本の通りに悪役をこなしてみようと思います

Blue

文字の大きさ
7 / 71

二人目

しおりを挟む
 大講堂に入って適当に空いている席に座る。もう大分席は埋まっていた。
「クー、式典が終わるまでいい子にしててね」
クーに言えば「キャン」と可愛く返事をしてくれる。
『ああ、もう。本当に可愛い』
咄嗟に口元を押さえる。涎、出てないよね。

そんな時、大講堂にアナウンスが流れた。もう間もなく式典が始まるので、早く席に着くようにという内容だ。
「クー、魔力いる?」
「キャン」
「ふふ、じゃあ……はい」
治療の為、魔力をクーに流し込んでいると、横に誰かが立つ気配がした。
「レディ、こちらの席に座ってもいいですか?」
ほんの微かにイントネーションが違う言葉遣いに、思わず彼の顔を見てしまう。若草のような緑の髪に深い青の瞳が印象的なイケメンだった。
「ええ、どうぞ。あ、でももしかしたらこの子が騒がしくしてしまうかもしれませんが、よろしいですか?」
気になるなら他に移ってもらった方がいい。そんな気持ちで言うと、彼は青い瞳を細めて笑った。
「そんな事は全然気にしませんので」
ニッコリと笑ってクーをジッと見つめた。
「とっても珍しい動物ですね。初めて見ます」
「そうですね。私もこの子を初めて見た時びっくりしました。ふふ、綺麗でしょ。ケガをしていた所を保護したんですけれど、今では大事な家族なのです」
クーを撫でながら思わず自分から語り出してしまう。ダメだわ、クーの事になるとお父様同様、私も親バカになるようだ。
「ごめんなさい、私ったら……」
お父様の血を完全に受け継いでいると実感して恥ずかしくなる。
「ははは、いいえ。可愛らしかったです。その子も、あなたも」
柔らかな笑みを浮かべてこちらを見るイケメン。
ダァーーー!なんだ、今のは。私の口から砂糖が零れかけた。
「そういえば、名乗っていませんでしたね。私はレンゾ・シモナーラ。隣国ダンドロッソから留学して来ました」
「ミケーリア・ティガバルディと申します」
それから式典が始まるまで、色々な話をした。同じAクラスだという事がわかって、友達第一号だねと笑い合った。

 暫くして式典が始まった。学院長の話をぼおっと聞いていると、ふと本の一文が頭に浮かんできた。


【キツネがいるのでなるべく端の席を選んで座る。ケガが全然治らないからなのか、いつまでも眠っているキツネを心配するシシリー。精霊の仲間であるこの子には魔力をあげるのが一番いいのだと義父から聞いていたシシリーは、眠り続けているキツネに魔力をあげてみる。キツネに集中していたシシリーだったが、ふと隣に人の気配を感じた。
「あの、レディ。こちらの席に座ってもよろしいですか?」
シシリーとしては、キツネがいるからあまり近くに他の人が座るのは良くないと思っていたが、周囲にはもうここしか席が空いていないようだった。
「ええと、この子がいる事が不快でなければ、どうぞお座りになって下さい」
シシリーがそう言うと、彼は笑いながら言った。
「そんな事は、全然気にしませんよ」】


『マジか……』
きっと今、私は間抜けな顔になっているに違いない。一体これはどういう事なのだろう?どうして私がシシリー嬢の役をやっているのだろうか?
『これってもう詰んでるのでは?でも別に、私がそうなるように仕向けている訳じゃないよね。だったらセーフなの?それともやっぱりアウトなの?』
傍から見れば微動だにせず、背筋を伸ばして学院長の話を真剣に聞いているように見えているに違いない。でも私の脳内は軽くパニック状態だ。本の信憑性に驚く事よりも、自分がヒロインであるはずのシシリー嬢の行動を踏襲している事が怖い。
『嫌だ、嫌だ、嫌だ。私は男を侍らせて喜ぶような女じゃない。それならまだ、男を力でねじ伏せる方が何倍も嬉しいと思うような女なんだってば』
私の様子の変化に気付いたクーが、私の頬をペロペロと舐めてくれた。
『ありがとう、クー』
クーの温もりに少しだけ癒される。それでも私の頭の中は、グルグル状態だ。

『このままだとやっぱり私って死ぬの?』
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約破棄だ!と言われ実家に帰ったら、最推しに餌付けされます

黒猫かの
恋愛
王国の第一王子クレイスから、衆人環視の中 で婚約破棄を言い渡されたローゼン侯爵令嬢ノエル。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

<完結>溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。 本編完結済み。 続きのお話を、掲載中です。 続きのお話も、完結しました。

【完結】モブの王太子殿下に愛されてる転生悪役令嬢は、国外追放される運命のはずでした

Rohdea
恋愛
公爵令嬢であるスフィアは、8歳の時に王子兄弟と会った事で前世を思い出した。 同時に、今、生きているこの世界は前世で読んだ小説の世界なのだと気付く。 さらに自分はヒーロー(第二王子)とヒロインが結ばれる為に、 婚約破棄されて国外追放となる運命の悪役令嬢だった…… とりあえず、王家と距離を置きヒーロー(第二王子)との婚約から逃げる事にしたスフィア。 それから数年後、そろそろ逃げるのに限界を迎えつつあったスフィアの前に現れたのは、 婚約者となるはずのヒーロー(第二王子)ではなく…… ※ 『記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました』 に出てくる主人公の友人の話です。 そちらを読んでいなくても問題ありません。

処理中です...