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4巻
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《百六十日目》
午前訓練中に女武者が、王国の賢者とは別の異邦人の存在を感知した、と言ってきた。
明日開催される祭りに参加する為、西側の他国からやってきた一団の中に混じっているらしい。
さっそくどんな奴か調べようと女武者と二人で西側の城下町に出かけたところ、すぐさまその異邦人を発見した。
どうやらあちらも女武者の存在を感知していたそうで、反応を辿ってこちらに向かってきていたらしい。
今回出会った異邦人は、少々小柄な青年だった。
歳は十八と若く、ボサボサな短髪は茶色で瞳は黒。肌は長旅で日に焼けてやや黒く、陽気で良く笑うお調子者だ。
防具は砂漠地帯に出現する〝地獄蟲〟という巨大なアリジゴク型の魔蟲の甲殻を加工した朽葉色の手甲具足に胸当てと、同じく砂漠地帯に出現するマンティコアの毛皮から造られた蘇芳色のコートという組み合わせ。
武器は与えた傷を時間差で小爆破する能力を持つ戦斧型のマジックアイテムや、ハンティング・ナイフが幾つかあるが、それ等は予備らしい。
青年の主要武器は、ミスラルや希少魔法金属〝木精至鋼〟などで造られた、一見木製の筒にも見える手持ち大砲だそうだ。
青年は【異界の魔砲使い】といい、この大砲の大火力で多人数を相手取る戦いを得意としているらしい。
大砲の弾は実弾ではなく、青年の魔力を使用するのだとか。
その為体内魔力が続く限りは弾切れせず、色んな属性を付与する事も可能だ。水の中でも燃え続ける不鎮炎弾や、マグマさえ凍らせる止氷結弾、怪我や体力を回復させる治癒弾など、かなりの応用性があるようだ。
青年はその能力を遺憾なく使い、この世界に来てからのここ一年、西の国で冒険者としてそれなりの名声を得ているらしい。
そんな自分に自信があるらしく、青年は自慢げに、王都に来る前もモンスターの大群を殲滅してきたよ、と同じ異邦人である女武者に自分の英雄譚を語っていた。
青年をある程度観察した後、何処に宿泊するのかを聞き出す事に成功した。
ついでに連絡手段と偽って分体の一部を手渡したので、見失う事はない。
手っ取り早く隷属化できればいいのだが、ある程度の実力者相手だと分体の寄生を拒絶される可能性が高い。ばれたら警戒されるので、時間をかけて慎重に進めていくつもりだ。
まあ、焦らずじっくりと追い詰めた方が、喰った時の感動は膨らむし。
ちなみにゴブ爺などから聞いた話だと、この世界にも銃は存在する。
ただし火縄銃程度のモノで、射程距離も威力も命中精度も低い。維王国の【異界の賢者】も戦力拡大の為に銃の開発に挑んだが、途中で挫折したらしい。
その原因は大量生産する為の技術不足など多々あるが、特にこの世界独特の法則――【職業】と【魔法】が大きく影響しているようだ。
簡潔に言えば、【職業】で強化された肉体は、ある程度以上の段階になると弾丸を皮膚だけで弾く事も、弾丸より速く動く事も可能だ。それに【魔法】の方が銃よりも圧倒的に威力が高くて、命中精度があって、射程距離が長い。
銃の改良にはそれはもう長い時間が必要になるだろうが、開発を続ければ恐らく性能は向上する。
しかしこの世界なら経験値を得て複数の職業を持った方が、圧倒的に強くなれるのである。持費や手間も馬鹿にはできない。
だからこの世界では基本的に銃は普及していない。金持ち貴族の酔狂な道楽、ぐらいになっている。
ただし、神代ダンジョンから【魔銃】というかなり希少なマジックアイテムを獲得できれば事情は変わる。魔銃を獲得する事で得られるレアな職業が幾つかあるからだ。
自分の魔力とモンスター素材で魔弾を造る【魔銃士】がその例である。
《百六十一日目》
晴天の中、国王の宣誓と共に《英勇武踏祭》が始まった。
早朝から魔法の花火が打ち上げられ、観客席を埋め尽くす国民の熱気が闘技場に充満している。
貴族専用の観客席では王国と他国の王族皇族が一堂に会し、談笑したりしつつ、どんどん消化されていく戦いの様子を眺めていた。
祭りは今日と明日の二日間執り行われる。
今日は予選であり、参加者はここでごっそりと落とされる。
緒戦はバトルロイヤル形式なので、見ていてそこそこ面白い。大人数が狭い闘技場で潰し合うので派手だし、様々なドラマがあるので観衆からも大きな歓声が沸く。実力者だと思われていた出場者が物量に押されて負けた時など、より反応が大きい。
誰が本戦に行くのかという賭けも行われていて、今までの祭りの成績から特定の選手が人気な一方、あえて大穴狙いのギャンブラーも意外に多いようだ。
そんな訳で現在、俺はお転婆姫の護衛役として貴族用の観客席にいる。
場に合わせて身嗜みを整える必要があるかとも思ったが、加護持ちだという事が有利に働き、普段通りの格好で許されている。
周囲からちらほら視線は感じるが、好意的なモノが多い。ただしそれは他国の人間からのもので、王国の貴族やお転婆姫の兄姉妹弟達からは若干微妙な感情が感じられる。
とはいえ新鮮な果実や高級素材をふんだんに使用した料理が喰い放題なので、かなり嬉しい。つい大皿一杯を一人で平らげたら、少年騎士に小言を言われたので、多少は自重した。
マジックアイテムによって室温は快適に保たれ、会場全体を見る事も出来る。こんなにいい場所に居られるよう取り計らってくれたお転婆姫には感謝している。
ただ一緒に入れなかった多くの団員が一般用の観客席で観戦しているので、護衛という仕事は俺だけでキッチリとしている。サボっている訳ではない、としておこう。
特に何事もなく時間は進み、夕方には予定されていた全ての工程が終了した。
本戦に進む六十四名が決定すると、ぞろぞろと夜の王都に繰り出す観客達。屋台や今回の予選で繰り広げられた戦いを謳う演劇で、街は非常に賑わっている。
団員達には遊ぶように指示し、俺は腹に黒いモノを抱えた王族貴族がひしめく晩餐会に出席した。
カナ美ちゃんと一緒に出席したので目立つ事目立つ事。
時折こっちに興味を持った王侯貴族に話しかけられたりしつつ、お転婆姫の背後に立って護衛をしていると、ワインを片手に第一王妃がやってきた。
お転婆姫と王妃は実の母娘なので仲良く、笑う姿がよく似ている。が、談笑中に第一王妃様が俺をチラリと見て、その後お転婆姫の耳元で何やら言った時は、背筋に冷たい何かが走った気がした。
なんだろうか、獲物を見る目を向けられたと言えばいいのだろうか。
あまりいい予感がせず、ニコニコと笑みを浮かべるお転婆姫の姿すら不気味に映った。
しかし予想に反してその時は何事もなく、王妃は去って行った。来訪者に挨拶したり、談笑したりと忙しいらしい。
ある程度楽しんでから、琥珀宮に戻る。
遊び疲れた団員や子供達は既に眠っており、俺はカナ美ちゃんと二人で月を見ながら酒を飲む事にした。
パーティーで食事も酒もとっていたが、やはり足りなかったのである。
季節が変わってだんだんと寒くなってきているが、アルコール度数の高い迷宮産の酒を飲んで温まった身体には丁度いい。特に会話をするでもなく、日付が変わった頃にはベッドに潜り込んだ。
明日の本戦後は、色々と忙しくなりそうである。
《百六十二日目》
本戦が始まる今日の天気は、やや曇り。
朝飯からさっそく、ジャダルワイバーンのステーキを喰う。
お転婆姫に紹介してもらった宮廷料理人が作ってくれたのだが、とても香ばしい匂いで、朝からステーキなんて重いモノを問題なく喰えるほどに食欲を刺激した。
前とは違ってまるで豆腐のような感触の肉は、口の中で溶けるように柔らかい。
肉汁が舌の上で弾け、胃で吸収された時点から身体に漲る、魔力とかそんな感じの何か。
[能力名【亜竜の咆哮】のラーニング完了]
じっくり味を堪能していると、アビリティをラーニングできた。
これで分かったが、どうやら俺の【吸喰能力】は本当に以前とは変化しているらしい。
最初はそんな訳ないだろうと思っていたのだが、これで確定だ。
となると、やはり気になるのは、どういった条件ならラーニングできるのか、という事だ。
喰った量的にはあまり変わった印象はないし、喰う対象の強弱による変動もあまり変化はないように思える。
もしかしたら、死後経過期間の制限だけが変化しているのかもしれない。
だとすると、あのベルベットの亡骸を喰っていたら、何かラーニングできていたかもしれない。
ああ、もったいないと思わざるを得ない。
手早く火葬などせず、試しに腕の一本でも味見をしておくべきだったと今更後悔するが、もう遅い。
ともかく、経過時間の限度を知る為、しばらく朝食はジャダルワイバーンのステーキにしよう。それで大雑把な目安くらいは分かるだろう。
そんな感じで早朝から実験しつつ、今日もお転婆姫の近くで祭りの様子を見続けた。
闘技場に設置された特製ステージで繰り広げられる戦いは、本戦だけに全てがド派手なものになっていた。
たとえばメイスを装備した【妖術士】の上位職業である【高位妖術士】の老人と、【魔獣飼い】の少女とその使い魔の一戦。
老人が水氷系統の妖術で闘技場全体を凍らせた……かと思えば少女の使い魔である豹型のモンスターの全身が白炎に変わり、象並みに膨張。
巨大な炎の豹が氷を溶かし、老人を喰い殺そう――殺しは禁止されているので、半殺しのつもりだとは思うが――と迫るが、老人はそれをメイス一本で迎撃したり。
善戦空しく少女は敗れ、あちこち怪我をしているもののまだまだ元気な老人が勝ち残った。
他にも【勇者】と【勇者】が正面から衝突し、国の威信をかけて血肉を削り合うような戦いを繰り広げたり、あの異邦人の青年がド派手に大砲をぶっ放して、六十八本の魔剣を同時に操る【剣聖】の中年男性を吹き飛ばしたりなどなど、国の主力級の存在達が乱痴気騒ぎを見せている。
正直見ていて楽しいのだが、腹も空いた。
俺の心境を表すなら、目の前に最高級最高品質の食材をふんだんに使用した大量の料理が次々と並べられている、と言えばいいのだろうか。
【高位妖術士】の老人が使う妖術は今まで見た中でもトップクラスのモノであり、少女の使い魔である豹型のモンスターのしなやかな四肢は身がギュッと詰まって美味しそうだ。それに同格とされている【勇者】同士が衝突して両者が弱った今こそ、仕留める絶好のチャンスに他ならない。
手を出せば届くとさえ思えてしまうその光景。
だが、我慢。
現状で喰ってもいい存在は限られている事に加え、喰うにしてもタイミングというものがある。今は少しでも多くの情報を収集する方が重要だろう。
それでも食欲は湧き出るもので、食欲を紛らわせる為、観客席で出される料理のかなりの量を一人で平らげた。
昨日の教訓を活かしてか、俺専用に料理が作られているようなのでありがたく頂いた。
そして時は過ぎて夜、魔法の光で王都中が照らされて祭りの熱気が最高潮に達する中、決勝戦が行われた。
祭りに参加した数千人の中から決勝まで勝ち残った二人は、帝国に所属している【雷鳴の勇者】と、魔帝国に所属している【重緋将】である。
【雷鳴の勇者】ことアルトゥネル・ベアーダ・リッケンバーは帝国に古くから仕える大貴族の次期当主である事に加え、八人の【英勇】が所属する【八英傑騎甲団】の第三位に位置する実力者だ。金髪碧眼の中性的な美貌を誇る、まるで絵に描いた王子様のような存在である。
愛用している武器は両刃の片手剣で、防具は白銀の重装鎧とマント。ただしヘルムなど頭部を保護するものがないのでその美貌がむき出しで、今回の祭りでは一番黄色い声援を受けていたのではないだろうか。
ただし性別は女性だったりするので、男からのむさ苦しい声も混じっていたが、それはさて置き。
【重緋将】ことバララーク・バラクは【魔帝】ヒュルトンが治める魔帝国が誇る【六重将】の第四席に位置する、全身が緋色の金属殻で覆われた金属系の〝魔人〟だ。
金属殻とは甲蟲人などが持つ外骨格に近いもので、金属系の魔人の特徴である。その特性は個々で様々だが、金属系の魔人にとって最も強力な武器であり防具であり、象徴だ。
バララークの場合は何処となく鬼に似た形で、緋色に鈍く輝く金属殻は本人の意思によって激しく燃え、自身を炎に包む事で攻防一体の武具となっていた。
纏う炎の温度は、かつてレッドベアーが吐き出した炎よりも高い。それだけでさえ厄介なのに、金属殻の一部が大剣状に変化し、太い四肢からは鋭い棘が何本も逆立ち、炎の長い尻尾が地面を焦がしている。
そんな両者の戦いは激しく、観客を守るマジックアイテムや魔法などによる障壁が余波だけで何枚も破壊され、会場に緊張が走る場面が多々あった。
幸い数百近く設置された障壁は、王国だけでなく他国も協力して強化していたおかげで、一人として怪我人はない。
三十分ほど続いた戦いは、闘技場内を滅茶苦茶に破壊し尽くし、ようやく終わった。
最後の戦いだからか、両者とも手加減抜きでやっていたようだ。恐らく今後長い時間使用できないだろう。
勝ったのは【重緋将】だ。
実力は拮抗していたのだが、相性の関係が大きかった。
剣術や速度は【雷鳴の勇者】の方が勝っていた。重い金属殻に包まれた【重緋将】を完全に翻弄していたといえるだろう。
しかし【雷鳴の勇者】の最大の特徴たる雷撃と振動波が、【重緋将】には通用しなかった。
多分【重緋将】は俺と同じく【雷電攻撃無効化】とかそんな感じのアビリティを持っているのだろう。バチバチと弾ける極太の雷撃が掻き消されていたように見えたので、そうに違いない。
また振動波を地表に逃がしてしまう金属殻を完全に斬れなかった事も、大きな要因だろう。
ちなみに主催国である王国の代表として出場した闇勇は、準決勝戦で【雷鳴の勇者】に負けた。
影に潜ったりして神出鬼没に動き、上手く翻弄していたが、雷速の攻撃に敗れた形である。とはいえ、闇勇の本質は奇襲とか闇討ちだろうから、正面から戦闘した時点で勝敗は決していたようなものであるが。
二日に及ぶ激戦の末、終わりを迎えた祭りは、始まりと同じく国王の宣誓によって幕を閉じた。
とはいえ今日は夜遅くまで宴会があり、本戦に残った六十四名のほぼ全員が国王主催の宴に出席する。
そこに、俺とカナ美ちゃんはお転婆姫の護衛役として出席した。
残念ながら赤髪ショート達は参加できないのだが、何気に本戦に残った女武者や剣闘王などが居たりする。
丁度いい機会だったので、今日まで話せなかったそれなりの地位にいる貴族達にお転婆姫に紹介される形で接触し、縁を結んでいった。
好意的な者も多く、傭兵団の宣伝は成功といえる。ついでに名刺ならぬ名鉄を配っているので、依頼がくればそれでいいし、仮に後で捨てられても、名鉄に寄生させた分体による諜報は可能なので無駄にはならない。
やる事をやったらさっそく飯を喰い、途中でカナ美ちゃんがナンパされたり、同じく料理を喰っていた輩と大食い対決に発展したりと色々あった後、お開きになった。
そして、俺の本番はこれからである。
静かに迅速に、全ての作業をこなさなくてはならない。
《百六十三日目》
琥珀宮の一室で昨夜の狩りの成果を見下ろしつつ、湧き出す食欲をどうにか抑えつける。
朝日が昇る直前まで続いたハンティングは、実にスリルに満ちていた。
なんせ狙った獲物はどれもこれも実力者揃いで、俺が知らない特殊な能力を持っている可能性が高かったからだ。
予想だにしない反撃を受け、こちらが手酷い損害を被る可能性も十分あった。もちろん捩じ伏せる自信はあったのだが。
とはいえ予定外の事は殆どなく、俺は標的を全て狩り殺した。
狩った相手は異邦人である【魔砲使い】の青年と、とある王国貴族に雇われている傭兵団団長の斧使い、貴族の食客だった二本の剣を器用に操る竜人の青年、三つ又槍を持った水を操る雄の半魚人、燃える鬣を持つ獅子の獣人の五名である。
この中では、異邦人の青年が一番やりやすかった。
青年は宴会に出席した際、再会した女武者に果敢にアタックしていたので、酒をたらふく飲ませて酔っ払わせるよう、女武者に指示していたからだ。そうして予定通り女武者を伴って宿へ帰る彼を、背後からブスリ。
痛みを感じる間もなく終わらせたのだから、それで勘弁してもらおう。
他の四人は多少手間取った。
傭兵団団長である中年男性は周囲にいた傭兵団員を引き離す必要があったし、竜人の青年は酒を一滴も飲まず素面のままだった。半魚人は宴会を途中で抜け出して王都を流れる運河に飛び込んでしまったし、獅子の獣人は気配に敏感だ。
中年男性は酒に睡眠毒を入れて、団員もまとめて眠らせてから殺害。
竜人の青年は食べている果実に利尿作用の高い毒を入れ、トイレで後ろから襲撃。
水中にいる半魚人はダイナマイト漁に近いやり方で気絶。
獅子は面倒になったので帰宅途中に闇討ちを仕掛けて終了。
この四人はどこかしらで【貴族派】と繋がっているので、多少は戦力を削れた事になる。
異邦人の青年も、彼を獲得しようとする【貴族派】の動きがあったので、やむを得なかった……としておこう。
ただ、闇勇の存在が非常に厄介だった。
片隅の闇などから闇勇の気配をちらほらと感じたので、どちらかといえば狩りよりも隠蔽の方に力を注いだぐらいだ。【ヒト攫い】や【認識困難】などのアビリティがなければ、実行できなかった可能性すらあった。
だがまあ、こうして狩れたのだからいいとして。
さっそく死体から装備類を全て奪い、その身を喰ってみた。
[能力名【炎獅子の灼体】のラーニング完了]
[能力名【高速水泳】のラーニング完了]
[能力名【竜真武道】のラーニング完了]
[能力名【職業・魔砲使い】のラーニング完了]
[能力名【錬気術】のラーニング完了]
[能力名【異界の神造体】のラーニング完了]
そこそこなアビリティがラーニングできた。
本当はもっと欲しいところではあるが、異邦人の青年の肉体が予想以上に美味かったので良しとしよう。
異邦人の肉体は、ただ喰うだけでも身体に力が漲ってくる。それに単純に美味い。
これまで喰ってきたモノの中でも、トップクラスに入るだろう。また食べたくなる味である。
……女武者を喰わないようにするのには、それなりに精神力が要りそうだ。
後処理の為、分体を五体造って姿形を変化させ、喰った五人に擬態。予め調べ上げていた、本来彼等が行うはずだった行動をなぞり、王都の外へと出発させた。
これで彼等が途中で行方不明になっても、俺が怪しまれる事は無い。
そうして狩りの処理が全て完了した後は、新しく入団する新人十四名の訓練を開始した。
昨日のうちに条件をクリアした全員に連絡しておいたのだ。そして午前訓練が終了した時には、普段通り誰一人として無事な者はいない。
全員疲れ果てて倒れているか、吐瀉物を撒き散らしていて、それなりに悲惨だ。
これからはもっと厳しく行くので、頑張ってもらうよりない。
ハンティングの疲れか、午後は眠かったのでひと眠りして、起きたら晩飯を喰って雑務をこなしてからまた寝た。
午前訓練中に女武者が、王国の賢者とは別の異邦人の存在を感知した、と言ってきた。
明日開催される祭りに参加する為、西側の他国からやってきた一団の中に混じっているらしい。
さっそくどんな奴か調べようと女武者と二人で西側の城下町に出かけたところ、すぐさまその異邦人を発見した。
どうやらあちらも女武者の存在を感知していたそうで、反応を辿ってこちらに向かってきていたらしい。
今回出会った異邦人は、少々小柄な青年だった。
歳は十八と若く、ボサボサな短髪は茶色で瞳は黒。肌は長旅で日に焼けてやや黒く、陽気で良く笑うお調子者だ。
防具は砂漠地帯に出現する〝地獄蟲〟という巨大なアリジゴク型の魔蟲の甲殻を加工した朽葉色の手甲具足に胸当てと、同じく砂漠地帯に出現するマンティコアの毛皮から造られた蘇芳色のコートという組み合わせ。
武器は与えた傷を時間差で小爆破する能力を持つ戦斧型のマジックアイテムや、ハンティング・ナイフが幾つかあるが、それ等は予備らしい。
青年の主要武器は、ミスラルや希少魔法金属〝木精至鋼〟などで造られた、一見木製の筒にも見える手持ち大砲だそうだ。
青年は【異界の魔砲使い】といい、この大砲の大火力で多人数を相手取る戦いを得意としているらしい。
大砲の弾は実弾ではなく、青年の魔力を使用するのだとか。
その為体内魔力が続く限りは弾切れせず、色んな属性を付与する事も可能だ。水の中でも燃え続ける不鎮炎弾や、マグマさえ凍らせる止氷結弾、怪我や体力を回復させる治癒弾など、かなりの応用性があるようだ。
青年はその能力を遺憾なく使い、この世界に来てからのここ一年、西の国で冒険者としてそれなりの名声を得ているらしい。
そんな自分に自信があるらしく、青年は自慢げに、王都に来る前もモンスターの大群を殲滅してきたよ、と同じ異邦人である女武者に自分の英雄譚を語っていた。
青年をある程度観察した後、何処に宿泊するのかを聞き出す事に成功した。
ついでに連絡手段と偽って分体の一部を手渡したので、見失う事はない。
手っ取り早く隷属化できればいいのだが、ある程度の実力者相手だと分体の寄生を拒絶される可能性が高い。ばれたら警戒されるので、時間をかけて慎重に進めていくつもりだ。
まあ、焦らずじっくりと追い詰めた方が、喰った時の感動は膨らむし。
ちなみにゴブ爺などから聞いた話だと、この世界にも銃は存在する。
ただし火縄銃程度のモノで、射程距離も威力も命中精度も低い。維王国の【異界の賢者】も戦力拡大の為に銃の開発に挑んだが、途中で挫折したらしい。
その原因は大量生産する為の技術不足など多々あるが、特にこの世界独特の法則――【職業】と【魔法】が大きく影響しているようだ。
簡潔に言えば、【職業】で強化された肉体は、ある程度以上の段階になると弾丸を皮膚だけで弾く事も、弾丸より速く動く事も可能だ。それに【魔法】の方が銃よりも圧倒的に威力が高くて、命中精度があって、射程距離が長い。
銃の改良にはそれはもう長い時間が必要になるだろうが、開発を続ければ恐らく性能は向上する。
しかしこの世界なら経験値を得て複数の職業を持った方が、圧倒的に強くなれるのである。持費や手間も馬鹿にはできない。
だからこの世界では基本的に銃は普及していない。金持ち貴族の酔狂な道楽、ぐらいになっている。
ただし、神代ダンジョンから【魔銃】というかなり希少なマジックアイテムを獲得できれば事情は変わる。魔銃を獲得する事で得られるレアな職業が幾つかあるからだ。
自分の魔力とモンスター素材で魔弾を造る【魔銃士】がその例である。
《百六十一日目》
晴天の中、国王の宣誓と共に《英勇武踏祭》が始まった。
早朝から魔法の花火が打ち上げられ、観客席を埋め尽くす国民の熱気が闘技場に充満している。
貴族専用の観客席では王国と他国の王族皇族が一堂に会し、談笑したりしつつ、どんどん消化されていく戦いの様子を眺めていた。
祭りは今日と明日の二日間執り行われる。
今日は予選であり、参加者はここでごっそりと落とされる。
緒戦はバトルロイヤル形式なので、見ていてそこそこ面白い。大人数が狭い闘技場で潰し合うので派手だし、様々なドラマがあるので観衆からも大きな歓声が沸く。実力者だと思われていた出場者が物量に押されて負けた時など、より反応が大きい。
誰が本戦に行くのかという賭けも行われていて、今までの祭りの成績から特定の選手が人気な一方、あえて大穴狙いのギャンブラーも意外に多いようだ。
そんな訳で現在、俺はお転婆姫の護衛役として貴族用の観客席にいる。
場に合わせて身嗜みを整える必要があるかとも思ったが、加護持ちだという事が有利に働き、普段通りの格好で許されている。
周囲からちらほら視線は感じるが、好意的なモノが多い。ただしそれは他国の人間からのもので、王国の貴族やお転婆姫の兄姉妹弟達からは若干微妙な感情が感じられる。
とはいえ新鮮な果実や高級素材をふんだんに使用した料理が喰い放題なので、かなり嬉しい。つい大皿一杯を一人で平らげたら、少年騎士に小言を言われたので、多少は自重した。
マジックアイテムによって室温は快適に保たれ、会場全体を見る事も出来る。こんなにいい場所に居られるよう取り計らってくれたお転婆姫には感謝している。
ただ一緒に入れなかった多くの団員が一般用の観客席で観戦しているので、護衛という仕事は俺だけでキッチリとしている。サボっている訳ではない、としておこう。
特に何事もなく時間は進み、夕方には予定されていた全ての工程が終了した。
本戦に進む六十四名が決定すると、ぞろぞろと夜の王都に繰り出す観客達。屋台や今回の予選で繰り広げられた戦いを謳う演劇で、街は非常に賑わっている。
団員達には遊ぶように指示し、俺は腹に黒いモノを抱えた王族貴族がひしめく晩餐会に出席した。
カナ美ちゃんと一緒に出席したので目立つ事目立つ事。
時折こっちに興味を持った王侯貴族に話しかけられたりしつつ、お転婆姫の背後に立って護衛をしていると、ワインを片手に第一王妃がやってきた。
お転婆姫と王妃は実の母娘なので仲良く、笑う姿がよく似ている。が、談笑中に第一王妃様が俺をチラリと見て、その後お転婆姫の耳元で何やら言った時は、背筋に冷たい何かが走った気がした。
なんだろうか、獲物を見る目を向けられたと言えばいいのだろうか。
あまりいい予感がせず、ニコニコと笑みを浮かべるお転婆姫の姿すら不気味に映った。
しかし予想に反してその時は何事もなく、王妃は去って行った。来訪者に挨拶したり、談笑したりと忙しいらしい。
ある程度楽しんでから、琥珀宮に戻る。
遊び疲れた団員や子供達は既に眠っており、俺はカナ美ちゃんと二人で月を見ながら酒を飲む事にした。
パーティーで食事も酒もとっていたが、やはり足りなかったのである。
季節が変わってだんだんと寒くなってきているが、アルコール度数の高い迷宮産の酒を飲んで温まった身体には丁度いい。特に会話をするでもなく、日付が変わった頃にはベッドに潜り込んだ。
明日の本戦後は、色々と忙しくなりそうである。
《百六十二日目》
本戦が始まる今日の天気は、やや曇り。
朝飯からさっそく、ジャダルワイバーンのステーキを喰う。
お転婆姫に紹介してもらった宮廷料理人が作ってくれたのだが、とても香ばしい匂いで、朝からステーキなんて重いモノを問題なく喰えるほどに食欲を刺激した。
前とは違ってまるで豆腐のような感触の肉は、口の中で溶けるように柔らかい。
肉汁が舌の上で弾け、胃で吸収された時点から身体に漲る、魔力とかそんな感じの何か。
[能力名【亜竜の咆哮】のラーニング完了]
じっくり味を堪能していると、アビリティをラーニングできた。
これで分かったが、どうやら俺の【吸喰能力】は本当に以前とは変化しているらしい。
最初はそんな訳ないだろうと思っていたのだが、これで確定だ。
となると、やはり気になるのは、どういった条件ならラーニングできるのか、という事だ。
喰った量的にはあまり変わった印象はないし、喰う対象の強弱による変動もあまり変化はないように思える。
もしかしたら、死後経過期間の制限だけが変化しているのかもしれない。
だとすると、あのベルベットの亡骸を喰っていたら、何かラーニングできていたかもしれない。
ああ、もったいないと思わざるを得ない。
手早く火葬などせず、試しに腕の一本でも味見をしておくべきだったと今更後悔するが、もう遅い。
ともかく、経過時間の限度を知る為、しばらく朝食はジャダルワイバーンのステーキにしよう。それで大雑把な目安くらいは分かるだろう。
そんな感じで早朝から実験しつつ、今日もお転婆姫の近くで祭りの様子を見続けた。
闘技場に設置された特製ステージで繰り広げられる戦いは、本戦だけに全てがド派手なものになっていた。
たとえばメイスを装備した【妖術士】の上位職業である【高位妖術士】の老人と、【魔獣飼い】の少女とその使い魔の一戦。
老人が水氷系統の妖術で闘技場全体を凍らせた……かと思えば少女の使い魔である豹型のモンスターの全身が白炎に変わり、象並みに膨張。
巨大な炎の豹が氷を溶かし、老人を喰い殺そう――殺しは禁止されているので、半殺しのつもりだとは思うが――と迫るが、老人はそれをメイス一本で迎撃したり。
善戦空しく少女は敗れ、あちこち怪我をしているもののまだまだ元気な老人が勝ち残った。
他にも【勇者】と【勇者】が正面から衝突し、国の威信をかけて血肉を削り合うような戦いを繰り広げたり、あの異邦人の青年がド派手に大砲をぶっ放して、六十八本の魔剣を同時に操る【剣聖】の中年男性を吹き飛ばしたりなどなど、国の主力級の存在達が乱痴気騒ぎを見せている。
正直見ていて楽しいのだが、腹も空いた。
俺の心境を表すなら、目の前に最高級最高品質の食材をふんだんに使用した大量の料理が次々と並べられている、と言えばいいのだろうか。
【高位妖術士】の老人が使う妖術は今まで見た中でもトップクラスのモノであり、少女の使い魔である豹型のモンスターのしなやかな四肢は身がギュッと詰まって美味しそうだ。それに同格とされている【勇者】同士が衝突して両者が弱った今こそ、仕留める絶好のチャンスに他ならない。
手を出せば届くとさえ思えてしまうその光景。
だが、我慢。
現状で喰ってもいい存在は限られている事に加え、喰うにしてもタイミングというものがある。今は少しでも多くの情報を収集する方が重要だろう。
それでも食欲は湧き出るもので、食欲を紛らわせる為、観客席で出される料理のかなりの量を一人で平らげた。
昨日の教訓を活かしてか、俺専用に料理が作られているようなのでありがたく頂いた。
そして時は過ぎて夜、魔法の光で王都中が照らされて祭りの熱気が最高潮に達する中、決勝戦が行われた。
祭りに参加した数千人の中から決勝まで勝ち残った二人は、帝国に所属している【雷鳴の勇者】と、魔帝国に所属している【重緋将】である。
【雷鳴の勇者】ことアルトゥネル・ベアーダ・リッケンバーは帝国に古くから仕える大貴族の次期当主である事に加え、八人の【英勇】が所属する【八英傑騎甲団】の第三位に位置する実力者だ。金髪碧眼の中性的な美貌を誇る、まるで絵に描いた王子様のような存在である。
愛用している武器は両刃の片手剣で、防具は白銀の重装鎧とマント。ただしヘルムなど頭部を保護するものがないのでその美貌がむき出しで、今回の祭りでは一番黄色い声援を受けていたのではないだろうか。
ただし性別は女性だったりするので、男からのむさ苦しい声も混じっていたが、それはさて置き。
【重緋将】ことバララーク・バラクは【魔帝】ヒュルトンが治める魔帝国が誇る【六重将】の第四席に位置する、全身が緋色の金属殻で覆われた金属系の〝魔人〟だ。
金属殻とは甲蟲人などが持つ外骨格に近いもので、金属系の魔人の特徴である。その特性は個々で様々だが、金属系の魔人にとって最も強力な武器であり防具であり、象徴だ。
バララークの場合は何処となく鬼に似た形で、緋色に鈍く輝く金属殻は本人の意思によって激しく燃え、自身を炎に包む事で攻防一体の武具となっていた。
纏う炎の温度は、かつてレッドベアーが吐き出した炎よりも高い。それだけでさえ厄介なのに、金属殻の一部が大剣状に変化し、太い四肢からは鋭い棘が何本も逆立ち、炎の長い尻尾が地面を焦がしている。
そんな両者の戦いは激しく、観客を守るマジックアイテムや魔法などによる障壁が余波だけで何枚も破壊され、会場に緊張が走る場面が多々あった。
幸い数百近く設置された障壁は、王国だけでなく他国も協力して強化していたおかげで、一人として怪我人はない。
三十分ほど続いた戦いは、闘技場内を滅茶苦茶に破壊し尽くし、ようやく終わった。
最後の戦いだからか、両者とも手加減抜きでやっていたようだ。恐らく今後長い時間使用できないだろう。
勝ったのは【重緋将】だ。
実力は拮抗していたのだが、相性の関係が大きかった。
剣術や速度は【雷鳴の勇者】の方が勝っていた。重い金属殻に包まれた【重緋将】を完全に翻弄していたといえるだろう。
しかし【雷鳴の勇者】の最大の特徴たる雷撃と振動波が、【重緋将】には通用しなかった。
多分【重緋将】は俺と同じく【雷電攻撃無効化】とかそんな感じのアビリティを持っているのだろう。バチバチと弾ける極太の雷撃が掻き消されていたように見えたので、そうに違いない。
また振動波を地表に逃がしてしまう金属殻を完全に斬れなかった事も、大きな要因だろう。
ちなみに主催国である王国の代表として出場した闇勇は、準決勝戦で【雷鳴の勇者】に負けた。
影に潜ったりして神出鬼没に動き、上手く翻弄していたが、雷速の攻撃に敗れた形である。とはいえ、闇勇の本質は奇襲とか闇討ちだろうから、正面から戦闘した時点で勝敗は決していたようなものであるが。
二日に及ぶ激戦の末、終わりを迎えた祭りは、始まりと同じく国王の宣誓によって幕を閉じた。
とはいえ今日は夜遅くまで宴会があり、本戦に残った六十四名のほぼ全員が国王主催の宴に出席する。
そこに、俺とカナ美ちゃんはお転婆姫の護衛役として出席した。
残念ながら赤髪ショート達は参加できないのだが、何気に本戦に残った女武者や剣闘王などが居たりする。
丁度いい機会だったので、今日まで話せなかったそれなりの地位にいる貴族達にお転婆姫に紹介される形で接触し、縁を結んでいった。
好意的な者も多く、傭兵団の宣伝は成功といえる。ついでに名刺ならぬ名鉄を配っているので、依頼がくればそれでいいし、仮に後で捨てられても、名鉄に寄生させた分体による諜報は可能なので無駄にはならない。
やる事をやったらさっそく飯を喰い、途中でカナ美ちゃんがナンパされたり、同じく料理を喰っていた輩と大食い対決に発展したりと色々あった後、お開きになった。
そして、俺の本番はこれからである。
静かに迅速に、全ての作業をこなさなくてはならない。
《百六十三日目》
琥珀宮の一室で昨夜の狩りの成果を見下ろしつつ、湧き出す食欲をどうにか抑えつける。
朝日が昇る直前まで続いたハンティングは、実にスリルに満ちていた。
なんせ狙った獲物はどれもこれも実力者揃いで、俺が知らない特殊な能力を持っている可能性が高かったからだ。
予想だにしない反撃を受け、こちらが手酷い損害を被る可能性も十分あった。もちろん捩じ伏せる自信はあったのだが。
とはいえ予定外の事は殆どなく、俺は標的を全て狩り殺した。
狩った相手は異邦人である【魔砲使い】の青年と、とある王国貴族に雇われている傭兵団団長の斧使い、貴族の食客だった二本の剣を器用に操る竜人の青年、三つ又槍を持った水を操る雄の半魚人、燃える鬣を持つ獅子の獣人の五名である。
この中では、異邦人の青年が一番やりやすかった。
青年は宴会に出席した際、再会した女武者に果敢にアタックしていたので、酒をたらふく飲ませて酔っ払わせるよう、女武者に指示していたからだ。そうして予定通り女武者を伴って宿へ帰る彼を、背後からブスリ。
痛みを感じる間もなく終わらせたのだから、それで勘弁してもらおう。
他の四人は多少手間取った。
傭兵団団長である中年男性は周囲にいた傭兵団員を引き離す必要があったし、竜人の青年は酒を一滴も飲まず素面のままだった。半魚人は宴会を途中で抜け出して王都を流れる運河に飛び込んでしまったし、獅子の獣人は気配に敏感だ。
中年男性は酒に睡眠毒を入れて、団員もまとめて眠らせてから殺害。
竜人の青年は食べている果実に利尿作用の高い毒を入れ、トイレで後ろから襲撃。
水中にいる半魚人はダイナマイト漁に近いやり方で気絶。
獅子は面倒になったので帰宅途中に闇討ちを仕掛けて終了。
この四人はどこかしらで【貴族派】と繋がっているので、多少は戦力を削れた事になる。
異邦人の青年も、彼を獲得しようとする【貴族派】の動きがあったので、やむを得なかった……としておこう。
ただ、闇勇の存在が非常に厄介だった。
片隅の闇などから闇勇の気配をちらほらと感じたので、どちらかといえば狩りよりも隠蔽の方に力を注いだぐらいだ。【ヒト攫い】や【認識困難】などのアビリティがなければ、実行できなかった可能性すらあった。
だがまあ、こうして狩れたのだからいいとして。
さっそく死体から装備類を全て奪い、その身を喰ってみた。
[能力名【炎獅子の灼体】のラーニング完了]
[能力名【高速水泳】のラーニング完了]
[能力名【竜真武道】のラーニング完了]
[能力名【職業・魔砲使い】のラーニング完了]
[能力名【錬気術】のラーニング完了]
[能力名【異界の神造体】のラーニング完了]
そこそこなアビリティがラーニングできた。
本当はもっと欲しいところではあるが、異邦人の青年の肉体が予想以上に美味かったので良しとしよう。
異邦人の肉体は、ただ喰うだけでも身体に力が漲ってくる。それに単純に美味い。
これまで喰ってきたモノの中でも、トップクラスに入るだろう。また食べたくなる味である。
……女武者を喰わないようにするのには、それなりに精神力が要りそうだ。
後処理の為、分体を五体造って姿形を変化させ、喰った五人に擬態。予め調べ上げていた、本来彼等が行うはずだった行動をなぞり、王都の外へと出発させた。
これで彼等が途中で行方不明になっても、俺が怪しまれる事は無い。
そうして狩りの処理が全て完了した後は、新しく入団する新人十四名の訓練を開始した。
昨日のうちに条件をクリアした全員に連絡しておいたのだ。そして午前訓練が終了した時には、普段通り誰一人として無事な者はいない。
全員疲れ果てて倒れているか、吐瀉物を撒き散らしていて、それなりに悲惨だ。
これからはもっと厳しく行くので、頑張ってもらうよりない。
ハンティングの疲れか、午後は眠かったのでひと眠りして、起きたら晩飯を喰って雑務をこなしてからまた寝た。
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