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終わりと出会い

暗き夜3

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ラドが抱えた悲しみを癒すことは、今は居なくなってしまった2人にしかできない。けれど、悲しみを緩和することは出来る。悲しい出来事を思い出すのではなく、楽しかった思い出や幸せだった思い出を振り返ることによって辛さを緩和できるが、それは同時に現実を受け止める必要がある。死を乗り越えることは容易ではないのだ。どんな人間でも過去に囚われる、死に囚われる抜け出すためには時間と受け入れる気持ちが必要となるのだ。その時間がまだラドには足りない。心を押し込めるのはいけない、それは消えない傷となるから。シオンは自分の過去とラドを重ねるが自分にはどうしようもないことであることが分かっていた、何故ならシオンも過去に囚われているから。ラドの心を少しでも楽にすることが出来るのは今はグレスだけだ。シオンは2人を静かに見守った。

「子供に情けない姿を見せてしまうとは、恥ずかしいな」
「悲しい時は泣くのは当たり前」
「昼間のセリフ返されてしまったな」
「悲しい?」

泣き止んだラドが恥ずかしそうにグレスから離れると、グレスは昼間に言ってもらった言葉をラドに返す。ラドに会ってからグレスの変化は顕著だ。自分から行動するようになり、言葉を発するようになった。まだ、単語で喋ったり表情は変わらないが会った時とは段違いだ。

「まだ、悲しいよ。でもグレス君のおかげで少し楽になったありがとう」
「うん」

グレスは悲しみを楽にする方法を知らない、だけど自分がラドにされたことを返すことによって悲しみを楽にした。ラドの悲しみは簡単には無くならない。だが、少しでもグレスはラドの悲しみを緩和することが出来た。それが、ラドの真似だとしても。

「優しい子だねグレス君は」
「優しい?」
「そう優しいよ。人の心に寄り添うって簡単にできることじゃないだ」

グレスは優しいとはどういうことなのかが理解できない様子だったが、ラドは優しい表情で

「今は分からなくても大丈夫さ。これから分かっていけばいいからね」
「そうよグレス、少しずつ分かっていけばいいのよ」

ラドの言葉に同感したシオンは、優しい表情で伝えるとグレスを寝床に連れて行った。

「明日も早いし、今日はいっぱい走ったからもう寝なさい」
「うん」
「素直でよろしい」

グレスは横になるとすぐに眠りについた。本人も自覚が無かったが疲れていたのだろう、まだ子供なのに長い距離を走ったのだ当たり前だろう。あと少しで街に着く、そうしたらゆっくり休んで過ごすことが出来るもう少しの辛抱だ。シオンはグレスが寝たのを確認すると焚火の前に座るラドの元に戻る。

「素敵な思い出を聞かせてくれて、ありがとう」
「こっちこそ聞いてくれてありがとう。少し楽になったよ」
「それは良かったわ」
「これから先忘れることはない思い出だ」
「えぇ忘れないであげて」
「・・・グレス君の事聞いてもいいかな?本人が居ない時に聞くのは卑怯だけど知りたいんだ」
「・・・良いわよ」

シオンとグレスの関係が見えてこず、子供と魔女という奇妙な組み合わせ見た目から兄弟や母親には見えない。言葉と表情、感情が欠けてしまったグレスに何があったのかグレスにとってシオンはどういう存在なのかが気になったのだろう。少しでも心を緩和してくれたグレス、命を助けてくれたシオンを疑いたくないが気になったのだ。

「といっても私も詳しくはグレスの事を知らないの」
「そうなのか?随分気にかけてるみたいだが」
「えぇ初めて会ったのは8日前なの」
「本当に最近なんだな」
「花園があると言われている森の近くの村でグレスと初めて会ったのよ」
「村?親はどうしたんだ?」
「私が着いたときにはもう魔物に滅ぼされていて、たった1人の生き残りがグレスよ」
「そんなことが・・・」

魔物によって襲撃されることは良くあることだが、ラド自身魔物に襲われたためその恐怖をグレスが味わったことに深い悲しみを覚え顔が青くなる。

「えぇ・・・会った時はボロボロで倒れてしまったから治療したのだけど、目が覚めたら何も喋らず何にも反応しない状態になっていたわ」
「なんてことだ・・・今は話してくれるみたいだが何があったんだ?」
「村にずっといる訳にもいかないから故郷の風景を見せておこうと思って、森に合った花園を見せたら泣きだしてそれから、私の言葉に反応してくれるようになったわ」
「その花園になんか特別なことがあったのか?」
「分からないわ・・・花園には珍しい植物が生えていたけれど人の心を治すなんて効果を持った植物私は知らないわ

「原因は分からないのか」
「えぇ話せるようになってから聞いたけれどグレスは何も覚えていないのよ」
「何も覚えていない?」
「そう・・・自分のことや家族のこと、村での生活全てを忘れてしまっていたの」
「それは・・・」

グレスには何かしらの事情があるとなんとなく分かっていたが想像以上にグレスが悲惨な目に合ってしまっていたことを知り、ラドは言葉を失い視線をグレスに向ける。

「えぇ・・・酷すぎるわよね」
「まだ子供なのに・・・」
「えぇ子供だから耐えられなかったんだと思うわ。大人でも耐えられないもの」

ラドには子供がいたため、子供が悲惨な目に合うことは許せない残酷な世界に怒りを覚えるが共に、グレスに自分を重ね同情をしていた。
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