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第11章 リーラと精霊王 フォールド領編
第5話 母から託された思いー2ー
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(ノーザンランド帝国暦303年春)
時が経ち、バーバラは15歳を迎えようとしていた。
ある春の穏やかな日にキャハ、キャハと少女達の笑い声が花畑に響く。城使えとして働いている友人のチリルが休みが取れバーバラとチリルは花を摘みにやってきたのだ。
「お城で働くの楽しい?私も働きたいなぁ~」
バーバラはチリルに羨ましそうに話す。
「はぁーーーー。バーバラは何にも知らないんだから…先輩にいじめられるし、妃様は怖いし、良いことなんてないわ。我が家は兄弟が多いから仕方なしに働いてるんだから…」
とチリルは呆れ顔になる。
「チリル姉さんごめんなさい」
バーバラはしょんぼりして謝ると、
「許してあげる。もう少しで、15歳の誕生日でしょう、誕生日祝いよ」
チリルはバーバラの頭に花冠を被せるとバーバラは「ありがとう!」とスカートを摘み、戯けたように笑いかけた。
「バーバラ、お姫様みたいよ!」
「私も花冠をチリル姉さんに作るからお姫様遊びをしましょう」
「いいわね!じゃあ、バーバラが結う間に花を家に持って帰りたいからハンカチを湖で濡らしてくるわ」
「わかったわ、私もお願いしていい?」
バーバラはハンカチをチリルに託す。
「バーバラの花冠楽しみにしてるわ、すぐ戻ってくるから~」
「ゆっくりでいいよ~」
「ルン、ルン、ルン」
器用に花を結び冠を作っていると遠くの方から馬が駆ける音が聞こえる。一人の男が馬から降りると花畑に向かって走り出し、バサリと寝転んだ。
「エリーどうしてわかってくれないんだ!」
男は花を思い切り叩き花を潰した。
花が潰される様子を見ていたバーバラは
「あぁーぁ」
と声を出してしまう。
男はバーバラの声に気づき、むくりと起き出すと花冠を被った美しい少女を見つける。
「エリー…」
男はバーバラに近づくと
「君の名は?」
と聞いて来た。
「わ、わたくしはバーバラ・エステールです。せっかく咲いたお花を叩くと可哀想ですよ」
とバーバラは男を見上げた。
「そうだね、悪いことをした」
男はバーバラの髪を一房掴むと口付けする。
「バーバラ…いい名前だ…花の代わりに君が私を癒してくれるかい」
「えっ??」
いきなり見知らぬ男に髪を触られ、バーバラは背中がゾクリとした。
「申し訳ありませんが、見知らぬ方を癒せません」
とキッと男を睨みつけると、
「ふふふ、見知らぬか…大丈夫…君は私の物になる運命だから、いい子で待っているんだよ」
と男はバーバラの頭を撫でるとにこにこしながら馬に乗り戻って行く。
「変な人……」
この花畑の出会いが国王スコットとバーバラの悲運の始まりになる。
◇◇◇
(ノーザンランド帝国暦304年)
バーバラが16歳のデビュタントを迎える前に王家からエステール家に娘を入城させるよう勅令が下された。
「あなた、どういうこと?」
バーバラの母ローリーが珍しく声を荒げている。
「王がバーバラを妃にと求めている」
父のアレクは顔を真っ青にしながら頭を抱えていた。
「まだ、16歳よ!デビュタントも終わってないのわ」
「王が承諾してくれないのだ。悪い虫がついてはいけないからデビュタント前に城に入れるようにと」
「何ですって?城の方がどれだけ危険なのか…ゾーンの王妃がいるのに…うっ、うっ、うっ」
ローリーは必死に涙を堪えていたが次から次へと涙が溢れ出す。
バーバラはあまりに大きな声だったので、通路で全てを聞いてしまう。
ーー私、王の妃になるの⁈
結婚なんてまだまだ先にだと思っていたバーバラは大きな溜息を吐き、ダリルから貰ったネックレスを握った。
ーーダリルさん、
私、妃になりたくない!
助けてよ!!
しかし、バーバラの声はダリルには届かなかった。通りかかった祖父がバーバラに声を掛ける。
「バーバラ、少しいいか?」
「は、はい、お爺様」
祖父の執務室に入るとバーバラに腰掛けるように祖父は言った。
「バーバラよ、おまえが王の妃になるのは神が与えた運命かもしれない。今から話すことは決心口外してはならぬ」
いつも優しい祖父が厳しい表情で話を始めた内容は驚愕の事実だったのだ。エステール家は遥か昔、リーリラ王女がエステール家に内密に降嫁され、王家リヴァリオン・ラクラインの血を引き継いでいたのだ。そして、他国出身の母も実はリヴァリオン王家の血をもつ家系の出身とだと知らされた。王家に正統な跡継ぎを残すにはバーバラが王子を産み、その子を王にしなければならないと言う内容だった。
「これはお前に課せられた義務なのだ」
「……はい、わかりました」
「先代王は愚王と呼ばれ国は乱れ始めた。皆、噂をしているんだ。先代から王の血が途絶えているのではないかと…」
「妄想なのではないのですか?」
「いや、あながちそうではないかもしれない。先々代王は故意に正統な後継者を作らなかったかもしれない。ゾーン国の介入を避けられず、リヴァリオンの血を渡すくらいなら途絶えさせようと考えたかもしれない」
「まさか…」
「もし事実なら我らが唯一残る正統な血筋となるのだ」
祖父の説明にバーバラはゴクリと唾を飲み込んだ。
「バーバラ、おまえにとって荷が重いかもしれない。しかし、国のためだ。わかったね」
と祖父の話にバーバラは静かに頷いた。
そして、この結婚は避けることは出来ないものだと悟り、妃になることを決心したのだった。
時が経ち、バーバラは15歳を迎えようとしていた。
ある春の穏やかな日にキャハ、キャハと少女達の笑い声が花畑に響く。城使えとして働いている友人のチリルが休みが取れバーバラとチリルは花を摘みにやってきたのだ。
「お城で働くの楽しい?私も働きたいなぁ~」
バーバラはチリルに羨ましそうに話す。
「はぁーーーー。バーバラは何にも知らないんだから…先輩にいじめられるし、妃様は怖いし、良いことなんてないわ。我が家は兄弟が多いから仕方なしに働いてるんだから…」
とチリルは呆れ顔になる。
「チリル姉さんごめんなさい」
バーバラはしょんぼりして謝ると、
「許してあげる。もう少しで、15歳の誕生日でしょう、誕生日祝いよ」
チリルはバーバラの頭に花冠を被せるとバーバラは「ありがとう!」とスカートを摘み、戯けたように笑いかけた。
「バーバラ、お姫様みたいよ!」
「私も花冠をチリル姉さんに作るからお姫様遊びをしましょう」
「いいわね!じゃあ、バーバラが結う間に花を家に持って帰りたいからハンカチを湖で濡らしてくるわ」
「わかったわ、私もお願いしていい?」
バーバラはハンカチをチリルに託す。
「バーバラの花冠楽しみにしてるわ、すぐ戻ってくるから~」
「ゆっくりでいいよ~」
「ルン、ルン、ルン」
器用に花を結び冠を作っていると遠くの方から馬が駆ける音が聞こえる。一人の男が馬から降りると花畑に向かって走り出し、バサリと寝転んだ。
「エリーどうしてわかってくれないんだ!」
男は花を思い切り叩き花を潰した。
花が潰される様子を見ていたバーバラは
「あぁーぁ」
と声を出してしまう。
男はバーバラの声に気づき、むくりと起き出すと花冠を被った美しい少女を見つける。
「エリー…」
男はバーバラに近づくと
「君の名は?」
と聞いて来た。
「わ、わたくしはバーバラ・エステールです。せっかく咲いたお花を叩くと可哀想ですよ」
とバーバラは男を見上げた。
「そうだね、悪いことをした」
男はバーバラの髪を一房掴むと口付けする。
「バーバラ…いい名前だ…花の代わりに君が私を癒してくれるかい」
「えっ??」
いきなり見知らぬ男に髪を触られ、バーバラは背中がゾクリとした。
「申し訳ありませんが、見知らぬ方を癒せません」
とキッと男を睨みつけると、
「ふふふ、見知らぬか…大丈夫…君は私の物になる運命だから、いい子で待っているんだよ」
と男はバーバラの頭を撫でるとにこにこしながら馬に乗り戻って行く。
「変な人……」
この花畑の出会いが国王スコットとバーバラの悲運の始まりになる。
◇◇◇
(ノーザンランド帝国暦304年)
バーバラが16歳のデビュタントを迎える前に王家からエステール家に娘を入城させるよう勅令が下された。
「あなた、どういうこと?」
バーバラの母ローリーが珍しく声を荒げている。
「王がバーバラを妃にと求めている」
父のアレクは顔を真っ青にしながら頭を抱えていた。
「まだ、16歳よ!デビュタントも終わってないのわ」
「王が承諾してくれないのだ。悪い虫がついてはいけないからデビュタント前に城に入れるようにと」
「何ですって?城の方がどれだけ危険なのか…ゾーンの王妃がいるのに…うっ、うっ、うっ」
ローリーは必死に涙を堪えていたが次から次へと涙が溢れ出す。
バーバラはあまりに大きな声だったので、通路で全てを聞いてしまう。
ーー私、王の妃になるの⁈
結婚なんてまだまだ先にだと思っていたバーバラは大きな溜息を吐き、ダリルから貰ったネックレスを握った。
ーーダリルさん、
私、妃になりたくない!
助けてよ!!
しかし、バーバラの声はダリルには届かなかった。通りかかった祖父がバーバラに声を掛ける。
「バーバラ、少しいいか?」
「は、はい、お爺様」
祖父の執務室に入るとバーバラに腰掛けるように祖父は言った。
「バーバラよ、おまえが王の妃になるのは神が与えた運命かもしれない。今から話すことは決心口外してはならぬ」
いつも優しい祖父が厳しい表情で話を始めた内容は驚愕の事実だったのだ。エステール家は遥か昔、リーリラ王女がエステール家に内密に降嫁され、王家リヴァリオン・ラクラインの血を引き継いでいたのだ。そして、他国出身の母も実はリヴァリオン王家の血をもつ家系の出身とだと知らされた。王家に正統な跡継ぎを残すにはバーバラが王子を産み、その子を王にしなければならないと言う内容だった。
「これはお前に課せられた義務なのだ」
「……はい、わかりました」
「先代王は愚王と呼ばれ国は乱れ始めた。皆、噂をしているんだ。先代から王の血が途絶えているのではないかと…」
「妄想なのではないのですか?」
「いや、あながちそうではないかもしれない。先々代王は故意に正統な後継者を作らなかったかもしれない。ゾーン国の介入を避けられず、リヴァリオンの血を渡すくらいなら途絶えさせようと考えたかもしれない」
「まさか…」
「もし事実なら我らが唯一残る正統な血筋となるのだ」
祖父の説明にバーバラはゴクリと唾を飲み込んだ。
「バーバラ、おまえにとって荷が重いかもしれない。しかし、国のためだ。わかったね」
と祖父の話にバーバラは静かに頷いた。
そして、この結婚は避けることは出来ないものだと悟り、妃になることを決心したのだった。
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