Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐

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2巻

2-8

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《七十八日目》

 今日は朝の訓練はせず、ぞろぞろと皆で川に行った。
 いや、オーガなども入れるように、という事で温泉の浴槽は結構深めに設計していたのだが、ゴブリンからすれば深すぎたようで、溺れてしまう奴がしばしば居たのだ。
 元々泳いだ事の無い奴が多いので、仕方が無いのかもしれない。何事にも初めてはある。
 しかし今後、泳げなくて死んだ、なんて事になっても困る。海戦があるかもしれないし、泳いで逃げなければならない場面もあるかもしれないのだから。
 その為今日は、以前グリーンリザードに襲われた滝のある川で、泳ぎの練習だ。
 折角の機会だったので、普段は住処に籠ってあまり外に出ない鍛冶師さん達の気分転換も兼ねて連れていく事に。
 分体で周囲を簡単に調査させた結果、滝の上をしばらく進んだ所にグリーンリザードの住処があると分かった。襲ってこないかなー、と僅かに期待していたが、結局来る事は無かった。
 少々残念だが、鍛冶師さん達が楽しそうに泳いでいたのでよしとしておこう。


《七十九日目》

 どうやらホブゴブリンは頭打ちのようだ。
 現在のゴブリンの数は十五ゴブ。それらのレベルが全て〝100〟になってしまったのである。
 つまり、この十五ゴブには【存在進化ランクアップ】するだけの才能が無かった、という訳だ。
 残念ではある。が、嘆く必要はない。
 ランクアップという手っ取り早い手段が使えなくても、地道に訓練して強くなればいいだけだからだ。
 訓練は己を裏切らない。例えゴブリンでも、訓練を続けて、ゴブリンを超えたゴブリン――ゴブリンエリート――になればいいじゃないか。
 落ち込むゴブリン達を、そう言って励ました。これで頑張ろう、と気持ちが奮い立ったらしいので、一件落着。
 対して、コボルド達はまだしろがある。
 今日目が覚めると足軽コボルドが二体、下忍げにんコボルドと呼ばれるコボルドが一体増えていたのだ。
 足軽はいつも通りの育成コースに入れるとして、注目なのは下忍コボルドだ。
 下忍コボルドは小太刀型の〝生体剣〟――生体槍の刀剣バージョン――を一本持った、普通のコボルドよりもかなり細い体つきをしたコボルドだった。
 未だ犬顔だが、その目には知性の輝きがあり、身体の造りが人間に近づいていた。それに〝下忍〟とあるように、魔法の一種である【妖術】から派生した特殊技法の一つ【忍法】が扱えるようになったようだ。
 忍びというのだから諜報活動など裏方で活躍してくれそうなので、常に気配を消しておく様に指示すると、気配が希薄になった。種族的に隠密に長けている事がよく分かる、実にナチュラルな隠れ身ハイディングだった。
 まだ人間軍は大きな動きを見せていないので、今日も川に行って泳ぎの訓練をする事に。
 疲れのせいで何人か溺れてしまったりとハプニングはあったが、のんびりとした時間を堪能した。


《八十日目》

 今日は訓練を無くし、休日とした。
 勉強するのも、女を抱くのも、訓練するのも、ハンティングに出かけるのも、全てはそれぞれの意思に任せる。たまには息抜きした方がいいと判断したからだ。
 そんな訳で俺は、オガ吉くん、鈍鉄騎士、赤髪ショート、女騎士の四名を相手に、多対一の格闘技戦を行って汗を流す。
 四人は、耐久力が飛び抜けているオガ吉くんを先頭に立て、他の三人が脇から攻撃を仕掛ける、という戦法で向かってきた。
 オガ吉くんの一撃はとにかく重くて痛いし、その陰から飛び出してくる鈍鉄騎士の打撃は正確に急所を狙ってくるので油断できない。赤髪ショートは足払いや目潰しなどとにかく体勢を崩す事に執念を燃やしていたし、女騎士は隙あらば突っ込んでくる。非常に厄介だったが、その分良い訓練にはなっていた。
 温泉に入って汗を流した後、多少大きすぎるが愛嬌のあるペット達と満足ゆくまで戯れる。
 姉妹さん達が作った〝メルザック〟と呼ばれるサンドウィッチに似たこの世界の料理を摘まんで昼食をとり、相変わらず武器開発に没頭している鍛冶師さんの所におもむく。護衛エルフさん達も交えて新しい武器の構想を提案し合った。
 夕方には錬金術師さんの所に赴いて今後活躍してくれるだろうバーストシードの製作に勤しむ。製作中はあまり会話しないが、心を落ちつけられる貴重な一時だ。
 日も暮れて星が輝く夜になると、ダム美ちゃんと二人だけで空の旅を楽しんだ。
 夜風は少々冷たかったがオーガは寒さに強いし、ダム美ちゃんは【氷原の神】の加護持ちなので言わずもがな。俺は背中に作った翅で、ダム美ちゃんはダムピールの能力によって、寄り添いながら飛ぶ事しばし。
 流石に長時間飛んでいると多少冷えたので温泉に浸かって身体の芯まで温めて、女騎士も含めて皆で寝た。
 寝る前に色々と汗を流したが、明日の朝温泉に入って流せばいい。
 実に良い休日だった。


《八十一日目》

 ハインドベアーのクマ次郎と、ブラックウルフリーダーのクロ三郎が【存在進化ランクアップ】した。
 普段から自分の飯は自分で捕らせていたし、人間軍に仕掛ける時にも乗って行ったりしていたので、地味に経験値が集まっていたのだろう。
 進化したクマ次郎はレッドベアーよりも大きくなった。灰色だった体毛はより黒みを増し、四肢の筋肉は太く発達し、額からは五〇センチほどの黒曜石のような鋭い一角が生えた。
 ゴブ爺によると、進化後の種族は【鬼熊オニグマ】と言うそうだ。
 鬼熊は縄張り意識が強くて気性も荒く、鋼鉄よりも硬い爪と太い腕の薙ぎ払いは岩さえ砕く。この世界の平均的な町なら鬼熊一頭で十分全滅させられる程度には強いらしい。
 ただ一度屈服させれば従順なので、騎獣としては使い勝手がいいそうだ。
 そして長い月日を経ると額の一角に特殊な力を宿すらしいが、クマ次郎は既に何らかの力を宿しているようだった。腕や角を使った攻撃をすると、たまに黒いオーラが発生して、その状態の攻撃はあきらかに強く、動きも速い。今はまだそれを意思通りに使いこなせていないようだが、しばらくすれば自在に扱えるようになるだろう。
 次いでクロ三郎だが、軍馬と同じぐらいの大きさになった。
 それに加えて個別に思考する二つの頭を得ており、それぞれの大きな口からはバチバチボウボウと雷を帯びた黒炎の吐息が漏れている。進化後の種族は【双頭狼オルトロス】と言うそうだ。
 基本的に火山地帯や地下空洞などに生息していて、この近辺には殆ど存在しない種族だそうだ。吐息から分かるように、雷と炎を口から吐き出せるらしい。
 ただ鈍鉄騎士の話によると本来は赤い炎らしいのだが、クロ三郎の炎は黒かった。毛並みもより黒さを増している。また俺が何らかの影響を及ぼしているのかもしれないが、それは解明できないので一先ず置いておく。
存在進化ランクアップ】で上昇した二頭のスペックがどんなものかを知る為、俺やオガ吉くんなどオーガクラス――つまり二回ランクアップ経験組み――の六名と、その《使い魔》の計十三体だけで、人間軍の部隊を強襲することにした。
 少数精鋭で行くのは、主に俺達のレベルを上げる為である。
 最近は全体のレベル上げが第一だった為、俺達主力は極力狩り過ぎない様に気を使いながら戦闘していたのである。
 仲間の数が多ければ多い分だけ得られる経験値が少なくなるので、一つレベルを上げるのにより多くの経験値を必要とする俺達は、相対的にレベルが上がり難い。
 現にあれほど戦い、殺したにもかかわらずレベルは思ったほど上がってはいなかった。
 全体の強さを底上げしても、最終的に頼りになるのはやっぱり自分自身しかいない。弱いままでは大切なモノを守れない事もある。ここらでガツンとレベルを上げておきたかったのだ。
 留守は赤髪ショートの教官役兼師匠とした鈍鉄騎士や女騎士などに任せた。保険として、ブラックスケルトンの小隊と、ある程度大きい分体も三体程置いているので心配無用だ。
 それに人間軍の目的はあくまでもエルフである。わざわざ離れた場所にある他種族の住処を襲おうとは思わないだろう。


 やや暗くなりだした日没頃、クマ次郎に跨りクロ三郎を従えた俺と、それぞれの《使い魔》に乗った仲間達は森の中を駆けていた。
 今日の相手は、【魔法使い】の比率こそ少ないが、機動性が低い代わりに攻撃力がズバ抜けて高い【重戦士ヘヴィウォリアー】や攻守共に優れた【騎士ナイト】など、近接戦時に力を発揮する職業持ちが多いらしい。
 総数六百名弱。亜人種は一人もおらず全て人間で、全員が武勲で成りあがった兵士だそうだ。近くには他の部隊も居るので、短時間で削れるだけ削ったら遁走とんそうする予定である。
 一時間ほど走ると敵の駐屯地に到着した。
 既に辺りには暗い闇が広がっており、アンデッド生成による戦力増強も簡単にできるので都合が良い。それに人間が夜の森を行軍するなどまずあり得ないので、動かない分狙いやすい。
 テントを建て、篝火かがりびを焚いて夜営中の敵軍を、全体が見渡せる丘の上から観察する。
 特に注意しなければならない相手は、白く立派な髭を生やす老齢の騎士だけだった。食事中にもかかわらず赤黒い刀身に小さな棘が無数に生えた黒鉄の短槍を携え、神々しく淡い白色の光を宿した鱗鎧スケイルメイルを装備している。
 鈍鉄騎士と女騎士達から聞いて製作した〝王国帝国強敵情報一覧表〟の中に、この老騎士に該当する人物が一人いた。
 帝国軍第三師団、通称《白蛇の塒ルートルン・ネア》――国が保有している軍専用の迷宮ダンジョンに挑んで地力を上げる精鋭部隊の一つ――に所属し、その第二旅団長を務める、アイゼン・リッターという名の男である。若い頃は冒険者として名を馳せたらしい。
 黒鉄の短槍は帝国内の《神代しんだいダンジョン》にアイゼン自身が潜って獲得した【遺物エンシェント】級のマジックアイテムで、銘は確か【呪刻じゅこく逆棘さかとげ】。刃が僅かに掠るだけで対象に強力な〝呪い〟――【鈍化の呪い】【麻痺の呪い】【瀕死の呪い】など多種多様――を、傷つけた回数だけ付加するという陰湿な能力を持つ呪槍だそうだ。
 白いスケイルメイルは【呪刻の逆棘】を守っていた白竜を殺し、その素材から造った鎧型のマジックアイテムで、名称は【白鱗はくりん竜衣りゅうい】。クロスボウの一撃さえ難無く弾く硬度と、魔法に対する高い耐性も持っている逸品だとか。
 是非とも槍と鎧、それに本人も含めて喰いたいモノである。特に白竜の鱗から造られたという鎧は絶対に喰いたい。
 最初に殺す相手は、厄介なアイゼンに決定した。敵の最大戦力に不意打ちをして真っ先に消した方が、コチラの勝率と安全性が増す。
 確実に殺す為、温存していた【伝説レジェンダリィ】級【神迷遺産アーティファクト】である朱槍【餓え渇く早贄の千棘ガルズィグル・ベイ】をアイテムボックスから取り出し、バリスタ状に変形させた銀腕に装填。
 暗殺成功率を上げる【職業・暗殺者アサシン】、遠距離攻撃の一種であるバリスタで攻撃するので【職業・射手アーチャー】と【職業・狩人ハンター】、遠距離攻撃の命中率と威力を大幅に上昇させる【投擲】と【針通しニードル・ショット】、威力増加の為に【血流操作パンプ・アップ】などを重複発動させた上で、アイゼンの胴体を狙って朱槍を射出。
 俺達と敵陣中心部近くに居たアイゼンは目測で三〇〇メートル以上は離れていた。が、可能な限り気配を消した上で、弾丸、というよりは赤い彗星のように射出した朱槍は、狙い違わず白竜の鱗製のスケイルメイルに守られたアイゼンの胴体に着弾、そして呆気なく貫いた。
 知覚できない射程と速度の強力無比な一撃は、流石のアイゼンも感知できず、防げなかったようだ。
 何が起きたのか理解できない、とでもいう様な最後の表情が印象的だった。
 アイゼンが手にしていたスープ入りの皿が落ちて砕ける微かな音が、静まり返った場に響くのを確かに聞いた。
 ――これぞ不意打ち最強伝説の始まりだ。
 ――正々堂々などは豚にでも喰わせておけ。
 ――所詮弱肉強食な自然界は生き残った方が正義だし。
 などと、どうでもいい事に思考が逸れる。
 気を取り直して、敵の様子を観察する。
 アイゼンを貫いた朱槍の勢いは衰えず、地面に深々と突き刺さってしまったらしい。軌道上にある地面には穴が開いている。
 胸部の殆どを消失したアイゼンの死体の周囲には、何が起こったのかまだ把握できていない敵兵の姿があった。茫然自失でアホ面をさらし、開いた口が塞がっていない。
 何とかアイゼンが死んだ事を認識しようとしているが、その死の予兆が無さ過ぎて、幻覚のように感じているのかもしれない。
 ようやく動き出した敵兵がアイゼンの周りにある程度集まったのを見計らって、俺は朱槍が宿す能力――【血塗られた朱槍の軍勢ツェンペッシュ】を使った。
 何の予兆も無く、地面から朱槍が生えた。それも無数に、高速で。
 足下という死角から突如発生した朱槍に貫かれて、能力の及ぶ範囲である一〇〇メートル圏内に居たほぼ全ての敵が死ぬか、重傷を負う事になった。手足を穿うがたれた者も居れば、胴体を貫通された者もいる。


 圏内に居る敵兵全てを殺しても良かったが、それでは皆の取得経験値が少なくなるので自重したのだ。
 度重なる攻撃に騒然とする様を嘲笑いながら、俺達は闇に紛れて突撃した。奇襲の混乱に乗じ、敵陣を喰い殺す為に。
 もはや正常に応戦するのは難しいだろう。つまりこの奇襲はほぼ成功したと言っていい。周囲にはブラックスケルトン達も配置している。誰も逃がす気はなかった。


 混乱した有象無象を喰い殺すのは、非常に楽な仕事だ。
 鬼熊やオルトロス、ハインドベアーにトリプルホーンホースの走る速度は人間が乗る軍馬の比ではない。またたく間に敵との距離を踏破した俺達は散開し、まだ混乱している敵兵に、それぞれ思い思いに攻撃を繰り出した。
 オガ吉くんの《使い魔》であるハインドベアーが速度と体格を生かした突進を繰り出し、逃げ惑う敵兵を背後からいていく。踏み潰されて臓腑を撒き散らす者も居れば、跳ね飛ばされて宙を舞う者も居る。
 そして突進の勢いを乗せて振るわれた超重の戦斧の一振りが、周囲に炎禍を撒き散らしつつ【重戦士】の集団を薙ぎ払った。
 動きが身体に染みついているのか、混乱しながらも攻撃に反応して咄嗟とっさに重層盾を構え、戦斧の斬撃を防ぐ。
 甲高く、重い音が響く。
 しかし追撃として発生する炎――戦斧の固有能力の一つ――までは防げず、最前列に居た兵士は全身を高熱であぶられて焼死した。重層盾は重撃に耐えられず〝く〟の字に折れ曲がってしまっている。
【重戦士】達の守りなど、オガ吉くんの圧倒的なパワーの前にはほとんど意味が無い様だ。
 相変わらず、凄い殲滅力だ。オガ吉くんが持つ【加護】の能力も上乗せされて斧から発生する熱量は上昇し、周囲に逆巻く炎は被害範囲を広げ、黒焦げの死体を量産していく。
 周囲に炎を撒き散らす斧を振るい、重層盾を折り曲がらせて持ち手を吹き飛ばすパワーを備え、突破困難なタワーシールドで守りを固めるオーガ。
 間違いなく、敵からすれば恐怖の的である。
 その傍らでダム美ちゃんは【魅了の魔眼】を使い、抵抗レジストできなかった敵を操って同士討ちをさせていた。自分の手はあまり汚さず、損害を与えていくつもりらしい。どうやら同士討ちにさせても経験値を得られるらしく、かなり効率は良さそうだった。
 とはいえ全てを洗脳できた訳ではないようだ。
 戦技アーツか元々の耐性か、もしくはマジックアイテムか何かを使って【魅了の魔眼】をレジストして斬りかかってくる敵兵も居た。だが完全にレジストできている者は少なく、動きは鈍い。
 そうした敵兵は、ダム美ちゃん自らの手で処断するようだ。
【加護】の能力で発生させた氷槍で串刺し、あるいは氷塊で圧殺、あるいは俺がプレゼントしたクレイモアで対象を刻んでいく。
 殺した敵兵の死体をわざわざ上空に放り投げ、氷剣で刻んで撒き散らした鮮血をシャワーのように気持ち良さそうに浴びる姿は、美貌も合わさって妖艶で神秘的、それでいて恐ろしい。頬を伝う血を舌で舐める様子には、ゾクリと背筋が寒くなる。
 やや離れた場所では、アス江ちゃんのウォーピックが爆音を響かせながら大地を砕いていた。
 高く隆起した土壁の連なりが、敵の逃げ場を奪う。
 ゴッ、と音を立ててひび割れ裂けた大地が、逃げ遅れた敵を次々と飲み込む。
 アス江ちゃんが繰り出す攻撃の大半は威力重視の大振りで隙が多いため、そこを突いて攻撃を仕掛けている敵もいる。
 だが半鬼人ハーフ・ロード系の種族の中でも抜きんでて防御力が高い半地雷鬼ハーフ・アースロードを相手に、鋼の剣による斬撃程度では薄皮一枚も断つ事はできない。衝撃は通るだろうが、分厚い筋肉の鎧がそれすら吸収しているようだ。
 通常攻撃では意味が無いと見て、戦技を使おうとした敵もいた。しかし戦技を発動する僅かな隙を逆に狙われ、岩すら砕く拳や蹴りや体当たりなどによって次々と絶命させられていく。
 敵兵の悲鳴の中に、アス江ちゃんの陽気で豪快な笑い声が響く。
 その近くにいるスペ星さんが魔術で濁流を生み出し、彼女からやや離れた場所に居る敵兵を押し流している。それは言わば剣や槍や金属鎧などを入れた洗濯機に人間を放り込んだようなもので、巻き込まれた兵士の末路は悲惨なモノだった。
 濁流に揉まれて息もできず、流れに交じる剣や槍で刺され、金属鎧に身を削られ、最終的にはアス江ちゃんが造った大地の裂け目へと流れ落ちていくのだから。
 まるで戦場の死体を掃除するかのようなその有り様には、最早苦笑しか出なかった。
 向こうでは、ブラ里さんが能力で造った三十本近くある血剣が敵を刻んでいく。そして血剣は被害者の血を吸って更に大きさを増していく。
 ブラ里さんを中心に高速で回転する血剣の範囲に入った敵は細切れになり、ただでさえ赤いその身を血で更に赤くしていくブラ里さんは死神のようにも見える。
 元々人間よりもスペックが上であるモンスターが日々激しい訓練を続けた結果が、この一方的な大虐殺なのだ。俺は俺で鍛冶師さん作の精霊石強化ハルバードで敵を薙ぎ、その数を減らしていくのだった。


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