13 / 34
人間の女『ナンナ』の事情
#13
しおりを挟む
うん、まあ、そうだな。
単純に設定が重かった。まるで軽い気持ちで引き受けた物置の掃除で、産業廃棄物として処理しなければならないゴミを発見し、そのうえそれを片付けなきゃならなくなったときくらい、意外な重さを感じたけども。
これだけ設定モリモリの解説を聞かされたら、さすがに俺にもわかる。
「つまり、『更科しらさ』はそういう背景を持った架空の人物ってことか」
「身も蓋もない言い方だけど、それで正解。『更科しらさ』は実態のない架空の人物に過ぎない」
「で、あんたはなんでその人物の名前を出した? VRの話と全然繋がりが見えないぞ」
「繋がり、つながりね……あるんだけど、前提知識の無い人に言っても伝わるのかな」
「あまり俺の理解力をなめないほうがいい。なにせ人類には早すぎると言われる動画を飽きずに眺め続けられるくらい吸収が早い」
「それ流し見してるだけじゃ……ま、いいや。とりあえずそのまま教えてあげる。でも、このこと絶対に他の人には教えたら駄目だから」
絶対にね、とナンナに念押しされる。うなずく。
絶対、絶対ね、とまた念押し。
やけに慎重な姿勢を見せているが、架空の人物とVRにそこまでの情報的価値があるんだろうか。
そのあたりのことはわからんが、とりあえずうなずく。そこまで重要な内容でもないだろうし。
ナンナは体の向きだけこちらへ、視線を右下へやり、少しだけバツの悪そうにこう言った。
「実はーーしらさちゃんは私なんだよね」
……うん? 聞き間違いか?
「悪いけどもう一度言ってくれないか」
「実は、しらさちゃんは私なんだ」
「え」
「え、って何?」
「いやいや、おかしいだろ? さっきテンション高く、『しらさちゃんはナイスバディ』と言ってなかったか?」
「言ったけど、それが何?」
ナンナが首を傾げる。
その仕草を捉えつつ、彼女の姿を俯瞰する。
「……ちょっとその目。何か言いたそうにしてるけど」
「いいや、なんでもない。多分言わぬが華というやつだ」
「そこまで聞かされたらわかるわ! あんた、失礼にもほどがあるでしょ! 私だってナイスバディでしょうが!」
「なんだとぉ!」
もう一度、ナンナを見る。しかし俺の感想は変わらない。
『更科しらさ』の人物像と、彼女は合致しない。服装はさておき、その肢体を表現する言葉として『出るとこ出てる』はふさわしいとは言えない。まあ、フツウかな。
かすかに鼻で笑う。
ナンナの眉間が険しく歪んだ。
「これがナイスバディだと。まさか、この閉鎖空間では言葉の定義までも異なると言うのか」
「……ちょっと、それぐらいにしとかないとシバくから」
「まさか、ナイソバディの間違いか? そうだな、まさかこのジャージ女がナイスバディなわけないもんな」
「そう、ソバられたいんだ。だよね、ソバって欲しいんだよね?」
「ソバは動詞だった……? いや、一般名詞のハズだが」
「そのうるさい口を閉じないと今すぐソバットするぞ!」
「なるほど! つまり『ソバる』とは『ソバットする』と言い換えられるとーー」
言い終わる前にナンナの体が翻り、丹田の辺りに衝撃が走る。
しっかり腰の入った、経験者のそれを思わせるようなキレのあるソバットだった。
芯をつく一撃にたまらず転倒する。
痛みに喘ぎながら耳をそばだてると「やば、やりすぎた!」という声を拾った。
単純に設定が重かった。まるで軽い気持ちで引き受けた物置の掃除で、産業廃棄物として処理しなければならないゴミを発見し、そのうえそれを片付けなきゃならなくなったときくらい、意外な重さを感じたけども。
これだけ設定モリモリの解説を聞かされたら、さすがに俺にもわかる。
「つまり、『更科しらさ』はそういう背景を持った架空の人物ってことか」
「身も蓋もない言い方だけど、それで正解。『更科しらさ』は実態のない架空の人物に過ぎない」
「で、あんたはなんでその人物の名前を出した? VRの話と全然繋がりが見えないぞ」
「繋がり、つながりね……あるんだけど、前提知識の無い人に言っても伝わるのかな」
「あまり俺の理解力をなめないほうがいい。なにせ人類には早すぎると言われる動画を飽きずに眺め続けられるくらい吸収が早い」
「それ流し見してるだけじゃ……ま、いいや。とりあえずそのまま教えてあげる。でも、このこと絶対に他の人には教えたら駄目だから」
絶対にね、とナンナに念押しされる。うなずく。
絶対、絶対ね、とまた念押し。
やけに慎重な姿勢を見せているが、架空の人物とVRにそこまでの情報的価値があるんだろうか。
そのあたりのことはわからんが、とりあえずうなずく。そこまで重要な内容でもないだろうし。
ナンナは体の向きだけこちらへ、視線を右下へやり、少しだけバツの悪そうにこう言った。
「実はーーしらさちゃんは私なんだよね」
……うん? 聞き間違いか?
「悪いけどもう一度言ってくれないか」
「実は、しらさちゃんは私なんだ」
「え」
「え、って何?」
「いやいや、おかしいだろ? さっきテンション高く、『しらさちゃんはナイスバディ』と言ってなかったか?」
「言ったけど、それが何?」
ナンナが首を傾げる。
その仕草を捉えつつ、彼女の姿を俯瞰する。
「……ちょっとその目。何か言いたそうにしてるけど」
「いいや、なんでもない。多分言わぬが華というやつだ」
「そこまで聞かされたらわかるわ! あんた、失礼にもほどがあるでしょ! 私だってナイスバディでしょうが!」
「なんだとぉ!」
もう一度、ナンナを見る。しかし俺の感想は変わらない。
『更科しらさ』の人物像と、彼女は合致しない。服装はさておき、その肢体を表現する言葉として『出るとこ出てる』はふさわしいとは言えない。まあ、フツウかな。
かすかに鼻で笑う。
ナンナの眉間が険しく歪んだ。
「これがナイスバディだと。まさか、この閉鎖空間では言葉の定義までも異なると言うのか」
「……ちょっと、それぐらいにしとかないとシバくから」
「まさか、ナイソバディの間違いか? そうだな、まさかこのジャージ女がナイスバディなわけないもんな」
「そう、ソバられたいんだ。だよね、ソバって欲しいんだよね?」
「ソバは動詞だった……? いや、一般名詞のハズだが」
「そのうるさい口を閉じないと今すぐソバットするぞ!」
「なるほど! つまり『ソバる』とは『ソバットする』と言い換えられるとーー」
言い終わる前にナンナの体が翻り、丹田の辺りに衝撃が走る。
しっかり腰の入った、経験者のそれを思わせるようなキレのあるソバットだった。
芯をつく一撃にたまらず転倒する。
痛みに喘ぎながら耳をそばだてると「やば、やりすぎた!」という声を拾った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる