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第四章 戦いの果てに見出すもの

第二百四十話 ウガヤの洞窟その二

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 ウガヤの洞窟に初めて訪れたリルとサラは、かなり違和感を抱いていた。

「これはドロマイト鉱石だよね。なんで妖魔国で産生されない物が、こちら側の
領域で生成された町の洞窟で作られているんだろうね」
「そんなことよりお兄ちゃん。この洞窟自体生き物か何かじゃない?」
「……そうするとこの洞窟自体が幻魔獣なのかな。やっぱり主は幻魔でも太古の血を引く一族
なのかもしれないね」
「わからないけど、主ちゃんはとーっても可愛いからいいじゃない。ルインの次に好きよ」
「えー、僕よりかい?」
「お兄ちゃんはお兄ちゃんじゃない。それ以上でも以下でもないわよ」

 二人で会話していると、目的の場所へ着く。

「これも地上のモンスターっぽいね。見たことないや」
「そうね。封印出来るなら都合がいいし、ルインにもらった装備、試してみたら?」

 リルは青銀蛇籠手を愛おしそうに触る。フェルドナージュ様が作り、友から
譲り受けたその装備は、リルにとって何にも勝る宝物となった。
 相手は巨大な赤イノシシが二頭いる。
 
「よし……行け、ブルースネーク!」

 リルがそう叫ぶと、青銀蛇籠手は蛇へと変化して巨大な赤イノシシに絡みつく。

「ブオーーー!」

 もう一匹の赤イノシシが突進してくるが、サラがふわりと真横に
移動して、赤イノシシに打撃を加える。

 守護者を封印した事により、サラの能力は大きく向上している。
 さらに邪術で追い打ちをかけ、簡単に封印した。封印場所はリルカーンが妖魔用に作ったベルト。
 今では全妖魔憧れの一品となっているであろう十か所装備。ルインの特注品にこそ劣るが
 リルもサラも封印箇所が増えて、取り急ぎ何でもいいから封印したい所だった。

「お兄ちゃんの方はどう……ってもう封印してるか。勝てないわね」
「別に僕と勝負する必要なんてないだろ? 君はただでさえ勝負相手が多いんだからさ」
「それもそうね! 既成事実は私が一番よ!」
「はぁ……ルインも大変だね……おや? 彼が言ってた宝ってのはこれかな? 
紙みたいなのしかないけど」
「それなんじゃない? 早く戻りましょ!」

 赤イノシシを封印した二人は、ルインのいる方へ戻っていく。


――――――――――――――――――――――――

 イーファ、ベルディアパート――――

「王様、さっさと行くっしょ」
「ベルディーは本当に元気だね。娘のニンファを見ているようだよ」
「ニンファちゃん、可愛いっしょまじ天使」
「そうだろう? 私の娘は本当に可愛い。其方とは馬が合いそうだ」
「初めからベルディーなんて呼んでるっしょ。じゃあ私もイーちゃんって呼ぶっしょ」
「構わない。もう王ではないのだからな」

 美しいモリアーエルフとツインテールが良く似合うベルディア。
 双方共仲良く目的地へ進んで行く。

「そういえばイーちゃんは戦えるの? 無理なら私が守るっしょ」
「心配するな。私はこれでも元は王。十分戦える」

 二人が目的の部屋に近づくと……そこには色とりどりのスライムがいた。

「これはやりにくい相手だ。私もスライムだからな。しかし折角の出番だ。
ベルディーにかっこいい所を見せようか」
「イーちゃんの戦闘楽しみっしょ! 私見学してるね」

 イーファはモリアーエルフ。高い術適性とその体から発する術適合は凄まじい。
 両手が青銀色に変わり、左手からは炎を、右手からは雷をほとばしらせている。

炎雷の終焉メルギド

 両手を前に出して双方の術が合わさり正面を扇状に焼き払う。
 色とりどりのスライムたちは、跡形もなく消し飛んだ。

「すごいっしょ。幻術の二術合成なの?」
「いや、幻術の二術合成なら燃雷斗モライドだ。そちらも秘術であることは間違いない。
私が放ったのは幻術と魔術のブレンドを更にブレンドしたもの。合成術極という部類のものだ」
「難しすぎるっしょ。イーちゃんいると安心!」
「さて、私を凌ぐ程の術使いがいるようだよ、あの町には。年甲斐もなく楽しみだね」
「イーちゃん綺麗なのにいくつっしょ? ……ごめん聞かなかったことにするっしょ」

 イーファの怖い顔を見て口をつぐむベルディア。
 二人は辺りを見回したが、何も見当たらない。淡く光るような箇所があるだけで、触れてみると
傷が癒されるような感覚だけがあった。

「ここは回復出来るようなポイントのようだね。ルインの元へ戻ろうか」
「わかったっしょ。スライムしかいなかったしね」



 ルイン、ドーグルパート――――

「なぁパモ。幻術使うにはどうしたらいいんだ? 相変わらずちっとも使えないんだよ。
適性はあるはずなんだけどなぁ」
「パミュ? パーーーミュ!」

 パモが燃斗を出してみせる。いいなぁ、無詠唱で燃費もよくて使い勝手がよさそう。
 赤星術は強いが、燃費が悪い。造形術も覚えたけど飛び道具としてはどうなんだろう。
 ター君の氷塊のツララ以外に火属性の術が欲しいんだけどな。

 捕獲したモンスターの技は今のところ火も雷も土もない。
 ゆくゆく手に入ってくれると信じよう。

「わらは思うに、ちみは特殊すぎるのではないか。生命体として。
妖術と秘術、幻術の適性が使えるだけでも凄いのに、魔術の適性まである」
「それはそうなんだけど、メルザという怪物が近くにいるからなぁ……術に関しては
メルザ以上の存在にはなれそうにない。その分剣術や暗器術を頑張ろう」
「それがいい。ちみに適した能力を伸ばすべきだろう」

 さすが長く生きてるだけあって、ドーグルはいいことを言うな。
 反省しつつ例のあれ、やってみるか。

 スラリとカットラスを引き抜く。

「変幻ルーニー!」
「ホロロロー」

 ルーンの鳥、ルーニー。先日作ってもらったばかりの夢幻級アーティファクト。
 どこまで出来るかは未知数だが、まずは偵察をお願いしてみることにした。

「あっちの部屋を見てきてくれるか?」
「ホロロロー」

 ルーニーはばさりと俺の腕から飛び立ち、スーーっと西の部屋方面へ飛んでいく。
 本当は洞窟より高く舞い上がれる空がいいんだけど、今は実験だ。
 コウテイたちも使ってみたいんだけどね。

 しばらくしてルーニーが帰って来た。

「ファーヒー」

 ……警戒の合図ってことは襲ってくるモンスターがいるってことだったな。
 とても助かる……どこまで判別できるかはわからないけど。

 奥へ進むと、オークとゴブリンがそれぞれ二体いる。今の俺なら大して警戒する相手ではないな。
 ルーニーを一度戻してカットラスをしまう。再度「変幻ルーニー!」と叫び呼び出した。
 何度も呼び出して悪いな。ルーニー。

「あいつらと戦えるか? 一度に四匹はきついから半分は俺がもらうけど」
「わらが援護するか?」
「ぱみゅ!」
「あーっとそうだな。せっかくだしパモとドーグルで二匹相手にしてくれ。
俺はルーニーを見てるから」
「わかった。まかせろ」
「ぱーみゅ!」

 パモとドーグルはオーク一匹とゴブリンめがけて氷斗と念動力を放つ。

「ギシャアアアアア!」
「グルォオオオオ!」

 双方はパモたちに向かって突進する。

「ホロロローーー!」

 ルーニーは……一気にゴブリンを串刺しにした。そのまま後退してオークを狙う。
 動きが速い! これが夢幻級の力の影響か。オークの速度なんかじゃ追いつけないな。
 しかもこいつは本来もっと高くから奇襲する。俺が扱うカットラスより上手いかもしれない。

「ぱーみゅ!」

 パモが一つ上のランク、氷臥斗を放つ。いいぞ! パモ! 
 ドーグルがその氷臥斗を操った!? まっすぐに飛んでいく氷臥斗が変な動きをし出して
上空にあがり、オークの脳天に突き刺さった。

 あっという間に四体。確実にオーバー戦力だ。俺は何もしていない。

「みんなお疲れ様。ルーニー、凄かったぞ」
「ホロロロー」

 ルーニーをもとに戻し、お宝を探す。
 黄色マークといってもこれ! と決まっていないのだろう。
 見渡す限り何もない……いやジョブカードがあるな。
 術剣士のカード……うーん。誰か使える人いるのかな。

 そう考えていたら、ファナ以外みんな戻って来た。どうやらメルザの場所に一つだけ
通常宝箱があるようだ。リルもカードを持ってきた。こちらは拳戦士のカードか。ベルディア向きかな? 

「みんなお疲れ様。ファナと合流したら休憩して、ボス部屋に行こう」

 メルザが向かった部屋方面でファナは寝ていた。疲れていたのに悪いなと思い、抱き上げる。

「ううーん。あれ、私眠ってたの? ……きゃっ。ルイン?」
「ああ、すまない。疲れてるのに封印から出してしまって。戻って休んでくれ」
「あら、おっかけなくてもいい事ってあるものね。ふふっ、ありがとう」

 ぎゅっとファナに抱きしめられて、ファナは後ろの二人を見てくすりと
勝ち誇り、封印へ戻っていった。
 振り返るのが怖いので、そのまま先へ進む事にした。
 
『あの女ー!』

 後ろから怒声が聞こえたきがした……。
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