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028 たまには失敗もある

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「うん……薄くてマズイ」
「あー」

 米はなんとか白米まではいかずとも、食べれるレベルにもみを除去出来たっていうのに。
 うる覚えでしかない、香辛料から作るカレーにあっさり失敗してしまった。

「カレーっぽくはあるけど、これじゃあなぁ」

 いつもの厨房、いつものメンバーで味見したのだが、やはり皆の反応は悪い。
 元々初めて見るような香辛料ばかりだったから、食べる前からシェフたちの反応は微妙だったのだけど。

 それにしても、だ。

「スープカレーにしても、これは酷いわね」
「スープとしてなら、まだ……たぶん、マシかと?」
「ん-。そうね。でも、米と合わなさすぎる」

 薄くなってしまった分、カレーがまったく米に絡まないのよね。
 しかも香辛料がトゲトゲしちゃっているし。

「難しい~。でも、大量に出来ちゃったから、どうにかしないと」

 ここまで失敗すると思わなかったから、いつも通り寸胴鍋にいっぱい作ってしまったのよね。
 さすがにみんな反応が微妙だから、味見以上に進めるワケにもいかない。

 だけど一人で消費するには量がなぁ。
 かといって、勿体ないから廃棄したくもない。

 どーしたものか。
 って、どう頑張ってもリメイクするしかなさそうね。

「パエリアとか作れたらカッコイイんだろうけど。アレって何入ってるかよく分かんないし。思いつくのって、雑炊しかないのよね」

 一杯分のカレースープを小さい鍋に移し、そこにご飯を入れる。
 そのままグツグツと煮込み、米にスープを吸い込ませていく。

「ミレイヌ様、見た目……」
「そういうこと言わないの。風邪ひいたときにミルク粥とか食べるでしょう?」
「あれってスープに細かくして固く焼いたパンを入れるメニューじゃなかったでしたっけ」
「あー、そうだっけ?」

 私って、案外丈夫に出来てるから風邪とか引いたことないのよね。
 だけどミルク粥って名前だけで、勝手に米入ってるイメージしちゃってた。

 でも米はこの国主流じゃないんだから、確かにコレはグロテスクに見えるかな。
 とは言っても、食べたら案外美味しいかもしれないし。
 やれるだけやるしかないわよね。

「あとはこれに卵を溶き入れたら完成よ」

 シェフから卵を受け取ると、それを割って素早く溶き入れる。
 蓋をして一度強火にしたら、すぐ私は火を止めた。

 蓋の隙間から白い湯気と、美味しそうな香りが漏れ出す。

「大丈夫だと思うんだけどなぁ」
「それ、そのカレーとやらが出来た時も言ってましたよ?」
「シェナって根に持つタイプ?」
「そう見えます? それならずっとこの失敗を言い続けますけど」
「もー」

 誰だって初めてはあるのよ。
 それが全部成功するなんて限らないじゃないの。

 それに失敗は成功の基とも言うし。
 失敗したって、そこから学べばなんとかなるはず。

「あああ、チーズ入れても良かったなぁ」

 そうすればリゾット風になったかも。
 ただのカレー雑炊よりも、そっちの方がみんなの口には合ったかもしれないわね。
 和食文化なんてないんだし。

「チーズは太ると思いますけど?」
「私の分じゃなくて、みんなのって意味よ。ほら、一口ずつ取り分けるから味見してみて? なんならその時にチーズ入れてみて?」

 蓋をあけると、綺麗に卵に火が通っている。
 私は何度かかき混ぜたあと、それを小皿に分けていった。

 匂いは安定にカレーそのもの。
 さてさて、あの薄い味は少しは良くなったかしら。

 私が一番にカレー雑炊を口に運ぶと、他のみんなも恐る恐る口に運んだ。

「うん。さっきよりは、マシね」

 もっとも、すごく美味しいとはまた違う気がする。
 たぶん雑炊にするにはダシが足りないんだ。

 あっちの世界だったら、簡単な粉末があるのに。
 こっちにはまずもって、昆布とかかつお節とかそういったものは見たこともないし。
 ましてやあんな便利なモノあるはずもない。

「難しいなぁ。やっぱり食べるだけのダイエットは無理があるかな」
「さっきよりは、まだマシですけどね」
「奥様、チーズ入れたら美味しいですよ。米を初めて食べましたが、本当に人が食べれるのですね」
「そうね。これは元々は人が食べる用だったのよ。でも作り方をみんなが知らないから、家畜の餌になってしまっていただけで」

 そう考えると知識も大切なのよね。
 米を家畜の餌だけにするのはもったいないし。
 もっと上手に活用出来たら、ダイエットにも役立つはず。

「動いておられるので、一時期よりはだいぶお痩せになりましたけどね」
「でもねぇ。それじゃあ足りないのよ」

 シェナに慰めてもらっても、現実は変わらない。
 ランドが本当に私のことをどう思っているのかも、まだ聞けてはいないし。

 どこかで妻として失格だって自覚はある。
 あるからこそ、痩せたいって思うんだけど。

「はぁ。ダイエットも大事ですが、まずはちゃんと話合ったらどうですか?」
「話し合う……」

 何をって聞かなくても分かってる。
 でもそれが一番、今の私には難しい。

 関係のない人間たちに何を言われても、どう思われててもなんとも思わないけど。
 ランドにどう思われているのか。
 聞きたいようで聞けない。

 目をそらし続けている現実は、何よりも私の頭を悩ませた。
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