Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐

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3巻

3-1

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《九十六日目》

 俺ことオガ朗とダムちゃん、更に赤髪あかがみショート達人間五名、鬼人ロード三名のグループは、昨日の昼に生まれ育った《クーデルン大森林》を出発した。
 乗っているのは、ブラックスケルトンの骨から造った骸骨がいこつ百足むかで。そのままだと目立ち過ぎる為、自走する幌馬車ほろばしゃ風にしている。これでも目立つが、まだマシ……だろうか?
 振動が少なくてかなり快適な乗り心地だ。しかも休む事なく移動可能なので、寄り道せずに走らせていれば、既に目的地である防衛都市《トリエント》に続く街道に到着していたかもしれない。
 が、実際は訳あって途中の草原にある村で一夜を過ごす事にした。
 その村は《クルート》と呼ばれ、人口は約三百人ほど。一応農業もしているが最低限度のモノでしかない。《クーデルン大森林》で採れる良質な木材を使って一風変わった楽器などを製造・販売し、それを主な収入源としているのだそうだ。ベルベットのダンジョンに集まっていた精霊の存在が作用してか、精霊の力の名残りがある古木こぼくが生えているらしく、それが楽器作りに適しているのだという。
 実際楽器を見せてもらったが、確かに見事なモノだった。精霊の力が宿る音色は、聞く者の心に安らぎを与えるようだ。金持ちが一種のステータスとして購入しているという話も頷ける。これなら【吟遊詩人ミンストレル】など楽器を使う職業持ちも、こぞって買い求める事だろう。
 本来ここは、周囲の草原のように何も無い場所だったらしい。だが、良質な材木を求めて腕に自信のある職人が集まり、次第に村として形成されていったのだ。この村で作られる製品はそこかしこで評価を得ているそうなので、順調にいけば更に人が集まり、規模はもっと大きくなるはずだ。
 顧客である貴族の取り計らいで村の警護を担当するのは、人造魔法生物【守人ディスルト】。早い話が、鉄のゴーレムである。実力はホブゴブリン以上オーガ未満とそこまで強くはないが、耐久値は非常に高い。それが五体ほど居るのに加えて、物見やぐらにほり、木壁なども設置されていた。
 赤髪ショート達が言うには、安全度という意味でこの世界ではかなり恵まれた環境にある村の一つだそうだ。
 そんな警備のしっかりした村なので、俺がオーガであるが故の一悶着ひともんちゃくもあったがそれは省略する。
 ちなみに村に入る前に、黒い体表はベルベットの遺産の一つである【変身の腕輪シェイプシフト・リング】によって、目立たないよう普通のオーガと同じ茶色に変えておいた。便利なので後ほどこのリングを喰ってアビリティを得ようと思う。
 普段ならこの程度の村は、挨拶をし、分体を埋め込んで通信機能を持たせた名刺ならぬ〝名鉄めいてつ〟を渡すだけで去っていた事だろう。
 そうしなかったのは、この村に最近一つの問題が発生し、村人達が困っていたからだ。
 問題というのは、次の通り。
 この村は、十年ほど前にできて以来、半年に一度、女の奴隷、あるいは食料や武器などを森に棲むオークの氏族に献上していた。そうする事でオーク達が森のモンスター達から守ってくれ、安全な環境下で木材を得られていたそうだ。
 しかしながら最近オーク達が契約を守らず、それどころか伐採中に襲ってくるようになり、弟子の若い娘が三人ほどさらわれてしまったという。更には村にも何度か襲撃があったらしい。
【守人】がオークに負ける事は無かったが、如何いかんせん相手が多過ぎたそうだ。たった五体の【守人】だけでは村全体をカバーできず、村人達も武器を持って村を守る為に戦い始めた。
 まだ死者こそ出ていないが、怪我人は続出し、畑は荒らされ、木材も安全に得られなくなった。
 ずっと友好的だったオークが何故なぜこのような蛮行ばんこうを、と村人は戸惑い、やはりオークもモンスターでしかないのか、というやるせない思いを抱いたそうだ。
 まだ木材に余裕はあるが、この状況が続くと納品にも差しつかえる。このまま客足が遠のけば、村がさびれ、最悪、廃村と成り果ててしまう。
 歴史が浅く、ほとんどの村人にとっては生まれ故郷という訳ではない。それでも開拓当初から十年も暮らしてきた場所とあって、古参の職人達はこの村に愛着を感じていた。廃村になるのは悔しいし、職が無くなるのも避けたいと思うのは当然の事だろう。
 結局村人の間では、このまま村がすたれてしまうくらいなら、大金を出してでもオークの討伐を《総合統括機関ギルド》に依頼しよう、といったところまで話が進んでいたそうだ。


 しかし実は、うん、この危機的状況の根本的な原因は俺達にある。
 俺達の本拠地は、かつてオーク達が支配していた採掘場だった。俺達はオークを殺して、そこを奪った。生き残ったのは、その時採掘場にいなかったオーク達だ。
 話を聞いてさっそく、俺の血で造った分体を走らせてそいつらを調べた結果、生き残りはあまり知恵の無いオークだけだと分かった。この村を襲撃した際、【守人ディスルト】や村人などによって何体か殺されはしたが、まだ三十体ほどが生存しているようだ。
 群れの頭脳だったリーダーやメイジが俺達に殺された事で、役割分担が機能しなくなり、食料配分も乱れたのだろう。無計画な暴食によって食料不足が深刻化した、といったところか。
 オークは力こそ強いが、気配を消すなどの技能はつたない。気配に敏感な動物やモンスターを相手に、集落の全員が飢えないだけの獲物を狩るのは困難を極めたに違いない。
 分体を通じて見たオーク達は、だいぶ痩せていた。ろくなモノを喰えていないのだろう。
 そんな感じで切羽詰せっぱつまったオーク達は、とにかく生きる為に人間から略奪をするようになった。その方が森での狩りよりも遥かに楽だからだ。


 とまあ、確かに原因は俺達に、特に俺にある。
 俺も、見ず知らずの村人を巻き込んだまま問題を放置するのは忍びない。それに、と言うかコッチが本音なのだが、恐らくギルドに依頼が出されれば、俺達の拠点の現状が外に漏れる可能性がある。オークの採掘場から発掘された精霊石はたまにこの村にもおろされていたらしく、人間達は討伐ついでに精霊石の出所でどころを探索するだろうからだ。
 精霊石は貴重だ。売れば莫大な金になるし、上質なマジックアイテムの素材としても需要がある。そんな金の成る木を、人間が見逃すとは到底思えない。今までは村とオークとの間で契約があったから、村人達もそうした情報を秘匿ひとくしていたそうだが、それももはや過去の話だ。
 何としても、洞窟を見つけられるのだけは避けたい。拠点はまだまだ要塞化計画の途中なのだ。
 という訳で、俺は村長と話し合い、オーク達に代わって森での安全を保障する契約を交わした。そうこうしているうちに日が暮れた為、一泊したのである。
 オークと同じくいずれ裏切るのではないか、と疑われたが、そこは赤髪ショート達が説得してくれた。やはりこういった時に、同族の言葉は抜群の効果がある。まあ、無料で怪我人の治療をした事も要因の一つではあるだろう。
 とにかく、クルート村との契約は成された。一応現段階では仮の短期契約とし、様子を見て正式な長期契約を結ぶ、という話で片が付いた。これまで通り精霊石の出所を探索してはならないという約束もしたので、取りあえず洞窟の件も大丈夫だろう。約束を破れば村はどうなるか保証できない、としっかり脅しておいた。
 報酬などではだいぶ譲歩しているし、これくらいは良いだろうさ。


 翌朝、朝食を貰い、俺達は村を出立しゅったつした。
 去り際、村長からオークに対する不安がまだ見てとれた為、大丈夫だと言っておいた。
 実は契約が成された時点――つまり昨日の夕方くらいだ――で拠点の待機組に指令を飛ばしておいたのだ。その数時間後には生存していたオーク達の全てが焼き豚となっていたので、既に問題は解決している。
 オーク程度の奴隷など今更必要ないからしっかり殺させた。喰うと結構美味いオークの肉は、待機組の精力増強になった事だろう。
 ちなみに攫われたという三名の弟子の女性も保護したので、今日の昼頃に村へ連れて来いと命じておいた。俺が以前【性欲豚オーク】と言ったように、やはりアッチ方面はまさに底なしで、娘達は結構汚されていたらしい。
 あと、オークに献上されて生き残っていた女奴隷数名はコチラで引き取る事にした。彼女らにとっても、これまでより生活環境はいいと思う。
 幸先はまあまあ良い、と言えるだろう。信頼は、少しずつ勝ち取っていけばいい。


 そんなこんなで、骸骨馬車に揺られながら変身の腕輪を喰いました。


能力名アビリティ変身シェイプシフト】のラーニング完了]

 取りあえず、体だけは変色させておこう。赤い刺青いれずみはそのままだが。


《九十七日目》

 都市に直行するのは止め、じっくり周囲の地形を調べたり、モンスターを喰ったりするのに力をそそぐ事にした。
 現在地は、草原を抜けた先にある丘陵地きゅうりょうち。ココには以前草原でも出合った人面牛のようなバイコーンに加え――
 サイとバッファローとイノシシを混ぜ合わせたような見た目で四メートルほどの大きさがある〝ボルフォル〟
 二メートルほどの蛇の胴体の中心部に三〇センチほどの赤い亀の甲羅を付けたような〝タートルスネーク〟
 ひたいから二〇センチほどの鋭い刃を生やしたホーンラビットの上位種らしき〝ブレードラビット〟
 人間の腕と足を鳥に変えたような〝ハーピー〟
 ――など、今まで遭遇した事の無い種族が多くいるようだ。
 喰えばきっと新しいアビリティを得られるだろう。楽しみである。
 ただ、森のように隠れられる場所は多くない。ココで死角から近づいて奇襲をするのは、俺やダム美ちゃんならかく、赤髪ショートには難しいだろう。
 なので、狩りの際は俺とダム美ちゃんの魔術で先制攻撃を仕掛けて標的をひるませ、その隙に赤髪ショートと共に〝鬼熊オニグマ〟のクマ次郎じろうまたがって接近する事にした。ちなみにダム美ちゃんの《使い魔ファミリア》であるトリプルホーンホースは拠点に残してきたので、彼女は〝オルトロス〟のクロ三郎さぶろうに跨っている。
 全て俺一人で終わらせてしまうと皆に経験値が入らないから、こうするのが一番良かったのだ。
 しかし、ダム美ちゃんが赤髪ショートをうらやましそうに見ていたのは何故だろうか。


 最初の獲物は、ボルフォルの群れだった。数は十頭。一頭は捕らえて、《使い魔》にして骸骨百足を牽引けんいんさせようと決めた。と言うのも、村に立ち寄った時にやはりその見た目で驚かれた為、もう少しマトモな馬車に見えるようカモフラージュしたかったのだ。クマ次郎は有事の際には騎獣として使えるし、クロ三郎は遊撃手として有能だ、こいつらはなるべく自由に戦わせた方がいい。そう考えると、この役目にはボルフォルがうってつけだった。
 ボルフォル狩りは無事に成功。
 赤髪ショート達に聞いたところ、ボルフォルの角は薬の素材として高額で売れるらしく、遠慮なくぎ取った。肉も売れるそうだが、取りあえず俺の朝飯として五頭ほど喰いました。


[能力名【粉骨犀身チャージライノセラス】のラーニング完了]
[能力名【知覚鈍麻ちかくどんま】のラーニング完了]

 量はそこそこあった割に、得られたアビリティは二つだけだった。まあ、こんなモノだろう。二つとも有用そうなので、特に不満も無い。
 と言うか、味が極上過ぎて不満などあるはずもない。焼き肉にしたのだが、口に入れた瞬間溶けるような食感、広がる旨味……たまらん。グロい見た目に反してこの美味さ、思わず詐欺さぎだろう! と言ったのも仕方がないと思うのだ。
 ボルフォル肉マジウマー、とえたのも当然だね。
 食事中も分体を走らせ、脳内地図を埋めていくのを欠かさない。その後は《使い魔》にしたボルフォルが牽引できるように骸骨百足の形を変えてから先を進んでいく。
 しばらくすると、ブレードラビットを見つけた。森にいたホーンラビットよりも大きく、より鋭い武器を額に持っているのが特徴だ。といっても、俺やダム美ちゃんなら軽く踏み潰せる雑魚ざこなので、赤髪ショートに狩らせる事にした。
 俺はその様子を、鍛冶師さん達と一緒に、森の父親エルフから貰った紅茶を飲みながら見守る。
 ブレードラビットは案外素早いようだ。赤髪ショートが惨殺してきたアカシカなどよりも、短距離においては速く動ける。その速度と奇妙な軌道の動きに翻弄され、交錯する度、赤髪ショートの四肢に小さな傷がつけられていく。
 姉妹さん達から小さな悲鳴が上がるが、当の赤髪ショートは焦る事無くブレードラビットを観察していた。確かに苦戦しているが、どれもかすり傷でしかない。日々の訓練の成果だろう。
 一分ほどでブレードラビットのスピードに慣れた赤髪ショートが、狙いを定めてグルカナイフを振り下ろす。それは相手の頸部けいぶを正確に捉え、肉も頸椎けいついまとめて切り裂いた。
 ゴロリと転がった頭部と胴体を拾い、赤髪ショートがコチラを振り返る。俺が頷くと、赤髪ショートはその死体を喰い出した。生で、である。額のブレードを、煎餅せんべいのように軽く噛み砕いていく。
 ボタボタとあふれる鮮血が、赤髪ショートの口や革鎧を赤く染めていった。
 それを見て、クールな錬金術師さんすらも息を呑んだのが分かった。
 俺は、『アレは赤髪ショートの【職業ジョブ魔喰の戦士ノワールソルダ】による副作用を抑制する為にも必要な行為の一つで、病気になる事は無いから大丈夫だ』と教えてやったのだが、『いや、そうじゃなくて……』と呆れられ、クスクスと笑われてしまった。
 何故だ。
 まあ、良い。『ブレードラビットを喰べて能力値が上がったー』と喜んでいる赤髪ショートの頭を撫でて癒されたので、気にしない。
 ちなみに革鎧に付着していた大量の血は、俺が【水流操作能力ハイドロハンド】を使って跡形も無く綺麗に吸い取ってやった。
 昼になって、タートルスネークの住処すみかを発見した。どうやらタートルスネークは、ありなどのように地面を掘って巣穴を造るらしい。奇怪な習性だ。
反響定位エコーロケーション】で調べた結果、結構な数が中で眠っていたので、一網打尽にしてやる事にした。
地形操作能力アースコントロール】を使い、間欠泉のように勢いよく土を盛り上げ、タートルスネーク達を一匹残らず外に押し出す。そして天高く飛び上がったそれ等の首を、俺とダム美ちゃんと赤髪ショート、それに鬼人ロード三名の総数六名で手分けして切り落としていく。高額で売れるらしい甲羅に傷がつかないよう、気を付けた。
 鬼人の種族は【疾風鬼ゲイルロード】と【灼熱鬼フレイムロード】、そして最後の一人が【幻想鬼イルーシェンロード】。
 終わってから数えたところ、タートルスネークの数は八十八体。その中の三十八体は俺が殺していた。
 赤髪ショートには『速すぎだ』と呆れられたが、鍛冶師さん達は『凄かった』と興奮しながら称賛してくれたので気分が良い。
 また近接戦闘向きではない【幻想鬼】は首をねるのにもたつきがちで、非力な人間である赤髪ショートの方が多く狩れていたのだが、まあこの話は獲物が蛇だけに、まさに蛇足である。
 回収した甲羅を【異空間収納能力アイテムボックス】に収納し、蛇肉は特製のタレでかば焼きにして喰う事に。
 以前ナイトバイパーを狩った時はできなかった念願のかば焼きは、大層美味しかったです。エルフ酒との相性も抜群だった。また喰いたい。と言うか、絶対に喰ってやると心に決めた。


[能力名【からこもる】のラーニング完了]
[能力名【休眠】のラーニング完了]

 味は良かったが、得られたのは微妙なアビリティだった。甲羅は絶対に高額で売ってやる。
 本当は空を舞っているハーピー達も喰いたかったが、人型を喰うところを見せるのは鍛冶師さん達の精神衛生上良くないと思い、いずれ彼女らの目が届かない時が来るまでおあずけにした。今は我慢である。
 夕方前頃に寄り道はお終いにして、丘陵地を過ぎた先にある山道まで進む。
 分体の働きによって既に丘陵地のマップも完成しているので、この辺りには特に心残りも無い。
 さて、山道にはどんなモンスターがいるのやら。


《九十八日目》

 鍛冶師さん達によると、山道には主に、最も短いが非常に危険度の高い崖沿いの道、危険度も距離も中くらいの普通の山道、最も安全だがその分長い川沿いの道、という三つのルートがあるそうだ。
 そして俺が選んだのは、難易度の最も高い崖沿いの道である。
 何故なら、道が他よりも険しいのに加え、ハインドベアーのような周辺最強種が棲みついているというからだ。
 しかもボス系モンスターの個体まで生息しているらしく、その強さはレッドベアーを超えているとの事。これはぜひとも喰いたい、と思ったのだ。
 この周辺の最強種は〝四翼大鷲ファレーズエーグル〟と呼ばれる、茶色い羽毛と四つの翼を持つ大型のわしだ。平均的な体長は二メートルほどもあり、その二倍を超える長さの四翼を広げて飛ぶ姿は、見る者を圧倒するそうだ。しかも厄介な事に、巨躯に見合わない飛行速度と回旋性能を持ち、鉤爪かぎづめからは獲物をジワジワと弱らせる麻痺毒を分泌するのだという。
 生息数こそ少ないが、崖沿いの道を進んでいると必ず襲ってくるらしい。
 そしてそれ等を率いるボスが、翡翠ひすい色の羽毛を持つ〝四翼大鷲・亜種バリアント〟。
 通常種より際立って大きく、神々のいずれか一柱から授けられた【加護】を持っている。その能力によって口から小さな竜巻を発生させたり、羽ばたきで生まれる風を、敵を切り刻む刃に変化させたりするそうだ。それに加え、配下を指揮するだけの知性もあるのだとか。
 コイツが棲みついて以来、崖沿いの道を進むモノは殆どいなくなったとの事。
 確かに厄介そうだ。レッドベアーは強かったが、あくまでも単体で動いていた。しかし今回は群れである。
 崖沿いの道に入る前に、鍛冶師さん達から散々止めるよう説得されたが、俺は大丈夫と言って突き進んだ。
 案の定ファレーズエーグル達と遭遇した。確かに、その飛行速度はかなり速く、しかも死角の多い崖沿いの道から突然飛び出してくる。
 しかし、【気配察知】を持つ俺からすれば、その出てきた瞬間こそが狙い目で、容易く糸で捕獲する事ができた。奇襲も、事前に分かってしまえばかえって狙い撃ちし易いのだ。
 そんな訳で、捕まえた総数十八体のファレーズエーグル達は、売れる素材をぎ取り、残りをから揚げや焼き鳥などにして喰いまくった。
 さっぱりとした肉は、なかなか美味うまかった。


[能力名【混乱を呼ぶ鳴き声パニックボイス】のラーニング完了]
[能力名【羽毛生成】のラーニング完了]
[能力名【高速飛行の心得】のラーニング完了]
[能力名【風読み】のラーニング完了]
[能力名【麻痺爪】のラーニング完了]
[能力名【麻痺耐性トレランス・パラライズ】のラーニング完了]

 そんな感じで危なげなく進んでいると、昼には崖沿いの道の中で最も広い場所に出た。そこには色々な動物の骨が散らばっていて、道、というよりは何かの巣のようだ。よく見れば、人間の骨や武具の残骸も幾つか散らばっている。まるで、道に居座った猛獣を討伐しに来て返り討ちにあった名残なごりのような……
 などと思っていると、上空から羽音がバサリバサリと響き、吹き荒れる突風が肌を打った。
【気配察知】で既に感知していたので特に驚く事も無く、俺は上空を見上げた。
 そこにいたのは五体のファレーズエーグルを従えた、翡翠色の羽毛を持つボス――〝ジャッドエーグル〟だった。普通のファレーズエーグルの二倍以上はある体躯が力強く飛んでいる様は、存在感に満ち溢れていた。
 レッドベアーよりも遥かに巨大で、発する威圧感も桁違けたちがいだ。
 目が合う。チリチリとうなじの辺りに違和感を覚える。アチラは、コチラを確実に殺しにきていた。
 翡翠色の羽毛がまるで刃のように陽光を反射させてきらめき、金剛石ダイヤモンドのようなくちばしや鉤爪が、早く獲物の肉を斬りたいとばかりに、しきりに動いている。爪と爪がこすれ、異音とともに火花が散った。
 俺を見下ろすその黄色い双眸そうぼうからは、確かな知性を感じる。殺すのは勿体ない、と思わせるだけの気品がある。
 しかし残念ながら、俺は初見の敵をできるだけ喰うようにしている。そしてジャッドエーグルは亜種だ。喰えば、レッドベアーの時のように【加護】系のアビリティを得られるだろう。
 まさに喰うべき相手だった。
 赤髪ショート達の守りをダム美ちゃんと鬼人ロード三名に任せ、俺は【鞘翅生成しょうしせいせい】を使って背中に虫のようなはねを生やし、上空の敵に向かって飛翔した。
 ハルバードを、この手に握りしめて。

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