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それから田宮さんとは毎日LINEしている。田宮さんはマメで、俺が返信するとだいたい即レスで返ってくる。そんでちょくちょく図書館に本を借りにやってくる。ほんと暇そうだな。この御曹司。でも正直、田宮さんとのたわいないやりとりは楽しい。
それからLINEで田宮さんがデートをしたいって言ってきたからもちろん俺はOKした。つまりこれはデートの予行練習ってことだろ?オーケーオーケー、恋愛に不慣れな田宮さんに付き添うのが俺の役目だ。俺も恋愛慣れしてないからな、不安な気持ちはよくわかるよ。そんで俺はそのデートの予行練習の間、枝多さんポジションでいればいい。
当日待ち合わせ場所に行くと白シャツにチノパンというラフな格好の癖にやたら様になっている田宮さんがいた。なんでこのシンプルアイテムでこんなにかっこよくなれんの‥?
ちょっと同じ男として嫉妬を隠せないわ。しかし俺といえばいつもの上下しまむらファッションだ。シンプルなとこだけ一緒。まあ俺はある意味しまむらがよく似合ってる。くそお。
そして女子のちらちらが止まらない。街中でちらっ、映画館のスタッフからちらっ、なんなら男にまでちらっ、される。まあ見るよな、そこら辺で出会ったら男でも驚く美形だから。
映画館に入ると田宮さんはスマホで先に予約してくれてた席にさりげないエスコートをしてくる。
「あ、チケット代‥」
「奢らせて?」
また奢ってもらっちゃった。なんか悪いな。
「じゃあ次んとこ俺が出す」
田宮さんは「了解」ってさわやかに笑って座席に着く。
「そういえば藤野くんって下の名前なんて言うの?」
「えっ‥、あー‥」
俺は少し薄暗いシアターの明かりの下でもじもじっとする。
「も、百介‥」
いやなんだよー!自己紹介。ぜったいからかわれるんだよ。ももすけって(いつの時代だよ)ってざわつかれて、そのあとももちゃーん、って呼ばれんの。
「ももちゃん‥」
ほらな。
「かわい‥」
え、なにその反応。なんで田宮さんが照れるんだよ。言葉に詰まったみたいな表情して俺を見てくる。ほんのり暗い館内でも田宮さんの頬が少し赤いような気がする。
「あ、あ‥あんま俺この名前好きじゃないから苗字で呼んで」
「桃みたいで藤野くんのイメージぴったりなのに?」
「果物の桃じゃなくて数字の百のほうだから‥」
え?俺のイメージ桃?違うだろ。たしかにちょっとだけ色白でなよっちょろいのは認める。けどカブあたりだろう。
なんか田宮さんの喋り方がどことなく甘っぽく響いてちょっと居心地わるい。
「藤野でお願いしゃす‥」
「なんかもっと仲良くなる呼び方したいなあ」
ああ、まあそういうも大事か。枝多さんと仲良くなる練習だもんな。
「じゃあ“じのぴ”とか‥」
ふじのぴでじのぴ。高校の時のあだ名。ももって呼びたがったやつもいるけど、ぜってえ呼ばせなかった。恥ずかしいじゃん。
仄暗いシアターで田宮さんが顔を少し近づけてゆっくり甘い声でこれがいいっていうように俺の名を呼んだ。
「もも」
他のやつらみたいにからかう調子じゃなくって、もっと、その‥、恋人みたいな雰囲気出してくる。
いや、いいのかそれで。練習だもんな、田宮さんは間違ってない。こういう雰囲気、多分、大事。
田宮さんが甘えたような目でこっちを見てくるから落ち着かない。ほんとにシャイなのか?この人。お願いしてる風を醸すくせに拒否はさせない圧を感じる。
「‥‥‥じゃあ、期間限定で」
「期間限定?」
「田宮さんに恋人ができるまでなら呼んでいいす」
拒否れないし、しょうがないから田宮さんと枝多さんの恋が実るまで俺は身代わりに徹することにした。
「恋人ができるまで?」
田宮さんの手がそっと耳に触れてくる。ううう、なんかぞわぞわするよー。やめてほしいけどがまんがまん。これが田宮さん流のアプローチなんだから付き合わなきゃ。なんか触り方が練習なんて必要ないくらい手練れっぽいけどさ。
「はい」
「了解」
なぜか田宮さんはしょうがないな、って言うかんじで小さくため息をついた。そんなに俺をももって呼びたいのかよ。
「じゃあ僕のことも唯継って呼んでよ」
あ、田宮さんプライベートだと自分のこと僕って言うんだ。
「りょーかいです‥」
「呼んでみて」
「い、唯継‥」
唯継はふふっ、って笑うと自然にシートに置かれた俺の手の上に自分の手のひらを乗せてきた。それは映画が始まっても離れることはなくて、たまにきゅっ、と握ってきたりつんつんって指で突いてきたりするから気になって俺は映画に集中できず、重ねられたほうの手をぎゅっってこぶしを作って丸め、脂汗をかいてそれに耐えた。
それからLINEで田宮さんがデートをしたいって言ってきたからもちろん俺はOKした。つまりこれはデートの予行練習ってことだろ?オーケーオーケー、恋愛に不慣れな田宮さんに付き添うのが俺の役目だ。俺も恋愛慣れしてないからな、不安な気持ちはよくわかるよ。そんで俺はそのデートの予行練習の間、枝多さんポジションでいればいい。
当日待ち合わせ場所に行くと白シャツにチノパンというラフな格好の癖にやたら様になっている田宮さんがいた。なんでこのシンプルアイテムでこんなにかっこよくなれんの‥?
ちょっと同じ男として嫉妬を隠せないわ。しかし俺といえばいつもの上下しまむらファッションだ。シンプルなとこだけ一緒。まあ俺はある意味しまむらがよく似合ってる。くそお。
そして女子のちらちらが止まらない。街中でちらっ、映画館のスタッフからちらっ、なんなら男にまでちらっ、される。まあ見るよな、そこら辺で出会ったら男でも驚く美形だから。
映画館に入ると田宮さんはスマホで先に予約してくれてた席にさりげないエスコートをしてくる。
「あ、チケット代‥」
「奢らせて?」
また奢ってもらっちゃった。なんか悪いな。
「じゃあ次んとこ俺が出す」
田宮さんは「了解」ってさわやかに笑って座席に着く。
「そういえば藤野くんって下の名前なんて言うの?」
「えっ‥、あー‥」
俺は少し薄暗いシアターの明かりの下でもじもじっとする。
「も、百介‥」
いやなんだよー!自己紹介。ぜったいからかわれるんだよ。ももすけって(いつの時代だよ)ってざわつかれて、そのあとももちゃーん、って呼ばれんの。
「ももちゃん‥」
ほらな。
「かわい‥」
え、なにその反応。なんで田宮さんが照れるんだよ。言葉に詰まったみたいな表情して俺を見てくる。ほんのり暗い館内でも田宮さんの頬が少し赤いような気がする。
「あ、あ‥あんま俺この名前好きじゃないから苗字で呼んで」
「桃みたいで藤野くんのイメージぴったりなのに?」
「果物の桃じゃなくて数字の百のほうだから‥」
え?俺のイメージ桃?違うだろ。たしかにちょっとだけ色白でなよっちょろいのは認める。けどカブあたりだろう。
なんか田宮さんの喋り方がどことなく甘っぽく響いてちょっと居心地わるい。
「藤野でお願いしゃす‥」
「なんかもっと仲良くなる呼び方したいなあ」
ああ、まあそういうも大事か。枝多さんと仲良くなる練習だもんな。
「じゃあ“じのぴ”とか‥」
ふじのぴでじのぴ。高校の時のあだ名。ももって呼びたがったやつもいるけど、ぜってえ呼ばせなかった。恥ずかしいじゃん。
仄暗いシアターで田宮さんが顔を少し近づけてゆっくり甘い声でこれがいいっていうように俺の名を呼んだ。
「もも」
他のやつらみたいにからかう調子じゃなくって、もっと、その‥、恋人みたいな雰囲気出してくる。
いや、いいのかそれで。練習だもんな、田宮さんは間違ってない。こういう雰囲気、多分、大事。
田宮さんが甘えたような目でこっちを見てくるから落ち着かない。ほんとにシャイなのか?この人。お願いしてる風を醸すくせに拒否はさせない圧を感じる。
「‥‥‥じゃあ、期間限定で」
「期間限定?」
「田宮さんに恋人ができるまでなら呼んでいいす」
拒否れないし、しょうがないから田宮さんと枝多さんの恋が実るまで俺は身代わりに徹することにした。
「恋人ができるまで?」
田宮さんの手がそっと耳に触れてくる。ううう、なんかぞわぞわするよー。やめてほしいけどがまんがまん。これが田宮さん流のアプローチなんだから付き合わなきゃ。なんか触り方が練習なんて必要ないくらい手練れっぽいけどさ。
「はい」
「了解」
なぜか田宮さんはしょうがないな、って言うかんじで小さくため息をついた。そんなに俺をももって呼びたいのかよ。
「じゃあ僕のことも唯継って呼んでよ」
あ、田宮さんプライベートだと自分のこと僕って言うんだ。
「りょーかいです‥」
「呼んでみて」
「い、唯継‥」
唯継はふふっ、って笑うと自然にシートに置かれた俺の手の上に自分の手のひらを乗せてきた。それは映画が始まっても離れることはなくて、たまにきゅっ、と握ってきたりつんつんって指で突いてきたりするから気になって俺は映画に集中できず、重ねられたほうの手をぎゅっってこぶしを作って丸め、脂汗をかいてそれに耐えた。
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