悲しみの迷宮

軫成恵

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はじまりゆくは

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 数年前に国内で大きな内乱が起こった。
 君主制であったこの「ツィスニル国」は君主制が廃止され、国王は国の象徴として存在を変えた。それに伴い、国王前国王の息子へと変わり、前国王は国外追放、前国王の第二子であり、現国王の異父弟であるタカ・ライストは、一般の市民と同等の生活を送っていた。「学校」へ通っているのである。異父兄であるレヲイ・サシャインの元を訪れることはあれど、王位継承権を剥奪されたタカは、ほとんど時間を王宮外で過ごしていた。

 セミが鳴き、木々が揺れ、生暖かい風が吹く。
 じりじりと頬に汗がつたった。
 タカ・ライストは、この地域では珍しく、褐色の肌に黒髪黒眼の男であった。
 ツィスニル国では、成人として扱われ始める年齢であるが、まだまだ自分で自活できるわけでもなかった。
 元ツィスニル国第二王子、現ツィスニル国王弟である彼を雇うと考えられる人がいないという事実もあったし、大きな権利をもたないが、国務に携わることになるのはだれの目から見ても明らかであった。一般市民は彼の存在を持て余しているのが事実であった。同級である者たちは、親の世代とは違い、彼を特別扱いすることはなかったが、彼らが世論を変えれるほどの力もなかった。
 国務をができるようになるのは、義務教育である十五歳を超える、十八歳くらいから順々に職務によって変わっていたので、タカの場合は更に上の教育を受ける必要があった。今は、以前の君主制で懇意にしていた男を中心に国が支援をしている。
 彼は一般市民の中でいえば、真ん中ぐらいの生活を保障されていたが、彼自身贅沢を好む性格でもなかったので、とても質素な生活をしていた。「学校」に通い、「教育」を受ける以外には無頓着であった。もともと端正な顔立ちで、清潔な服装をしているだけであった。

 彼は知らない。

 家に帰るその時まで。
 彼の周りがどのように考え、どのように「こと」を進めていたのかを。
 郵便受けに、一枚の封筒を開けるまでは。
 
 彼は知らない。
 
 それも、これから彼を変えていく一つの「きっかけ」にすぎないことも。

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