Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐

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3巻

3-12

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 とまあ、大きな変化はこんなモノだろう。
 今日は新しい施設をカナ美ちゃん達に案内して回り、昼には久しぶりに団員との手合わせを行った。
 下半身が竜と馬を混ぜた竜馬で、上半身が人間という種族〝人竜馬ドラゴタウロス
 頭髪の一部が触角のような形をし、四肢と上半身の一部に強固な外骨格を持った〝甲虫人インセクター
 全身を外骨格で覆った甲虫人インセクターの上位種である〝甲蟲人インセクトイド
 狒々ひひに似たタイプの〝猿人オロリン
 ――など、新しいメンバーは今まで戦った経験の無い種族や氏族が多くそれなりに楽しめたが、分体を使って訓練していた雷竜人サンダードラゴニュート達やボス猿達の方が手応えがあった。
 既に分体で確認していたが、順調に強くなっているのだと再認識。
 それと俺が団員達と手合わせしている間に、赤髪ショートは〝師匠〟である鈍鉄騎士と手合わせ。以前よりも強く成れていた、と喜びながら報告してきたのには、少々笑みが零れた。
 訓練が終わった後は、《工房》で物資の整理と整備をしていた鍛冶師さんと錬金術師さんのところを回り、訓練に参加させていた子供達とたわむれ、赤ん坊のニコラを抱っこし、規模が大きくなり人材も増えた調理場の指揮をとっていた姉妹さん達のところに出向いて手伝いをし、晩飯を喰ってから自室の模様替えをした。
 とは言え買っておいた家具は【異空間収納能力アイテムボックス】に入れているので、置きたい場所に取り出して設置すれば完了だ。そう時間はかからなかった。
 まあ、有意義な一日だったと言えるだろう。
 寝る前に、月が綺麗だから夜空のデートに行きましょう、とカナ美ちゃんに誘われたので二人で出かけたのは秘密である。


 本日の合成結果。


【錬鉄の外殻鎧】+【不破の城殻じょうかく】=【不破の鎧城殻がいじょうかく
【高速治癒】+【高速再生】+【強靭なる生命】+【巨人族の常識外な生命力】=【超速再生】
【同族殺し】+【鬼殺し】=【鬼殺す鬼軍の僭主せんしゅ
【山の主の咆撃】+【黒鬼の咆哮】=【黒使鬼の咆撃】
【剛毛ノ守】+【強靭な骨格】+【山の主の堅牢な皮膚】+【巨人王の血肉】+【巨人王の骨格】+【黒鬼の強靭なる肉体】=【理外なる金剛こんごうの力】


《百二十七日目》

 まだ肌寒い早朝、俺はジャッドエーグルの素材から造った二番目の外骨格【翡翠鷲王ひすいわしおう飛翼ひよく】を装着し、天高くを飛行して単身でミノ吉くん達第二グループが居る場所に急行していた。
 ミノ吉くん達はダンジョンでのボス狩り合宿を終了して地上に向かっていたのだが、どうもその途中に出逢った他の冒険者達に『ボスが最奥から出てきた。それも普通じゃないタイプが』と勘違いされてしまったらしい。
 そりゃ、【牛頭鬼ミノタウロス】がボスとして出る迷宮で、【牛頭鬼・新種】のミノ吉くんが出歩けば、そうなる可能性もあるだろう。そんな簡単な事を、ミノ吉くん達は実際に騒動になるまで考えていなかったのだ。
 俺は俺で人間の仲間も一緒に居るから大丈夫だと思っていたのだが、迷宮が複雑な構造をしている事に加えて遭遇した冒険者達の逃げ足が速かったらしく、事情を説明する前に逃げられてしまったそうだ。
 何グループかとすれ違ったが、姿が見えた瞬間に全て逃げられたそうな。ミノ吉くんなら余裕で追いつけそうだが、それをすると話しどころではなさそうだったので追いかけなかったらしい。
 そんな訳で、このままではヤバいかも、と判断したミノ吉くん達は、どうしようもない状況になる前に俺に連絡してきたのだ。
 俺はイヤーカフスを介して地上に残っていた他のメンバーに待機を命じ、俺自身も赴く事にした。
 アス江ちゃん達だけで外に出て《総合統括機関ギルド》に事情を説明するか、あるいは外に居るメンバーが説明すれば解決しそうなものだが、話を信じてもらえないという事もあり得る。
 多分、お転婆姫から貰った【王認手形】で、この問題は解決できるだろう。とは言え、色々と複雑な迷宮都市内部で【王認手形】がどこまで役に立つのかは未知数な部分もある。
 ダメな時は、まあ最悪、俺の血からしかワクチンが作れない凶悪ウイルスを撒き散らすアビリティ【病魔を運ぶ黒の使徒パンデミック・ブラック・アポストル】を使って、迷宮都市ごと潰すか。
 ……案外、悪くない案だ。それなりに喰いごたえのある冒険者も多いだろうし、城壁に囲まれた拠点も手に入る上に天然の訓練場/迷宮もある。
 が、まあコレは最終手段としとこう。
 ミノ吉くん達は今日の昼には外に出られるらしいので、その前に事を片付けたいものだ。


 迷宮都市《グリフォス》には、一時間もかからずに到着できた。
 門を飛び越えて中に入ってもよかったが、出る時に俺が何処どこから入ったのか疑問に思われても困るので、正式に正面から入る。中年の門番に【王認手形】を見せたところ、余計な時間を浪費せずに済んだ。
 迷宮都市《グリフォス》に入ってすぐ、待機を命じていた地上居残り組五名と合流し、街の中を歩いて行く。こんな朝の早いうちからも迷宮都市らしく活気があるものの、どこか暗い雰囲気が漂っていた。
【盗聴】してみると、やはりその原因はミノ吉くんらしい。まあ、そうだろう。
 という事で、進む速度をやや上げた。


 歩く事数分、《見た事の無いミノタウロス/ミノ吉くん騒動》対策で慌ただしく人が行き交っている《総合統括機関ギルド》――三階建てで普通の家三軒分くらいの幅がある立派な建物――に到着したので、その正面口から入る。中は相当五月蠅うるさかったので一瞬だけ【黒使鬼の威厳】を発動。
 周囲が黒く重い何かに満ちた空気で包まれ、途端に雑音が消失。
 結構な数の人間が気絶して崩れ落ちた周囲を見回していると、俺に恐怖のこもった視線が集中するのが分かった。これらを無視し、従業員を呼ぶ。
 真っ青な顔で震えながら近づいてきた猫耳尻尾の中年男性に対し、《総合統括機関ギルド》の最高権力者であるギルドマスターを呼ぶように頼んだ。
 猫耳なのに脱兎だっとの如き勢いで、中年男性はすっ飛んでいった。
 近くにあった椅子に座って我が団員達と雑談しながら待つ事しばし。先ほどの中年男性が戻ってきて、奥の部屋に通された。
 奥の部屋は豪奢ごうしゃだが品の良い感じで、迷宮から発掘されたとおぼしきマジックアイテムが所々に飾られている。結構金のかかった応接間だ。
 出されたコーヒー(のような飲み物)に口をつけて待っていると、四十代くらいの少々腹の出た小男と、眼鏡をかけた秘書風の女性が入ってきた。小太りの小男が俺達の対面のソファに座り、秘書風の女性がその背後に立つ。
 お互いに自己紹介をしたところ、どうやら小太りの彼がココのギルドマスターであるらしい。予想よりも遥かに若い。以前立ち寄った防衛都市《トリエント》のギルドマスターは老人だったので、てっきりココももっと年老いた人だと思っていた。少々驚いたが、それだけやり手という事なのだろう。
 世間話もそこそこに、俺がココに出向いた用件を説明した。例のミノタウロスは俺の仲間なので、そんなに警戒しなくても大丈夫だと、そういった話だ。
 少々疑われ気味ではあったが、最後には納得してくれた。
 が、どうやら少々遅かったらしい。
 地上に登ってくるミノ吉くん達を討伐する為に、この都市でも腕利きの冒険者パーティ三つから計十八名が《連結部隊レイド》となって迷宮に潜ってしまったらしいのだ。
 ミノ吉くんに関する誤解はこの話し合いで半分解決している(それを事実と証明していないのが残り半分だ)。だが、潜ったレイドパーティをミノ吉くんが殺すと少々話が面倒になる。
 迷宮内部では基本的に『モンスター相手以外の殺しは御法度ごはっと』らしく、もし殺しが発覚すれば相応の罰が待っているそうだ。
 ミノ吉くんをモンスターとして認識しているレイドパーティ側がこの違反に該当するかはかなり微妙だが、ミノ吉くん達がレイドパーティの構成員を殺害すると、確実にペナルティが発生する。一定期間ギルドで無償で働くとか、危険な場所にある素材を回収するとか、正当防衛なので普通よりは軽いらしいが。
 レイドパーティがミノ吉くん達を殺してもペナルティが発生しない、というのは業腹ごうはらである。
 まあ、決まりならば仕方ない。納得はできないが理解はできた。
 文句は当然あるが、世の中だいたい理不尽なのだ。
 俺の本心としては冒険者達を殺して所持品を奪ってしまいたいのだが、取りあえず殺さないようにイヤーカフスを通してミノ吉くん達に指示を出す。殺さずに持ち帰らせて、所持品を少々頂戴するくらいで我慢しよう。うむ、所持品が幾つか紛失したとしても、事故なので仕方がないんだ、コレは。
 と予防線を張っておく。
 その後書類上の色々な手続きを終えると、ギルドマスターとちょっとした商売――森で採れる素材は案外高値で売れるのだ――をしながら時間を潰す。やがて、予定通り昼にミノ吉くん達が外に出てこれそうだ、と連絡があったので出迎える事になった。
 迷宮の入り口で待っていたので、ミノ吉くん達が出て来た瞬間に再会した。
 周囲には俺の説明が事実かどうかを確認する為にギルドマスターと女秘書、そしてその護衛である冒険者とギルドお抱えの戦闘要員が三十名以上居る。
 だが、今のミノ吉くんと対峙するには少々心細い数だし、それに実力も足らないようだ。出てきたミノ吉くんを見て、全員が無意識の内に後ずさっている。気持ちは分からなくもないが、強面こわもての屈強な男達がそんなザマでは少々頼りなさ過ぎだろう。
 ちなみに野次馬も居たのだが、ミノ吉くんが出てきた瞬間に一気に距離をとって、かなり遠くから見物していたりする。多少の混乱はあれど収拾の付かない恐慌までは至っていないのは、流石さすがは迷宮都市の住人達といったところだろうか。
 しかしそれにしても、実際にミノ吉くんを見て改めて思う。
 デカイな、と。
 俺の二倍以上にもなる五メートルサイズのミノ吉くんは、見上げねば顔が見えない。
 見上げるほどの巨躯、というのはそれだけで周囲を威圧する要因となる。
 その上、身体の部位ごとに見てもかなり派手だ。
 牛頭の大きな口からは呼吸する度にバチバチ、ボウボウ、と小さな雷炎が零れ出ているし、黄金色の体毛に覆われた下半身は時折バチバチと黄金の雷をまとっている。筋骨隆々の上半身は以前と変わらぬ赤銅色しゃくどういろだが、そこに黒と黄金で描かれた刺青が追加されている。【加護】持ちの【新種】だから仕方ないとは言え、目立ち過ぎる。
 そしてそんなミノ吉くんの肩に担がれてうめいているレイドパーティ御一行とか、結構、いやかなりシュールな光景だった。
 ミノ吉くんと体格的に見合うほど大きいアス江ちゃんが隣に居るのも、より一層独特な雰囲気をかもし出す要因になっている。
 レイドパーティの構成員は火傷や複雑骨折、四肢欠損など重軽傷者多数だったが、取りあえず死んでいないし、俺が元通りに治療したので、ミノ吉くん達のペナルティは無しとなった。
 レイドパーティの一部は何やら言ってこようとしたが、眼と眼でお話しして黙らせた。更にギルドマスターによる仲介もあったので、これは一件落着。
 闇討ちとかしてくるつもりなら、その時は美味しく頂くので、むしろ望むところである。


 これで用事は無くなったので、ミノ吉くん達もそろそろ拠点に戻ってくるように伝える。
 俺は空を飛んで先に帰るが、ついでにミノ吉くん達が収集したアイテムのほぼ全てを回収した。正面から外に持ち出すのは【王認手形】を使ってもかなり面倒なので、その対応策である。
 いや、なんとミノ吉くんも【御霊石】を獲得していたとは。本当にイイ奴だよなと思う。
 うーむ。それにしても、【御霊石】はどう使ったら一番イイのだろうか。それが問題だ。
 銀腕と合成するべきか? 喰うべきか? それともマジックアイテムの素材にするべきか? 
 取りあえず、もっと情報を収集してから考えよう。しばらく【異空間収納能力アイテムボックス】の中で保管する。


 本日の合成結果。


貫く暴雨の左腕パルジャニヤ】+【轟く雷霆の右腕イラティキ】=【響く雷雨の両腕ヌウアルピリ
【重撃無双】+【連撃怒涛】+【強打乱舞】=【肉潰す怒涛の破拳】
聖十字斬りグランドクロス】+【十字斬り】=【聖十字斬り・改グランドクロス・スマッシュ
静寂の突きサイレント・スタブ】+【刺突スタブ】+【鎧通しアーマーピアース】=【無音の破突サイレント・ピアース
【嵐風】+【断風】=【嵐風・改】
気刃斬りオーラ・スラッシュ】+【重斬撃ヘビー・スラッシュ】=【気刃斬り・加重オーラ・スラッシュ・ヘビィ


《百二十八日目》

 今日は午前訓練が終わった後、カナ美ちゃんに生成してもらった〝グール〟の屍肉を大量に喰らいつつ、蠱毒製法によるブラックスケルトン強化個体生産作業に勤しんだ。
【中位アンデッド生成】によって生み出されたグール達にはそれぞれに意思があったが、カナ美ちゃんの命令一つで自殺していくので手間がかからない。
 七時間に及ぶ休み無しの作業――生成したブラックスケルトンは三千体くらいだろうか――によって、〝ブラックスケルトン・コマンダー〟十三体、〝ブラックアンデッド・ナイト〟四体が誕生。
 そして新たに、下半身が黒骨の馬という、ケンタウロスのスケルトンバージョンという表現が相応しい姿の〝ブラックスケルトン・ホースソルジャー〟も六体誕生した。
 誕生して早々ではあるが、これらのうちブラックスケルトン・ホースソルジャー二体を除いた全てを喰ってみた。


[能力名【魂魄喰いソウルイーター】のラーニング完了]
[能力名【腐臭耐性トレランス・スメル】のラーニング完了]
[能力名【黒き不死族の騎士衣ブラックアンデッド・ナイトクロス】のラーニング完了]
[能力名【黒骨軍の司令官ブラックボーンアーミー・コマンダー】のラーニング完了]
[能力名【不死騎士の因子】のラーニング完了]

 グールは八十体以上喰ったはずだが、得られた能力は一つ目と二つ目のモノだけだった。とは言え欲しかった【魂魄喰い】が得られたのでよしとしておこう。
 その後、先日作ったブラックアンデッド・ナイトであるスカーフェイスとブラックスケルトン・ホースソルジャーの二体を【骨結合】と【合成】を使って改造してみた。
 まずブラックスケルトン・ホースソルジャーの頭部を竜に似せた形に変形し、竜馬のようになった二頭を【合成】――こうして、一つの胴体に二つの竜頭と八脚を持つ黒骨の巨馬が完成した。
 ……とんでもないモノができ上がってしまった。


 そしてその胴体部に、下半身を取り除いたスカーフェイスを【合成】する。取り除いた下半身も各所の部品としてリサイクルしつつ、予め保管していた黒骨も流用した。
 この改造によって竜馬の胴体は、側面に六対の副腕が生えるだけでなく槍型の生体武器も出せるようになった。全身から噴出する黒いオーラ的な生体防具のおかげで護りも堅い。
 現在のスカーフェイスはさしずめ【冥界の竜骨騎士ブラックアンデッド・ドラグーンナイト】といったところか。
 黒骨竜馬の下半身にブラックアンデッド・ナイトの上半身が付いたその見た目は強烈で、なにより巨大だ。体高は少なくとも四メートルはある。
 それに竜馬の下半身は機動性にも優れ、八本腕の上半身と竜馬の胴体から生えた六対の副腕による攻撃は複雑怪奇で、隙が無い。
 ふむ、これはいいかもしれない。
 改造は思ったよりも楽しかったので、今度は巨人達を【存在進化ランクアップ】させてみるのも良いだろうな。
 そう言えば、【下位アンデッド生成】と【下位巨人生成】を一度に使うとどうなるのだろうか。
 巨人のスケルトンが生成できるのだろうか。
 気になる。


《百二十九日目》

 朝の訓練を終えて昼飯を喰っていると、ミノ吉くん達が帰ってきた。
 そして早速、ミノ吉くんは俺に手合わせを所望してきた。コチラも進化したミノ吉くんの事が気になっていた故に、拒否するはずもない。
 突貫工事で専用の闘技場を形成し、いそいそと対戦準備を整えたのだった。


==================


 神秘なる森《クーデルン大森林》。
存在昇神クラスアップ】を成し遂げ、【深緑しんえんの亜神】へと至った【妖精王オベロン】グフスト・ゲナハ・マステラが産まれ、生きて、そして死んだ場所である。
《クーデルン大森林》には、千二百年が経過した今も、グフストの【存在昇神】時に発散された【神力イデア】の効力が残っている。人間よりも自然に対する感受性の高いエルフ達は、他の森とは格段に違う居心地の良さからこの森に身を寄せ合い、平和に暮らしていた。
 つい最近、とある事情から人間の王国と帝国の連合軍によって侵略を受けたが、同じく大森林に生息する鬼達の助けによってそれを退け、今は平和を取り戻している。
 その時の戦の傷痕は大森林の所々に刻まれている。だが、【深緑の亜神】の【神力】によって木々の成長は通常よりも断然早く、数ヶ月もすれば傷痕は森にまれて消えていくだろう。


 そんな森の一角に、傭兵団《戦に備えよパラベラム》の本拠地が存在した。
 太陽が頂点近くにまで昇った頃、平らに整地された《外部訓練場》にある、深さ二〇メートル、直径一三〇メートルの円柱状に陥没した穴の中で、二体の鬼が対峙していた。
 一方の鬼は朱槍【餓え渇く早贄の千棘ガルズィグル・ベイ】を肩に担いだ、銀腕と三本角が特徴的な黒い使徒鬼アポストルロードであるアポ朗――真名・夜天童子やてんどうじ
 その正面で猛々たけだけしい鬼気をまとっているのは、霊斧れいふ霊焼れいえん免罪斧めんざいふ】と霊盾れいじゅん雷炎牛鬼らいえんぎゅうき城盾じょうたて】を構えた〝新しき〟牛頭鬼ミノタウロスであるミノ吉――真名・雷炎牛皇ケラウノス
 ピリピリと緊張感をみなぎらせている両者が浮かべているのは、やけに好戦的な笑みだった。

「ミノ吉くんと闘うのも久しぶりだな。それにしても、随分強くなっているみたいだ」
「そうダナ、己は迷宮の底で同種ト戦い、力と技を得タ。以前よリモ確実に強くナっているダロウ。そしてそノ全てはアポ朗、お前ヲ倒し、対等になルタメだ」
「俺と対等、に?」
「そうダ。己はアポ朗と対等にナリ、真の友とシテ在りタイ。その為ニ、力を得タのだ」

 ミノ吉が放つ言葉は、聞く者に嘘偽り無く、本音なのだと理解させる力強さがあった。
 アポ朗は真っ直ぐ向けられた好意に気恥ずかしくなったのか、微妙に表情を変えつつ、ポリポリと銀腕の指で頬を掻く。

「そ、そうか。んじゃやる気満々らしいし、話はここらで止めて、始めようか」

 呼吸を整える事で気持ちも整えたアポ朗は、中腰に構えた朱槍の穂先をミノ吉の心臓に向けた。
 それに対し、ミノ吉は自身のランクアップに伴って姿も威圧感も様変わりした愛用の巨大な斧と盾を構え、返答。

「いつデモ、構わン。たダシ」
「ただし?」
「今度こそ、己が勝ツ!!」
「ハハ、良いね面白いッ。なら、まずは俺に全力を出させてみろッ」

 得難き心友と向かい合い、最高の笑みを交わす両者。
 そして闘いは、ミノ吉の咆哮ほうこうによって始まった。

「ブモゥオオオオオオオオッ!!」

 それはまるで爆発の如く攻撃的だった。
 周囲の土石がハッキリと波立つほどの桁外れな音量は、【すくみ】や【畏怖いふ】といった精神と肉体を犯す様々な状態異常バッドステータスを誘発する。心の弱いモノであればただこの一声によって失神し、あるいは耐えたとしても一時的に動きが鈍くなる。力量が違い過ぎれば、恐怖のあまり死んでしまう。
 アポ朗は、同じく咆哮でって反撃する事を選択。
 脳内に浮かぶ様々なアビリティの中から【黒使鬼の咆撃】を発動させ、咆えた。

「ガァアアアアアアアッ!!」

 咆哮対決ならば、ミノタウロスであるミノ吉が容易く勝利するはずである。
 鬼人ロード種であるアポ朗は、身体構造的に出せる音量において不利であり、【咆哮】を一種の攻撃としてすら扱うミノタウロス種に勝てるはずが無かった。
 しかしアビリティ【黒使鬼の咆撃】はそんな常識を打ち破り、本来どんなに頑張ったとしても出せるはずの無い音量をアポ朗に与えていた。
 まるで、二つの雷鳴のようだった。
 不可視の攻撃が衝突し、打ち消し合い、逃げ場を失ったエネルギーによって両者の丁度中間点となる地面に、横一線に亀裂が走る。
 二人の戦いを遠くから見学していた他の団員達は、その余波だけで気絶してしまう者が五割、動けなくなったモノが四割にまで達している。
 しかしこんなモノは、アポ朗とミノ吉からすればただの挨拶でしかなった。
 アポ朗とミノ吉、共に一切の状態異常バッドステータスが発生していなかった。
 両者の攻撃は相殺し合い、本来の効果を発揮しなかったからだ。

「ブモォォォオオオオオ!」

 咆哮を止め、ミノ吉が動く。


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