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「えー、何をって。本当はこんなはずじゃなかったんですけどぉ。でもでもぉ、リオンさまがクロエの最推しのルーシエさまに、あんまりひどいことするんだもーん」

「さいおし?」


 最推し。

 今、確かにクロエは最推しって言ったわよね。

 何、どういうこと? クロエって何?

 しかしよく考えてみれば、このゲームは転生令嬢は華やかに愛されるだ。

 しかもヒロインは私と同じ転生者という設定。

 それなら同じ世界で、同じゲームをしていたとしてもおかしくはない。


「ルーシエさまに近づくには、リオンさまといるのが一番だったんですよねー。で、わざといじめられたフリをしてぇ、ルーシエさまを断罪ルートに無理やり押し込んで孤立させてぇ、弱り切ったところでクロエが助け出す」

「え」


 ちょっと待って。なんだかこのヒロインの中身、やばいんじゃないの。

 口元に手をやりながら、さらさらと言葉を紡ぐわりには言ってることが……。


「クロエ、それはどういう意味だ。フリとは、そなたはこのルーシエから嫌がらせを受けていたのではないのか?」

「え~? すべては、ルーシエさまを手に入れるための手段に過ぎないですわ。それなのに、リオンさまがルーシエさまに乱暴するんだもの。繊細で、この綺麗な顔に傷でもついたら大変じゃないですかぁ。もー、隠しルートはやっぱり難易度高ーい。ルーシエさまが壊されちゃったら、ゲームみたいにやり直しもきかないから、思わず助けちゃった」


 クロエはそう言いながら、舌を小さく出した。
 
 いや、有難い。確かに有難いといえば、有難いんだけどさぁ。

 助けちゃった。てへぺろ♪ って、なんか違う。

 にこやかなのに、どこか残酷気なクロエの笑みに私の顔は引きつる。

 このゲームに隠しルートなど本当にあったのかな。

 あれだけやりこんだのに、私は最後まで気づかなかったし。

 もしあったとしても、転生している時点でもうここは自分にとってはゲームの世界ではないはずなのに。

 それなのにただそのルートを見たいためだけに。

 ルーシエを手に入れためだけに。

 一人の人が死ぬかもしれない断罪ルートに追い込むなんて。


「クロエ……あなた、ちょっとおかしいんじゃない? ここはもうすでに私たちにはリアルなのよ」

「知ってますよぅ。やだなぁ。だいたい、せっかく助けたのにそーいうこと言うんですかー。ひどーい。ルーシエさまのこと、クロエは誰よりも愛しているのに」

「ひどいって……断罪ルートがイコール死だって知ってたんでしょ?」

「えー。もちろん知ってましたょ。ん-、どうにもならないなら、また一緒に死にましょ?」


 クロエが私の手を握りこむ。

 ゾクリと、背筋に寒気が走った。
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