婚約破棄されたので隣国に逃げたら、溺愛公爵に囲い込まれました

鍛高譚

文字の大きさ
15 / 21

3-5 新しい婚約

しおりを挟む
 フェリシアが真実を暴き、王都で名誉を回復してから数週間。
王国では、かつて追放された令嬢が堂々と復活した――と、彼女を讃える声が広がっていた。

だが、当のフェリシアは静かに考えていた。

(私はもう、“王太子妃”という場所に戻るつもりはない。
私が選ぶのは、誰かに与えられた未来じゃない――自分でつかんだ未来よ。)

その思いと共に、フェリシアは隣国へ戻る準備を進めていた。


---

◆隣国へ。帰るべき場所

王都を発つ馬車の窓から街並みを眺めながら、フェリシアはふっと息をついた。

(ここでは傷ついた過去もあった。でも……私の人生はもうここで止まらない。)

隣国エーバーハルト公爵邸に到着すると、夜気を切り裂くように優しい声が響いた。

「おかえり、フェリシア。」

リヒトがそこにいた。
変わらぬ穏やかな微笑み。その姿を見た瞬間、胸がふわりと軽くなる。

「ただいま、リヒト。あなたが待っていてくれたから……私は迷わず帰ってこられたの。」

リヒトはわずかに息を呑み、そして彼女の手をそっと取った。

「君に伝えたい言葉があるんだ。」


---

◆告白では終わらない告白

数日後。夕暮れの庭園に誘われたフェリシアは、柔らかな風の中でリヒトと向き合った。

西日が花々を黄金色に染める中、リヒトはゆっくりと言葉を紡ぐ。

「フェリシア。君と過ごした時間は……僕の人生を変えるほど大切なものだった。
君が強くなっていく姿を見るたび、もっとそばにいたいと思うようになったんだ。」

フェリシアは静かに彼を見つめた。
その眼差しは、嘘の欠片もない誠実さに満ちている。

そして――リヒトは深く呼吸をして、一歩前へ。

「フェリシア。
君を愛している。
これからの人生を――君と共に歩みたい。
僕と結婚して、公爵夫人として生きてくれないか?」

庭園の空気が震えた気がした。

突然ではあったが、フェリシアの胸には確かに温かいものが広がっていた。


---

◆フェリシアの答え

「リヒト……」

彼の告白を受け止めながら、フェリシアはゆっくり言葉を探した。

「あなたがいてくれたから、私は自分を取り戻せたの。
あなたが支えてくれた時間は……私にとっても大切な宝物よ。」

そして、彼の手を両手で包み込む。

「あなたと未来を歩くことを想像すると、心が自然と温かくなるの。
私でよければ……あなたの隣に立たせてほしいわ。」

一瞬、リヒトの目が大きく見開かれる。

次の瞬間には、彼の顔には抑えきれないほどの喜びが溢れた。

「……ありがとう、フェリシア。
君が選んでくれたことが、僕の人生で一番の幸せだ。」

その声に、フェリシアも優しく微笑んだ。


---

◆新しい婚約という祝福

ほどなくして、両国に二人の婚約が正式に発表された。

「フェリシア様が公爵夫人に……!」 「アルヴィン殿下とは大違いだわ。素晴らしい方を選ばれたのね。」

称賛の声は、かつて彼女を非難した人々からも上がり、
フェリシアの選択と努力がどれほど多くの心を動かしたのかがよくわかった。


---

◆未来はふたりで

婚約発表の夜、フェリシアとリヒトは公爵邸のバルコニーで星空を眺めていた。

「私はもう過去に囚われないわ。
あなたと共に歩む未来が……私の新しい人生そのものだから。」

フェリシアが言うと、リヒトはそっと彼女の手を握る。

「君がいてくれるなら、どんな未来も恐れない。
一緒に、新しい道を切り開こう。」

星々が瞬く夜空の下で、二人は静かに手を取り合った。

温もりが確かに、未来を照らしていた。


---

フェリシアの物語は、ここからさらに大きく動き出す。
過去に傷ついた令嬢ではなく――
自ら未来を選び、愛と共に前へ進む女性として。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

完璧すぎると言われ婚約破棄された令嬢、冷徹公爵と白い結婚したら選ばれ続けました

鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎて、可愛げがない」  その理不尽な理由で、王都の名門令嬢エリーカは婚約を破棄された。  努力も実績も、すべてを否定された――はずだった。  だが彼女は、嘆かなかった。  なぜなら婚約破棄は、自由の始まりだったから。  行き場を失ったエリーカを迎え入れたのは、  “冷徹”と噂される隣国の公爵アンクレイブ。  条件はただ一つ――白い結婚。  感情を交えない、合理的な契約。  それが最善のはずだった。  しかし、エリーカの有能さは次第に国を変え、  彼女自身もまた「役割」ではなく「選択」で生きるようになる。  気づけば、冷徹だった公爵は彼女を誰よりも尊重し、  誰よりも守り、誰よりも――選び続けていた。  一方、彼女を捨てた元婚約者と王都は、  エリーカを失ったことで、静かに崩れていく。  婚約破棄ざまぁ×白い結婚×溺愛。  完璧すぎる令嬢が、“選ばれる側”から“選ぶ側”へ。  これは、復讐ではなく、  選ばれ続ける未来を手に入れた物語。 ---

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!

さくら
恋愛
 王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。  ――でも、リリアナは泣き崩れなかった。  「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」  庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。  「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」  絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。  「俺は、君を守るために剣を振るう」  寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。  灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さくら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

「何の取り柄もない姉より、妹をよこせ」と婚約破棄されましたが、妹を守るためなら私は「国一番の淑女」にでも這い上がってみせます

放浪人
恋愛
「何の取り柄もない姉はいらない。代わりに美しい妹をよこせ」 没落伯爵令嬢のアリアは、婚約者からそう告げられ、借金のカタに最愛の妹を奪われそうになる。 絶望の中、彼女が頼ったのは『氷の公爵』と恐れられる冷徹な男、クラウスだった。 「私の命、能力、生涯すべてを差し上げます。だから金を貸してください!」 妹を守るため、悪魔のような公爵と契約を結んだアリア。 彼女に課せられたのは、地獄のような淑女教育と、危険な陰謀が渦巻く社交界への潜入だった。 しかし、アリアは持ち前の『瞬間記憶能力』と『度胸』を武器に覚醒する。 自分を捨てた元婚約者を論破して地獄へ叩き落とし、意地悪なライバル令嬢を返り討ちにし、やがては国の危機さえも救う『国一番の淑女』へと駆け上がっていく! 一方、冷酷だと思われていた公爵は、泥の中でも強く咲くアリアの姿に心を奪われ――? 「お前がいない世界など不要だ」 契約から始まった関係が、やがて国中を巻き込む極上の溺愛へと変わる。 地味で無能と呼ばれた令嬢が、最強の旦那様と幸せを掴み取る、痛快・大逆転シンデレラストーリー!

処理中です...