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たべるということ
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「おはよう。朝ご飯出来てるわよ。」
「・・・うん。」
パジャマのまま静かに階段を降りると、お母さんがいつも通りに声をかけてくれる。今日は土曜日で、お父さんはまだ起きてきていなかった。お味噌汁と目玉焼きの良い匂い、いつもの事なのに、なんだか少し泣きそうになってしまった。
「・・・いただきます。」
ゆっくりとみそ汁を口に運ぶ。美味しいのに、食べたいのに、一口飲んでそこからなかなか進まない。目玉焼きも、ご飯も、食べたい。食べたいのに箸を持ったまま私は固まってしまった。お母さんはそんな私を心配そうに見つめつつも、私が話し出すのをゆっくりと待っていてくれた。
「・・・お母さん。」
「うん。」
「私ね。最近、ご飯を食べるのが怖いの。」
「・・・うん、そっか。」
震える声で話し出した私の手を、お母さんがそっと握ってくれる。
「でもお母さんのご飯美味しいから、好きだから、またちゃんと食べられるようになりたいの。だからさ、私ね、私・・・。」
「瀬名、おいで。」
言葉に詰まってしまった私を呼び寄せて、お母さんはポンポンと頭を撫でてくれる。まるで子供の様に泣き出してしまった私を見て、お母さんは優しく笑う。「大丈夫。焦らず、ゆっくり治してこう。」そう言って泣いている私の頬を両手で引っ張って笑うから、私も涙でぐしゃぐしゃの顔のまま思わず笑ってしまった。
「「昨日はごめん!!」」
謝罪の声が重なって、思わず2人して下げていた頭を挙げてしまう。予想もしない所で目が合ったから、菜々子も私も思わず笑ってしまった。
昨日のメッセージに朝返信すれば菜々子はすぐに返事をくれて、そのまま近くの公園で会う事になった。昨日泣きっぱなしで腫れてしまっている私の瞼と同じくらい菜々子の瞼も腫れていて、「酷い顔だね。」とまたお互いに笑い合う。近くのベンチに腰かけて、私は今までの話をした。菜々子は頷きながら、時折鼻をすすりながら、私の話を聞いてくれた。気づけば私も涙がこぼれてしまっていて、話し終える頃にはお互いに鼻を真っ赤にしてしまっていた。もう一度謝った私に、菜々子はゆっくり首を振る。
「私の方こそごめんね。瀬名ちゃんの気持ち、ちゃんと考えられてなかった。自分の気持ちを優先しちゃったの。本当にごめん。」
「そんなことないよ。菜々子あんなふうに皆の前で話すの得意じゃないのに、私のために怒ってくれたんだよね。ありがとう。」
私の言葉に菜々子はいつものように微笑んでくれて、ああこの笑顔がまた見られてよかったと心の底から思った。前みたいにお互いにどうでもいい話をしてケラケラ笑って、話が途切れたところで菜々子は急に立ち上がって私の手を握る。
「あのさ!お菓子、作ろう!」
「・・・へ?」
急な言葉に間抜けな声が出てしまった私を見て、彼女は焦ったように言葉を続ける。
「あ、あのね、口に入れるものが何から出来てるのかとか、どんな量の何が入っているかとか、そう言うのを知ると食べやすくなるってね、調べたの。あ、でも待って、そう言う問題じゃないよね。ごめんまた的外れだよね。私って本当に・・・。」
「菜々子。」
早口に話し出した菜々子は最後の最後に俯いてしまったから、その言葉を遮って彼女の名前を呼ぶ。
「作りたい、お菓子。」
「瀬名ちゃん・・・。」
「だから、一緒に作ってくれる?」
私の言葉に菜々子は少し驚いたように顔を挙げて、大きく頷いてくれる。きっと菜々子は私のために色々調べてくれたんだ。それがとても嬉しくて胸がいっぱいになって、気づけば私も彼女の手を握り返していた。「ありがとう。」と言えば、菜々子は照れたように微笑む。手を繋いでいる今の状況が急に恥ずかしくなって、また笑いが込みあげてしまって2人で声を上げて笑った。緊張がほぐれたら少しお腹が空いてきてお母さんの作ったオムライスが食べたいなあ、なんて思った。そんな気持ちはとても久しぶりで、嬉しくなって晴れた空を見上げる。菜々子も私の真似をして空を見上げた。大きく深呼吸をして、ああ、なんだか今夜はよく眠れそうだ。
「・・・うん。」
パジャマのまま静かに階段を降りると、お母さんがいつも通りに声をかけてくれる。今日は土曜日で、お父さんはまだ起きてきていなかった。お味噌汁と目玉焼きの良い匂い、いつもの事なのに、なんだか少し泣きそうになってしまった。
「・・・いただきます。」
ゆっくりとみそ汁を口に運ぶ。美味しいのに、食べたいのに、一口飲んでそこからなかなか進まない。目玉焼きも、ご飯も、食べたい。食べたいのに箸を持ったまま私は固まってしまった。お母さんはそんな私を心配そうに見つめつつも、私が話し出すのをゆっくりと待っていてくれた。
「・・・お母さん。」
「うん。」
「私ね。最近、ご飯を食べるのが怖いの。」
「・・・うん、そっか。」
震える声で話し出した私の手を、お母さんがそっと握ってくれる。
「でもお母さんのご飯美味しいから、好きだから、またちゃんと食べられるようになりたいの。だからさ、私ね、私・・・。」
「瀬名、おいで。」
言葉に詰まってしまった私を呼び寄せて、お母さんはポンポンと頭を撫でてくれる。まるで子供の様に泣き出してしまった私を見て、お母さんは優しく笑う。「大丈夫。焦らず、ゆっくり治してこう。」そう言って泣いている私の頬を両手で引っ張って笑うから、私も涙でぐしゃぐしゃの顔のまま思わず笑ってしまった。
「「昨日はごめん!!」」
謝罪の声が重なって、思わず2人して下げていた頭を挙げてしまう。予想もしない所で目が合ったから、菜々子も私も思わず笑ってしまった。
昨日のメッセージに朝返信すれば菜々子はすぐに返事をくれて、そのまま近くの公園で会う事になった。昨日泣きっぱなしで腫れてしまっている私の瞼と同じくらい菜々子の瞼も腫れていて、「酷い顔だね。」とまたお互いに笑い合う。近くのベンチに腰かけて、私は今までの話をした。菜々子は頷きながら、時折鼻をすすりながら、私の話を聞いてくれた。気づけば私も涙がこぼれてしまっていて、話し終える頃にはお互いに鼻を真っ赤にしてしまっていた。もう一度謝った私に、菜々子はゆっくり首を振る。
「私の方こそごめんね。瀬名ちゃんの気持ち、ちゃんと考えられてなかった。自分の気持ちを優先しちゃったの。本当にごめん。」
「そんなことないよ。菜々子あんなふうに皆の前で話すの得意じゃないのに、私のために怒ってくれたんだよね。ありがとう。」
私の言葉に菜々子はいつものように微笑んでくれて、ああこの笑顔がまた見られてよかったと心の底から思った。前みたいにお互いにどうでもいい話をしてケラケラ笑って、話が途切れたところで菜々子は急に立ち上がって私の手を握る。
「あのさ!お菓子、作ろう!」
「・・・へ?」
急な言葉に間抜けな声が出てしまった私を見て、彼女は焦ったように言葉を続ける。
「あ、あのね、口に入れるものが何から出来てるのかとか、どんな量の何が入っているかとか、そう言うのを知ると食べやすくなるってね、調べたの。あ、でも待って、そう言う問題じゃないよね。ごめんまた的外れだよね。私って本当に・・・。」
「菜々子。」
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「瀬名ちゃん・・・。」
「だから、一緒に作ってくれる?」
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