婚約破棄されたので隣国に逃げたら、溺愛公爵に囲い込まれました

4-4 過去を乗り越えて

フェリシアとリヒトの結婚式から数週間。
エーバーハルト公爵領には、穏やかでどこか幸福の香りが漂う日々が続いていた。

公爵夫人となったフェリシアは、領地の発展、事業の成功、そして人々の心に寄り添う姿勢によって、隣国でますます欠かせない存在へと成長していた。

――けれど、今の彼女があるのは、かつての苦しみと向き合い、それを乗り越えたからこそだった。

──────────────────
◆公爵夫人としての役割
──────────────────

リヒトと共に領地の村々を視察するのは、フェリシアの日常となっていた。

ある村を訪れた際、農家の女性が深く頭を下げる。

「フェリシア様、新しい灌漑設備のおかげで、今年は豊作でございます。本当にありがとうございます。」

フェリシアは優しく微笑む。

「いいえ。成果を出されたのは皆さんの努力よ。私は少しお手伝いをしただけ。」

その姿は、ただの公爵夫人という肩書きを超えて、
“人を導き、共に歩む存在”として村人たちの心に刻まれていた。

──────────────────
◆事業家としてのさらなる飛躍
──────────────────

フェリシアが手がける特産品事業は、隣国の経済を押し上げるほどの成功を見せていた。

商人たちとの会議では、彼女の発想力が次々と新しい道を開く。

「この織物にモダンな図案を取り入れれば、海外でも人気が出るわ。」

「フェ、フェリシア様……！これほど的確な意見を出されるとは……！」

商人たちが次々と感嘆し、彼女の提案を採用するたびに、市場は活気づいていった。

隣国にとって――いや、世界にとって、フェリシアは「価値を生み出す人物」として認められていった。

──────────────────
◆書斎で向き合う過去
──────────────────

ある夜。
フェリシアは公爵邸の書斎で、ひっそりと木箱を開けていた。

そこには、王国を出るときに持ってきた、ほんの少しの私物。

――アルヴィンとクラリスに裏切られた苦い記憶も、その箱と共にあった。

「……あの頃の私は、何もかも失ったと思っていたわ。」

静かに呟き、フェリシアは小さな手紙をそっと撫でる。

だが、その表情にはもう悲しみはない。

「でも、あの経験があったからこそ、私は変われたの。
だから、もう後悔していないわ。」

そんな彼女の背に、優しい声が届く。

「フェリシア、一人で考え込んでいないか？」

リヒトが書斎の扉を開け、柔らかな微笑みで彼女の側に座った。

──────────────────
◆支えてくれた人へ
──────────────────

フェリシアは木箱を閉じ、リヒトの隣で深く息をついた。

「リヒト……あなたがいてくれたから、私はここまで来られたの。」

「フェリシア。」

リヒトは彼女の手をそっと握る。

「君がどんな過去を抱えていても、僕は君を尊敬している。
過去を力に変えて進んだ君の強さは、誰よりも美しいよ。」

その言葉に、フェリシアの瞳が静かに潤む。

――それは悲しみの涙ではなく、あたたかな安心の涙。

リヒトはそんな彼女を優しく抱き寄せた。

「これからも一緒に歩もう。君の未来を、僕も共に作っていきたい。」

──────────────────
◆隣国で広がる信頼
──────────────────

翌日からもフェリシアは変わらず行動し、領民と向き合い、事業を進めていった。

彼女に寄せられる言葉は、いつしかこんなものに変わっていた。

「フェリシア様は、この国の希望だ。」
「おかげで生活が改善しました。ありがとうございます！」

その声の一つひとつが、かつて傷ついた彼女の心を包み込み、前へと押し出していた。

──────────────────
◆新たな決意
──────────────────

夜、バルコニーで夜風を受けながら、フェリシアは瞳を輝かせた。

「私はもう、過去には戻らないわ。
リヒトと、この国と一緒に……もっと素敵な未来を作るの。」

その言葉には、迷いはなかった。

かつての苦しみは痛みではなく、力に変わり――
フェリシアは新しい章を歩み出す。

彼女の未来は、誰よりも美しく輝いていた。