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第2章:新たな挑戦と揺れる王宮の思惑
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一方その頃、王宮では新たな議題が持ち上がっていた。それはラウル王子とリリアの“婚儀”をどう扱うかという問題である。
国王や宰相は「結婚式の費用や式場は王家として提供しない」「式自体は静かに執り行い、国民への公表は最小限に」という条件での“折衷案”を検討していた。つまり、第二王子が“平民の娘”を娶(めと)ることは王家の公式行事として大々的には認めないが、強引に止めることもしない、という曖昧な立場をとろうとしているわけだ。
しかし、これに対してラウルは猛反発していた。自分は愛するリリアとの結婚を堂々と祝福してほしいのであり、隠れるように形だけの式を行うなどごめんだ、と主張している。だが、リリアを王家に迎え入れるとなれば、当然貴族や他国からの反発も強く、王家の権威が損なわれる恐れがある。国王としてはこれ以上厄介な問題を抱えたくないというのが本音だ。
さらに、グランシェル侯爵家との婚約破棄の補償交渉もまだ決着していない。一部の高官たちは、「ラウルを早々に領地なり国外なりへ送り出してしまうべきだ。後は第一王子がしっかり王位を継げばいい」とさえ囁いている始末。
こうした動きを知るラウルは、日に日に苛立ちを募らせていた。リリアが平民であるという出自だけで、なぜこんなにも反対され、冷遇されねばならないのか。彼は王子であるという立場を利用して、何としてでも彼女を正妻として迎え入れたい。
一方、リリア自身もまた、王宮という華やかな場所で感じる重圧と貴族たちの蔑視に苦しんでいた。ラウルは「大丈夫だ、必ず守るから」と優しく励ますが、現実はそう甘くはない。王宮の中には、彼女を“王子の愛人”程度にしか見ない者もいれば、面と向かって嫌味を言う貴婦人も少なくなかった。
「……リリア、気にするな。僕が必ず、お前を立派な王子妃にしてみせるから」
夜の回廊で、ラウルはそう言ってリリアの肩を抱き寄せた。けれどリリアはしょんぼりと俯き、弱々しい声で応じる。
「殿下……ごめんなさい。私、皆さんから白い目で見られるのが怖いんです。『あんな平民女が王家に入るなんて』って……」
「僕が言っただろう? そんな連中の言葉は気にしなくていい。愛があれば、身分なんて関係ないさ」
自信に満ちた口調で言うラウルだが、その裏では自分自身への焦りが膨らんでいる。本当に、このまま王家が結婚を認めてくれなければどうしよう。グランシェル侯爵家との婚約破棄は強行したが、その代償として自分の立場はますます悪くなっている。第一王子や周囲の大貴族が固める体制にあって、自分は“邪魔者”扱いされつつあるのだ。
(どうして、こんなにも上手くいかないんだ……。マイラとの婚約は、僕にとって束縛でしかなかった。だからこそリリアを選んだのに、なぜ誰も僕たちを祝福してくれない……?)
ラウルは心の中で苛立ちを募らせる。彼が選んだ道とはいえ、王宮という世界で平民の娘を妻に迎えるというのはあまりにも困難が多かった。それでも彼は、自分の愛が真実であるならば、いつかは周囲が折れてくれるはずだと信じている。いや、そう信じなければやっていられないのだろう。
しかし、事態はラウルが望む方向には動きそうにない。国王も宰相も、もはや彼を将来の中心人物とは考えていない。第一王子が優秀である以上、ラウルの存在を政治的に利用する必要性は少ない。ならばいっそ邪魔をしない形で放置するか、穏便に国外へ送り出すか。それが王家にとっての最善策とさえ思われていた。
こうして、ラウルは誰にも認められない孤独な戦いへと突き進んでいく。リリアを王家に迎えることに固執すればするほど、周囲の反発と冷遇は強まる一方だ。それを跳ね除けるだけの政治力も人望も、今のラウルにはない。グランシェル侯爵家という強力な後ろ盾を自ら手放した代償は、想像以上に重くのしかかりつつあった。
国王や宰相は「結婚式の費用や式場は王家として提供しない」「式自体は静かに執り行い、国民への公表は最小限に」という条件での“折衷案”を検討していた。つまり、第二王子が“平民の娘”を娶(めと)ることは王家の公式行事として大々的には認めないが、強引に止めることもしない、という曖昧な立場をとろうとしているわけだ。
しかし、これに対してラウルは猛反発していた。自分は愛するリリアとの結婚を堂々と祝福してほしいのであり、隠れるように形だけの式を行うなどごめんだ、と主張している。だが、リリアを王家に迎え入れるとなれば、当然貴族や他国からの反発も強く、王家の権威が損なわれる恐れがある。国王としてはこれ以上厄介な問題を抱えたくないというのが本音だ。
さらに、グランシェル侯爵家との婚約破棄の補償交渉もまだ決着していない。一部の高官たちは、「ラウルを早々に領地なり国外なりへ送り出してしまうべきだ。後は第一王子がしっかり王位を継げばいい」とさえ囁いている始末。
こうした動きを知るラウルは、日に日に苛立ちを募らせていた。リリアが平民であるという出自だけで、なぜこんなにも反対され、冷遇されねばならないのか。彼は王子であるという立場を利用して、何としてでも彼女を正妻として迎え入れたい。
一方、リリア自身もまた、王宮という華やかな場所で感じる重圧と貴族たちの蔑視に苦しんでいた。ラウルは「大丈夫だ、必ず守るから」と優しく励ますが、現実はそう甘くはない。王宮の中には、彼女を“王子の愛人”程度にしか見ない者もいれば、面と向かって嫌味を言う貴婦人も少なくなかった。
「……リリア、気にするな。僕が必ず、お前を立派な王子妃にしてみせるから」
夜の回廊で、ラウルはそう言ってリリアの肩を抱き寄せた。けれどリリアはしょんぼりと俯き、弱々しい声で応じる。
「殿下……ごめんなさい。私、皆さんから白い目で見られるのが怖いんです。『あんな平民女が王家に入るなんて』って……」
「僕が言っただろう? そんな連中の言葉は気にしなくていい。愛があれば、身分なんて関係ないさ」
自信に満ちた口調で言うラウルだが、その裏では自分自身への焦りが膨らんでいる。本当に、このまま王家が結婚を認めてくれなければどうしよう。グランシェル侯爵家との婚約破棄は強行したが、その代償として自分の立場はますます悪くなっている。第一王子や周囲の大貴族が固める体制にあって、自分は“邪魔者”扱いされつつあるのだ。
(どうして、こんなにも上手くいかないんだ……。マイラとの婚約は、僕にとって束縛でしかなかった。だからこそリリアを選んだのに、なぜ誰も僕たちを祝福してくれない……?)
ラウルは心の中で苛立ちを募らせる。彼が選んだ道とはいえ、王宮という世界で平民の娘を妻に迎えるというのはあまりにも困難が多かった。それでも彼は、自分の愛が真実であるならば、いつかは周囲が折れてくれるはずだと信じている。いや、そう信じなければやっていられないのだろう。
しかし、事態はラウルが望む方向には動きそうにない。国王も宰相も、もはや彼を将来の中心人物とは考えていない。第一王子が優秀である以上、ラウルの存在を政治的に利用する必要性は少ない。ならばいっそ邪魔をしない形で放置するか、穏便に国外へ送り出すか。それが王家にとっての最善策とさえ思われていた。
こうして、ラウルは誰にも認められない孤独な戦いへと突き進んでいく。リリアを王家に迎えることに固執すればするほど、周囲の反発と冷遇は強まる一方だ。それを跳ね除けるだけの政治力も人望も、今のラウルにはない。グランシェル侯爵家という強力な後ろ盾を自ら手放した代償は、想像以上に重くのしかかりつつあった。
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