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第3章 ノーザンランド一族の呪い

第1話 ノーザンランド一族の呪い

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真っ暗な闇。

女の叫び声が聞こえる。
やめてー。
助けてー。
いやー。
助けてー、…………。

次は逃げ惑う男達の声だ。
助けてくれー。
剣で切られる音がする。
ザクッ。
血が飛び散る音がする。
パシャ。
殺さないでくれー。
グサッ。
やめてくれー。死にたくないー。
バサッ。


クリストファーは目覚ます。
「はぁ、はぁ、はぁ、くそっ!」
ガチャーン。
 ベット横のサイドテーブルに置かれたグラスを壁に投げた。

眠りたい。何も考えず。ただ眠りたいだけなんだ。寝かせてくれ。

どうして、同じ夢ばかり見るんだ。
もういい加減にしてくれ。

 頭を思い切りく。
 額からたらりと汗が流れた。
 体中もべっとりと汗ばんでいた。
 
 クリストファー・ルシュルツ・ノーザンランドはベッドから起き上がり窓へ向かう。そして、窓を開けると外から涼しい風が入り無造作に流されている漆黒色の髪が風になびいていく。身体中の汗がひいていくようだ。
 空には、暗闇が広がり月の明かりがやけにまぶしく感じた。


兄上…

父上…

あなた方はこれを耐えていたのですか?


 ノーザンランド一族は呪い持ちだ。
昔から強引に領土を広げてきた。昔のことだ殺戮さつりくなんて当たり前だ。
 一族はその怨念を受けてか女の叫び声や男達が叫び殺される夢を見る。毎晩だ。一族の直系の王が1番の呪いを受ける。
 この夢のせいでまともに寝れやしない。ノイローゼになるか夢を紛わす為に薬漬けになり幻覚を見るようになる。
 もともと繊細な性格のため呪いのせいですっかり塞ぎこみ、誰とも会いたがらなかった。いつも何者かに怯え公の場にも出れない状態だった。兄のますます悪くなる状況に母も心を病み、私は家族、国のために率先して国政に関わらなければならなかった。
 そして兄の身体は限界にきたのだろう、今年の冬に自害し、この世を去った。

 反対に父は強い人だった。 
 呪いなどないように振る舞い私達の前では弱さを見せない強い王だった。父には4人兄弟がおり皆、強い帝国をつくる同じ志を持っていた。兄弟達も使命感が強かったのだろう。父の兄達も呪いなどないように振る舞っていたそうだ。今ならわかる、皆、呪いに抵抗していたのだ。気丈に振舞うことで呪いを跳ね返したい、自身の生きる力で呪いを抑えたいというその願いあったのだろう。その願いもむなしく日に日に父の瞳が黒に染まりが頬がこけ体が細くなっていき父は亡くなり、呪いは継承される。
 父が亡くなった直後に私も夢を見始めた。子供の頃は大丈夫だった。しかし、身体が大きくなるにつれ何がが頭の中に居座っているような感覚を覚えていた。それが何かは私にはわからない。
 始めは夢の中で声が聞こえてくる。そして、その声は年々鮮明に聞こえてくるのだ。
 騎士学校を卒業し、何かに支配される感覚に怯えて、ただひたすら戦場を駆け抜けていた。ひたすら反逆者達に命を狙われ、ただひたすら我が身を守る為に相手を斬りつけていた。
返り血を浴びた姿を見た誰かが言った、血に塗られた黒獅子と。
 そして私の名がいつからかそう呼ばれるようになったのだ。

 結局は夢の内容が現実になっているのではないかと思うほど敵は叫び、命乞いをして死んでいった。こんなことばかりしているから我々一族が呪われているのではないかと思った。
 しかし、今、我らが倒れれば国を獲ろうと再び戦国時代が再び訪れ人がまた大勢殺され困窮する。人々が豊かで平和に暮らす為には強い支配者が必要なのだ。一族が守ってきた強い支配者の地位を守り続けることが私達一族の使命なのだ。
 
 わかっている。
 それが使命だと。
 
 私は手で顔で覆い弱音を吐く。もはや死ぬまで悪夢を見続けるのかと。
 
 神よ。我が一族は許されることはないのか。

 私は何年持つのだろうか…

 わかっている。
 
 エリオットとエリザベスに呪いを向かわせてはいけない。
私は耐えなければならないと…

 しかし、この呪いを断つことかとできたならば…

 クリストファーは夜空を見上げながからふと思い出す。昨年の初夏に行われた亡国の晩餐会。あの国に以前から居たような錯覚。不思議に呪いを忘れられた夢を見ない日があった……。

 いや、気のせいだ。
 私もおかしくなり始めたな。
 クリストファーは気を取り直し、仕事を始めるかと執務室へ足を運んだのだ。


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