まし、適当に狩りをして再び寝所に。
昼に寝過ぎて寝つけずにいたら、ゴブ美ちゃん達がきたのでそのまま熱い夜となってしまった。
《五十七日目》
ペットが欲しい。
折角【職業・魔獣飼い】があるのだから活用すべきだ。
そう思ったので、久しぶりに四ゴブで捕獲に出向く。
まず狙うのはブラックウルフの群れだ。狼なのだから、飼いならせば犬と同じように良きパートナーになってくれるだろう、多分。
それにブラックウルフはモンスターであるが故に見かけによらずパワーがあるので、上手く調教すれば騎獣とし、長距離の移動手段として活用できるだろうって打算もある。
しかし現実はそう簡単にはいかなかった。見つからないのだ、ブラックウルフが。
トリプルホーンホース五頭にハインドベアー三頭を捕獲したので今日は無駄ではなかったが、当初の目的が完遂できなかったのは少し悔しい。
ただ、ゴブ江ちゃんの活躍にはビックリさせられたものだ。
愛用のピッケル――ベルベットの遺産であるマジックアイテムの一つで、ただ単純に【破壊困難】の能力があるだけの【希少】級の品――一本を片手に、トリプルホーンホースを一人であそこまで圧倒するとは思わなかった。
うん、きっと趣味で培われた採掘技術がココで発揮されたのだろう。
上段からの一振りの速度と威力が尋常じゃなかったし。頭部に直撃を受けたトリプルホーンホースの巨体が、その角を根元から圧し折られ、頭部を起点に半回転して背中から地面に落ちるとは、流石に想像できなかった。
ゴブ吉くんやゴブ美ちゃんなどの陰に隠れてはいるが、ゴブ江ちゃんは同年代ゴブリンの四席なのだなぁ、と実感させられる。
この世界ではレベルなども重要だが、ただ一振りに凝縮される、足や腰など全身を使った技術の大切さが非常に良く理解できる一戦だったと言えるだろう。
ゴブ江ちゃんにボロクソにされたトリプルホーンホースは俺が【職業・魔獣飼い】によって《使い魔》と呼ばれる存在に――どうも脳の一部を書き換えるらしい。飼い主は最大で二名まで設定でき、主人とは念話で、大雑把な事に限定されるが会話可能なようだ。なにこれ便利過ぎる――すると、俺の次にゴブ江ちゃんに懐いたのでゴブ江ちゃん専用になった。
まだホブゴブリンなゴブ美ちゃんとホブ里さんはゴブ江ちゃんと同じくトリプルホーンホースを、俺とゴブ吉くん、あとホブ星さんはハインドベアーをそれぞれ《使い魔》とした。
残り一頭のトリプルホーンホースは、ホブゴブリンの中でも特に適性があったゴブ吉くんの部隊《アンガー》の副隊長に任せる事に。
そして夕方、エルフは男が三名に女が二名、新たに陥落しました。
そして以前と同じ行為を繰り返す。
うん、中々有意義な一日だった。
《五十八日目》
二日連続でブラックウルフを探しに行った。ただし今日は俺一人だ。
ゴブ吉くん達は昨日できたばかりの《使い魔》を乗りこなす訓練の最中なのだ。俺は前世で色々と経験していたので大した時間もかけずに乗れるようになった。
それに意思疎通ができたのも大きい。
一応乗り易い様にと手綱と鞍と鐙は糸と革で作っておいたので、ゴブ吉くん達も乗り心地に慣れれば問題は解消されるだろう。
しかしそれにしても、灰色熊に跨る武装した大鬼ってのは、色んな意味で凄い構成だな。これでハインドベアーにまで武装させたらどうなる事やら。非常に面白そうである。
今日は【気配察知】の索敵範囲にブラックウルフの気配が引っ掛かり、結果、八頭のブラックウルフと一頭のブラックウルフリーダーの捕獲に成功した。
ブラックウルフの走る速度や踏破力や体力などは非常に優れていたが、ハインドベアー程ではなかったのだ。まさかハインドベアーがこの巨体で木々の間をすり抜けるように疾走できるとは、流石の俺も思っていなかった。
ハインドベアーからは逃げられないと判断したのか逃げるのを止めて犬歯を剥き出しに、と最初は反抗的なブラックウルフ達だったが、アビリティを発動した状態で睨んでやると、まるで人懐っこい犬のように尻尾を振るようになったのには少々癒された。
その後、以前と同じようにブラックウルフ達の脳を弄って《使い魔》とし、拠点に帰還する。
今回はホブ里さん率いる軽武装部隊《ヘイトリッド》に所属するゴブリン達に八頭のブラックウルフを与えてみる。乗りこなすのはゴブ吉くん達と同様に苦戦していたが、今後の事を考えると頑張ってもらうよりあるまい。
俺は俺でハインドベアーのクマ次郎との仲を深めるべく色々と。
ちなみにブラックウルフリーダーのクロ三郎は、俺の愛狼になっていたりする。
二頭とも可愛いので癒された。
赤髪ショートや錬金術師さん達に撫でられ気持ち良さそうにする様子からは、以前の迫力は全く見受けられなかった。
そうだな、今後は鍛冶師さん達のボディーガード役として《使い魔》を増やすのもいいだろう。
そして残るエルフの男二名に女二名が屈しました。最後まで抗ったのは例の護衛な二名だった。
今まで通り優しくやったとだけ。いや、ちょっと激しかったかもしれぬ。
《五十九日目》
クマ次郎の上に赤髪ショートと共に乗り、その横を歩くクロ三郎という奇妙なパーティーで森の未踏破区画を散策中。
最近では戦闘技術も上達してきた赤髪ショートだが、いかんせん生物を殺していないので経験値がそれほど入っていない。
つまりはレベルが変化していないのだ。筋力などは日々の訓練で上がってはいるようだが、レベル上昇時に比べれば本当に些細なモノでしか無い。
ちなみに赤髪ショートの今のレベルは〝18〟。ハインドベアー狩りの時にレベルを〝18〟ほど上げたのはいいモノの、ハッキリ言って雑魚過ぎる。
このレベルの強化具合では普通のゴブリンの肉体能力にすら劣るのだ。
そんな訳で、世界の不思議パワーによってハンティングに出かけては日々レベルを上げてステータスを向上させていく周囲のゴブリン達相手に、赤髪ショートは技術の小細工云々ではどうしても勝てなくなってきていた。
それを改善すべく、今回のハンティングが行われるのである。
赤髪ショートの装備だが、大したモノは持たせていない。未熟な内に性能のよい武装を渡しても自分の実力を勘違いする可能性が大きいので、今回はマジックアイテムの類は一切持たせていない。
主武装は鋼鉄製のククリ刀が一本、副武装として円形柄短剣を三本。そして身を守る為の甲殻補強したラウンドシールド、とゴブリン一般兵クラスに支給されている【通常】級の武器。
防具は姉妹さん達がハインドベアーの毛皮と俺の糸で製作してくれた普段着の上に、胸当てと灰色のクロークを装着。前腕には鋼鉄の籠手、脚部には鋼鉄の大腿甲、鋼鉄の膝当て、鋼鉄の脛当て、鋼鉄の鉄靴と見た目的には重量感タップリだが、俺がそれぞれ軽量化のエンチャントを施しているので、実際の重量的には大したことは無い。
それ故に赤髪ショートの動きは軽快だ。
赤髪ショートの最初の獲物はヨロイタヌキだった。
背面の甲殻の守りには少々手古摺っていたが、【職業・戦士】による戦闘補正か、もしくは訓練の成果か、またはその両方なのかはともかくとして、赤髪ショートはヨロイタヌキを解体する事に成功。
その肉はクロ三郎に喰わせました。
次の獲物はナイトバイパーが三匹だった。その眼光にやや怯みつつも、冷静に動きを見極めてラウンドシールドで攻撃を防ぎ、その首を刎ねる事に成功。
その肉はクマ次郎に喰わせました。
その次はコボルドが三体だった。
俺が手早く二体を糸で捕獲し、一対一で戦える状況を作り出す。残された一体は逃げ場無しと判断したのか、赤髪ショートに狙いを定め、真正面から戦いを挑んだ。
身体能力的にはモンスターであるコボルドの方が優勢だったが、日々ゴブリン達と訓練をして培った戦闘技術が身体能力の差を埋めた。
コボルドの斬撃を時に潜り抜け、時に防ぎと、赤髪ショートは大した怪我を負う事も無く、最後には頸を切り落としてみせた。
しばらくの休憩の後、体力がある程度回復したのを確認してから捉えていた内の一体を解放。逃がすのではなく、赤髪ショートと戦わせる為に。
今度は若干怪我しながらだったが、またも赤髪ショートはコボルドの身体を切り裂いた。
残る最後のコボルドだが、戦わせる前にコボルド族の集落の場所を聞きだしてみる。
そして脅した結果、教えてくれた。
機会があれば行ってみるかと思いつつ、多少体力が自然回復した赤髪ショートが『次お願い』と言ってきたので解放する。
そして最後のコボルドは前の二匹よりも善戦したが、最後は赤髪ショートの今日一番鋭く迸った一閃によって頸を斬られて死に絶える事に。
赤髪ショートの怪我や疲労を全快させた後、クマ次郎とクロ三郎にコボルドの肉を一体分まるまる喰わせてやる。
残る最後に戦った一体のコボルド肉を俺がボリボリと喰おうとしたその時、赤髪ショートもコボルドの肉を食べてみたいと言ってきたので、焼肉にして一緒に食べました。
しかしそれにしても、赤髪ショートの適合力が半端じゃないなと再認識。モンスターの肉を喰う事に躊躇がなくなってくるとか、凄いと思わざるを得ない。
まあ、〝喰う〟という行為については俺が言える事じゃないけど。金属だろうと生だろうと大抵は何でもいけるし。
うん。今後とも俺についてくるのなら、赤髪ショートくらいの胆力があった方が良い。
[能力名【山岳踏破】のラーニング完了]
さて次の獲物は……と思っていると、赤髪ショートが俺の裾を引っ張った。
どした? と思って見下ろすと、蒼玉のようだった双眸、それが今は鈍い赤色に変色していたのである。しかも円形ではなく四角く黒い瞳孔は、まるでモンスターのそれに似ていた。
しかしモンスターのそれとは別モノのようにも思えた。
禍々しい、と言うよりは、何か奇妙な寒気を感じる瞳なのだ。
どうも、新しい【職業】を獲得したらしい。コボルドを喰ったからか、もしくはゴブリン達と訓練していたからか。
それは置いといて。話を聞いてみる。
赤髪ショートが得た新しい【職業】は、【職業・魔喰の戦士】と言うそうだ。
【職業・戦士】持ちがモンスターとの親和性を大きく高めた後、自分で殺したモンスターの肉を喰うという条件をクリアすると、一定の確率で得られる結構希少な【職業】なのだとか。
これも例の如く俺が主な原因だろうな。後悔とか全くないので何とも思わないが。
この新しい【職業】を得た赤髪ショートの戦闘能力は飛躍的に高まる事となる。
【職業・魔喰の戦士】は定期的にモンスターの肉や血液など、とりあえずモンスターの一部を一定間隔で摂取しなければ身体が急速に衰えてやがては死んでしまうという相応の制約があるそうなのだが、その戦闘能力向上率は目を見張るモノがあった。
凄い凄いと笑いながらアカシカの双角の攻撃を受け流し、横っ腹を蹴り上げて身体を浮かせ、筋肉に覆われて分厚い頸をククリ刀でズパンと斬り飛ばす赤髪ショートは、どこか可愛かった。
角は回収し、肉は仲良く分け合って喰いました。
[能力名【双角乱舞】のラーニング完了]
[能力名【紅水晶の調】のラーニング完了]
その後も色々と狩りを行い。
夕暮れ時、赤髪ショートとちょっと寄り道してから帰った。
赤髪ショートの新職業【職業・魔喰の戦士】は、俺の一部を取り込んだ時が最も大きく能力が上昇する事が確認された。
この事から、より強いモンスターを取り込む程強くなり易いのだろう。恐らく、とはつくが。
ちなみに何を取り込んだとかは内緒の方向で。
今日のハンティングで赤髪ショートはレベル34となり、飛躍的上昇を見せたのであった。
《六十日目》
【気配察知】に感あり。
今は夜の二時だというのに、元気過ぎるだろと言いたくなった。
最近ではかなり広域まで察知できる様になってきていたので、以前のように常時発動させていると、今回のように寝ている時でも叩き起こされてしまうので、非常に煩わしい事になる。
そんな訳で【敵性感知】に引っかかった奴だけを拾うようにしていたのだが、今回察知できた相手の数がやたらと多かった。夜だというのにもかかわらずだ。
一瞬人間が攻めてきたのか? とも思ったが、それはあり得ないと結論付ける。闇夜の森はモンスターの領域だ。人間達が攻めてくるには、あまりにも不利な環境である。
ならば何か。それは即座に判明した。
脳内地図と気配察知の両アビリティによって構築される位置情報に表示された種族名が、コボルドだったからだ。
あれ、ついに復讐しにきたのか? とも思ったが、それも違うかもしれない。
五十三の赤点で脳内地図に表示されているコボルド達、それを追走するように在る三十八の青点。そして最も遠い場所に周囲よりも若干大きな灰色の点が一つあるのだが、同一の種族は同じ色合いで表示されるので、つまりは三つの種族が居るという事になる。
青点と灰色の点が何なのかは今の所不明だが、確実に言える事は青点に接触した赤点――コボルド達の数がどんどん減っていくという事だ。
どうも、コボルド達は何かに襲われているらしい。
だがこの程度ならよくあることだと無視できる。
しかし問題なのは、コボルド達は数を減らしながらも真っ直ぐこの洞窟に向かっているという事だ。
厄介事が飛び込んでくるとか勘弁してもらいたいのだが、全く止まる気配が無いので全員を叩き起こし、迎撃態勢を整えて敵を待ち受ける事に。
コボルドは何時でも殺せるので、現状の敵は青点と灰色の点で表示された存在だと認定。
しばらくして、数が三十六と大幅に減ってしまったコボルド達が必死の形相で飛び込んできた。コボルドは今まで喰ってきたような雄だけでなく、雌や子供、老人まで居るようだ。
武装した雄のコボルド達は最後尾で青点――剣と盾と鎧で武装した白骨、と表現するのが適正なモンスター〝骸骨兵士〟達の攻撃を必死に喰い止めていた。
…………
しばらくの間、言葉を失った。
リターナが居たからダンジョン内では一体も見かけず、実物見たのはこれが初めてなんだけど、どう見たって骸骨兵士なこいつ等はベルベットのダンジョンを守護する魔法生物ではなかったのか?
それが何故こんな所にいるのか……あ、コボルドが一体斬られた。どうやら考える時間はあまりにも少ないらしい。
と言う事で命令はイヤーカフス型通信機を介して下し、クロスボウの矢が先制攻撃としてスケルトン集団に撃ち込まれる。
多少の足止めにはなったが、大したダメージは与える事はできなかった。
余分なモノが無いスケルトンはただでさえ当て難いというのもあるが、例え当たったとしてもその骨を砕く事ができなかったのだ。クロスボウの矢が直撃しても弾かれるとは、やけに頑丈である。恐らく、何らかのアビリティが働いているのだろう。
クロスボウでは効果が少ないと判断し、遠距離攻撃部隊《リグレット》には攻撃を止めさせて後方支援部隊《プレジャー》と共に、逃げてきたコボルドを牢屋まで誘導するよう指示し、ゴブ治くんを中心にコボルド達の簡単な治療を施させる。
ココに居られたら邪魔だからだ。あとは見張りってな意味もある。
遠距離攻撃では非効率だと分かったので、今度は待機させていた重武装部隊《アンガー》と軽武装部隊《ヘイトリッド》を突っ込ませる。ブラックウルフ達も追加だ。
剣では骨を断ち難く、最初の方は苦戦した。
しかしホブ里さんが機転を利かせて鞘で骨を砕いた事によって全ては変化した。スケルトンは斬撃系の攻撃には耐性があるが、殴打系の攻撃には脆い事が判明したのだ。
即座にそれを伝達させる。するとこれまでの苦戦が嘘のように、スケルトンを倒すまでの間隔が短くなった。
尤も、弱点が分からなくても問題はなかった。
大音量の咆哮を上げ、巨大戦斧とタワーシールドを持って突っ込むゴブ吉くんの姿はまるで移動城壁の如く。ズガガガガと轟音を響かせつつ土煙を巻き上げ、その巨躯でもって進行方向に居たスケルトンを挽き潰しながら一掃する様は、ある意味で清々しい光景だった。
それに相変わらずピッケル装備なゴブ江ちゃんだが、最早必殺と言っても過言ではないだろう上段からの振り下ろしはたった一撃で頭蓋骨を粉砕し、その勢いを止めることなく仙骨まで砕いてみせる。
ゴブ美ちゃんの頭蓋骨を狙った怒涛の連射の前に、防ぐ術のないスケルトンは次第に亀裂が走って砕け散る。
ホブ星さんが駆使する魔術はスケルトンを轟々と燃え散らかす。流石に味方がいるので広域破壊系の魔術は扱えないが、ランクアップした事により魔術の効果が底上げされた状態なのでそんなハンデなどどうという事は無い。
俺は言わずもがな、だ。
俺達にはコボルドと違って、対抗手段は幾らでもあるのだ。この程度のスケルトン相手に、負けるはずなど無い。
あと《使い魔》なハインドベアーやトリプルホーンホースの突進なども残ってるので、戦力としてはあり過ぎて困るくらいだ。
これは、俺の出番はないかもしれんな。と思ったのだが、そうはいかないようである。
スケルトンの数が減った気がしないのだ。
洞窟内に居るスケルトンはガラガラとその形を崩され、ただの骨の残骸となって白い山を形成するのだが、出入り口から次々と湧いてくるので尽きる事が無い。
その原因を考え、俺はリターナに教えてもらった事を思い出した。
骸骨兵士の上位版として製造された上級骸骨兵士には、骸骨兵士を生み出す能力があるのだと。
それも闇に沈殿する自然魔力を吸収する事で、ほぼ無限に近い数を生み出せるらしい。
普通はそんな事できないらしいが、『私の主様は、凡人では出来ぬ事をやってみせる天才だったのです。えっへん!』と自慢げに言っていた。
ああだからか、と納得しつつ、早速潰しに行こうかとも思った。
しかし、スケルトンを倒すと経験値が入る事が判明したのでそれは寸での所で思いとどまった。
これは、レベル上げに丁度いいのではないか? と。
そんな訳で、深夜に唐突ながら経験値稼ぎ祭は始まりを告げたのだった。
スケルトンを生み出しているグレータースケルトンだろう灰色の点は今も外で動いていないので、不安要素は今の所少ない。
誰かスケルトンに殺されたりしないだろうか? と最初は思っていたが、しばらくすると皆もその動きに慣れてきたようなので怪我を負う事は殆ど無くなった。
ただ疲れが溜まってしまうともしもの事が起こりうるので、それぞれ交代しながら排除に当たらせる。
遠距離攻撃部隊や後方支援部隊も鈍器で殴れば比較的簡単に壊せるので、バディーを組ませて一体一体を確実に屠らせていく事に。
俺はそれを観戦しながら山積みな白骨をボリボリと。
途中から戦って休憩しにきて横に座った赤髪ショートも一緒にボリボリと。
剣戟の音やら咆哮やらの騒動で起きてきた鍛冶師さんや姉妹さんや錬金術師さん達には、白骨が何かの材料にならないかな? と相談してみる。
材料になる、というかココまで高品質なモノは結構なレアモノだそうで、一定量は別の場所に移させて保管する事にした。
売る所で売れば、結構な金になるそうだ。これは今後の資金源になってくれるかと期待している。
流石は【職業・行商人】持ち。商売については頼りになるな。
[能力名【斬撃耐性】のラーニング完了]
[能力名【刺突耐性】のラーニング完了]
[能力名【陽光脆弱】のラーニング完了]
[能力名【殴打脆弱】のラーニング完了]
[能力名【不眠不休】のラーニング完了]
[能力名【骨結合】のラーニング完了]
[能力名【魔力接合】のラーニング完了]
[能力名【装具具現化】のラーニング完了]
[能力名【魔瘴の生命】のラーニング完了]
[能力名【死者の波動】のラーニング完了]
[能力名【状態異常無効化】のラーニング完了]
[能力名【冷気攻撃無効化】のラーニング完了]
[能力名【雷電攻撃無効化】のラーニング完了]
[能力名【光ダメージ脆弱】のラーニング完了]
[能力名【神聖ダメージ脆弱】のラーニング完了]
[能力名【炎ダメージ脆弱】のラーニング完了]
[能力名【酸素不要】のラーニング完了]
流石に数が数だけに、多くのアビリティを確保できた。不必要なモノも多々あるが、発動しなければどうという事は無いので問題無し。
そうして経験値稼ぎが始まって大体四時間ほどだろうか。
そろそろ夜が明ける時間が近づいてきたし、皆結構な量の経験値を得た事で大幅にレベルアップしたので、この祭りもそろそろお開きにするべきだろう。
と言うか、寝たい。
数日の徹夜くらい耐えようと思えば耐えられるが、今はそこまで頑張る場面ではない。
そんな訳で俺はこの祭りを終わらせるべく、腰を上げた。
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