Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐

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外伝

外伝-8

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 ◆◆◆


 十八人。
 血剣を駆使するブラ里が、洞窟の入り口で殺害した人数だ。
 自分ではいちいち数えてなどいなかったのだが、イヤーカフスが教えてくれたのである。事前に伝えられていた盗賊団の人数は四十三人だから、残りは二十五人。
 まだ二十五人も居るという安堵。殺害意思の増大。戦意高揚。血の香りによって気分も上々だ。
 そしてブラ里は考える。
 ずいぶん前から、標的達はピタリと現れなくなっていた。
 どうやら内部で迎撃の陣形を組んでいるらしい。他の出入り口は別動隊が物理的に潰した為、新しく掘る以外にはココしか脱出口は無い。
 しかし出てきた標的達は全て排除し、一人も生き残りはいない。その戦闘音も響いているのだろう。この正面出口を何者かが封鎖していると、馬鹿でも推察できる状況だ。
 故に彼等は籠る。襲撃者が目的である宝物が破損する事を恐れて、洞窟内を焼き払ったりはしないと確信して。あるいは何かしらの対策があるのかもしれない。
 ともかく。
 洞窟内の敵の待ち伏せ。彼らは決死の覚悟で、生きる為に全力を振り絞るだろう。
 それがこの先に待っている。
 そう考えただけで愉悦ゆえつが浮かび上がり、ブラ里は単独で踏み込む事を決断した。
 設置された罠――イヤーカフスは沈黙――なしと判断する。
 血剣を分解、元の血へと戻し、そしてその血を紐状に再変形。周囲の地形を把握する〝感覚枝かんかくし〟として壁を滑らせる事しばし。やがて敵が固まっている一角を発見するに至った。
 周囲には長机や椅子――食堂らしきひらけた空間なのでその数多数――を使って簡易バリケードが形成済み。
 戦場の地形の把握――完了。洞窟内の最短ルート選出――完了。
 感覚枝を分解、元の血へ、そして再び血剣へ変形――二十の浮かぶ剣の生成が完了。
 準備を終え、ブラ里は真っ直ぐ走る。
 敵が待つ、その真っ只中に向かって。
 目的地にはすぐに着いた。そんなに距離はないのだ。
 固く閉ざされた扉を蹴破り、舞い散る木片と共にブラ里は内部に侵入。縦二〇メートル、横三〇メートル、高さ八メートルほどの、魔術か何かで補強された広い食堂の中、飛来する多数の矢。外での襲撃時とは違い、弓よりも強力なクロスボウによって放たれた矢だった。
 防御しなくても問題はないかもしれない。だがブラ里は、クロスボウを受け止めた事はなかった。全身鎧を僅かにでも傷つけられるのではないか、という多少の不安が走る。
 それを振り払う為、ブラ里はロングソードと血剣を使って、直撃する矢だけを薙ぎ払った。
 矢と刃が衝突。矢は真っ二つに斬り裂かれ、矢の残骸が周囲に散らばる。
 あえて見せつけるような派手な剣技に、待ち伏せていた者達の大部分はひるみ、無意識のうちに後退していく。
 戦いに勝つには、勢いも重要な要素だ。その勢いを得たブラ里はこの機を逃さないように駆け出そうとするが、盗賊達の中で一人の大男だけが、築かれた机や椅子のバリケードを飛び越えてブラ里の前に立った。
 大男から漂う強者の気配に、ブラ里は眼に歓喜の色を浮かべた。

「よりにもよって、【鬼人ロード】の中でも好戦的な【血剣鬼ブラッディロード】が相手とは、運がねェにもほどがあるぜ、全く」

 人間にしては珍しく二メートル近い巨躯、鋼糸を編んで紡いだような太い筋肉はまるで大鬼オーガを彷彿させる。灰銀色の短髪はボサボサで、けんのんな眼光を宿す三白眼は野生動物のようだ。他人をかくする天然の強面の右頬には十字の刃物傷があり、より近寄りがたくなっている。
 急所だけを金属板で強化した軽装鎧を装備したその大男は、苛立たしさを発散するように両手でガリガリガリ、と頭を激しく掻いた。
 男から大量のフケが周囲に散らばる。
 汚い、不潔――ブラ里の率直な感想。

「最近は盗賊活動の調子がいいと思ってりゃすぐコレだ。運がねェ、運がねェぜ全く、ああ、くそ。運がねェ。運がどこかに行っちまいやがった」

 ガリガリガリガリガリガリ、大量のフケが男の頭部から更にばら撒かれる。
 両手で掻く速度が徐々に徐々に速く、激しいモノになっていく。
 やがてその動きに、狂気が宿り始めた。

「くそ、くそ、クソクソクソクソクソクソッタレ野郎がッ!! お前だッ、お前が俺の運を奪い取りやがったんだなぁぁぁぁぁあああああああアアアアアアアアアアッ!! 返せッ、俺の運を、返しやがれェェェェェエエエエエエエエエエエエッ!!」

 ガリガリブチリブチリビチャビチャ、大男は自分自身の頭髪を自ら頭皮ごと掻きむしった。大男の指には血で赤く濡れた頭皮つきの頭髪が絡まり、顔面を頭部から流れ落ちる赤い血が染めていく。
 そして赤い狂気に染まった声で意味不明な事を叫びながら、男が疾駆した。驚異的加速力により、一瞬で最速へ至る。
 まるで筋肉の砲撃のようなド迫力の突進。ブラ里はそれを冷静に観察した。
 今、男に得物は一切見受けられない。装備している防具も、防御力はそこまで高いモノでも無い。ロングソードの切れ味の前では、あってないようなモノだ。
 ならば問答無用で斬る――その意思に従って血剣が舞う。
 しかし――

「返せよォォォォォオオオオオオオ!!」

 男が右人差し指に嵌めていた指輪の赤い宝石が鈍く輝くと、次の瞬間には、迫る男の手のうちに巨大な鉄塊のような鈍器があった。
 大男は、八角形の棍棒に無数の棘が生えたその金砕棒こんさいぼうを、迫りくる血剣の軍勢に向かって一振りした。轟風と衝撃波が発生し、無造作な破壊のエネルギーが地面を乱暴に捲り上げ、舞い踊る血剣の軍勢を弾き飛ばした。
 ただの力技だが、出鱈目でたらめな遠隔攻撃。驚異的行動、驚異的能力。

「――ッ! ……フフ」

 驚愕、そしてその後に響く歓喜の声。
 ブラ里はその身を喜びで震わせながら、十八名の成人男性を殺害して得た大量の血液全てを使って巨大な球体を形成。その球体に手にしていた赤いロングソードを突き刺す。

[魔剣【鮮血皇女】の固有能力【我は血鉄を飲み干すトリンケン・ブルート】が発動しました]

 大量の血を一瞬で吸い尽くした【鮮血皇女】の刀身が、鮮やかな赤から酸化したような赤黒い色へ変色する。
 不吉な気配が、刀身から発散される。

「返しやがれェェェェエエエエエエエ!!」

 準備が整ったのは、大男も同じだった。
 狂った男が突撃し、両者の間にあった距離は消失する。
 ブラ里の全てを破壊すべく振り下ろされた金砕棒と、それを迎え撃つ赤黒く染まった【鮮血皇女】の刃。
 全てを潰すモノと全てを切り裂くモノの衝突。
 周囲に撒き散らされた衝撃波と轟風、鼓膜が破れそうなほどの衝突音、眼を焼き皮膚を焦がしそうなほどの火花。
 真正面からの全力同士の一撃――しかし勝敗は決しなかった。
 全てを潰すはずの金砕棒は赤黒い刃に阻まれ、血を求める【鮮血皇女】も相手を切り裂けなかった。
 密着した状態で互いに互いを殺そうと力を込める。金砕棒と【鮮血皇女】が硬質で小さな悲鳴を上げるが、軍配はどちらに上がる事もなかった。
 両者の膂力りょりょくは正に拮抗きっこうしていた。

「返せ、俺に運を返せェェェェェエエエエエッ」

 狂った男の咆哮、あるいは嘆願。運を返せ、と男は血の涙を流しながら声を上げる。
 咆哮する度、どこからひねり出しているのか不思議に思えるほどの力がみなぎっていく。

「返せ返せ返せ返せ、運を運を運を運をォォォオオオオッ」

 徐々に音量が上がり、それにつれてブラ里は徐々に押されていく。
 それでも抗っていると、突如金砕棒が鈍鉄色に光る。
 嫌な予感。本能の直感に従ってブラ里は即座に後退すると、次の瞬間には先ほどまで居た空間の空気が音を立てて破裂した。
 空気が破裂した原因――狂った男が持つ金砕棒が、甲高い音を鳴らしながら振動している。
 ブラ里は後退しながら【鮮血皇女】を横一閃。剣尖から赤い液体が射出される。遠くの敵を容易たやすく切り裂く、圧縮された血液の斬撃だ。
 狂った男は、高速振動する金砕棒を血の斬撃に向けて構えた。
 両者の攻撃と防御が衝突する。
 液体である赤い斬撃は本来なら金砕棒の守りを通り抜けるはずだったが、金砕棒の高速振動によって瞬間的に加熱され蒸発、血煙となった。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ」

 尚も響く絶叫。狂い果てた男。その目に正気は無く、ただ狂気が宿るだけ。口元からはダラダラとよだれが溢れる。
 その状態になった途端、狂い果てた男の全身から黒い何かが噴き上がる。発散されたこの狂気は、周囲にいる者達に、男と同じように狂いたいという異常な欲求を引き起こした。
 正に【狂戦士バーサーカー】と呼ぶしかない男の現状。
 ブラ里はそれを見て、愉快そうだった眼を一転して不快げな眼に変えた。

「狂ってしまっては、つまらないですよ」

 ただ一言。そしてそれに添えられた、今まで遊んでいた玩具を容易たやすく捨てる童子のような、冷たい視線。
 狂い果てた男はそれに気が付かない。だが、両者の戦いの迫力に押されて息を潜めていた他の盗賊達は、自らに向けられていないはずのそれに恐怖した。
 失禁してしまったモノも居る。それほどに、ブラ里が放つ気配は不気味だった。

「私は正気のまま殺したいのに、恐怖に染まった血を飲みたいのに。なのに貴方が狂ってしまっては、楽しめないじゃないですか」

 期待外れだったというようなため息。
 狂い果てた男はそんなモノに頓着せず、再度突進する。即座に間合いは詰まり、高速振動する金砕棒がブラ里に向けて振り下ろされた。
 高速振動する金砕棒は粉砕機のような能力を得ており、真正面から受け止めるのは無謀と言えた。
 金砕棒の一振り。それは防御してはならない攻撃。
 ブラ里は機敏にステップを刻み、それを回避してみせる。たけだけしさしかない狂い果てた男とは対照的な優雅さ。
 狙いの外れた金砕棒は地面を砕く。高速振動によって土や石が砕かれ、一瞬で砂場が出来上がる。

「だから――」

 ブラ里がそう言うと、その手の中から赤黒い刀身の【鮮血皇女】が突然消失した。狂い果てた男が金砕棒を取り出した時と逆に、【鮮血皇女】は瞬時に収納された。
 狂い果てた男の突進は続く。即座に食い潰されていく彼我の距離。
 得物を振りかぶる大男と、得物を自ら収納したブラ里の対峙。
 金砕棒が振り下ろされる、その刹那せつな――

「――本気で行かせてもらいます」

 確殺の意思が籠った声で、小さな宣言が下された。
 ブラ里は無手の両手を合わせ、何かを上段から振り下ろす動作を行う。
 その手に武器はない。意味不明な動作、むしろ意味など無いように思える。
 事実、周囲で見ていた他の盗賊達には、赤い鬼が何をしているのか理解できていなかった。なぜあのような馬鹿げた行動をしたのだろうと思う者すらいる始末だ。
 しかし、その行動には確かな意味があった。

「かえ、かえ、か、えせ、かかかか、よぉ、よぉ、よ、お、おぉ」

 狂い果てた男は、口から奇妙な言葉を吐き出しつつ、止まっていた。
 金砕棒を振り上げた状態で、狂った表情をそのままに、止まっていた。
 白目をむき、ダラダラと大量の唾液を口から溢れさせ、途切れ途切れの意味不明な言葉だけを紡いでいる。

「か、かしら?」

 盗賊達のうちの誰かが言った。
 狂い果てた男――本名テケルトリ・テケテトルートは盗賊団《羊喰いの狼》の団長だ。
 鍛え上げられた鋼の肉体と【採掘者マイニングラー】や【粉砕者グライラー】などを筆頭とした複数の職業、それに高速振動で全てを粉砕する金砕棒【岩窟王がんくつおう】で、この近辺を荒らしに荒らしていた。自らの運気を気にし過ぎて暴走するところを除けば、彼は団の誰からも頼られる男だった。
 テケルトリの純粋な強さ、それが団員の信頼の元だった。テケルトリが負けるなど、団員の誰もが夢にも思った事は無かった。
 そしてそんな男が、徐々に左右に分かれていく。正中線に走る赤いラインから、ゆっくりと。
 盗賊団団員からすれば、悪夢のような光景だった。

「そんな……」
「嘘、だろ」

 次々と漏れる驚愕。伝染していく恐怖。表情に浮かぶ絶望の色。
 そしてテケルトリだった肉がゆっくりと音も無く崩れ、ベチャリと地面を濡らす音を立てた時、盗賊達は一人残らず悲鳴を上げた。
 それを心地よさそうに聞きながら、テケルトリの血を浴びる為にヘルムを脱いだブラ里は、恐怖の中にあってさえ見惚れそうな微笑みを浮かべる。
 血に濡れて輪郭がおぼろげに浮かび上がる、ブラ里の鬼珠オーブから具現した見えざる大剣をその手に引っ提げて。

「では、貴方達は元気に恐怖してくださいね」

 意味不明な言葉は、しかし逃げ惑う盗賊達には届かない。
 テケルトリの血が消失し、再び不可視となった両手大剣が何度も振るわれると、やがてブラ里一人を残して、動く者は居なくなった。
 赤い鬼の哄笑こうしょうが、食堂だった場所に寂しく響いた。



 ◆◆◆


「やり過ぎ」
「あいた」

 パコン、と小さな殴打音。
 素顔を晒したブラ里は、とある存在によって強制的に正座させられていた。

「別に、殺すなとか血に酔うなとか言うつもりはありません。【半血剣鬼ハーフ・ブラッディソード】っていう種族的に仕方の無い事ですし、アポろうから情報を貰う時の条件の一つが『盗賊団員全ての殺害』でしたから、それを遂行したさとちゃんは褒められるべきです」
「そ、そうだよね~。流石せいちゃん、話が分かるッ」
「ですが」

 ブラ里を正座させて、その頭上から冷ややかな視線を向ける鬼――スペ星は、赤い聖骸布のローブに隠されていた魔杖【アランノートの杖】で横を指した。
 魔杖の先には、むごたらしい死体の山がある。まるで童子が遊んだかのように、無造作に、そして執拗に切り刻まれた肉。それはかつてココに、盗賊団《羊喰いの狼》の団員が居たのだという事を示す残骸だ。
 血に慣れない者なら嘔吐しても仕方がないほど悲惨な光景が、そこにある。

「あれは、やり過ぎです」

 そう言って、スペ星は再度ブラ里の頭を叩いた。

「あいた」

半魔導鬼ハーフ・スペルロード】として魔術行使に特化している弊害で、スペ星は肉体能力が低い。本気で叩かれたとしても、近接戦に特化している【半血剣鬼】のブラ里は大して痛くない。だが、それでもブラ里は痛がる演技を続ける。
 もしケロッとした態度をすれば、スペ星が魔術を行使してくる事を、知っているからだ。そうなると、流石に無傷ではいられない。
 もっとも、スペ星だって殴っても効いていない事は熟知しているので、このやり取りはあくまでも本人の反省を促す行為でしかなかったりするのだが。

「全く、少しは後始末する私の事も考えてください――〝炎禍シャル・ロウ〟」

 出来の悪い妹を嘆く姉のような口調。一瞬で構築された魔術は、スペ星の人差し指から骨肉の残骸の山に射出され着弾、一瞬で燃え上がる。
 そして数秒と経たず、骨さえ燃やし灰にしてしまうほど高温の炎は、スペ星が燃やしたいと思った対象だけをこの世から消しさると同時に消失した。
 ホブゴブリン・メイジの時は到底できなかった芸当――半魔導鬼になったスペ星の、現在の実力の表れと言えよう。
 それにブラ里は拍手を送る。

「お見事~」
「お世辞はいいですから、次は気を付けてくださいよ」
「は~い、善処しま~す」
「全く……さて、では目的の品を回収しましょうか。皆さん、一旦集合してください」

 さつりくの痕跡が色濃く残る食堂で、手分けしながら使えるモノと使えないモノの分類作業をしていた仲間が、スペ星の声に従って集合する。三人のエルフと一人の人間、そしてホブゴブリンが三ゴブとホブゴブリン・クレリックの八名だ。
 彼等は《戦に備えよパラベラム》の外出組第三グループのメンバーだ。

「さて、エキルド。宝物庫の場所は?」

 スペ星が弓兵風の装備を身にまとう男エルフに問いかける。

「食堂の奥にある扉の向こうであります。扉を開ける鍵はコチラに」

 エキルドの響くような返答。
 差し出された鍵を受け取ってブラ里に渡しながら、スペ星はニコリと微笑む。

「よろしい。では、カルタ。盗賊団に捕らえられていた捕虜や奴隷の方は居ますか?」
食堂ここから出て左の部屋に牢がありました。中には人間の女が九人、獣人の女が五人居るのを確認済みであります」

 エキルドとは別のエルフが返答する。

「そうですか。では私とエキルドでその人達と交渉してきますから、里ちゃんとカルタは宝物庫でアイテムの回収、クルタとマチェットとホブは先ほどと同じように、食器とか使えそうなモノを片っ端から集めてください。それが終わったら別の部屋も探すように。あとホブかぜ達は残りの死体を埋葬しつつ、ついでに装備品を剥いじゃってくださいね。じゃ、パパっと終わらせましょうか。一時間以内に撤退しますよ」
「は~い」
「「「了解」」」

 エルフのエキルドを引き連れ、スペ星は部屋から出て行った。
 ブラ里は背後に控えるカルタを振り返る。

「じゃ、早く終わらせよっか」
「了解」

 それぞれがスペ星に命令された事を完遂すべく、散らばっていく。
 ブラ里はエルフのカルタと共に食堂奥にある扉に出向き、鍵を回して扉を開けた。
 宝物庫と言うだけあって、中にはそれなりに宝が溜めこまれていた。
 と言っても無造作に放り込まれているのではなく、二十数個の大きな木箱に収められているので、何が入っているのかはパッと見では分からない。もしかしたらトラップが仕掛けられたモノがあるのかもしれない。不用意に開けるのは止めた方がよさそうだった。

「トラップとか、ある?」

 ブラ里がイヤーカフスに問いかけると、すぐさま返答があった。それによると、罠がある木箱は四つ。いずれも、爆裂して不用意に開けたモノを消し飛ばしたり、色んな【呪い】を与えたりする極悪なモノばかりだと判明した。
 しかし仕掛けられた罠がどんなに極悪でも、あらかじめ分かってしまえば怖いモノではない。

「ありがと」

 アポろうから与えられた、耳と融合するこのイヤーカフス。それは装着者間の通信と付与効果エンチャントによる身体強化だけでなく、事前に罠を告知してくれたり敵が近づくのを警告してくれたりと、様々な補助アシストをしてくれる便利品だ。その使いやすさと高性能さに何回目かも分からないほど感心しつつ、二人は罠だと識別された木箱を運んで部屋の隅にまとめていく。
 それからその木箱に『取り扱い危険』の注意書きをしてから、安全な木箱を次々と開けていった。


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