「平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる」

鍛高譚

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第2章:新たな挑戦と揺れる王宮の思惑

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 一方その頃、マイラはルシアンとの話し合いを重ね、徐々に具体的な事業計画を形にしていた。週に一度ほどのペースでベルナール商会を訪れ、商材の選定や取引の条件などを煮詰めている。父デゼルも「マイラがここまで動くとは」と驚きつつも、彼女の行動を後押ししてくれるため、計画は着実に進行していた。
 ルシアンに紹介された各種工房や地方商会とのやり取りを通じて、マイラは生き生きとした表情を見せる。偶然にも、「グランシェル家の侯爵令嬢が婚約を破棄された」という噂を聞きつけた人々が、同情や興味を示す場面もあるが、マイラは丁寧な態度でそれをいなしつつ、事業の重要性を説いて協力を仰いだ。
「私個人の事情はどうあれ、グランシェル領の発展は皆様の協力なくして実現できません。どうか、一緒に新しい商機を作り出していきませんか?」
 そう呼びかける彼女の姿は、かつての“冷たい貴族令嬢”のイメージとは少し違っていた。情熱と誠意を感じさせる口調に、多くの商人や職人たちが興味を示し、前向きに検討する意思を示してくれるのである。

 そして、もう一つ。このプロセスの中で、マイラの心にもまた、少しずつ変化が芽生え始める。ルシアンという青年は、単に有能なビジネスマンというだけでなく、物腰が柔らかく、相手の立場を常に思いやろうとする人物だ。外見も端正で、時折見せる穏やかな笑顔は、ふとした瞬間にマイラの胸をときめかせる。
 ──ラウルとの婚約期間、マイラは「好き」という感情を意識してこなかった。王族との結婚は義務でもあり、周囲から期待されるものであって、自分の意思をはさむ余地はほとんどなかったからだ。そんな彼女にとって、ルシアンのように対等に会話をして、共に一つの目標を追いかける相手は新鮮だった。
 もっとも、マイラはまだその気持ちを恋愛感情とハッキリ自覚しているわけではない。ラウルに振り回され、失意を味わったばかりだし、自分自身の将来を切り開くことに集中したいと思っている。けれど、ルシアンと話しているときの自分は、これまでとは違う心の動きを感じるのだ。

 そうして忙しく動き回るうちに、季節は年末へと差しかかってきた。王都の冬は厳しい寒さが続くが、街中は年の瀬の祝祭に向けて活気づき、商人たちは行き交う客に向けて「一年の締めくくりだよ!」とばかりに商品を売り込んでいる。
 マイラもまた、ルシアンとの打ち合わせが終わった後、セレナや使用人を連れて市街地を見て回ることが増えた。以前は舞踏会やお茶会が中心だった社交界の習慣をこなしながらも、今は商業の視点で街を見ることで新たな発見が多い。
 例えば、年末年始にかけて需要が高まる食材や日用品。あるいは人々が欲しがっている装飾品やファッションの傾向。マイラはそうした情報を丹念に拾いながら、次なるビジネスチャンスを模索していた。「私、こんなに商売のことを考えるようになるなんて思ってもみなかった」と笑い合う姿に、セレナも「でも楽しそうよ」と目を細める。

 だが、そんな中でも、ラウル王子とリリアに関する噂は絶えず耳に入ってくる。二人の婚儀が年明け早々に挙行される予定だという話もあれば、王家がそれを黙殺しているという話もある。ひどい噂になると、「リリアが王宮でいじめられている」「ラウル殿下が焦って無理を言っている」など、耳を塞ぎたくなるようなゴシップすら流れていた。
 マイラはそれらの噂に感情を大きく揺さぶられることはなくなっていたが、わずかに胸がチクリと痛むこともある。自分を捨てた相手とはいえ、ラウルは昔から一応の紳士的態度を見せていた。彼がそこまで無様な姿をさらしていると想像すると、かつての婚約者として多少の気まずさを感じるのも仕方ない。
 しかし、マイラはそれを深く考え込むことを避けるようにしていた。自分にはもう関係のないこと――そう言い聞かせながら、今はグランシェル家と領地のために尽力する時期なのだと自分を鼓舞し続ける。

 そんなある日のこと。マイラがベルナール商会での打ち合わせを終え、夕暮れ時に屋敷へ戻ろうとしたところ、門の前で何やら騒ぎが起こっていた。何人かの衛兵らしき姿が見えるが、どうも様子がおかしい。近づいてよく見ると、そこにいたのは――
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