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神様
しおりを挟む蓮は釣り道具を持って川へと出かける。藍仙郷からそう離れていない川ではあるが、早朝であれば人が来ることは滅多になくのんびりできた。
その釣り場の近くに、こちらではあまり馴染みのないらしい社を作ってもらった。祀られる神様はいない。中は空だ。
ゆっくりとした動作で、木の幹に釣り竿を立てかけた。
鐘を鳴らして2回お辞儀をして、2回手を鳴らす。
「拙の神様、今日も美味しい魚が釣れますように。あと雨が降りそうなので、拙が帰るまで雨が降りませんように」
「雨が降りそうなら、こちらに来るといい」
社の裏から現れた宵藍は懐かしいものを見るかのように眼を細めた。
「拙の神様、ご機嫌はいかがかな」
「神と呼ばれるのは不快だ。機嫌は悪くない」
釣り竿を拾い、蓮を抱き上げて、いつもの釣り場へと飛んでいく。蓮は宵藍に抱えられたまま釣り糸を垂らした。
宵藍はじっと蓮を見ていた。
「我の番は身重だと思ったが」
「人間とは違うみたいだから、平気」
「寒くはないか?」
「宵藍が暖かいから、平気」
「そうか」
宵藍の体温は低かったはずなのに、最近は温かくて、余計離れがたくなっている。
蓮が宵藍に合わせて変わったように、宵藍も蓮に合わせて変わったのかもしれない。
その手で、頬を撫でられ、首を撫でられ、腹を撫でられる。くすぐったいと笑えば、宵藍は眼を細めた。
ピンと糸が引っ張られて、蓮は竿を引く。宵藍は蓮の身体を支えた。反応が遅かったせいで逃げられてはしまうが、蓮も宵藍も気にしない。釣り餌を針につけて再度川へと投げ込んだ。
宵藍は蓮の髪を撫でつけて、思い出したように口を開く。
「そろそろ花見の季節になる。祭りの季節だ。この山も賑やかになるだろう」
「それは楽しみ。宵藍は祭りとか、人混みはあまり好きではなさそうだけど」
「…………眺めるのは楽しい」
「参加するのだめか。まぁ、人混みで宵藍が現れたらみんな祭りどころではなくなりそうだしね」
「お前は参加すると良い」
「ううん。宵藍と一緒にいる。一緒にいて。たくさん思い出作ろう」
「あぁ」
「約束」
「約束だ」
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