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第三十三話 理由が、作られ始める音
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第三十三話 理由が、作られ始める音
理由は、いつも“もっともらしい形”で用意される。
唐突ではない。
誰かの失敗でもない。
ただ、静かに積み上げられる。
「最近、象徴としての負担が大きいのでは?」
最初は、労わりの言葉だった。
朝の報告で、セドリックは淡々と告げた。
「“配慮”という名目が増えています」
「予想通りですね」
「成果の再定義が始まっています」
私は、書類から目を上げた。
「どのように?」
「数値化です。可視化できる成果だけを並べる」
象徴は、数字に弱い。
癒しも、安定も、判断の抑制も――
表に出しにくいからだ。
昼前、資料が回覧された。
――施策実行件数
――直接関与回数
――決裁参加率
そこに、私の名前は少ない。
(……切り取り方が上手い)
不足ではない。
“物足りない”という印象を作る配置。
午後、非公式の意見交換。
「体制刷新を検討するには、適切な時期かもしれません」
誰も私を名指ししない。
それでも、視線が一斉にこちらを向く。
私は、静かに問い返した。
「刷新の目的は、何でしょう?」
答えは、曖昧だった。
「効率化」
「次の段階へ」
「国全体の最適化」
どれも正しく、どれも中身がない。
ジェラール殿下が、珍しく言葉を挟んだ。
「刷新は、問題が明確なときに行うものだ。
今、何が問題なのか?」
場は、沈黙した。
誰も、答えられない。
問題があるのではない。
“去らせたい理由”を、まだ言語化できていないだけだ。
夕刻、回廊で聞こえた囁き。
「彼女は、疲れているのでは?」
「休ませるのも、優しさだ」
優しさは、最も拒みにくい圧力だ。
夜、手帳を開く。
――理由づくり、開始。
――手法:数値化、印象操作、配慮の言語。
――欠落:明確な問題定義。
ペンを止め、深く息を吐く。
理由は、完成していない。
だから、急がせる。
“本人のため”という言葉が出たとき、
完成に近づく。
私は、まだ動かない。
説明も、反論も、しない。
理由が未完成なうちは、
こちらが口を出すほど、相手は形を整えてしまうからだ。
窓の外、夜は静かだ。
だが、静けさの底で、
音がしている。
理由が、作られていく音。
それが公式の言葉になった瞬間――
私は、選ぶ。
留まるか。
去るか。
そのどちらも、
私の意思でなければ意味がない。
だから今は、沈黙する。
理由が、
“誰のためのものか”を、
はっきりさせるために。
理由は、いつも“もっともらしい形”で用意される。
唐突ではない。
誰かの失敗でもない。
ただ、静かに積み上げられる。
「最近、象徴としての負担が大きいのでは?」
最初は、労わりの言葉だった。
朝の報告で、セドリックは淡々と告げた。
「“配慮”という名目が増えています」
「予想通りですね」
「成果の再定義が始まっています」
私は、書類から目を上げた。
「どのように?」
「数値化です。可視化できる成果だけを並べる」
象徴は、数字に弱い。
癒しも、安定も、判断の抑制も――
表に出しにくいからだ。
昼前、資料が回覧された。
――施策実行件数
――直接関与回数
――決裁参加率
そこに、私の名前は少ない。
(……切り取り方が上手い)
不足ではない。
“物足りない”という印象を作る配置。
午後、非公式の意見交換。
「体制刷新を検討するには、適切な時期かもしれません」
誰も私を名指ししない。
それでも、視線が一斉にこちらを向く。
私は、静かに問い返した。
「刷新の目的は、何でしょう?」
答えは、曖昧だった。
「効率化」
「次の段階へ」
「国全体の最適化」
どれも正しく、どれも中身がない。
ジェラール殿下が、珍しく言葉を挟んだ。
「刷新は、問題が明確なときに行うものだ。
今、何が問題なのか?」
場は、沈黙した。
誰も、答えられない。
問題があるのではない。
“去らせたい理由”を、まだ言語化できていないだけだ。
夕刻、回廊で聞こえた囁き。
「彼女は、疲れているのでは?」
「休ませるのも、優しさだ」
優しさは、最も拒みにくい圧力だ。
夜、手帳を開く。
――理由づくり、開始。
――手法:数値化、印象操作、配慮の言語。
――欠落:明確な問題定義。
ペンを止め、深く息を吐く。
理由は、完成していない。
だから、急がせる。
“本人のため”という言葉が出たとき、
完成に近づく。
私は、まだ動かない。
説明も、反論も、しない。
理由が未完成なうちは、
こちらが口を出すほど、相手は形を整えてしまうからだ。
窓の外、夜は静かだ。
だが、静けさの底で、
音がしている。
理由が、作られていく音。
それが公式の言葉になった瞬間――
私は、選ぶ。
留まるか。
去るか。
そのどちらも、
私の意思でなければ意味がない。
だから今は、沈黙する。
理由が、
“誰のためのものか”を、
はっきりさせるために。
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