Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐

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2巻

2-7

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 昼飯時、エルフ酒を交えながら聞いてみる。
 それによると、どうやら鈍鉄騎士は帝国騎士を辞めて、俺達側に加わりたいのだそうな。
 鈍鉄騎士が生まれ育った場所は亜人種が多い場所だったので、他の王国民帝国民のように種族差別の嫌悪感とかは無い。
 むしろ何故周囲の人間が亜人種を嫌悪するのかが分からないので、話に交じれない事も多々あったらしい。
 それに子供の頃から殴り合いの喧嘩も日常茶飯事だった為、基本的に自分よりも強い者に追従する主義だそうで。
 そもそも帝国に仕えていたのも、過去に鈍鉄騎士が所属していた騎士団の先代団長に負けたからであって、帝国に対する忠誠心など元より殆どない。そしてその先代団長が戦場で死んで、新しく団長になっていたのが名前も知らなかった貴族のボンボン。実力があれば納得できたのだが、ボンボンには鈍鉄騎士を打ち負かすだけの実力は無く、せいぜい一般団員といい勝負ができるという程度のレベル。
 せめて指揮力があれば許せたが、それも壊滅的。完全にコネを使って団長に成ったんだそうな。
 ちなみに現団長は普通に岩に潰されて死んでいる。そう言えば、無駄に豪華な鎧を着た一般兵のような奴が居たような気がするが、あれがそうなのか。
 しかしそれだけならまだ良かった。まだ我慢できたそうだ。
 ところが貴族である新団長が、関わりの深い貴族連中を自分の部隊に引き入れ始めた。
 入れ替えの為、鈍鉄騎士が留まる理由になっていた同じ釜の飯を喰った仲間達が他の騎士団に行ってしまった。
 一方で、持ち前の戦闘能力で平団員から副団長にまで昇進していた鈍鉄騎士は、隊員の育成のため最後まで残されてしまったのだそうだ。
 教官という立場になったのでやめるにやめられなかったが、それでも手を抜く事無く部下を鍛え上げ、あの屈強な部隊ができた。部隊は帝国内でも相応の評価を受け、苦しい訓練を承知で集まる者も多数いた。
 鈍鉄騎士は新しく入ってきた隊員を鍛えた。が、やはり平民からの成りあがりである鈍鉄騎士は貴族として育った他の団員と波長や考え方が合わず、最近では実力がついてきた隊員との言い争いも増えていた。
 鈍鉄騎士としては既に居残る理由が見いだせず、全てが面倒になってきたのでそろそろ騎士を辞めるか、と思っていた時に俺達と出会った。
 コレは運命だ、と思い現在に至る。
 とまあ、一応嘘を言わせない様に【命令】して吐かせた情報なので、事実で間違いない。
 俺としても鈍鉄騎士は有用そうなので文句は無く、受け入れる事にした。精鋭エルフの時のように、使える者は使った方がいい。
 鈍鉄騎士を首輪から解放し、自分の意思でイヤーカフスを装着させる。
 イヤーカフスを付けた後には鈍鉄騎士の武具一式は返してやり、見た目も鈍鉄騎士に戻った。
 これで鈍鉄騎士は、奴隷ではなく仲間になった事になる。まだ俺以外は心から認めている訳ではないが、それは今後鈍鉄騎士の活躍次第といったところか。
 とりあえず、今は俺の直属の部下とするか。精々役立って頂こう。


 午後、俺はハンティング兼今後の待ち伏せに使う場所のセッティングに出かけた。そしてその間、鈍鉄騎士には赤髪ショートに戦技アーツを教えさせた。
 現在赤髪ショートが扱える戦技は全部で六つだけだ。
 ――斬撃の威力を一回だけ上昇させる【斬撃スラッシュ
 ――盾で敵を殴り一定確率でノックバックさせる【盾打シールド・バッシュ
 ――勢いを乗せて一点突破力を上げた突きを繰り出す【刺突スタブ
 ――隙は大きいが威力を上げた斬撃の連続攻撃を行う【連斬ラッシュ
 ――反動はあるが、一時的に体内魔力を増幅させる事で全身を強化し、モンスターの如き肉体能力を発揮する【魔化フォール
 ――モンスターの血肉を喰らう事によって、喰ったモンスターの能力を一定時間自在に使用できる【可変ヴァリアブル
 前記の四つは【職業・戦士ウォリアー】を持つ者なら簡単に使えるようになる基礎的なモノで、後記の二つは【職業・魔喰の戦士ノワールソルダ】など特定の【職業】を持つ者でなければ使用できないそうだ。
 使える戦技アーツが六つというのは駆け出し冒険者にしてはやや多いそうだが、鈍鉄騎士は優に七十を超えている。
 戦技は【職業】が合致していれば練習次第で扱えるようになるそうなので、俺も前提条件となる【職業】をアビリティとして得た時には教えてもらうつもりである。
 人間にしか使えないはずの戦技を自在に扱うモンスター……
 うむ、戦技を使う時には極力目撃者を作らないように配慮すべきだろうな。


《七十六日目》

 早朝、訓練前の趣味の時間に精霊石採掘をしていたアス江ちゃんが、温泉を掘り当てた。
 今まで身体を洗う時は、少々離れた場所に流れている川へ行くか、水精石などで大瓶に溜めた水に浸したタオルで身体をこするなどしかなかった。
 だがこの温泉出現によって、今後はゆったり湯船に浸かってリラックスできる。そう思うと、地形とか地質とか、温泉が湧いて出た謎はどうでもよく感じるから不思議である。
 まあ、この世界はファンタジーだし。こんな事もよくあるのだろう、きっと。
 そんな訳で、今日はアス江ちゃん達と協力して温泉に関する作業に心血を注いだ。
 幸いスケルトンという休み不要の労働力がある。無数に生み出したスケルトン達を駆使し、とんでもない作業効率を叩き出した。
 アビリティや色んな力技なども加えて作業した結果、夜になる前には全ての作業が終了し、それらしい形に落ち着いた。
 温泉は男用と女用の浴場、大勢で入れる混浴の大浴場、そして俺やオガ吉くんなど幹部だけが使える特別な浴場が三つ、とかなり大きなモノになった。
 今後は打たせ湯や足湯なども造っていきたいが、取りあえずはこんなモノだろう。
 特別な浴場の一つは山肌まで貫通させて露天風呂の様になっているが、岩陰なので外からは発見し難いし、そもそも断崖絶壁なので空を飛べない限りはココから敵が入ってくるのは難しいだろう。
 でも一応、って事でトラップは山盛りだ。例えば岩肌をよじ登って来ようとすれば、岩などが雨霰あめあられのように降って来る。他にも色々あるが、それは内緒にしとこう。
 労働の後で一際美味かった晩飯が終わり、完成した温泉に一番最初に入るのは当然俺達幹部組だ。
 生まれて初めて入る事になった温泉に、皆かなり癒されていた。特にオガ吉くんなど、見た事も無いほどとろけた表情になっていた。心底幸せそうな表情である。その隣で湯に浸かっているアス江ちゃんもまた蕩けていた。二鬼は力関係の仕事で大いに活躍していたので、疲れが溜まっていたようだ。
 ダム美ちゃんや赤髪ショート達も気に入ったようで、身体を交互に洗い合ったりしていた。
 一応、この湯は掘り当てた時に俺が飲んで、無害である事を確認している。ガスなどの問題も、風精石を利用した空調機構によって解決済み。
 むしろこの湯には治癒力向上や美肌、状態異常回復などファンタジーとしか言えない効能があるので、今後とも愛用させてもらう予定である。
 湯を飲んでアビリティを得られないかと思ったが、多分無理だろうな。
 それを抜きにしても、文字通りの掘り出しもんだった。
 アス江ちゃんには感謝である。


《七十七日目》

 どうやら俺達の奇襲と、エルフ軍が森の至る所に仕掛けた大掛かりなトラップ、それから密かに行っていた俺の分体による補給物資の略奪などが功を奏し、人間軍は結構な数を失ったらしい。
 特に元々エルフ達が仕掛けていた罠に、以前俺が父親エルフに伝えた十重二十重とえふたえのえげつないトラップを組み合わせた結果、予想以上に被害が広がっているようだ。
 情報を有効に活用してくれて、教えた方としても気分が良い。
 人間軍も進行予定のルートがトラップだらけと化した事から、内部情報が漏れていると判断したようだ。対策の為に作戦を練り直しているらしく、ここ数日は戦線が一時的に後退している。
 つかの間の平穏を利用して、エルフ達は更なるトラップの充実を進め、俺達は少しでも生き残る確率を上げる為の訓練を続けてきた。俺は俺で分体を潜入させるなど情報の収集を欠かさない。
 そして集めた情報を基に、今日俺達は森の人間軍陣地に物資を運んでくる予定になっている補給部隊に狙いを定め、奇襲を仕掛ける為に動いていた。
 遠征時は、補給物資の有無がそれこそ死活問題だ。
 今回の戦場は森なので、砂漠などと比べればまだ食糧や水を確保し易いが、人間軍は数が多いので纏まった量が必要になる。それを断ってやろうという訳だ。
 食糧や武具はコッチのモノとして流用できるので一石二鳥。いや、相手の士気をくじくのにも有効なので、一石三鳥か。
 今回狙う補給部隊は、平原の向こうからやってくる。
 平原で襲わないのは、コチラの数が少ないからだ。男女合わせて四十七名の捕虜達を加えても、総数はやっと二百を超える程度、戦える兵となるともっと少ない。
 それに引き換え、補給部隊の人数は六百以上だ。実にコチラの三倍程である。
 この数の差では、見渡しの良い平原で攻勢を掛けられるはずもない。
 そりゃ、上手く立ちまわれば相手にできない事もないだろうが、敵の援軍も考えれば、止めておいたほうが賢明だろう。
 そんな訳で、補給部隊がある程度森の奥に来るまで待つ事しばし。
 女騎士と鈍鉄騎士、加えて分体からの情報通り、補給部隊が狩猟場キルポイントに到着した。キルポイントは生い茂る樹木によって見通しが悪く、狭くなった林道で、陣地で待つ人間軍が駆けつけようにも時間がかかる場所だ。
 予定通り進んでいるのを確認し、後方に潜む奴隷達を見る。
 皆顔を真っ青にしてガタガタと震えている。しかし俺の分体を体内に【寄生】させる事で支配力を高めている為、自分の意志では指一本動かせない状態にある。
 正直無理やりやらせるよりかは鈍鉄騎士のように自主的に働いてもらった方が色々と助かるのだが、これは仕方ないと諦めている。俺にとっては、彼等は所詮使い捨ての手駒でしかない。喰うにしてもそこまで美味しい存在ではないし、あまり使い道もない。
 放置するとブツブツと何か言っているし、コレ以上暗い顔をされていても鬱陶しくて仕方ないので、今回華々しく活躍してもらう予定である。
 作戦は実にシンプルだ。
 まず、十七名の男の奴隷の内、【魔術師ウィザード】や【付加術師エンチャンター】などの有用な【職業】を持たないただの貴族騎士十名を補給部隊に向けて先行させる。そしてその後を俺達が追撃しているかのように演じてみせる。
 騎士の格好をして逃げてくる少数の人間と、武器を携えて雄叫びを上げつつ殺意をみなぎらせて迫ってくるオーガやゴブリン達の群れ。
 これくらい誰が見ても敵と味方がハッキリと分かる状態なら、味方に見える方はさして疑問に思われる事も無く、保護されるだろう。
 緊急時では逃げて来る味方のような存在を疑うよりも、迫る敵を意識するものだ。
 助けるどころか敵味方諸共に射殺されるなどの可能性も無くは無かったが、貴族らしい高級な鎧を着ていた事が幸いし、今回は成功した。
 彼等が人間軍内部に無事潜入したのを確認した後、俺達はキルポイントからある程度離れた場所に造っておいた塹壕に身を隠した。
 隠れながら鍛冶師さん達が頑張って量産した連弩で痺れ毒を塗った矢を撃ち、魔術が扱える奴は威力を抑えた魔術を放つ。ホブゴブリン・シャーマンは六体のゴーストを使役して敵に【陰鬱】など精神的な状態異常を付加していく。
 木や茂みが邪魔して命中率が良いとはとても言えないが、それは向こうも同じ。敵の数を減らしつつ足止めをする事と、敵を一ヶ所に留まらせる事が目的なので、俺達は本命の準備が終わるのを待てばいい。
 そして、敵軍中に紛れた貴族騎士十名が一斉に行動を開始。懐に隠し持たせた、俺と錬金術師さんが造ったオリジナルのマジックアイテム【炸裂の火実バーストシード】が周囲にばら撒かれる。
 バーストシードは森で採れる【油草ユサ】や【弾けの実】、燃やすと強い催眠性の芳香を発生させる【睡香草メラ・カグ】などを素材にしたマジックアイテムだ。
 マジックアイテムにしてはかなり簡単に造れる構造だが、一つ一つの威力が高い上に睡眠攻撃という特殊効果もある。密集している場所に撒けば重軽傷者と死者、そして状態異常者を合わせて被害者は相当数になる。
 安く、高威力で、それでいて簡単に大量生産できる、大変素晴らしい兵器マジックアイテムと言えるだろう。
 そんな利点と引き換えに、爆発させる距離が近過ぎると自爆する可能性もあるのだが、それをふまえて捨て駒としか考えていない奴隷に使用させている。
 どんどん弾けさせろと命令を下す。死んだら骨は拾ってやるぞと。
 総数三百発にもなるバーストシードの弾ける爆音が、しばらくの間森にとどろいた。
 やがてそれも途絶えたが、立ちこめる催眠ガスによって未だ混乱中の敵に対し、アス江ちゃん率いる後方支援部隊《プレジャー》に補給部隊の足下を陥没させて追撃を加えるよう指示。
 予め基礎工事を行っていたので、容易く崩す事ができた。陥没した深さは二メートルほどだったが、それだけあれば十分過ぎる。
 急激に変動した足場のために体勢が崩れて逃げられない人間軍。更に離れた場所から降り注ぐ連弩の毒矢と、魔術の雨。そして辺りに充満する催眠ガス。
 混乱している上、意識が朦朧とした状態では到底対処できるはずもない。トドメに一人に一つずつ持たせた大瓶一杯の俺製毒液を、予め木の上に登らせ待機させていたエルフ達が敵の上からブチ撒いた。
 即効性の高い麻痺毒まひどくを浴びた兵士はバタバタと地面に倒れ伏す。死んではいないが、この戦闘に復帰する事は不可能だ。
 俺も指示を出しながら【職業・吟遊詩人ミンストレル】と【紅水晶くれないすいしょう調しらべ】を発動させ、ギターのようなこの世界独特の弦楽器と歌声とで紡がれる音で味方の強化・敵の脆弱化を行う。
 この補給部隊に強い敵兵は居なかったのでここまでしなくてもいいのだが、バーストシードの爆音に引かれて敵の増援がやってくるかもしれない。早く撤退するために念には念を入れておいた方がいい。
 そんな訳で最後まで手を抜く事は無く、作戦は滞りなく終了した。
 バーストシードをばら撒かせた十人中、三名が爆発に巻き込まれて死亡、五名が破片を喰らったり睡眠状態になって踏まれたりして重軽傷、残り二名は無傷で帰還した。
 今回の被害はこれだけだった。
 死んだ三名にはお疲れ様と言いながら、捕虜や食糧などを回収する間に、爆発に巻き込まれてバラバラとなった死体の肉片を皆で摘まむ。
 貴族、という事でほんの僅かに期待していたが、やはり美味しくはなかった。
 ちなみに赤髪ショートは連れてきていない。彼女もモンスターを喰うのに抵抗は無いが、流石に人間を目の前で喰うのは控えるべきだと思ったからだ。
 補給部隊の隊員で重傷な奴は、治療が面倒なので苦痛を長く感じないようその場で殺して、経験値を貰い、全員の心臓や身体の一部を喰い、俺の血肉に変えた。
 殺した相手はできるだけ喰う。そして喰ったモノの分まで生きる。これは俺の信条の一つである。
 他のゴブリン達にも殺した責任として一部を喰わせる事に。
 軽傷者は殺さずに捕虜としたところ、百名ピッタリで、全員男だ。女性は少しだけ居たそうだが、攻撃の段階で死んだらしい。
 勿体ないが、まあ、仕方ない。労働力は十分数が揃っているし、今は無理に捕える必要もない。
 イヤーカフスや首輪は数が足りないので、俺の血から生み出した分体を体内に【寄生】させる事で解決した。幸い、そこ等に血の原料となるモノは大量にあった。即座に補給できたので、体力の損耗そんもうも無い。


[能力名【連続突き】のラーニング完了]
[能力名【兜割り】のラーニング完了]
[能力名【刺突スタブ】のラーニング完了]
[能力名【鎧通しアーマーピアース】のラーニング完了]
[能力名【剣嵐けんらんの舞】のラーニング完了]
[能力名【忍び足スニーキング】のラーニング完了]
[能力名【軍事行軍アタック・フォース】のラーニング完了]
[能力名【職業・野伏レンジャー】のラーニング完了]
[能力名【職業・補充兵リザービスト】のラーニング完了]

 鈍鉄騎士に聞いていた戦技アーツが幾つか手に入った。
【連続突き】から【剣嵐の舞】までが全て戦技である。
 俺の場合、アビリティとしても使えるので、並行して自力で使えるようになった戦技を発動させると、効果が上乗せになり単発時よりも威力が増加する。
 人外は本来使えないはずなので、人前では無暗むやみに使えないが、いざという時の奥の手の一つにはなる。
 ホクホクしつつ、捕虜と戦利品と共に拠点に戻る。


 その帰り道、薄暗い林道を更に陰気な雰囲気にしている暗い顔の新しい捕虜を見ていて、ふと思い付いた。
 拠点のスペースはまだまだ余裕があるのだが、この補給兵達はそこまで強くなかったので手駒としては正直微妙だ。今回のように捨て駒扱いにしてもいいが、そうするだけでは勿体ない。
 そんな訳で、半分くらいはエルフ軍に流す事に決定した。売れる恩は売っておこう。捨て駒にするよりかは利益もある。
 予定を変更してエルフの里まで歩き、父親エルフに買ってもらった。
 命令通りに動かせる人間が居ると戦術の幅も広がると、即決だった。代金は、生活に便利なマジックアイテムなど。
 ついでに新しい情報を交換しながら、人間軍が欲している秘薬の話も聞いてみる。
 それによると秘薬は効力が非常に強く、副作用らしい副作用も無い薬で色々と応用性もある。
 非常に希少な素材と特殊な製法によって【深緑の亜神】の力も微かに混じり、ほぼ万能薬と言える効果を発揮するそうだ。強力な呪いや特殊な呪毒などには微妙だが、大抵の病気はこれ一つで治せるらしい。
 ……これ、喰ったら、アビリティ獲得できるんじゃね?
 ふとそう思った俺は、既にエルフの秘薬を持っている事を今更ながら思い出した。
 ほら、初めて父親エルフに出逢った日である。
 お土産としてエルフ酒と一緒に貰っていたのだが、エルフ酒の印象が強過ぎて、今までアイテムボックスの肥やしになっていたのだ。
 思い出したついでになんで貴重な秘薬を俺にくれた? と聞いてみると、〝人間〟には長年の掟で渡せないが、娘を助けてくれた〝オーガ〟に渡すのは、別に掟には違反していないとの事。
 なんだそれ。なら帝国が人間以外でお願いしたら秘薬をやったのかよ。と思うがそれはどうでもいいので置いといて。
 帰り道に秘薬をグイッと飲んでみる。


[能力名【高速再生】のラーニング完了]
[能力名【秘薬の血潮】のラーニング完了]

 俺の体に流れる″鬼の血〟は秘薬になった。
 とりあえず試しにまだ怪我を治していない奴隷に血を一滴飲ませてみたら、あら不思議。怪我が瞬く間に治癒した。パックリと開いていた傷口は数秒で塞がり、失った血が戻ったのか顔色もよくなった。それに昔から腰痛に悩まされていたらしいが、それも治ったと言う。
 何これ怖い。
 一滴でこうなのだから、大量に飲んだらどうなるのだろうか。試す気はないが、気にはなる。もしかしたら不老不死とか、それに近い感じになるのでは?
 こんな事を知られたら金のなるオーガ、として人間に狙われそうで、凄く怖いな。
 一応自分の治癒能力なども大幅に上昇しているのだが、リスクとの引き換えとしては正直ビミョーに釣り合っていない様な気がする。
 人間は欲深で、傲慢で、執拗で、数だけはやたらと多いから、バレない様にしなくては。
 いや、例えバレてもそいつを殺せばいいのか。
 なんて思いながら帰るのだった。


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