侍女の恋日記

桜 詩

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エミリアの章

主導権をとられる!

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 サイラスとの散歩の経緯をセラフィーナ相手に再現したところ、セラフィーナはきゃいきゃい言いながら、エミリアの話を聞いてくれた。
「へぇーサイラスってばついにやったのね!」
「ついにとは何よ。ついにって」
エミリアが怒りと照れで熟れた桃みたいな顔をセラフィーナにむけた。

「だって、三年も振り向かせようとしてたんだから、ついにでしょ?だからずーっと我慢してたんだから、ついに。よ」
とセラフィーナはにこにこと言った。
「…それならローレンスもセラフィーナに同じじゃない?」
セラフィーナは軽く首を傾げると
「ローレンスも最初はエミリアが好きで近づいてたのよ?」
「ほぇ?私?」
「エミリアってモテモテなのに、恋愛下手なのよね」
クスクスとセラフィーナが笑った。

「えっ、でも今はセラフィーナでしょ?」
「うーん。でもそんなに前じゃないかな?いつから、とははっきり分からないけど、エミリアの事は諦めたみたい。それから、ちょっとずつエミリアの隣にいる、私に気づいたっぽいわね」
セラフィーナが面白そうにエミリアを見つめる。
「えっと。セラフィーナはそれでいいの?ローレンスの事は気にいってるんでしょ?」

「うん。だから少し焦らしてみたりしちゃってるのかも。私はローレンスの事はちょっといいなぁってはじめから見てたから。やっと私を見たかって感じ!」
セラフィーナ!強い! 
セラフィーナの可愛らしい顔を見つめた。
「えっ、セラフィーナって小悪魔でしたか…」
「なんとでも言って!エミリア!最後に幸せになれればいいの!」
可愛らしい顔をしてローレンスを、尻に敷いちゃうんだろうなぁ。

それにしても、サイラスの本気ってどんなのだ…。
たいがいドキドキさせられたけど…!!

翌朝、約束通り早起きをして、身支度を終えたエミリアとセラフィーナは、タオルとレモン水の入った水筒を持って、王宮の端のほうにある、広場に向かった。
少し離れた所からでも、男たちのかけ声と、女の子たちの黄色い悲鳴が入り交じり聞こえてきた。
女の子たちは王宮の外側。
エミリアたちは王宮中側から、しばらく見学する。

「あっ、あそこにいるわ!セラフィーナ」
騎士たちは、薄いシャツにズボンやら、上半身裸に近い格好で、組み手をしていた。
隊長たちの怒声が飛び交い、攻撃を出したり、受けたり、体のぶつかり合う音が激しい。
「五分休憩ー!」
と声がかかり、エミリアたちのように広場の外から見守る、恋人らしき女性に走ってくる騎士たちもいる。
黄色い歓声をあげてる女の子たちに、あいそよく接していたりする騎士もいた。
「エミリア、来てくれてうれしいな」
「約束したから」
サイラスが駆け寄り、エミリアはタオルを渡す。汗で張り付いたシャツを着てるサイラスは、細いながらもしなやかに筋肉のついたムキムキまでいかない鍛えた体をしていて、思わず見惚れる。
エミリアの仕えるアルベルトは、もっとムキムキ系だ。筋肉が一つずつくっきり割れている。
少し離れてセラフィーナの所にもローレンスがにこやかに来ていた。
「これが憧れ?」
サイラスの額や首や、喉の下の窪みには汗が流れて、頬も上気していて、なんだか色気がある。昨日奪われた形良い唇も、なんだか、目がいってしまう。
「そっ。朝早く来てくれるなんて、恋人同士らしくて憧れる。見てよ、この男くさい空間。」
半裸状態の男たちが汗だくで休憩している。
なまじ鍛えているだけに、ちょっとむわっと暑苦しい熱気が押し寄せる。

「…うん。男くさいわね。…って恋人同士って」
エミリアの言葉を無視して、
「こんな時にエミリアが来てくれるなんて、本当にオアシスだ」
とニヤリと笑うと、水筒とタオルを返して駆け戻っていった。

…デートもしたし、キスもしちゃったし。そう、なっちゃうのかな…!!
ついつい訓練中のサイラスを目で追う。
「なるほどね~。きゃーきゃーいう気持ちもわからなくはないわね!エミリア」
セラフィーナがふふふっと笑いながら横に並ぶ。
「近衛騎士ってもともと貴族の子弟が多い上に、見た目もそこそこ格好いい人が多くて、しかも半裸で訓練なんてね」
エミリアも広間にいる騎士たちを思わず見てしまう。
確かに、みんな格好よく見えてしまうので、きゃーきゃーいう気持ちもわかる気がした。
まさか、サイラス。これが狙いなの!?

思わず、タオルを握りしめて、そこからサイラスの汗の匂いと昨日のキスされた時の香水の匂いがふわりとして、エミリアは思わず赤くなる。
「エミリア?顔が赤くってよ?」
セラフィーナが茶化してくる。
「や、やめてセラフィーナ!も、もう戻るわ」
エミリアはくるりと踵を返して、使用人棟へ戻る。


朝食を食べていると、さっぱりと大浴場でさっぱりとしてきた近衛騎士たちが入ってきた。
またしても、エミリアの隣にはサイラス。セラフィーナの隣にはローレンスが座る。
「エミリア、今日の勤務あとくらいに仕立て屋手配してるから」
とパクパクと食事を平らげながら、サイラスが言った。
「はい?もしもし?なんのことなの?」
「うちの夜会に一緒にいって?」
家のって!
「いやよ!家のってことは、ご両親もいらっしゃるのでしょう?」
「夜会がだめなら、普通に約束して紹介でもいいけど?」
「あのね、サイラス。私たち、まだそんな関係じゃないわよね?」
「エミリア、俺もう手加減しないって言ったよね?これ、決定事項だから、NOは最初からないんだ」
ニヤリとと笑うサイラス。
「どっち?」
「…夜会でお願いします…」
前の席にいたセラフィーナが、ぷぷっ!と吹き出した。ローレンスも顔を背けて笑っていた。
「セラフィーナっ!」
すっかりサイラスのペースに成っていて、エミリアはぷりぷりと残りの料理を口に運んだ。

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