『白い結婚でしたわよね? では私は自由をいただきます』

鍛高譚

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16話

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 ざわつく社交界と、リディアの“最後の一手”

「――リディア・シュヴァルツ様が、また何か企んでいるみたいですよ」
 そんな噂が、ある日ひっそりと私の耳に届いた。噂を持ち込んだのは社交界に通じた伯爵家の使用人の一人で、どうやらリディアの取り巻き筋から怪しい動きがあるらしい。
 私はアフタヌーンティーを味わいかけていたが、その話を聞いて思わず眉をひそめる。つい先日も、リディアは伯爵家に乗り込んできて私に噛みついていったばかりだ。彼女はジル・アルフェイン様との関係が動揺し始めたことで、ますます焦りを募らせている。
 正妻である私――と言っても“形だけ”の婚約者――への対抗心が強まる一方なのだろう。かといって、私は今さらジル様と深い仲になる気もなく、白い結婚のまま流れに任せたいのだ。
 それをリディアが許してくれない以上、“最後のあがき”として何らかの大きな策略を用意していても不思議ではない。彼女がここまでされると、正直もううんざりだ。

「お嬢様、どうなさいますか?」
 隣に控える侍女頭のリコが声を潜めて尋ねる。
 私はティーカップをそっと置き、小さく息をついた。
「どうもしないわ。私からリディア様に仕掛ける理由はないもの。ただ、あちらが何かを起こそうとしているなら――防備くらいはしておく必要があるかしらね」
「ええ、きっと“これ以上ない”というほど大がかりな嫌がらせを仕掛けてくる気がします。お嬢様もお気をつけください」

 リコの心配はもっともだ。私としても、今さら仮面を繕うつもりはないが、リディアが危険な賭けに出るなら私も対処しなくてはならない。
 ――そして、もう一つ気がかりがある。最近、第二王子ディオン・ラクリア殿下が妙に私に接触したがっているという噂だ。前回の王宮での晩餐会後、「もし助けが必要なら力になる」と言われ、その真意がいまだ測りかねている。
 私は殿下から遠巻きに見られているような気配を感じながらも、深入りは避けていた。結局、ジル様との白い結婚に関しては“もうあきらめている”とさえ思っているのだから、いまさら別の相手とどうこうする気もない。
 ――もっとも、そんな私の気持ちなどお構いなしに、ディオン殿下は興味を失っていないようで……。

 不穏な思いを抱えつつ過ごしていたある日、私は**ジル様から“ある宴への同行依頼”**を受け取った。そこには「正式に君を伴いたい」「婚約者としての立場を外部に示す機会にしたい」といった文面が並んでいる。
 どうやら地方の名門貴族が催す大舞踏会に、アルフェイン侯爵家の嫡男として招かれたらしい。ジル様はリディアではなく、私を連れて行くと決めている――そこにまたリディアが噛みつくだろうことは想像に難くない。
 ともあれ、白い結婚の婚約者として出席するのが私の“義務”である以上、拒むわけにもいかず、私は渋々ながらその招待に応じることにした。
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