72 / 270
4巻
4-8
しおりを挟む《百六十四日目》
最近貴族の一部が裏で慌ただしく動いている。
というのも暗殺された大臣――未だ犯人は特定されていない。まったく、当局は何をしているのだろうか――の孫が、会合の結果、正式に【貴族派】のトップに就任したからだ。
そしてその直後に現在の王国の在りようを憂えて……というか、まあ色々でっち上げつつ革命を起こすべく、陰で有志を集め出したのである。
どうも大臣は、数年前に戦死した息子が残したこの孫を溺愛していたらしい。こいつは容姿端麗で、しかも先日の祭りの本戦に残れるだけの実力を持つ美男子ではあるが、甘やかされた故にどこか歪んでいる。
遠縁ながら王族の血も流れており、自分こそが王に相応しいと思っている感が強い。
お転婆姫の婿候補の一人にも数えられていて、王位を簒奪できるだけの実力がある。
ただ大臣の孫――今後は大孫と呼称する――の裏には大臣の時代から次席として活動している蛇のような爺が潜んでおり、今回の流れの大半はそいつに掌握されているとも言える。
蛇爺が予め手を回しているので、その支配下には騎士団長や文官長など王国の重要人物も多い。今回のクーデターは、短時間で準備が終わって即実行、という事になる可能性が高い。
大臣暗殺以降は徐々にその権力を衰えさせ、命惜しさに離反する貴族がちらほら出ていた【貴族派】だが、それでも十分力を保持している。
まあ、俺は成り行きを見守ろうと思う。
何があろうと、現在の依頼人であるお転婆姫の安全を確保しつつ、最大限依頼された仕事をこなせばいい。邪魔な敵は喰う、とてもシンプルだ。
《百六十五日目》
今日は王都を離れ、一番近くにある迷宮都市《パーガトリ》にまで赴いた。
数台の骸骨百足を使って団員とお転婆姫の護衛を含む団体で移動し、オーロとアルジェントなどの若手を、それぞれの実力に見合ったレベルの迷宮に放り込んだ。
ダンジョンは効率よく経験値を得られるので、外よりも早くレベルが上がる。しかも迷宮だけにしかない様々なモンスター素材やマジックアイテムも手に入り、仲間との連携の強化にもなる。
訓練も大切だが、やはり実戦の方が得るものは多い。
オーロとアルジェントは大切な存在だが、やはり厳しさは必要だ。
獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす、と言う。
子供達には、死にかけるくらいの場面を自力で乗り越えられるように成長してもらわねば。
しばらくはこの迷宮都市に滞在するつもりなので、潜るメンバーには、三日間は帰ってくるなと命令した。
全員を送り出し、俺はカナ美ちゃんやお転婆姫達と共に迷宮の攻略に必要な手続きや下準備をしつつ、時折見つけた他国のスパイや暗殺者達の肉を腹に入れ、また今後どうするかを話し合った。
それにしても御馳走を――【勇者】や【英雄】を喰う機会が欲しい。
祭りで出会った【勇者】や【英雄】は諸々の事情で襲えず、食欲が刺激されただけで終わってしまっている。異邦人の青年を喰えたからまだ我慢できているのだが、それでも喰いたい、という欲求は日に日に強くなる。
早く大孫が何かしてくれないだろうか。そしたら大義名分ができて、王国の【勇者】を喰ってもいいという許可がお転婆姫から(低確率だが)下りるかもしれないのだから。
俺は今、心の底から切に騒乱を願っている。
《百六十六日目》
太陽が顔を出したばかりの早朝、ミノ吉くんやアス江ちゃん、そして鬼若達と久しぶりに顔を合わせた。
最近、そろそろ俺の詩篇――第四章【王国革命のススメ】とやら――が本格的に開始されそうな予感というか、予兆というか、虫の知らせというか、そういったものを感じている。
そもそも、最近脳裏に表示される項目の殆どが埋まってきていた。とにかくこれから起こるだろう事に対しての対策と下準備を進める過程で、迷宮都市に潜っていたミノ吉くん達のチームと一緒に飯でも喰う事にしたのだ。
ここ迷宮都市には、迷宮の財宝やドロップアイテムを持ち帰る事で日々の糧を得る冒険者や、ひたすら我が道を極める為に迷宮に挑む求道者が多く居る。それに加え、彼等を対象に商売している武具店、道具屋やマジックアイテムを売る魔法道具店を運営する人々も多く集まっている。王都などを除けば、人口も各地からやって来る人数もよその街より段違いに多い。
その為、百人単位のヒトが一度に入れる規模の飯屋も、そこそこ存在している。
ざっと見回しただけでも、同じ冒険者組合に所属しているだろう数十人のグループや傭兵団らしき一団が、わいわいがやがやと談笑しながら一緒に飯を喰っている姿がちらほらあった。
俺達の数は六十に届いておらず、すぐに皆で入れる飯屋を見つけられた。
ただ、身の丈五メートルもあるミノ吉くんにはどうしたって狭いので、彼だけ店外での飯となったが、それは仕方ない。
その飯屋で喰ったのは《獄卒獣馬頭鬼のシャブリ鍋》という名の料理だった。
この料理に使用されているのは料理名通りに〝馬頭鬼〟という、この大陸では珍しく、かつ派生迷宮に出現するボスモンスターの肉である。シャブリ鍋は、簡単にいえば馬肉料理のサクラ鍋のようなものだ。栄養豊富な野菜を入れた鍋に、しゃぶしゃぶの要領で馬頭鬼の肉を入れて喰う。
最近は一段と冷えてきたので、身体の底から温かくなるようなこの料理は、まさに絶品だった。なにより一緒に飲む酒がより一層美味くなる。
朝から酒というのはどうかと思うが、【鬼】である俺にとっては水のようなもの、としておこう。
ちなみに馬頭鬼は名称通り、馬頭が特徴的な鬼の一種だ。
背丈は四メートルほどもあり、大きく隆起した筋肉の鎧は見た目通り人外の膂力を秘めている。それに丸太のように太い脚は見た目に反して動きが速く、ボスモンスターとなるだけあって生命力も強い。
腹を裂かれて臓腑が出てもなかなか死なず、それどころか脳を半分潰されてもしばらくの間動き続ける事もあり、かなり厄介なモンスターだとか。
それに刺叉や突棒などを得物とし、大鎧のような生体防具を装備する牛頭鬼とよく似た姿の〝牛頭鬼〟と必ずペアで出現するらしい。
一撃の破壊力に優れた牛頭鬼と、素早さに秀でて敵を翻弄する馬頭鬼。
この二鬼の阿吽の呼吸で繰り出される濃密な連携攻撃は、派生迷宮の最下層にまで至れる屈強な冒険者達にさえ、多大な被害を余儀なくさせる。
そもそも種族的にかなり強靭な上、迷宮の効果によって強化されている為、討伐されるのは多くても月に数回、といった状態だそうだ。
その為、馬頭鬼の肉をふんだんに使用したこの鍋も、それ相応の金額だった。正直朝から食べるような料理でもないし、一回の食事に使う金額ではないと思うが、そんな気分だったので仕方ない。
どんなに強いボスモンスターでも、殺されればただの肉。
誰かが馬頭鬼を殺して持ち帰ったドロップアイテム〝馬頭鬼のもも肉〟が市場に流れ、その肉をこの飯屋が買い、客である俺達がこうして美味しく頂いている。
世の定めとはいえ、少し思うところもある。
俺もいつか殺されて、誰かに喰われるのだろうか。
……その相手は多分、カナ美ちゃん辺りが有力か。今でも血を吸いたいと言ってくる事が多く、実際に吸わせている。その弾みで肉を齧られる事もあり、その度に瞳の奥に表現しがたい感情が揺らいでいるのが見える。
まあ、別にカナ美ちゃんならいいか、と思わなくもない。それかミノ吉くんでもいいか。
などというのはさて置き。
食後は、ミノ吉くんを初めて見たお転婆姫が大層興奮してしまったので面倒だった。
巨岩のような背中をよじ登ろうとしては転げ落ち、慌てて俺が受け止めて、しかし諦めずにまたよじ登ろうとして、再度転げ落ちて俺が受け止める。
そんな流れがしばらくループして、怪我こそないものの疲れ果てたお転婆姫は俺の右肩に座り、角によりかかったまま寝てしまった。俺の身体の一部を変形させて固定しているが、あまり急激な動きは止めた方がよさそうだ。
ただ頼むから涎とかは垂らすなよと思いつつ、ミノ吉くん達が迷宮に挑んで得た成果を確認する事にした。
今回は前よりも長く迷宮に挑んでいただけあって、得たマジックアイテムやモンスター素材は量、質、共に数段上だ。
これだけあれば、今も着々と増えている団員全員にマジックアイテムの武具、あるいは道具を最低三つは確実に配給できる。ミノ吉くん達が集めた分もそうだが、やはり大臣を暗殺した際にちょろまかした品々の存在が特に大きい。
ちなみにベルベットの遺産にはまだまだ強力な品が残ってはいるが、それはもう少し全体を強化してから配っても遅くはないだろう。一部はともかく、まだ団員達の身の丈に合っていない。
成果の確認を終えた後は、ミノ吉くん達と久しぶりに手合わせをした。
ギルドの施設である訓練場の一角を、大金を払って貸し切りに。得物を使うと被害が拡大しそうなので、無手でやってみた。
迷宮で鍛えただけあって、以前よりもミノ吉くんの踏み込みは速く、深く、力強く、打撃の威力が向上していた。
勢いよく頭上から振り下ろされた拳を避けると、地に突き刺さったそれは地面を砕いて、周囲にズシンと響く大音と衝撃を発した。
ミノ吉くんが動く度に大きな蹄の跡が地面に刻まれ、その呼吸に混じって漏れ出る炎雷がバチバチボウボウと唸りを上げ、拳に炎熱と雷光の力を宿らせる。
直撃すればかなりのダメージを受けるだろうが、今回は訓練という事もあり、アビリティを使わなくては避けられないほど殺気立ってはいない。
休みなく戦い続けて一時間ほどが経ち、訓練場がかなり荒れてしまったので終了した。まだ物足りないが、強くなったのは確認できたので十分だろう。
大分場を荒らした事をギルドマスターに謝罪しつつ、アス江ちゃんの能力で均してもらって解決。均せなかったら罰金を支払わなければならないところだった。
その後はミノ吉くん達と別れ、迷宮に挑んだ。
カナ美ちゃんと二人で行こうと思っていたが、お転婆姫達もついてくる事になり、彼女の要望から《パーガトリ》が保有している迷宮の中で最も難易度が高い迷宮を選んだ。
【水妖の洞穴】という洞窟型の迷宮で、アリの巣のように入り組んだ造りになっているらしい。
入ってみると周囲の岩肌は水に濡れて怪しく光を反射し、戦闘の妨げとなりそうな凸凹の床には無数の水溜まりがある。
思っていた以上に温度は低く、吐く息が白く染まっている。耳を澄ませば水が流れている音が聞こえ、小さな音でも岩壁に反響して遠くまでよく響いた。
特に水などに関したトラップが多い為、予め防水・防寒装備を用意していないといつの間にか体温と体力を奪われてしまう。光源も岩肌に点々と自生している光苔だけなので、かなり薄暗い。
出現するモンスターは基本的に地形を利用して虚をつくタイプが多いらしいが、それ以外にもかなりタフで強力な種が揃っているそうだ。
幾つか例を出せば――
一見しただけではそこらにある水溜まりにしか見えない〝アクアスライム〟
口から水を弾丸のように射出する〝アメン砲〟
爪や牙などに強い毒性を獲得した蜥蜴人〝ケイヴポイズンリザード〟
オーガほどに巨大で、鋼鉄以上に硬い外皮を纏う蟹〝キングレッドクラブ〟
鰐頭にヒト型の胴体を持ち、多様な武器を駆使する鰐人〝ケイヴワリゲイト〟
刃状の翼と状態異常を引き起こす超音波で闇から攻撃してくる〝アサシンバット〟
金属質の丸い核を中心に持ち、宙を漂っていなければスライムにも見える〝アクアエレメンタル〟
背中にある無数の針から電撃を放つ〝カミナリアラシ〟
長い髭で電気と地面を操作するナマズのような〝ジユラシ〟
――などなど。
地形的に水氷属性の能力を持つモンスターが多いが、その弱点になる雷光属性を持つモンスターもチラホラ見られる。その為対策は手広くしておかねばならず、油断していると足元をすくわれる事も多いらしい。
ちなみにこの中ではキングレッドクラブが最も手強い。
鋼鉄どころかミスラルすら切り裂く四つの巨大な鋏、硬い外皮と巨大な身体、口から爆発する泡をマシンガンのように無数に吐き出すなど、攻守の高い実力はもちろん独特の能力にも注意が必要だ。冒険者達は、パーティ構成によっては出会うと即座に逃げたりもするそうだ。
こいつがこの迷宮の中ボスとかそういった存在なのだろう。
まあ、そんな一般的な話はともかく。
数は少なかったが、出会うキングレッドクラブは片っ端から銀腕で砕いて殺し、ドロップアイテムである外皮や蟹足などを集める。その他のモンスターもできるだけ多く殺しながら進んで、もちろん途中にある宝箱もトラップを解除しながら全て回収した。
モンスターの死体は、迷宮では一定時間で消えてしまう。ドロップアイテムとしてなら持ち帰るのも可能だが、死体そのままに比べればあまりに少量だ。
しかし俺の【異空間収納能力】に入れれば何故か死体も持ち帰れるので、お転婆姫達にはダンジョンに溶けて消えたように見せかけながら全て回収していった。
足手纏いが多かったのと、少年騎士達のレベルアップの為に寄り道しながらだったので時間が足らず、今日中には最下層部まで潜れなかった。半分近くまでは到達できたので、とりあえずよしとしておこう。
そのまま迷宮内のそこそこ開けた一角にてテントを張った。
テントは迷宮都市で売られている物に俺の糸を混ぜ合わせた特別製なので、頑丈さには自信がある。キングレッドクラブ級のモンスターには流石に一撃で破壊されるが、アメン砲程度の攻撃なら数分は耐えられる。
それに周囲には糸の警戒網を敷いているので見張りも必要もない。こうしてぐっすり眠れる準備を整えてから晩飯を作った。
晩飯はダンジョンモンスターを主材料にして作ったが、キングレッドクラブのドロップアイテムで作った蟹鍋は特に美味かった。ギュッと身が引き締まっていて、汁に味がよく染み出す。気温が低いこの迷宮にあって、身体の中から温まった。
しかし、かなり食べてもラーニング出来なくなってきている。もし今度進化する機会が来ても、どうするかよく考えるべきだろう。
《百六十七日目》
昨夜、モンスターの襲撃は八回あった。
その度に俺が半分寝ながら素早く叩き殺したので、お転婆姫達はグッスリと眠れたようだ。
朝飯にはこうして殺したモンスターを喰い、どんどん深い階層に潜る事しばし。
昼前くらいの時間に、ようやく最下層まで到達した。
最下層は、開けたドーム状の空間になっていた。
中央の直径四〇メートルほどは地面の凹凸も少なく、比較的戦いやすそうだ。天井にはつららのように垂れている巨大な鍾乳石があり、中央の空間の周りには、棚田の畦のように見える輪緑石がある。
青く澄んだリムストーンに囲まれた水溜まりに、光る水草が自生しているらしく、水中から神秘的な光が発せられ、その光は天井に反射して、まるで夜空に星が浮かぶような光景を演出している。
ボスモンスターが出現する最下層部ながら、神秘的で、観賞する価値のある場所だった。
カナ美ちゃんやお転婆姫達もその光景をぼんやりと見つめ、小さく感想を呟いている。
俺は俺で、今は別の迷宮に潜らせているオーロとアルジェント達を連れ、また一緒に見に来よう、と思った。
しかしそんな静かな時は、ボスモンスターの出現で終わってしまう。
正直もう少しだけでいいから間を置けと言いたくなった。
【水妖の洞穴】のボスモンスターの名は、【オクトルプ・ハイ】という。
水棲生物のキメラのようなモンスターで、かなりの異形だ。
一応四メートルほどの背丈があるヒト型なのだが、全身はキチン質のような物質で構成された赤黒い外皮に覆われ、腹部には圧縮水を撃ち出すフジツボのようなモノがびっしりとこびり付いている。右腕はある程度伸縮する二口のウツボのようで、左腕は前腕部が異様に肥大化して盾として使える四本爪の怪手。下半身は蛸のような形状をし、背中からはウネウネと蠢くクラゲの触手の如きものが十数本も生えている。どこか鮫に似た頭部にある、まるで深海魚のような奇妙に大きい四つの瞳は周囲を忙しなく見回し、聞くに堪えない奇声が口らしき部分から漏れていた。
不気味で気持ち悪い姿だが、ボスモンスターだけあって、かなり強い。
腕や蛸脚が発揮する怪力はもちろん、鮫頭の口からは強力な赤い溶解液や複数の状態異常――【盲目】【混乱】【硬直】など――を引き起こす墨を放出するし、なにより背中の触手が一番厄介だ。
このクラゲのような触手からは、強力な麻痺毒が分泌されている。
触手に刺されて行動不能に陥り、蛸のような八本の脚で全身を砕かれるか、腕や鮫頭に生きたまま喰われる、というのがここに挑んだ冒険者の殺され方の定番だとか。
周囲の水を操ったりもするので、対策を練って挑む必要がある。
ちなみに出現方法はリムストーンの水たまりから飛び出してきたり、天井の中心部にある穴から落ちてきたりと、その時その時によって変わるらしい。
今回はリムストーンプールから飛び出す方だった。
そんな【オクトルプ・ハイ】には、俺のみ単鬼で挑戦した。
お転婆姫達に見られてもいいアビリティは限られていたが、見ただけでは何をしたのか分からない肉体強化の類は使えたので、約三分ほどで殺す事ができた。
硬い外皮は比較的簡単に砕けたものの、非常に柔らかい本体は【物理攻撃耐性】かそれ以上のアビリティを備えているらしく、少々手子摺った。ハルバードで蛸脚を幾度も斬り落としたが、斬ったそばから新しい脚が生えるなど、回復力も馬鹿にならない。
それにオクトルプ・ハイはその優れた回復力でも追いつかないほどの大ダメージを受けると、リムストーンプールで泳いでいる巨大魚や巨大蟹などを捕食して回復する。
一度回復されてからはそれを防ぐのに気を使ったのだが、まさか巨大魚や巨大蟹が喰えなくなると、自分の蛸脚を喰って回復するとは思わなかった。
まあ、俺も同じような事はよくしているので、とやかく言う資格はないのだが。
[辺境詩篇〔水妖オクトルプ〕のクリア条件【単独撃破】【制限時間】【部位破壊】が達成されました]
[達成者である夜天童子には希少能力【捕らえ喰らう者】が付与されました]
[達成者である夜天童子には希少能力【水妖殺士】が付与されました]
[達成者である夜天童子には【遺物】級マジックアイテム【水妖外殻:オクトルプ】が贈られました]
[達成者である夜天童子には【試練突破祝い品〔初回限定豪華版〕】が贈られました]
どうやら、また辺境詩篇をクリアしたようだ。
調べた限りだと、辺境詩篇は一つにつき大体六つか七つのクリア条件が決められていて、その内の三つ以上を満たせばクリアとなるらしい。
条件には【単独撃破】が大体入っているらしく、よってパーティよりもソロで迷宮に挑む者の方が希少能力を得られる確率が高い。とはいえ、比較的、というだけで珍しい事には変わりないようだが。
まあ、自己強化の手段としてはかなり手っ取り早い手法だと言える。
ボスモンスター、それも迷宮の力で強化された種族を単独で倒すというのは難しいが、やってやれない事はない。現に俺がそうしているのだから。
ただ実力があっても【単独撃破】の条件を満たせるかどうかはやってみないとわからない。クリアできるかはともかく、カナ美ちゃん達にも一応はやらせるべきだろう。
という事で、お転婆姫に見られぬようさり気無くオルトルプ・ハイの死体を回収した後、続けてカナ美ちゃんにボス戦をやらせてみた。
既に【単独撃破】【制限時間】【部位破壊】の条件三つが判明しているので、それを満たすようにやればスムーズに辺境詩篇をクリアできるだろう。
この予想は当たった。
約十分かけて、カナ美ちゃんは新しく生み出されたオクトルプ・ハイを倒した結果、[辺境詩篇〔水妖オクトルプ〕]をクリアして、俺と同じ能力を得た。
ここまでは予定通りである。
ただ、獲得したマジックアイテムは【水妖外殻:オクトルプ】ではなく、同ランクのマジックアイテム【水妖奇剣:オクトルプ】だった。
どうやら貰えるマジックアイテムにはバラつきがあるようで、能力も形状も違う。ただ、ボスモンスター名を冠するアイテムという点だけは共通していた。
【水妖外殻】を試しに使ってみると、オクトルプ・ハイのような形状の外骨格を一瞬で装着できた。俺が【外骨格着装】の効果で装備できる二つの外骨格――【赤熊獣王の威光】と【翡翠鷲王の飛翼】――のようなものらしく、動きに影響は無い。背中の触手や蛸脚も、慣れれば思った通りに動かせそうだ。
外殻系のマジックアイテムは、一種の変身アイテムとでも思えばいいのだろうか。
ちなみにお転婆姫の護衛である少年騎士曰く、【水妖外殻】は【遺物】級アイテムの中でも取引価格が最も高い部類の品だそうだ。ボスモンスターの能力を疑似的ながら得られる品である事に加え、辺境詩篇をクリアしないと得られないのだから、当然と言えば当然か。
それからカナ美ちゃんが得た【水妖奇剣】は、刀身がクラゲの触手のようなモノで形成されていた。先端からはオクトルプ・ハイ同様、強力な麻痺毒が分泌されている。しかも十数本にも及ぶ触手は再生能力付きで、持ち主の意思一つで自在に動かせるらしい。
触手を束ねて刺突剣のようにする事も、触手をしならせて多節鞭のように扱う事もできるようで、応用力がかなり高いと見える。
やばい、カナ美ちゃんが本格的に〝女王様〟の道を辿っている。
普段の性格は明るく温厚でお淑やかなのだが、一度スイッチが入ると凶暴化――以前寝込みを襲ってきたゴブリンの首をもぎ取ろうとしたのはいい思い出――するので、少し心配だったりする。
……まあ、いいか。大変な目に遭うのはカナ美ちゃんの敵だろうし。
という事で気を取り直し、カナ美チャンの能力で巨大な氷像と化している二体目のオクトルプ・ハイの死体を回収して、更にドーム状のボス部屋からも色々と素材を回収した。
素材というのは光水草とか、オクトルプ・ハイが喰っていた巨大魚などだ。光水草は限定された場所にしか生えていないので珍しく、巨大魚は高価な薬の素材になり、巨大蟹は高級食材として高く売れる。
これらはオクトルプ・ハイを倒したパーティだけが得られるボーナスなので、遠慮なく貰っていく。
帰り道は、最短距離を駆け抜けた。体力がなく足も遅いお転婆姫は俺が肩車し、モンスターを片っ端から薙ぎ払って進んだので二時間とかからない。
ジェットコースターに乗ってはしゃぐ子供のようなお転婆姫の反応には、少し和んだ。
と同時に、実の子供達にも、ちゃんと親らしい事をせねばと自戒する。鍛えるだけでなく、他の事も勉強させてやらねば。
200
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
強くてニューサーガ
阿部正行
ファンタジー
人族と魔族が争い続ける世界で魔王が大侵攻と言われる総攻撃を仕掛けてきた。
滅びかける人族が最後の賭けとも言うべき反撃をする。
激闘の末、ほとんど相撃ちで魔王を倒した人族の魔法剣士カイル。
自らの命も消えかけ、後悔のなか死を迎えようとしている時ふと目に入ったのは赤い宝石。
次に気づいたときは滅んだはずの故郷の自分の部屋。
そして死んだはずの人たちとの再会…… イベント戦闘で全て負け、選択肢を全て間違え最終決戦で仲間全員が死に限りなくバッドエンドに近いエンディングを迎えてしまった主人公がもう一度やり直す時、一体どんな結末を迎えるのか? 強くてニューゲームファンタジー!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。