あなたの狂気に囚われたい

碧 貴子

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本編

6.私の愛する弟

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 家に戻った私は、意外にも幸せだった。
 息子はすくすくと育ち、毎日春の陽射しのような笑顔を見せてくれる。
 弟に似た息子は頭も良く、その利発さには家庭教師も舌を巻くほどだ。
 かつてのウィリアムを見ているようで、私は誇らしい気持ちになる。
 そんな息子を、弟は溺愛している。
 弟曰く、息子は私に似ているらしい。
 私達は仲の良い姉弟として、息子の成長を見守っている。
 昼間は、だが。
 ありがたいことに、息子は弟のことを、きちんと“養父”として認識している。
 しかし、息子が弟を“お父様”と呼ぶ度に、複雑な気持ちになるのも確かだ。
 そして、息子は父にも懐いている。
 笑い合う二人を見ていると、時々、少しだけ胸が痛くなる。
 だが、その姿は救いでもある。

 夜、息子が寝た後は、私と弟は公然と夫婦として過ごす。
 皆、私達が何をしているのか知っていて、口を閉ざしている。


 不思議な程穏やかに、幸せな時間が過ぎ、あっという間に息子はかつて弟が私と初めて会った時と同じ年齢になった。
 その日私は、息子と庭のバラ園に居た。
 あの、血のように紅いバラが咲き誇る庭だ。
 むせ返る程の甘い匂いの中で、息子が私を見つめてきた。
 息子の瞳は、弟と同じようでいて、やはり違う。

「……お母様。僕の、本当のお父様って、誰ですか?」

 弟よりも真っ直ぐで、強さと優しさを感じさせる青い瞳で見つめられて、私は動揺した。
 これまでは曖昧に誤魔化してきたのだ。
 利発な息子は自分の父親の話は我が家では口にしてはいけないことだと察しているのか、一度聞いて以降、今日まで聞いてくることはなかった。

「僕の本当のお父様って、ウィリアム父様、なのでしょう?」

 やはり隠し通すことは無理なのか。
 しかし息子の為には、決して真実を知られてはならない。
 知ったら最後、息子は一生苦しむことになる。

「……どうしてそんなことを?」
「だって、お父様とお母様を見てればわかります。それに僕は、お父様にそっくりだ」
「……アル、あなたは私のお父様、あなたのお祖父様に似たのよ」
「でも! 僕の髪の色はお父様と一緒だ!」
「それは、何代か前の御先祖様がそうだったからよ。ほら、回廊に絵があったでしょう? それに、例えば黒髪同士のお父様とお母様でも、金の髪の子が生まれることだってあるのよ?」
「で、でも……」
「お母様のせいで、あなたに実の父親を教えてあげられなくて、本当にごめんなさい。でもね、アル。周りが例え何を言おうとも、あなたは何も疚しいことはないの。あなたは何も悪くないのだから」

 どちらにしろ、世間で息子は未婚の母の子だ。
 大きくなれば、きっとそのことで後ろ指を指されることがあるだろう。

「あなたはお母様の大事な、大事な、息子よ。だから、あなたは何も気にせず、堂々としてらっしゃい」
「お母様……」

 アルバートは敏い子だ。
 このままでは、いつか必ず自分の実の父親を知ることになるだろう。
 その前に、何とかせねば。
 息子が幼い今なら、まだ、間に合う。
 私は覚悟を決めた。



 それからしばらくして、私はウィリアムを誘って湖の別荘を訪れた。
 人目を気にせず二人でゆっくりするためだ。

「姉上から誘っていただけるだなんて、雪でも降りそうですね」
「あら、嫌だったかしら?」
「いいえ。嬉しくて、そこら中を飛び跳ねて回りたいくらいです」
「ふふふ。飛び跳ねてるウィルを見てみたい気もするけど、今は遠慮しておくわ」
 弟は何とも嬉しそうだ。
 その顔を見て、私も嬉しくなる。

 別荘に着いて、すぐに私達は抱き合った。
 いつかのように、昼も夜もなく溶け合う様に体を繋げる。
 ただ大きく違うのは、今では私も弟を愛しているということだ。
 いや、愛してると認めた、という方が正しいか。
 行為の最中、私は何度も弟に愛を囁いた。

「……はぁ。姉上。どうされたんです?」
 事後の気怠さを纏って、弟が少し戸惑ったように聞いてくる。
 これまで愛を口にしたことがなかった私の、突然の告白に、驚いているのだろう。
 そんな弟の頭を裸の胸に抱え込んで、私はその髪に顔を埋めた。

「ちゃんと、言っておこうと思って」
「姉上……」
「愛してるわ、ウィル」

 常に寄り添い合い、時が経つのも忘れて愛し合う。
 食事の時間すら、惜しんで。
 裸のまま、絡まり合って、食べさせ合う。

 幸せに蕩けたような弟の瞳を見て、私は胸が一杯になった。
 全てに秀で、こんなにも美しい弟が、私を愛している。
 私に愛されてると知って、満たされているのだ。
 ウィリアムを愛し、愛されているという事実の前に、私は血の繋がりなどもうどうでも良くなっていた。
 一人の人間として、弟を、ウィリアムを愛しているのだ。
 神に禁じられていようと、構わない。
 第一、創世神話は皆、兄妹神だ。

「……夢を、見ているようです」
「そう?」
「姉上が私を愛して下さるなんて、信じられない……」
「では、どうしたら信じるの?」

 湯を張った浴槽の中で戯れながら聞く私に、ウィリアムが楽しそうに笑った。

「そうですね、……では、姉上の恥ずかしい姿を見せてください」
「もう十分、見せてると思うけど……」
 思わず苦笑してしまう。
 だってもう、散々あられもない姿を曝しているのだから。
 しかも悦んで、自ら。

「いえ? まだ見せてもらってませんよ?」
「それは……」
 ウィリアムの言いたい事を察して、私は唾を飲みこんだ。

 その後、執拗に体を弄られ、淫らに蕩けさせられた私は、洗い場の壁にかかった大きな鏡に両手をついて、後ろからウィリアムに貫かれていた。
 すでにズブズブの膣内を執拗に抉られて、頭は霞がかったようだ。
 快感で朱に染まった私の片脚を後ろから持ち上げて、ウィリアムが耳元で囁いた。
 私をどこまでも堕落させる、甘い声で。

「……では姉上、見せてください」

 そのままねっとりと私の耳朶を舐め上げる。
 耳の穴に舌を差し込まれ、頭に直接響く水音で、私のなけなしの理性や分別といったものが崩れ去った。

 腹圧を掛けて尿道を弛緩させる。
 出口に、一瞬じんとした熱さを感じた後、温かい水流が放物線を描いて床へと落ちた。
 はしたなく片脚を上げさせられて、ウィリアムの剛直に貫かれた状態で放尿する私の姿が湯気で曇った鏡に映っている。
 尿を絞り出すと膣内にも圧がかかり、自身のものを締め上げられたウィリアムが呻いた。
 堕ちた快楽にぶるぶると震える私を後ろからきつく抱きしめて、ウィリアムが中を突き上げる。
 まだ流しもしない、小水がぽたぽたと落ちる状態にもかかわらず、何度も何度も秘所を突き立てられて、私は真っ白になって激しく達してしまった。
 ガクガクと脚に力の入らない私の体を鏡に押し付けて、ウィリアムもまた叩きつけるようにして白濁を吐き出す。獣のように唸りながら、ドクドクと脈打つ剛直を私に捻じ込む。
 しばらく荒い息を吐いた後に解放された私は、鏡に頬と胸を押し付けたまま、ずるずるとそのまま床にへたり込んでしまった。
 そんな私に、なんども湯を掛けて汚れを流し、ウィリアムが抱き上げた。


「……ああ、姉上。姉上があんな淫らな姿を私に曝して下さるなんて……」
「ウィルっ、ああぁあっ、ああっ」

 寝台に横たえられ、再び貫かれる。
 恍惚とした顔のウィリアムに組み敷かれて、私はあられもなく啼いてよがった。
 自らはしたない姿勢を取り、男の劣情を掻き立て、犯されて、悦ぶ。
 乞われるままに娼婦のような言葉を口にしても、既に何の羞恥もない。
 卑猥に男の欲を咥え込む私を、ウィリアムがとろりと欲望に溶けきった瞳で犯しつくした。

 淫蕩の限りを尽くした交わりだというにもかかわらず、果てた後は非常に清らかで崇高とさえいえる、愛溢れる気持ちになれるから不思議だ。
 汗と体液に塗れた体を繋げたまま、たっとき愛の言葉を交わす。

「ウィリアム、愛してる。心から愛してるわ」
「姉上、エリザベス、私も愛してます。私の愛する女性は、生涯あなた一人だけだ」








 二人別荘で過ごす最後の日、テラスに出て湖を眺める私にウィリアムが微笑んで花束を寄こした。
 あの、血のように紅いバラの花束だ。

「姉上は、この花がお好きですよね」
「……そうね」
 渡された花束を抱き込んで、その香りを胸いっぱいに吸い込む。
 甘い、甘い、芳香。
 母の、香り。

「私のお母様がね、好きだったの」
「そう、だったんですね……」

 ウィリアムの前で、母の話をするのは初めてだ。
 ウィリアムも母の最期を知っているため、彼から母のことを訊ねられるようなことはなかったのだ。

「一度だけ、お父様がお母様に贈った花だと聞いたわ。……私がお母様を見つけた時、変わり果てた姿で糞尿を垂れ流すお母様の死体のすぐ側に、この花が置かれていたの。それ以来、この花を見る度に、お母様を思い出すのよ」
「……」
「これまでは、この花は父やあなたや、家に対する憎悪の象徴のように見えていたのだけれど、今はただ純粋に、美しい、と思うわ」
「姉上……」
「それに、私にとってもこの花は、あなたが私に贈ってくれた、大事な思い出の花だもの」

 子供の頃、棘で手を傷つけることも厭わずに、ウィリアムは私の為にこの花を贈ってくれた。

「……アルバートが、本当の父親は誰かって聞いてきたの。あなたなんじゃないかって」
「……そうですか」
「あの子、あなたに似て賢いから、このまま一緒に暮らしていれば、きっといつか真相に気付いてしまうわ」

 それだけは、駄目だ。
 息子には、明るい陽の道を歩かせたい。
 何より息子は、私と違って真っ直ぐで純粋で、強い子だ。
 かつてのウィリアムのように。

「だから、私はここに、残るわね」
「姉上……」
「ふふ。会いに来て、くれるのでしょう?」
「もちろんです」

 切なげに瞳を揺らしたウィリアムの頬に、そっと手を沿える。
 髭の薄い彼の頬は、相変わらず白くて、滑らかだ。
 私の手に手を添えて、ウィリアムが愛おしそうに撫でる。
 目の前の湖そのままの、静かに澄んだ群青の瞳を見つめて、私は心から微笑んだ。

「ウィル、愛してるわ。私ね、心からあなたの幸せを願ってるの」
「姉上、それではまるで最後の言葉みたいではないですか」
「ふふふ。こういう時でもなければ、言う機会はないから」

 笑う私をウィリアムが抱きしめてきた。
 ウィリアムの、愛する人の匂いがする。
 不安そうにきつく抱きしめる彼を抱きしめ返して、私は心から愛を囁いた。
 彼に、私の気持ちが伝わるよう。
 彼が、裏切られたと誤解して、傷つかないように。

「愛してるわ。あなたが私の弟で、本当に良かった」
「姉上……」
「ウィル、アルバートをお願いね」


 ウィリアムが去っていく姿を見届けた後、私はテラスの手摺に手を掛けた。
 目の前には、風ひとつなく、静かに凪いだ深い湖。
 陽の光を反射して、キラキラと美しく輝いている。
 父と、ウィリアムと、そしてアルバートの瞳の湖。
 私が愛した人達の色だ。
 そして胸には母のバラを抱いて。

 神よ。
 何処いずこかに御座おわします神よ。
 全ての罪は、この身に。
 どうか、彼等に祝福を。



 耳元で風を切る音に混じって、ウィリアムの声が聞こえる気がする。
 ウィリアム、私の愛するひと

 私の世界は、そこで終わった。


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