婚約破棄されたので隣国に逃げたら、溺愛公爵に囲い込まれました

鍛高譚

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2-1 自立への第一歩

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 エーバーハルト公爵家――。
 フェリシアにとってそこは、過去を捨て、新たな人生を始める拠点となった。
 けれど、それはただ「守られる場所」ではない。
 自分自身の力で未来を切り開くための、挑戦の場所でもあった。

(私は過去に縛られない。ここから、自分の足で立ち上がってみせる)

 胸の奥でそう誓いながら、フェリシアは新しい生活を始めた。


---

◆リヒトの依頼

 ある爽やかな朝。
 整った庭園で紅茶を楽しんでいるフェリシアの前に、リヒトが姿を現した。

「フェリシア、少し相談したいことがあるんだ」

 陽光を背に立つリヒトはまるで絵画のようで、フェリシアは思わず微笑んだ。

「私にできることなら、喜んでお手伝いします」

 その返事に、リヒトは満足そうに頷き、静かに話し始めた。

「公爵領の新しい貿易事業を手伝ってほしい。
 商品の選定、販売戦略、貴族たちとの交渉……君の知識と経験が必要なんだ」

 フェリシアの胸がじんと熱くなる。
 ――彼は、自分のことを“役に立つ存在”として見てくれている。

「……分かりました。お任せください」

「ありがとう。君なら必ず成功させられる」

 リヒトの信頼の言葉が、フェリシアの背中をそっと押した。


---

◆商品の選定と改革

 まず任されたのは、貿易の主力となる商品の選定だった。

 香料、織物、宝飾品……。
 見本が並んだ部屋の中で、フェリシアは一つひとつ手に取り、丁寧に吟味していく。

「この織物、手触りは素晴らしいわ。でも染めの色を少し調整すれば、もっと高級感が出るはず」

「香料は……少し重たい香りね。トップノートを軽やかにしたら受けが良くなると思うわ」

 職人たちは彼女の的確な指示に驚きつつも、その洞察力に舌を巻いた。

 リヒトは少し離れた場所で彼女を見守りながら、静かに微笑んだ。

「やっぱり……君の目は確かだね。頼りにしているよ」

「ふふ、まだ始まったばかりですわ」

 フェリシアの声に、以前にはなかった自信が宿っていた。


---

◆展示会の準備

 次の仕事は、商品の披露を兼ねた展示会の開催。
 隣国の貴族たちを招き、エーバーハルト領の品を紹介する大きなイベントだ。

「招待状の文面は、洗練されていながら温かみも感じられるものにしましょう」

「会場の動線はこう。来場者が自然に主力商品へ誘導されるように」

 フェリシアは細部までこだわり、完璧に準備を進めていった。
 その姿には、公爵家の使用人や職人たちも次第に尊敬の眼差しを向けはじめた。

(昔の私とは違う。今は――自分の力で動いている)


---

◆展示会当日、輝くフェリシア

 展示会当日。
 豪華に飾られた会場には、隣国の貴族たちが集まり、期待の眼差しを向けていた。

「こちらの香料は、独自の調香技術で作られております。華やかさと奥深さが特徴で……」

 フェリシアは淡い微笑みを浮かべながら、流れるように商品の魅力を説明していく。
 その姿は自信に満ち、誰もが視線を奪われた。

「まあ、この織物……なんて上質なのかしら」

「こちらの装飾品も素敵ね。公爵領の職人の技が光っている」

 貴族たちの好意的な声が次々とあがり、会場の雰囲気は大成功そのものだった。

 その光景を見たフェリシアは、胸の奥で小さく安堵した。

(よかった……でも、もっと良くできるはず)

 完璧を目指す彼女の心に、かつては消えかけていた希望が再び灯り始めていた。


---

◆リヒトの労い

 その夜。
 展示会が無事に終わり、フェリシアがほっと息をついたところへ、リヒトが歩み寄ってきた。

「本当に素晴らしい仕事だったよ、フェリシア。
 君のおかげで、事業は大きく前に進んだ」

 不意に褒められ、フェリシアは少し頬を染めながら答える。

「皆さんの協力のおかげです……でも、少しだけ誇りに思いたいですわ」

 その言葉に、リヒトは優しく微笑んだ。

「もちろんだよ。胸を張るべきだ」


---

◆決意の夜

 夜、フェリシアは窓辺に座り、満月が浮かぶ空を眺めた。

(私は逃げてきたんじゃない。ここから、未来を勝ち取ってみせる)

 アルヴィンとクラリスに奪われたものを取り戻すだけではない。
 ――自分の人生そのものを、もう一度手に入れるために。

「私は必ず、自分の力で未来を切り開くわ」

 静かな誓いは、月明かりの中で強く輝いた。

 こうしてフェリシアは、確かな自信とともに“自立への第一歩”を踏み出したのだった。


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