不要なモノを全て切り捨てた節約令嬢は、冷徹宰相に溺愛される～NTRもモラハラいりません～

０１６ もうこれはワラエナイ

「ではお先に会場へ戻らせていただきますね」
「いや、一緒にこのまま戻ろう」
「いえ、でもそういうわけには……」

　ただでさえ今、他の変な噂を立てられると困るのよね。
　婚約破棄も受け入れるし、後始末は仕方ないから手伝うとしたって。
　私が悪者にされるとか、それだけは避けたいから。

「状況が状況ですので、これ以上ご迷惑をかけるわけにもいきませんし」
「貴女の名誉のためにも、一緒にいた方が安全だと思うんだが？」

　んー。それはそれでどうなのだろう。
　ある意味難しい選択ね。
　マルクといて彼にかばってもらえた方が、夜会で何かあった時は確かに安全ではあるけれど。

　でもまさか自分たち自ら、醜聞を広めるようなマネはシーラたちもしないと思うのよね。
　なんだか究極の選択な気がした。

　究極の選択どころか、初めから結果なんて一つしかなかったのだとすぐに理解した。
　私がどれだけお膳立てしたところで、本人たちが理解していなければ何も意味がない。
　こんな簡単なコトもわからないのだろうか。

　落胆というか、もう呆れるとしか言えない。
　全部丸く収めようと思っていたのが、まず一番の間違いだったのね。
　もともと、全てがいびつなのに上手く、なんていくわけがないのよね。

　それでも一ミリぐらいの情けとして、私は頑張ってあげたのよ。
　あなたたちのためじゃなくて、あくまで家のためにね。
　でもそれも虚しい抵抗だったようね。

「お姉さま、ひどいですわ！　そこまでしてわたしたちの仲を裂きたいですの？」
「……はぁ」

　夜会の会場についた私を見つけたシーラが、金切り声で叫んだ。
　あまりのことに、会場はシーラたちに釘つけになる。
　せっかく根回しをして、何もなかったように私は領地へ去ろうと思っていたのに。

　開いた口が塞がらないというか、開けるコトすら面倒くさいというか。
　自滅するなら勝手にしてくれればいいけど、 巻き込むのは本当に辞めて欲しかったわ。

　あーあ。ユノンがコトの顛末を聞いたら、お腹抱えて笑いそうね。
　いや、私はワラエナインデスケド？

「そうやってわたしたちの仲を認めず、いろんな人たちにわたしたちのコトを酷く言っているのは分かっているんですのよ！」
「へー」
「本当にひどいわ。わたしたち、ただ愛し合って結ばれただけなのに。どうしてありもしない酷い話をでっち上げて、わたしたちのことを陥れようとするんですの！　お姉さまのことをわたしは愛していたし、わたしたちは家族なのに」
「……はぁ」

　んー。いろんな人たちに、いろんなコトのっていうのは、もしかして手紙のことかなぁ。
　あの手紙には当たり障りなく、妹が私の代わりに結婚することになりました、とだけ書いたんだけどなぁ。

　もしご迷惑をおかけしたら、すみませんとも付け加えてはおいたけど。
　まぁ読んだ人たちが、あまりの内容にシーラたちに苦言を呈したのかもしれないわね。
　でもそういうのは、自業自得っていうのよ。少なくとも私のせいではないし。

　大体、結婚式に参列していきなり花嫁がすげ替わっていたら、びっくりするどころの話ではないしょうに。
　両家のためを思ってわざわざ手紙を書いたっていうのに、まさかこんな場で文句をつけられるなんて。
　そこまで考えないのかなぁ。

　これは十分すぎるほどの姉からの最後の優しさだったんですけどー？
　それに陥れようにもなにも、勝手に寝取ったのよね。
　それがこの話の全てじゃないのかな。私が陥れる余地、なぁんにもなかったと思うのだけど。

　あーーーーー。うん。面倒くさいわぁ。
　面倒くさすぎて、やる気なくなっちゃった。やる気はないけど、コレどーしようかな。
　ある意味、やっすい芝居劇にしか思えない二人のやりとりを、私はトオイメで眺めていた。