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そしてふたりは再会し
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その時、お城の方からふわりといい香りが漂ってきました。
「これは……ラベンダーだったかな。城で育ててんのか」
そう呟いた白鬼はふと、酒場で聞き耳を立てた時に入ってきた声を思い出しました。確か、庭師を募集していると言っていました。
白鬼は木から飛び降りると、表門へと向かいました。堂々とやってきた、見るからに平民の格好をした白鬼に、兵士たちは眉をひそめます。
「城になんの用だ?」
「庭師を募集していると聞いてきました」
「ああ、だったら紹介状はあるか?」
「紹介状……ですか」
「仮にもここは王城だぞ? 一般家庭の庭を手入れするのとは違うんだ。お前のような平民が、誰の紹介もなく入れるわけがないだろう」
兵士たちは白鬼を見下すように笑いました。白鬼はそんな彼らを見回した後、「それもそうか」と納得しました。
「そうですね、失礼しました。ありがとうございます」
頭を下げて去ろうとする白鬼の腕を、眉を吊り上げた兵士が「待てよ」と掴みました。振り向いた白鬼の頬を、平手打ちします。
「平民のくせに、俺ら王城の警護をしている兵士に向かってその目はなんだ! 何が不満だ!?」
じんじんと頬が痛むのを感じながら、白鬼は内心で舌打ちをしました。白鬼は自分の目つきが悪い自覚がありました。そのせいで、今までもこんな風にして他人の気分を害したことがあったからです。
そのことを分かっておきながら、先ほど兵士たちをぶしつけに見回した自分が悪いと反省し、白鬼は頭を下げました。
「申し訳ありません。この目は生まれつきで、不満なんて一切ありません」
しかし兵士たちはその謝罪では許してくれませんでした。白鬼の頭を掴むと、地面に押し付けるようにして白鬼を倒しました。そして白鬼を蹴り始めます。
「申し訳ないと思ってるんなら、ちゃんと謝罪しろ!」
「俺たちのことをバカにしてんのか?」
そんなつもりはないんだけどな、と白鬼は兵士たちが気づかないよう、こっそりため息を吐きました。そして、飽きるか疲れたらやめるだろうと、彼らの好きにさせておくことにしました。
「あら、騒がしいと思ったら何をしているのかしら?」
そこに、白鬼が何回も頭の中で反芻していたのと同じ声が響きました。兵士たちの足が止まり、白鬼も思わず顔を上げました。
白鬼の目の前に立っていたのは、嵐の日に助けた少女、ファイルヒェンでした。すっかり回復したようで、白い肌には赤みが差しており、紫色の長い髪も艶やかに彼女の動きに合わせて揺れていました。
ファイルヒェンはじろりと兵士たちを睨みます。
「何をしているのかって聞いたんだけど、誰も答えてくれないの?」
「あっ、も、申し訳ございません、ファイルヒェン様! 無礼な平民に、お仕置きをしていたまでです。まさかこのような場所にファイルヒェン様が足を運ぶとは思っておらず驚いてしまい、お答えできずにすみませんでした!」
「ふぅん」
ファイルヒェンは白鬼に目を向けました。白鬼は慌てて頭を下げました。それを見たファイルヒェンの口角が、少しだけ上がりました。
「ね、あなたたち、そこに跪いて、頭を垂れなさい」
「へ? は、何故……」
「あら、私を誰だと思ってるの? この国の第一皇子、フォスキーア殿下の婚約者よ?」
「し、失礼しました!」
兵士たちは急いで、白鬼と同じ格好をしました。ファイルヒェンはそれを見てにっこり笑うと、兵士たちを次々に蹴り始めました。ファイルヒェンはわざとヒールを兵士に当てているらしく、彼らからうめき声が上がりました。
「ファ、ファイルヒェン様、一体何を……!?」
「あら? 私はお仕置きをしているだけよ。素直にあなたたちの教えを聞き入れて帰ろうとした平民に、目つきが悪いだのと難癖つけて暴力をした、無礼なあなたたちに」
全員を気のすむまで兵士たちを蹴りつけたファイルヒェンは、ふぅと息を吐きました。そして白鬼の顎を掴んで、ぐいと押し上げました。白鬼は想定外の事態に、何も言えずにぽかんとファイルヒェンを見ているしかありませんでした。
ファイルヒェンは白鬼の顔をじっと見つめたあと、面白そうに笑い出しました。
「確かに目つき悪いわねぇ。あなた、第一印象だけでずいぶんと嫌われてきたんじゃない?」
「はあ、まァ……」
「ね、なんでこの人たちに黙って蹴られてたのかしら? あなたならやり返せたんじゃないの?」
「そのうち気が済むだろうと思って」
「それまで蹴られているつもりだったの? はぁ~、あなたってすごくバカなのね」
ファイルヒェンは肩を竦めました。
「あなた、庭師になりたいんだったかしら?」
「あ、はい」
「私が話をつけてあげるわ、来なさい」
ファイルヒェンは踵を返して、お城の中へと入ってきます。白鬼がその後姿をぽかんと見つめていると、ファイルヒェンが振り向きました。
「何をしているの? 早く来なさい」
「あ、は、はい」
ファイルヒェンの声につられて、白鬼はお城の中へ入りました。
「これは……ラベンダーだったかな。城で育ててんのか」
そう呟いた白鬼はふと、酒場で聞き耳を立てた時に入ってきた声を思い出しました。確か、庭師を募集していると言っていました。
白鬼は木から飛び降りると、表門へと向かいました。堂々とやってきた、見るからに平民の格好をした白鬼に、兵士たちは眉をひそめます。
「城になんの用だ?」
「庭師を募集していると聞いてきました」
「ああ、だったら紹介状はあるか?」
「紹介状……ですか」
「仮にもここは王城だぞ? 一般家庭の庭を手入れするのとは違うんだ。お前のような平民が、誰の紹介もなく入れるわけがないだろう」
兵士たちは白鬼を見下すように笑いました。白鬼はそんな彼らを見回した後、「それもそうか」と納得しました。
「そうですね、失礼しました。ありがとうございます」
頭を下げて去ろうとする白鬼の腕を、眉を吊り上げた兵士が「待てよ」と掴みました。振り向いた白鬼の頬を、平手打ちします。
「平民のくせに、俺ら王城の警護をしている兵士に向かってその目はなんだ! 何が不満だ!?」
じんじんと頬が痛むのを感じながら、白鬼は内心で舌打ちをしました。白鬼は自分の目つきが悪い自覚がありました。そのせいで、今までもこんな風にして他人の気分を害したことがあったからです。
そのことを分かっておきながら、先ほど兵士たちをぶしつけに見回した自分が悪いと反省し、白鬼は頭を下げました。
「申し訳ありません。この目は生まれつきで、不満なんて一切ありません」
しかし兵士たちはその謝罪では許してくれませんでした。白鬼の頭を掴むと、地面に押し付けるようにして白鬼を倒しました。そして白鬼を蹴り始めます。
「申し訳ないと思ってるんなら、ちゃんと謝罪しろ!」
「俺たちのことをバカにしてんのか?」
そんなつもりはないんだけどな、と白鬼は兵士たちが気づかないよう、こっそりため息を吐きました。そして、飽きるか疲れたらやめるだろうと、彼らの好きにさせておくことにしました。
「あら、騒がしいと思ったら何をしているのかしら?」
そこに、白鬼が何回も頭の中で反芻していたのと同じ声が響きました。兵士たちの足が止まり、白鬼も思わず顔を上げました。
白鬼の目の前に立っていたのは、嵐の日に助けた少女、ファイルヒェンでした。すっかり回復したようで、白い肌には赤みが差しており、紫色の長い髪も艶やかに彼女の動きに合わせて揺れていました。
ファイルヒェンはじろりと兵士たちを睨みます。
「何をしているのかって聞いたんだけど、誰も答えてくれないの?」
「あっ、も、申し訳ございません、ファイルヒェン様! 無礼な平民に、お仕置きをしていたまでです。まさかこのような場所にファイルヒェン様が足を運ぶとは思っておらず驚いてしまい、お答えできずにすみませんでした!」
「ふぅん」
ファイルヒェンは白鬼に目を向けました。白鬼は慌てて頭を下げました。それを見たファイルヒェンの口角が、少しだけ上がりました。
「ね、あなたたち、そこに跪いて、頭を垂れなさい」
「へ? は、何故……」
「あら、私を誰だと思ってるの? この国の第一皇子、フォスキーア殿下の婚約者よ?」
「し、失礼しました!」
兵士たちは急いで、白鬼と同じ格好をしました。ファイルヒェンはそれを見てにっこり笑うと、兵士たちを次々に蹴り始めました。ファイルヒェンはわざとヒールを兵士に当てているらしく、彼らからうめき声が上がりました。
「ファ、ファイルヒェン様、一体何を……!?」
「あら? 私はお仕置きをしているだけよ。素直にあなたたちの教えを聞き入れて帰ろうとした平民に、目つきが悪いだのと難癖つけて暴力をした、無礼なあなたたちに」
全員を気のすむまで兵士たちを蹴りつけたファイルヒェンは、ふぅと息を吐きました。そして白鬼の顎を掴んで、ぐいと押し上げました。白鬼は想定外の事態に、何も言えずにぽかんとファイルヒェンを見ているしかありませんでした。
ファイルヒェンは白鬼の顔をじっと見つめたあと、面白そうに笑い出しました。
「確かに目つき悪いわねぇ。あなた、第一印象だけでずいぶんと嫌われてきたんじゃない?」
「はあ、まァ……」
「ね、なんでこの人たちに黙って蹴られてたのかしら? あなたならやり返せたんじゃないの?」
「そのうち気が済むだろうと思って」
「それまで蹴られているつもりだったの? はぁ~、あなたってすごくバカなのね」
ファイルヒェンは肩を竦めました。
「あなた、庭師になりたいんだったかしら?」
「あ、はい」
「私が話をつけてあげるわ、来なさい」
ファイルヒェンは踵を返して、お城の中へと入ってきます。白鬼がその後姿をぽかんと見つめていると、ファイルヒェンが振り向きました。
「何をしているの? 早く来なさい」
「あ、は、はい」
ファイルヒェンの声につられて、白鬼はお城の中へ入りました。
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